見識魔女
ヴィラージュ・カシェの入り組んだ路地の先にあるのは、〝見識魔女〟のお店。
ここではありとあらゆる人物の情報を買うことができる。
以前、初めてヴィラージュ・カシェにやってきたとき、師匠とここへやってきたのだ。
お店のある位置を覚えているか心配だったが、すんなり到着できた。
店内は灯りが点いているので、営業中だろう。
中へと入ると、温室みたいに植物が出迎える。そんな内装も、以前訪れたときとなんら変わらない。
出入り口付近の鳥かごにいるインコが叫ぶ。
『来客! 来客! シール魔女、シール魔女!』
インコの声に驚いたコゼットは、シュシュの中へ飛び込む。
シュシュもシュシュで、飛びかかってきたコゼットをぱくん! と呑み込んでしまった。
コゼットはシュシュの中から少しだけ顔を覗かせ、インコの様子を覗き見る。
「コゼット、大丈夫ですよ」
そういえば以前も、インコがいてこんなふうに叫んでいた。
しかしながら、シール魔女と見抜くなんて。見識魔女の使い魔だからわかるのだろうか。
鳥かごを覗き込むと、小首を傾げて『何カ?』と聞いてくる。
「なんでもありません」
『ソウ!』
そんな会話をしていると、お店の奥から見識魔女が現れた。
「こんな明るい時間に、客なの?」
けだるげな様子で出てきたのは、少女にしか見えない魔女である。
前回やってきたときも、ここにいた見識魔女は彼女だった。見た目もまったく変わっていない。
よくよく見たら耳がとんがっている。エルフ族の魔女なのだろう。
「ああ、あなたはマチルドのところの弟子、名前はたしかメーリス・ド・リュミエールだったかしら? シール堂を最近引き継いだんでしょう?」
「はい、よくご存じで」
「見識魔女だからね」
魔女マーケットへの招待状を作り、送るのも見識魔女の仕事だそうな。
「それで、今日はどの情報が欲しいの?」
見識魔女曰く、それとなく求めている情報はわかるようだが、先回りして言うと怖がったり怒ったりする人がいるそうで、一応聞いてくれるらしい。
「オーベルジュ大公家の、アデール嬢についての情報をお願いします」
「わかったわ」
先に魔力で情報料を支払う。
魔法陣に手をかざすと、魔力を消費したのがわかった。
「では、始めるわね」
「はい、お願いします」
見識魔女は杖を握り、ぶんぶん振り回す。
すると空中に文字が浮かんできた。
それを見識魔女が読み上げる。
「――アデール・デ・オーベルジュ。オーベルジュ大公の弟の娘で、現在十九歳。体調を崩しがちであるため、社交場にはあまり現れず、顔を出してもすぐにいなくなる。それゆえ、百年に一度しか咲かない珍しい花に喩えられ、〝月の花の君〟と呼ばれているそう」
話しかけてもそっけない態度しか取らず、親しい友人関係にあるご令嬢もいないという。
お茶会の招待も基本的には受けず、自らの家に呼ぶこともないようだ。
「結婚相手であるナゼル・ド・ブルジェは幼なじみで、彼女が唯一心を許す相手でもあるそうよ」
親しい人物といえば、ユベール卿の友人でもある彼しかいないようだ。
話を聞けば聞くほど、アデール嬢と打ち解け、結婚できないと言った理由について聞き出せるとは思わない。
思わず頭を抱えてしまう。
「他、聞きたい情報はある?」
「いいえ、特に何も」
「そう」
明日、どのようにして彼女と打ち解けたらいいのか。
情報を得たのに、新たな悩みができてしまった。
「ありがとうございました」
「また何か知りたい情報があれば、いつでも来てちょうだい」
「はい」
お近づきの印に、疲労回復シールを進呈する。
「あら、上質なシールじゃない。マチルドはいい弟子を迎えたのね。さすがだわ」
師匠が褒められて、誇らしい気持ちになる。
これからも師匠の名に恥じないシール魔女にならなければ。
「シールのお返しに、教えてあげるわ」
なんだろう、と小首を傾げている間に、見識魔女はズバリと私を見抜いたようだ。
「あなたの悩みは、杞憂に終わるわ。安心しなさい」
「は、はあ」
何を悩んでいるかまでわかるのだろうか。
ただこれ以上聞くと怖くなりそうなので、そそくさと退店する。
魔女マーケットはまだまだ開催中だが、明日もあるので帰るとしよう。
シール堂に戻ってくると、ユベール卿がいたのでびっくりしてしまった。




