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シールの魔女は婚約破棄されたので、魔女業に専念することにしました!  作者: 江本マシメサ
第二章 勇者マケールのやらかし

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幼竜とのひととき

 その後、シール作りをして気を紛らわそうとするも、集中できていなかったのか、あまり作業が進まなかった。

 こういう日に何かしようとしても、上手くいかないものなのだろう。

 外に食事を買いに行く予定だったが、私を騎士が探していたらと思うと恐ろしい。

 今日は家にある物で簡単に済ませよう。

 師匠と一緒に食べるつもりだったビスケットに、ジャムを載せて食べる。

 途中でしょっぱい物も食べたくなって、サラミを薄くカットしていただいた。

 コゼットも蜂蜜をたっぷり舐めて、お腹はぽっこり膨らんでいる。

 先ほどと同様に私の指先に付いた蜂蜜しか口にしなかったが、この先成長すれば自分で食べるようになるだろう。

 それにしても、幼竜の食料が蜂蜜でよかったと思う。

 蜂蜜だけは大量に所持しているので、困ることはない。

 生きている虫やトカゲ、生肉だったら大変だっただろう。

 ただそうであっても、私はこの子のために食料を確保していたはずだ。

 母親の代わりに守っていこうと、誓っていたのである。

 お腹いっぱいになったコゼットは、私の膝の上で丸くなった。

 ふわふわの毛並みはぽかぽかで、私の冷え切った体を温めてくれる。

 毛並みに沿って撫でてあげると、目を細めて心地よさそうにしていた。

 次第にうとうとし、寝息を立てて眠り始める。

 起きないようにそっと抱き上げ、バスケットの中にクッションを入れて作ったベッドに寝かせてあげた。

 あのあとユベール卿から鳥翰魔法があり、事情聴取が長引きそうなので報告は後日になるというメッセージが届いた。

 大変だろうが、二度とこういう出来事が起きないよう、しっかり事実を伝えてほしい。

 マケールが勇者であるという誤解も、解ければいいなと思った。


 今日は本当にいろいろあった。

 お風呂にゆっくり浸かって、早めに休もう。

 コゼットはこれまで熟睡できていなかったのだろう。

 夕食のあとから一度も目を覚まさずに熟睡していたようだ。

 そんな眠るコゼットをベッドごと二階へ運び、寝台の近くにあるサイドテーブルに置いた。

 おやすみなさい、コゼット。

 そう声をかけて、眠りに就くこととなった。


 ◇◇◇


 翌朝――寝返りを打ったらモフっとした触感があって目覚める。


「んん!?」


 瞼を開くと、コゼットが私の隣で眠っていた。

 どうやらバスケットのベッドから飛びだし、隣で眠っていたようだ。

 私が身動いだからか、コゼットも目覚めたらしい。


『きゅるるん!』

「おはよう、コゼット」

『きゅうん』


 頬の辺りを指先でかしかし撫でてあげると、嬉しそうに尻尾を左右に振っていた。

 なんてかわいい子なのか。

 朝から癒やされてしまった。

 今日はしっかりシールを作りたい。なんて考えつつ、身なりを整える。

 髪を梳っていたらコゼットが鏡台に飛び乗り、自分にもやってくれとばかりに背中を向けてきた。

 新品のブラシがあったので、それで整えてあげると、嬉しそうに瞳をキラキラ輝かせていた。


 朝食はショートブレットと蜂蜜入りの紅茶。

 いい加減、スープとかサラダとか食べたくなってきた。

 今日あたり、市場に行って買い物にいきたい。

 目玉焼きとか茹で卵とか、最低限の料理しかできないので、食材を買ってきても無駄にしてしまいそうだが……。

 屋台やレストランの料理はそこまで高くないので、外食するほうが楽だし安上がりなのである。

 けれども今日みたいな、家に引きこもっていなければならないときは、自炊できたらいいのにな、と思ってしまった。


 騎士達は私からの事情聴取を諦めてくれているだろうか?

 考えただけで憂鬱になる。

 マケールのせいで、悪いことばかり起きていた。

 もう二度と、関わり合いになりたくない。


 そのあとは地下の工房でシール作りを行った。

 浄化のシールの在庫が減りつつあったので、補充のために作成する。

 材料は聖水、ヒール薬草の精油、聖樹の樹液、蜜蝋。

 これらを錬金鍋に入れて火にかける。

 ぐつぐつ煮込んで、丁寧に濾したあと、火から下ろして鍋敷きの上に置く。

 パレットの上に蜜蝋液を垂らし、杖の先端にある封蝋印をぐぐっと押しつけて、魔法陣をしっかり刻む。最後に仕上げの呪文を唱えた。


「――刻印せよスタンプ!」


 シールがきらりと輝いたあと、ぱちんと音を鳴らす。

 無事、成功したのでホッと胸をなで下ろした。

 完成したばかりのシールを、ガラスケースに並べていく。

 在庫は十分にある。

 足りないのはお客さんだけ。

 思わずはあ、とため息を吐いてしまう。

 そんな私のもとにレディ・ヴィオレッタが音もなく現れる。


『どうした、ため息なんぞ吐いてからに』

「いえ、お店の商品は十分あるのに、お客さんがやってこないな、と思いまして」

『焦ることはないぞ』

「ええ」


 わかっているが、ここを引き継いでから一枚もシールが売れていないのだ。

 どうしたものか、と天井を仰ぐ。


『売り上げが気になるのであれば、すべてマチルドの孫に売りつけたらよいのでは?』

「それはちょっと……」


 ユベール卿は優しいので、シールが売れなくて困っていると訴えたら買ってくれるだろう。けれどもそういうことはしたくない。

 レディ・ヴィオレッタの言うとおり、今は焦って商売するようなタイミングではないのだろう。


 気分を入れ替えるため、お買い物に出かけることにした。

 

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