お買い物へ!
これからお買い物に行きたい。
けれども目の前には、瞳をキラキラ輝かせて私を見上げるコゼットの姿があった。
彼女はここに来てからというもの、私のあとを離れずにいたのだ。
しかしながら、さすがにお買い物には連れていけない。
騎士隊は私だけでなく、現場から消えた幼竜についても調査をしているだろうから。
それに街の喧騒に、コゼットが耐えられない可能性もある。
だからお留守番していてほしいのだが……。
どういうふうにお願いしたらいいものか悩んでいたら、レディ・ヴィオレッタがやってきて問いかけてくる。
『どうした?』
「いえ、これからお買い物に行こうと思っているのですが」
チラリとコゼットを見ただけで、レディ・ヴィオレッタは事情を察してくれた。
『ふうむ、なるほど! おい幼竜コゼットよ、メーリスはしばし買い物に行くがゆえ、わらわがこの家を案内してやろうぞ!』
『きゅう!!』
コゼットは嬉しそうにレディ・ヴィオレッタの提案に乗ったようだ。
お買い物、という言葉を理解しているのか、私に行ってらっしゃい! と言うかのごとく『きゅ!』とひと鳴きして、レディ・ヴィオレッタのあとをわくわくした様子でついていった。
問題ないようなので、ホッと胸をなで下ろす。
外套を着込み、頭巾を深く被ってから出かけることとなった。
下町を歩いていると、子ども達が遊んでいる姿が目に付く。
「勇者マケール様だぞ~~!」
「俺も勇者マケール様だ!!」
「俺こそ勇者マケール様だ!」
どうやら勇者マケールごっこをしているらしい。皆が勇者マケール役のようで、ただただ剣を振り回し、名乗るだけの遊びとなっている。
その様子が本物のマケールと少し似ているものだから、見ていてなんとも言えない気持ちになる。
「なんだ、お前は!?」
「悪しき魔王か!?」
「間違いない!!」
「いいえ、誤解です!!」
子ども達が剣を振り上げて魔王認定してきたので、慌てて否定し、その場から逃げた。
ああして勝手に私を悪だと決めつけるのも、マケールそっくりだと思いつつ。
子ども達から逃げるために必死に走っていたら、中央広場に行き着いた。
そこでは号外が配られていた。
「勇者マケールの最新記事だよ~~!!」
少しでも多くの人達に配りたいからか、空に向かってばら撒いていた。
その中の一枚が、私の手元に飛んでくる。
一面には大きく〝勇者マケール、凱旋試合での勝利!!〟と書かれていた。
ダーク・ユニコーン戦で勝利したことになっており、配当金が参加者に配られたとある。
ここで、魔獣側に賭けていたことを思い出した。
配当金は私が賭けたものだろう。
残りのお金はどうなっているのだろうか。落ち着いたら問い合わせしなくては。
それはそうと、あんなにどんどん配っているなんて、景気がいいものである。
ああいうふうに大盤振る舞いで配って回るのは、王族の結婚くらいなのだろうが。
いったいどこの新聞社か、と思って調べてみたら、お金さえ払えばなんでも記事にする、悪質な取材でも有名な〝プナ・デイリー社〟だった。
きっとマケールのイメージが悪くならないように、誰かが工作を画策したのだろう。
マケールがこういうことを思いつくとは思えないので、身内に頭脳役がいるに違いない。
記事を丁寧に折りたたみ、手にしていたバスケットに入れておく。
マケール記事なんて必要ないのだが、その辺に捨てるのもどうかと思った。
生ゴミを捨てるときに包んで捨てよう。
そんなことを考えつつ歩いていたら、広場のほうを見つめておろおろするお婆さんを発見した。何やら明らかに困っている様子である。
見なかった振りはできずに、声をかけてしまった。
「あの、どうかなさったのですか?」
「ああ、いえね、孫が勇者マケールに憧れているみたいで、新聞の記事を貰いに行こうとしたんだけれど、すごい人で近づけなくってね」
「ああ、そうだったのですね。よろしかったらどうぞ」
先ほど折りたたんだ記事をお婆さんに渡すと、驚いた表情を浮かべる。
「いいのかい?」
「ええ、私は読んでしまったので」
「ありがとう」
なんでもお婆さんのお孫さんは昨日、闘技大会に行く予定だったようだが、熱を出して寝込んでしまったらしい。
すっかり元気がなくなっていたので、好物のカボチャスープを作ろうと買い物に行って帰ろうとしているところに、勇者マケールの号外が配られていることに気付いたようだ。
「本当にありがとう」
「喜んでいただけて嬉しいです」
必要ないマケールの記事を処分できて、その上感謝される。なんて気持ちのいいやりとりなのか、と思ってしまった。
「では、私はこれで」
「ああ、待っておくれ」
お婆さんは買い物かごに入っていた大きなカボチャを、私に差しだす。
「これ、勇者マケールの記事のお礼に、貰っておくれよ」
「いえいえ! どうかお気になさらず!」
お礼の品をいただくようなたいそうなことはしていない。
「それにそのカボチャは、お孫さんのためにスープを作る用では?」
「いえ、それがねえ、はりきって二つも買ってしまって、重くて困っていたんだよ」
一つ貰ってくれると助かると言われたので、ありがたく受け取ることにした。
感謝の気持ちを伝え、お婆さんと別れる。
手にしていたカボチャをバスケットに入れて歩き始めたのだが――地味に重たい。
このカボチャを二つも持ち歩いていたなんて、辛かっただろう。受け取っておいてよかった、と心から思った。
しかしながら、このカボチャを持ち歩いて買い物をするのは地味に体力を削りそうだ。
どうしたものかと思っていたら、すぐ近くにアイテムを販売するなんでも屋さんを発見した。




