妖精鞄とお買い物
転移陣に乗ると、再度一階まで戻される。
二階の店員さんと同じ顔をしたウサギ獣人の女性が、私が提げた鞄妖精を見るなり、パッと表情を明るくさせた。
「まあ!! その子をお選びになったのですね!!」
「はい」
「お客さんが魔法鞄の話をされたときに、もしかしたら相性がいいんじゃないかって思っていたんですよ!」
なんでもこの子は他店で販売され、返品を繰り返していたようだが、ボロボロになった状態でこのお店に修繕依頼があったらしい。
鞄妖精自体、近づく存在すべてに噛みつこうとする上に暴れ回り、大変な状態だったという。
「魔技巧品の革職人でもあった妹は、その子と戦いながら、一生懸命修繕したんですよ」
ただ、直ったら直ったで、さらに元気いっぱい暴れ回るようになったので、鳥かごの中に入れておくしかなかったらしい。
「繕って直したあと、うちのお店で引き取ることにしたんです」
その後、誰にも鞄妖精を紹介することなく、数年が過ぎていったようだ。
「こんなに大人しくしている鞄妖精を見たのは初めてなんです。本当によかった」
双子の店員さん達の想いが詰まった子なのだ。
大切にお付き合いさせていただこう、と改めて思ったのだった。
お店から出たあと、ふと気付く。
「そういえばあなたは、なんて名前なのですか?」
『名前? ないよ』
「でしたら、私がつけてもいいですか?」
『名前、くれるの?』
「よろしければ」
『ほしい!!』
鞄のことを〝サコッシュ〟とも言う。さらにこの子がこれまでいた店名は〝クリーミー・シュー〟。そこから取って――。
「シュシュ、というのはどうですか?」
『いいかも!』
お気に召してくれたようで、ホッと胸をなで下ろす。
「さっそくですが、このカボチャを入れてもいいですか?」
『カボチャ?』
「こちらのお品です」
バスケットを傾け、お婆さんから貰ったカボチャを見せてみる。
『わー、おっきい!』
「そうなんです。重たくて困っていまして……。お願いします、シュシュ」
『いいよ!!』
了承してくれたので、さっそくカボチャを収納してみる。
「口を開いてくれますか?」
『わかった! あ~~~~ん』
鞄の口が開いたので、カボチャを入れてみる。
シュシュは小さなポシェット型の鞄なので、とても入るとは思えないのだが。
『ぱくん!!』
シュシュの口が大きく開いて、カボチャをごくんと呑み込む。
「わあ、すごいですね!」
『任せて!』
他にも、私が持ち歩いているシールや、財布なども持ってくれるという。
お言葉に甘えて収納していてもらおう。
なんとも頼もしい、鞄妖精だった。
そんな私達の様子を、双子の店員さんが見ていたようだ。
「あ、お店の前ですみません」
「いいえ、仲よさそうで、微笑ましかったです」
「本当に」
クールな妹さんも、最後にニコッと微笑んでくれた。
そんな店員さん達に向かって手を振り、アイテム店〝クリーミー・シュー〟をあとにしたのだった。
急がないと、コゼットがお店の探検に飽きているかもしれない。
市場に行って買い物をする。
ひとまず卵とパン、それから野菜にハム、ソーセージ類さえあればなんとか食いつないでいけるだろう。
市場に入ってすぐに、声がかかった。
「そこのお嬢さん、新鮮な卵が安いよ!」
卵を山のように積んでいるお店だった。
「十個で銅貨三枚だ。どうだい?」
市場で食材を買ったことはないので卵の相場はわからないが、安いことは安い。
「今だったら、二十個で銅貨五枚にまけてこう!!」
これはかなりお安いのではないか。
「でしたら、二十個ください」
「まいど!!」
銅貨五枚を手渡し、バスケットに卵を二十個入れてもらう。
その状態でシュシュに収納してもらおうと差しだし、中へ入れようとしたが――。
『うげええええええ!! 臭い!! これ、ぜんぶ腐っている!!』
「え!?」
店主の前でそんな反応をするなんて。
と思いつつも、念のため卵に鑑定魔法をかけてみた。
「――見定めよ、鑑定!!」
すると目の前に卵のデータが表示された。
アイテム名:腐った卵
レアリティ:☆
状態:腐敗
説明:二ヶ月以上前に鶏が産んだ卵で、腐っている。腐敗がわからないよう、表面を白く塗って販売している模様。
「え……!?」
鑑定結果を一緒に目にすることになった店主は、気まずげな顔でいた。
この表情は、知っていて売っていたのだろう。
「あ、ああ! 間違って古い卵を出してしまったようだ! 回収しよう!」
私からバスケットを奪い取るようにして、店主は二十個の卵を引き取ってくれた。
「別の新鮮な卵にするかい?」
「いいえ、返金してください」
「わかったよ」
素直に銅貨五枚、返してくれたのでホッと胸をなで下ろした。
「では……」
「ああ、また」
そそくさとお店の前を去る。
まさか一店目から粗悪品を買わされそうになるなんて。
「シュシュ、すごいです、賢いです、お手柄です!!」
『えっへん!!』
シュシュは食材の臭いなども感じ取ることができるらしい。私はまったく気付かなかった。
あのまま買っていたら、と思うと恐ろしい。
さすがに割ったら腐っていると気付いただろうが、悪臭が家中に広がることを考えるとゾッとしてしまう。
食材の買い物については初心者なので、鑑定魔法を駆使しつつ選ばなければならないだろう。
というわけで、少し魔力を消費するが、瞳に鑑定魔法を常時展開させた状態で買い物をすることにしたが――。
「ううっ!!」
市場にある品数の多さを甘く見ていた。視界いっぱいに鑑定情報が羅列された状態になり、一瞬で気持ち悪くなってしまう。
発動条件を食材に触れたもの限定に設定しなおし、お買い物を再開させた。
「いらっしゃい、いらっしゃい、新鮮なリンゴはいかがだい?」
おかみさんがつやつやで真っ赤なリンゴを差しだしてくる。
受け取って鑑定魔法を発動させた。
アイテム名:おいしいリンゴ
レアリティ:★
状態:新鮮
説明:朝採れの新鮮なリンゴ。人気商品で、昼前には売り切れる。
今度は大丈夫そうだ。
見た目からもおいしそう。なんて思ったが、先ほどのお店は腐っているのを誤魔化すために着色をしていたのだ。リンゴも見た目だけで判断していいものではないだろう。
ひとまず、このリンゴは問題ない。
「では、三つください」
「はいよ! 銅貨一枚ね」
お金を手渡し、リンゴ三つを受け取る。
このリンゴはシュシュも問題なく収納してくれた。
「よし、この調子ですね!」
野菜にソーセージ、パンなどどんどん購入していった。
鑑定魔法を駆使しているので、失敗はしない。
食品街を通り過ぎると、雑貨類を販売しているお店が並ぶ。
コゼットへのお土産として、ふかふかそうなクッションを買った。
レディ・ヴィオレッタには、ベルベットのリボンをあげよう。
〝養蜂のための花々の草原〟で働くミルには、蜜蜂が刺繍されたハンカチを贈ることに決める。
みんな喜んでくれるだろうか。そんな気持ちを抱きつつ、品物を選んだのだった。
「シュシュは何か欲しい物はありますか?」
『欲しい物? 何それ? なんの目的で?』
「シュシュが私達の家でリラックスできるアイテムを買ってあげたいんです」
『私達の家……!』
シュシュの瞳がキラリと輝く。
『だったら、あれ!!』
シュシュが選んだのは、私の背丈ほどもある帽子掛けだった。
「えーっと、こちらですか?」
『そう!! これで、お家でぶらぶらする!!』
「楽しそうですね」
『うん!!』
店主に値段を聞いてみたら、銀貨一枚だという。
「ではください」
「いいけれど、これ、けっこう重たいよ。お嬢ちゃん、持ち帰ることができるのかい?」
「魔法鞄を持っていますので」
「だったら安心か!」
シュシュはすでに口をかぱっと開いて、帽子掛けを受け入れる態勢でいた。
「あの、この鞄に入れてもらえますか?」
「ああ、それが魔法鞄かい。よいしょっと」
店主が帽子掛けをシュシュの中へ入れてくれた。
「ありがとうね」
シュシュが店主に『ばいば~い!』と言うと、驚いた顔をしつつも手を振ってくれた。
お買い物はこれくらいでいいだろう。
けっこうたくさん買ってしまった。
シュシュのおかげで、重さを感じることなく持ち運べるのだ。
感謝したのは言うまでもない。
お昼が近いからか、人通りが多くなる。
人がこれ以上増える前にシール堂に帰りたいのだが……。
急ぎ足で帰っていると、遠くから悲鳴が聞こえた。
「え!?」
逃げろ!! という怒号みたいな声も聞こえてくる。
「魔獣だ!! 広場に魔獣がいる!!」
耳にした瞬間、ゾッと鳥肌が立つ。
魔獣が広場に出ただって!?
「わああああああ!!」
「人が襲われている!!」
「あっちに行くな!!」
人が高波のように押し寄せてきた。




