エヴリーヌについて
パーティーはいつも間にかお開きになっていた。このあとの勇者帰還パレードとやらを観に行くために解散となったのだろう。
ただ一人、兄だけが残っていて、うんざりした様子で言った。
「メーリス、よかったですね。あの男と縁が切れて」
「ええ。おかげさまで、婚約は白紙となりました」
「今後いっさい、あの男の顔なんて見たくありません」
ただ兄は王城に出入りをする商人なので、マケールの姿を目にする機会はいくらでもありそうだ。
「まあ、無理でしょうが」
「それを思えば、国家魔法師にならなくてよかったと、今になって思っています」
そんなことを言う私を、兄は信じがたいという目で見る。そうなるのも無理はない。
私は幼少期から、国家魔法師になることを夢みていたから。
国家魔法師――魔法のエキスパートで、少数精鋭のエリート集団である。
日々国王に仕え、魔法が関わる事件を解決するのが仕事である。
十歳の春に貴族学校に入学してから、私は国家魔法師になることを夢みて勉強に励んできた。
ただ貴族学校から国家魔法師になれるのは、学年でたった一名だけ。
国家魔法師という職業は、本来であれば魔法学校を卒業した者達がなるものなのだ。
ちなみに魔法学校は、魔法使いの家系でないと入学できない。
ごくごく普通の商家の生まれでしかなかった私は、貴族学校に入って国家魔法師を目指すしかなかったのである。
入学する以前より、貴族学校で国家魔法師を目指す者はほぼいない。そんな話を聞いていたが、狭き門を通るために猛勉強してきた。
学年で他に希望を出す者もいなかったので、一学年の早い段階で学校側から国家魔法師になるための推薦状を取得することができたのである。
それなのにそれなのに、一学年の学期末を迎えたある日、国家魔法師になるための推薦がいきなり取り消されたのだ。
話を聞きにいったところ、エヴリーヌが願書を出してそれが国家魔法師の事務局で受理されたからだと説明された。
これまでエヴリーヌが国家魔法師を希望しているなんて、聞いたことがなかった。
学校側も把握していなかったらしい。
それなのになぜ、いきなり国家魔法師を目指したのかと言えば、答えはただ一つ。
私が国家魔法師になりたいという話を、どこからか聞いたからだろう。
そういう事態がこれまでに何度もあったのだ。
エヴリーヌに目を付けられるきっかけとなったのは、一学年のときに行われた試験だった。
私はそれで一位を取り、注目を集めてしまったのである。
それはでは国王陛下の姪であり、公爵令嬢だったエヴリーヌが注目の的だったのだ。
別に、エヴリーヌが二位だったとかそういうことはまったくない。
一瞬でも皆の注目が逸れてしまったのが赦せなかっただけなのだろう。
それからというもの、事あるごとにエヴリーヌは私を意識するような行動を取り続ける。
私が養育院で慈善活動をすれば翌日に記者と共にやってきて、すばらしい活動をしている公爵令嬢がいると報じさせたり――レポートを書いたら盗んで自分で発表したり――私が読みたいからとリクエストしていた図書室の本を永遠に借りていたり――。
それらの行為があったため、推薦の横取りもある程度想像できていたが、ショックなことに変わりはない。
ちょうどその頃に、師匠であるシールの魔女と出会い、弟子入りしたのである。
エヴリーヌが早めに国家魔法師の推薦を奪った影響で、私は早い段階で人生の目標を変えることができたのだ。
それからというもの、私はこっそりシールの魔女のもとに通い、魔法の手工芸品を習った。
これまでエヴリーヌにバレずにできたのは奇跡的なことだろう。
そんな彼女が、魔王討伐の旅に出かけたなんて、誰が想像できたか。
エヴリーヌが魔王討伐のメンバーに選ばれたのは、国家魔法師だから。
もちろん、国家魔法師にはエヴリーヌより優秀な魔法使いがわんさかいる。
それなのに彼女が行くことになった理由は、国王陛下に自ら志願したからに違いない。
エヴリーヌは貴族学校時代から、他人の注目を集めることが大好きだったから。
「とまあ、貴族学校時代にいろいろあったので……」
「父上から軽く話を聞いていたが、思っていた以上に酷い女でしたね」
「ええ」
さすがに婚約者だったマケールに対しては、ちょっかいをかけることはあっても、エヴリーヌが本気になることはない。そう思っていた。
なぜならば、マケールは貴族の二男坊で、エヴリーヌの結婚相手として相応しくないから。
まさかエヴリーヌと結婚するにふさわしい活躍をさせ、婚約に至るとは、夢にも思っていなかった。
それをエヴリーヌが思いつくとは思えない。
きっと誰かがエヴリーヌにそうすればマケールと結婚できる、と吹き込んだ可能性がある。
「二人の婚約は願ってもない話ですので、祝福できます」
「あなたは、どこまでお気楽なんですか」
兄にも今後の人生設計について説明しておく。
魔女になると言ったら反対されると思いきや、逆に応援してくれた。
「これまで頑張ったんです。今後は好きに過ごしてください」
「兄上、ありがとうございます」
いつもは厳しい兄の優しさに、少しだけ涙が出そうになった。
◇◇◇
パレードの時間になったので、しぶしぶマケール達に指定された広場に向かった。
外は勇者を一目見ようとやってきた人達でごった返していた。
そんな中、パレードが始まったようだ。
マケールとエヴリーヌは、黄金の馬車に乗って登場した。




