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シールの魔女は婚約破棄されたので、魔女業に専念することにしました!  作者: 江本マシメサ
第二章 勇者マケールのやらかし

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ヒーローは遅れてやってくる

 屋根を蹴ってミオのもとへ急ぐ。


『グアアアアアアアアアア!!!!』

「わあああああああああああ!!!!」


 間に合わない。

 ぎゅっと奥歯を噛みしめた瞬間、遠くから声が聞こえた。


「待たせたな!! もう大丈夫だ!!」


 一ハロン(※200メートル)は離れていそうな位置から、聞き覚えのある声がした。


「勇者公マケール様が来たからには、誰も死なせはしない!! 魔獣ケルベロスめ、成敗してやる!!」


 ミオの表情が明るくなるのと反比例するように、私の気分は暗く落ち込む。

 駆けつけたのが騎士でなく、マケールだなんて。

 ただ大きな声を出し、金ぴかの剣を振り回したのでケルベロスの注目は完全にマケールに変わった。

 今だ! そう思って一気にミオのもとに駆けよる。


「大丈夫?」

「うん!! それよりも、勇者公マケール様が助けに来てくれた!!」


 この子は間違いなくミオだろう。

 先に安全な場所へ誘導しなくては。

 憧れのマケールが登場し、恐怖はどこかへ飛んでいったのか、頬を紅潮させ、興奮した様子でいる。


「こっちへ!」


 腕を引き、大きな図体を持つケルベロスが侵入できないであろう狭い路地へ逃げ込む。

 ひとまずここにいれば安全だろう。


「あなた、ミオですよね?」

「そうだけれど、なんで知っているの?」

「あなたのお婆さんの代わりに探しに来たんです。安全な場所に行きましょう」

「祖母ちゃんが? 外におれを探しにきたの?」

「ええ」


 顔を真っ青にさせるミオだったが、お婆さんは騎士の誘導で礼拝堂に避難したと告げると、安心したような顔を見せた。

 さて、これからどうしようか。

 ミオを抱えて屋根に上るのは危険だから止めたほうがいい。

 ケルベロスがマケールに気を取られているうちに逃げるという手もある。しかしながら実行するにはケルベロスの背後を通らないといけない。

 マケールが上手くケルベロスの気を引きつけ続けられるとは思わなかった。

 しばらくここにいるほうが安全なのか。

 なんて考えていたら、遠くからマケールの叫びが聞こえた。


「お、おい、あっちに行け!! 近づくと、勇者公マケール様がやっつけてしまうぞ!!」


 ケルベロス相手に何を言っているのか。聞いていて呆れてしまう。

 御託ごたくは並べなくていいから、さっさと倒してほしい。

 でないと、ミオの夢が崩れてしまうだろう。

 マケールは自慢であろう金の剣をぐるぐる振り回していたが、ケルベロスが前脚で軽く弾いてしまった。

 金の剣は美しい弧を描きながら遠くへ飛んで行ってしまう。

 あっという間に丸腰になったマケールは、ケルベロスが咆哮を上げただけでその場に倒れ込み、無残な姿を見せていた。

 それだけでなく、信じがたい言葉も口にする。


「そ、そういえは、さっき後方に子どもがいた気がする! 襲うならこの俺様でなく、そっちにしてくれ!」


 ミオもしっかり聞いてしまったのだろう。

 目を見開き、ショックを受けた表情を浮かべている。


「勇者公マケール様……どうして?」


 あろうことか、マケールは純粋な子どもの夢を壊してしまったようだ。

 なんてことをしてくれたのか。怒りがわき上がってくる。


「おい、こっちに来るな!!」


 マケールがそう言ってケルベロスに向かって振りかけたのは、魔獣避けの聖水だろう。

 ケルベロスは『ぎゃん!!』と悲鳴のような鳴き声をあげ、回れ右をする。

 そのまままっすぐ駆けてきたが、向かってくる先は私達が逃げ込んだ路地。


「うわああ――もが!!」


 悲鳴をあげるミオの口を塞ぐが遅かった。ケルベロスは私達を発見してしまう。

 背後は建物の壁で、逃げられない。

 ケルベロスは前脚を路地に差し込み、爪でガリガリと掻く。

 ギリギリまで壁際に行けば、ケルベロスの手は届かない。

 ホッとしたのもつかの間のこと。

 ケルベロスは入れない路地に向かって体当たりを始めた。

 壁は砕け、だんだんと路地が広がっていく。


「ああ、あああああ……!」


 このままではケルベロスが私達のもとに到達してしまう。

 どうしたものか、と思った瞬間、シュシュが一枚のシールを吐き出す。


『はい!』

「こ、これは……!」


 手にしたシールと、水浸しになった地面を見た瞬間、パッと閃く。

 これだ!! と思ってしゃがみ込んだ。

 ミオは私が何をしたいのかわからず、小首を傾げていた。


「私の背後に隠れていてくださいね」

「わ、わかった」


 所持していたシールを一枚取りだす。

 それは、氷の呪文が刻まれた〝氷柱つららシール〟。

 水浸しになった地面にぺたりと貼ると、魔法が発動される。

 魔法陣が浮かび上がり、濡れた地面に太く長い氷柱が次々と突き出てきた。

 その氷柱はケルベロスの体を串刺しにする。


『ガフッ!!』


 全身串刺しになったケルベロスは大量の血を吐き、動かなくなる。

 どうやらケルベロスの討伐に成功したようだ。


「や、やった! ケルベロスを倒した!」


 安堵がこみ上げ、その場に座り込んでしまう。


「お姉さん、すごい! ケルベロスを倒してしまった」

「ええ……」


 〝氷柱のシール〟は、何か攻撃に使えないかと思って製作したものである。

 しかしながら氷柱の材料となる水がないと魔法を発動できないという弱点があったため、失敗作だと思っていた。

 今回はケルベロスが噴水を破壊し、地面が水浸しだったので使えたのだ。


「はは、ははははは!! 倒した!! ケルベロスを倒したぞ!!」


 先ほどまで情けない様子を見せていたマケールだったが、いつの間にか金ぴかの剣を手にし、死したケルベロスの前でぶんぶん振り回していた。

 そんな状況の中、騎士達が駆けつけてくる。


「勇者公マケール様、ケルベロスは!?」

「この通り、俺様が倒してやったぞ!!」

「さすがです!!」


 やはり今回も、ケルベロス討伐の手柄を横取りしてきた。

 騎士に見つかりたくないので大人しくしているが、心の中は沸き立つような怒りを感じている。


 騎士にミオを託し、この場を去ろうとしたら、思いがけない展開となった。


「何を言っているんだ!! 魔獣を倒したのは、このお姉ちゃんだ!! そこのいんちき勇者じゃない!!」


 騎士達のギョッとした顔を見ていたら、彼らはこれまでどこかに隠れ、戦闘を見ていた可能性があることに気付く。

 マケールがやってきたタイミングといい、このケルベロスが逃げた一連の事件は仕組まれたものなのかもしれない。


「嘘を吐くな!! この弱虫!!」

「なんだと!?」

「この人は魔獣に勝てないからって、おれ達に襲うようけしかけたんだ!!」

「いつ、どこで言った!?」

「いい大人が、自分の発言には責任を持て!!」


 なんて口が達者な子なのか。

 慌ててミオにこの辺で止めておくように宥める。

 しかしながら、暴走してしまったミオは止まらない。


「魔獣を倒したって言うんなら、この氷を出してみろよ!!」

「ど、どうしてお前なんかに見せる必要があるんだ!!」

「できないからそんなことを言うんだろう!?」


 もう止めてほしい。ミオをぎゅっと抱きしめ、お婆さんのところに帰ろうと耳打ちする。


「ん、待て。そこの女――もしやメーリスなのか!?」


 頭巾を深く被っていたのに、マケールにバレてしまった。

 こういうときだけ目ざとい彼に、うんざりしてしまう。


「わかったぞ!! こいつがケルベロスを広場に召喚し、市民らを混乱の中に巻き込んだのだ!!」


 ミオに言い負かされそうになったからか、新たな主張をし始める。


「お姉ちゃん、こいつ、何を言っているんだ?」

「私も聞きたいです」


 どうしたものか、と思っていたら、マケールが騎士達に命令し始めた。


「おい、あの女を捕らえよ!! 魔獣ケルベロスを導く、悪しき魔女だ!!」

「はっ!!」


 いったい何を言っているのか。

 騎士達が私に迫り、危機的状況になる。

 どうすれば――と思っていたら制止するような声が響き渡った。


「待て!!」


 転移の魔法陣と共に私達の前に登場したのは、ユベール卿だった。

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