魔女マーケット
アデール嬢との面会を明日に控えた私のもとに、一通の手紙が届く。
魔法で鳥のように届いた手紙に、コゼットは興味津々な様子だった。
「これは――!」
『きゅう?』
「魔女マーケットの招待でしょうね」
『きゅん?』
魔女マーケットは月に一度開かれる、魔女だらけの集会である。
店主も魔女、客も魔女という、魔女だらけの催しなのだ。
過去に一度だけ、師匠と一緒に魔女マーケットに出かけたことがあった。
あれは弟子入りしてすぐの話だったか。
そこで食べた、雲みたいに浮かぶわた飴がおいしくって、また食べたいな、なんて思っている間に大人になってしまった。
こうして招待の手紙が届いたのは初めてである。
師匠からお店を引き継いだので、こうして招待を受けたのだろうか。
封を切って中を開けてみると、中には鍵が入っていた。
「あ!」
師匠もこの鍵を使って魔女マーケットに行っていたのだ。
扉はどこでもいい。鍵さえあれば、魔女マーケットに繋がる仕組みである。
そういえば、と思い出す。
魔女マーケットにはとあるお店があることに。そこで売られているものは、今の私に必要なもののように思えたのだ。
「コゼット、魔女マーケットに行ってみます?」
『きゅう!』
留守番ばかりで申し訳ない、と思っていたところだ。
魔女マーケットならば騎士もいないし、問題ないだろう。
「わあ、魔女マーケットなんて本当に久しぶりですね」
『きゅう?』
『何を盛り上がっているのだ?』
暗がりからレディ・ヴィオレッタが登場する。
「これから魔女マーケットにコゼットと行こうと思いまして」
『魔女マーケットか。まあ、そこならばコゼットの同行も問題ないな』
レディ・ヴィオレッタが耳をピンと立て、目を丸くする。
「どうかしたのですか?」
『背後を振り返ってみろ』
言われた通り振り返ってみたら、帽子掛けにかかっていたシュシュが右に左にと揺れ、アピールしていた。
『シュシュも、行く! やる気ある!』
「ええ、行きましょう」
シュシュはシール堂にやってきてからずっと眠っていたので、まだ休息が必要だと思っていたのだ。
コゼットは初めてシュシュとご対面である。
『きゅう?』
『竜! モフ竜!』
『きゅう!』
コゼットが握手をするように手を差し伸べると、シュシュがぱくん! と齧りついてきた。
突然の行動にギョッとしたものの、コゼットはくすぐったいのか、ころころ楽しげな鳴き声を上げている。
シュシュはすぐにコゼットの手を解放し、大人しくなった。
挨拶はこれで完了したらしい。
『ああ、そうだ。メーリスよ、念のため伝えておこうぞ。下町周辺で魔法で姿を消し、誰かを探すように歩き回る魔法使いの存在がいるようだ』
「マケールの手先でしょうか?」
『あの者の手先であれば、騎士を使ってしらみつぶしに探すだろう』
「そうですよね」
マケールではない魔法使いが、誰かを捜し回っている。
『気になる動きをしていたもんだから、その魔法使いの魔力をマーキングし、行方を追っていたのだ』
それでわかったことは、下町だけでなく、かなり広範囲を捜索対象にしているということ。
『そなたを探しているとは限らないが、一応、用心しておくように』
「わかりました」
ユベール卿にも、不審な行動をしている魔法使いがいたと報告しておかなくては。
先にメッセージを書いて、鳥翅魔法で送っておいた。
『魔女マーケットにその者はいないだろうから、安心して楽しんでこい』
「はい!」
そんなわけで、コゼットとシュシュと共に魔女マーケットに向かうこととなった。
お店の扉に魔女マーケットの鍵を差し込むと、型がぜんぜん違うのにスッと入ってしまう。鍵を動かすとカチャリ、と音が鳴り、魔法陣が浮かび上がった。
扉を開くとそこはいつもの路地裏ではなく、魔石灯に照らされた幻想的な魔女の街の光景が広がっていた。
ここは世界のどこかにあるという隠れ里〝ヴィラージュ・カシェ〟。
行く当てのない魔女が暮らす最果ての地だという。
そんなヴィラージュ・カシェで月に一度開催される魔女マーケットは、お祭りの屋台のようなお店がずらりと大通りに軒を連ねている。
美しい宝石があしらわれた魔除け守りに、魔法が付与された魔法札、古い魔法書に魔女の三角帽子などなど。さまざまな商品が売られていて、見て回るだけでも楽しい。
昔、師匠に買ってもらった雲みたいに浮かぶわた飴も売っていた。
しかしながら、行列に並ぶのはちびっこ魔女ばかりである。
大人が食べる物ではないのだろう。
通り過ぎようと思っていたのだが、店員さんの「蜂蜜味だよ」にコゼットが反応する。
『きゅう!!』
まるで、食べてみたいと訴えているように見えた。
コゼットが食べたいのならば仕方がない。そう思ってちびっこ魔女の行列に加わった。
十分ほど並ぶと、私達の番が回ってくる。
「いらっしゃい、どの味にする?」
「蜂蜜味を一つください」
「はいよ!」
支払いは魔力である。魔女マーケットの大半は、魔力と引き換えに商品を買うことができるのだ。
店頭に置かれた魔法陣に手をかざすと、魔力の支払いは完了する。
実に簡単な決済だ。
こういうシステムがお金でもできたらいいのにな、と思ってしまう。
まあ、精算に困るくらいお客さんがお店に押しかけることなんてないのだけれど。
支払いが終わると、綿菓子作りが始まった。
大きなドーナツ状の鍋の中心に、宝石みたいな砂糖を入れる。
魔女が魔法の杖を手に取り、呪文を唱えた。
「ふわふわ浮かべ、わた飴よ!」
ドーナツ状の鍋に風が生まれ、魔女が杖でくるくる回すと、わた飴が浮かんで形を成す。
あっという間にわた飴が完成した。
魔女はわた飴を杖でつんと突くと、私達の目の前にふわふわやってくる。
「わた飴を逃がさないように気をつけるんだよ」
「はい!」
ふわふわ浮かぶわた飴を、指先でつんつん突きながら移動する。
人がいないところで、いただくことにした。
小さくちぎってコゼットの口元へと持っていくと、大きな口を開いて食べた。
『きゅう!!』
おいしかったようで、コゼットの瞳は宝石みたいにキラキラ輝いた。
そんなコゼットの様子を、シュシュは不思議そうに見上げていた。
「シュシュも食べてみますか?」
『念のため!』
興味があるようなので、ちぎってあげてみる。
すると先ほどコゼットと握手をしたときのように、私の手ごとぱくん! と頬張った。
『甘い!! しかし不必要!!』
そう言ってシュシュは口にしたわた飴をペッと外へ排出した。シュシュは食べ物の味はわかるものの、栄養として取り込むことはしないらしい。
シュシュが食べなかったわた飴は、コゼットが嬉しそうに頬張っていた。
私も食べてみる。
わた飴はふわふわで、優しい甘さが口いっぱいに広がった。
記憶にあったとおり、とてもおいしいお菓子だった。
他にも、シールの素材をいくつか購入しておこう。
火トカゲの鱗に、花妖精の涙、霊鳥の羽根などなど。
途中、魔法のインクを販売するお店で心奪われる。
宝石みたいに輝くインクや、闇夜を溶かしたインク、虹色のインクなど、種類豊富なインクが並んでいた。
こういったインクは魔法書を書いたり、魔法札を作成するときに使用するが、シール作りにも使えるのだ。
中でも魔獣を特別な浸液で漬けたインクは、かなり高価だった。
ワイバーンのインクに、スライムのインク、コボルトのインクなど。
もっとも高価なのはカーバンクルのインクだった。
あれは自分で作れるものなのだろうか?
師匠はインク作りは面倒だから、買ったほうがいい、なんて話していたのは覚えているが。
ミオがくれたケルベロスの牙で、作れないか試してみたい。
ひとまず今日は浸液のみ購入しておいた。
と、魔女マーケットを堪能している場合ではない。
目的のお店へ急いだのだった。
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