誰が犯人なのか
「これ以上彼女に近づくな」
ユベール卿が牽制すると、騎士達は接近を止め、じりじり後退していく。
「お前、メーリスの居場所を吐くまで出てくるなって言っていただろうが!!」
「任意であの場にいただけだ」
なんでもユベール卿は事情聴取だと言って呼びだされ、そのまま軟禁のような状態にあったという。
マケールが出した解放条件は、私の居場所を言うこと。
ユベール卿は沈黙を貫いたまま、騎士隊側と我慢比べをしていたようだ。
しかしながら騎士隊が騒がしいのに気付き、騎士を捕まえて事情を吐かせたという。
「ケルベロスの檻は何者かが解錠し、逃がしたような形跡があったらしい」
「いや、だからそれは、そこの女メーリス・ド・リュミエールの仕業だ!」
「ありえない」
「どうして言い切れるんだ!? まさか、お前もケルベロスを逃がしたことに加担したのではないだろうな!?」
「だからありえないと言っている。調べればわかるだろう」
「どうやって!?」
「この世に生きとし生けるものは、魔力を所持している。その魔力は一人一人、性質が異なっていて」
「お前、何をわけがわからないことを言っているんだ!?」
ユベール卿は鑑定魔法を展開させる。すると、この場にいる者全員の、魔力が目に見えるようになった。
「な、なんだ、これは!?」
「全身から滲み出ているように見えるのは、魔力の質だ」
ユベール卿の魔力はダイヤモンドダストみたいにキラキラ輝くものだった。
その一方で、マケールの魔力は指先や足先にある、黄土色の沁みみたいなもののようだ。
同じ魔力でも、人によってこうも違うものなのか。
私の魔力は――深い緑色。夏の森みたいな色合いである。初めて見た。
「そして、魔力を持つ者が物に触れると、魔力痕と呼ばれるものが残る」
ユベール卿の言うとおり、騎士達の持つ剣の柄や鞘などにはそれぞれの魔力痕が付着していた。
「何を言いたいのか、わかるだろうか? はっきり言ってやろうか? 今、ケルベロスの檻にある魔力痕を調べれば、誰が犯人か明白であると」
「う、うるさい!!」
マケールの動揺っぷりから察するに、ケルベロスを逃がしたのは彼で間違いないのだろう。
私に責任をなすりつけようとするなんて、呆れた話である。
「そもそも、諸悪の根源はその女なんだ!!」
「どうしてそのように決めつける?」
「この女がいなくなってから、厄災続きだったから!! 陰でこそこそ何か悪事を働いているに違いない!!」
マケールの訴えに、ユベール卿は深いため息を返す。
「お前の人生がこれまで順調だったのは、彼女の支援があったからだ。それに気付かないでいたとは、なんと愚かな」
「そんなわけない!! 俺は、俺はこれまでは何もかも、上手くやってきたんだ!!」
マケールはこの先も一生、私が彼にやってきたことを認めることはないのだろう。
別にわかってもらおうと思っていなかったので、問題はまったくない。
「そもそも、お前はメーリスとどういう関係なんだ!? 闘技大会のときも一緒にいたようだが。まさか、不貞関係では――!?」
「婚約者だが?」
ユベール卿ははっきりとこの場で宣言する。
婚約者はユベール卿の課題をクリアするために一時的に設定するもので、このように衆目の前で発表してもいいものだったのか。
「は!? 婚約者だと!? どうして婚約破棄したばかりだと言うのに、新しい婚約者が決まっているんだ!? まさか、婚約破棄以前より、関係があったのではないな!?」
どの口が言うのか、と思ってしまう。
呆れていたら、ユベール卿がはっきり言ってくれた。
「婚約破棄前に、他の者と関係を持ったのは貴殿のほうではないのか?」
「は!?」
「エヴリーヌ・ド・ジファールと貴殿は、魔王討伐の旅でかなり親密な関係にあったようだが」
「――ッ!!」
マケールはあっさりとぐうの音も出ないような状況に追い込まれる。
「私が彼女と出会ったのは貴殿との婚約破棄後で、どうか婚約者になってほしい、とこちら側から頼み込んだ。貴殿らのように、婚約者がいる状態で関係を持ったわけではない」
マケールはあっさりと止めを刺されてしまった。
「今後、メーリス嬢について悪く言うことは、オーベルジュ大公家への誹謗中傷と受け取る。覚えておくように」
マケールは私に何か言おうとしたものの、それを遮るようにユベール卿が転移魔法を展開させる。行き着く先はシール堂。ミオもきちんと連れてきてくれたようで、ホッと胸をなで下ろした。
「な、なんだ今の!? 一瞬で居場所が変わった!!」
「転移魔法だ」
「すげえ!!」
好奇心旺盛なミオは店内のシールにも興味津々の様子だった。
「ここ、もしかしてお姉ちゃんのお店?」
「ええ、そうですよ」
「やっぱり!? へー、腰痛緩和のシールかー。これ、祖母ちゃんが喜びそう! あ!!」
お婆さんの存在について思い出したようだ。
「おれ、礼拝堂に祖母ちゃんを迎えに行かなきゃ!!」
走り出そうとするミオの首根っこを、ユベール卿は掴む。
「礼拝堂まで送るから、少し大人しくしておけ」
「いいの?」
「ああ」
ミオのことを転移魔法で送ってくれるようだ。
「お姉ちゃん、本当にありがとう。お礼をしたいのに、今は頭の中がぐちゃぐちゃで、何も思いつかないや」
「でしたら、あなたのお婆さんの、カボチャスープのレシピを聞いてきてもらえますか?」
「え、なんで知っているの?」
「あなたの大好物だと聞いていたので」
「そうだったんだ。わかった!!」
シールも必ず買いにくると言ってくれる。
ミオは元気いっぱい手を振り、別れたのだった。




