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シールの魔女は婚約破棄されたので、魔女業に専念することにしました!  作者: 江本マシメサ
第三章 ユベール卿の課題

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アデール嬢

 忘れるはずもない。このブルネットの髪を持つ美女のことを。


「え、何? 二人とも知り合いだったの!?」

「――っ!!」


 アデール嬢が私のもとへ駆けよってきて、思いがけない行動に出る。

 あろうことか、抱きついてきたのだ。


「わたくし、あなたのことを探しておりましたの」

「そ、そうだったのですね」

「しかし、オーベルジュ大公家の密偵が捜索に失敗したと聞いて、もう二度と会えないものだと……!」


 まさかそこまでして私を探していたとは。


「あなた様の手の内に、厄介な魔法使いがついているとかで、捜索を中断したようです」


 オーベルジュ大公家の密偵というのは、魔法使いのエキスパートで、国内でも五指に入る極めて優秀な人物だったらしい。

 しかしながら調査中、〝厄介な魔法使い〟の介入により、調査の続行が不可能だと判断したという。


「姿消しの魔法には国一番と豪語するほど自信があったようで、あっさり見つけられてショックを受けているようでした。いったいどこの魔法使いだったのか……」


 その話を聞いてユベール様が割って入る。


「待て、アデール。その密偵というのは、姿消しの魔法を使って街を探し回っていた魔法使いのことか?」

「ええ、そうですが、ユベールお兄様もオーベルジュ大公家の密偵を使ったことがありますの?」

「いいや、密偵を使ったことはない」

「ではなぜ?」

「お前が放った密偵を見つけたのは、この私だからだ」

「まあ! そうでしたのね……」


 気まずい時間が流れる。

 永遠に続くのだろうか、なんて考えていたら、ブルジェ伯爵が場の空気を変えてくれた。


「何があったかわからないけれど、アデールとメーリス嬢は知り合いだったわけか! しかも、アデールがオーベルジュ大公家の密偵を使ってでも探したい人だったと!」


 アデール嬢は控えめな様子で頷く。


「そっか。よかったよかった! じゃあ、この辺で紹介でもしておこうか。メーリス嬢、彼女が俺の婚約者のアデール・ド・オーベルジュだ」

「お会いしとうございました。わたくしはオーベルジュ大公の姪である、アデールと申します」


 スカートの端を摘まんで膝を折る。久しぶりの挨拶だったが、上手くできているだろうか。アデール嬢は緊張の面持ちでいたようだが、目が合うと淡く微笑んでくれたような気がした。

 私の紹介はユベール様がしてくれる。


「アデール、彼女は私の婚約者、メーリス・ド・リュミエールだ」

「メーリス様……!」

「こちらでは初めてお目にかかります、メーリスです」


 通常であれば、こういう場面では父の爵位も言うのだが、すでに独立している身なので省いた。

 アデール嬢は優雅な挨拶を返してくれた。

 さすが、高位貴族のご令嬢である。所作の一つ一つが美しい。


「アデールとメーリス嬢の再会を祝して紅茶を一杯! と言いたいところだけれど、二人で積もる話でもあるのだろう?」


 ブルジェ伯爵が問いかけると、アデール嬢は控えめにこくりと頷く。

 さすが婚約者、アデール嬢の気持ちがよくわかっているらしい。


「邪魔者はいなくなるからさ、ねえユベール」

「まあ、そうだな」

「じゃあ、あとはお若い二人で!」


 そう言い残し、ユベール様とブルジェ伯爵は客間から去って行った。

 二人きりになり、何を話せばいいのやらと考えを張り巡らせていたら、アデール嬢のほうから声をかけてくれた。


「メーリス様、どうぞこちらへ」

「はい、ありがとうございます」


 勧められるがまま、長椅子に腰掛ける。

 テーブルにあったベルを鳴らすとメイドがやってきて、紅茶を淹れてくれた。

 お菓子も数種類、並べられていく。


「メーリス様、お菓子はお好き?」

「はい、とても」

「でしたらお好きなだけどうぞ、召し上がってくださいませ」


 オススメだという、焼きたてのサブレをいただく。

 ザクザクとした食感が楽しく、バターの上品な香りが口いっぱいに広がる。とてもおいしいサブレだった。

 紅茶も一口飲むと、芳醇な香りを堪能できた。

 と、おもてなしを受けている場合ではなかった。

 いろいろと聞かなければならないのに、どうやって切り出していいものか迷ってしまう。

 すぐに触れるのも問題だろう。

 何か話題はないのか、と考えた瞬間、お土産を思い出した。


「あの、アデール嬢に贈り物を用意したんです。お気に召していただけるとよいのですが」


 箱の中に納め、ラッピングしてあるシールを差しだすと、アデール嬢は受け取ってくれた。


「拝見してもよろしい?」

「ええ、どうぞ」


 アデール嬢は丁寧な手つきで開封する。

 蓋を開くと、出てきたシールを見て小首を傾げる。


「それは、私が作った魔法のシールなんです」

「魔法の?」

「ええ。そちらは化粧のシールでして、貼ると一瞬でいつものメイクを再現してくれるものなんです」

「なっ――それは素晴らしい魔法ですわ」


 アデール嬢はシールを抱きしめ、キラキラした瞳を私に向ける。


「わたくし、化粧をしている時間が人生で一番無駄だと思っていますの」


 たとえすべての工程を侍女がやってくれても、仕上がるまで待つ時間がもったいないと感じてしまうらしい。


「そういうことをしている暇があれば、本の一冊でも読めるのに、といつも思ってしまうのです」


 化粧の時間も惜しむくらい、アデール嬢は読書が大好きだという。


「どんな本がお好きなのですか?」

「一番は……〝リスリスの旅〟という作品でして」

「冒険ものですね! 私も読みました。面白いですよね!」

「まあ! ご存じでしたのね」


 アデール嬢の緊張の面持ちが解れていく。

 共通の話題があってよかった! と思った瞬間だった。

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