突然婚約破棄されてしまった私
どうやら発表は私との婚約破棄と、エヴリーヌとの婚約宣言だけではないらしい。
「魔王を倒した俺は、国王陛下から〝勇者公〟の爵位を貰うこととなった!!」
勇者公――始めて耳にする言葉である。
「勇者公は公爵と同等の爵位らしい。これから財産と領地を貰う予定だ」
公爵令嬢であるエヴリーヌと、伯爵家の次男であるマケールの結婚は認められるものなのか、なんて考えていた。
どうやらエヴリーヌと見合うような爵位が与えられるらしい。
「これから俺のことは、〝勇者公閣下〟と呼ぶといい!!」
マケール唯一のコンプレックスだった爵位が手に入ったので、喜びの絶頂にいるように思える。
マケールもエヴリーヌも、幸せそうだった。
最後に、エヴリーヌが得意かつ誇らしげな様子で私に近づき、手を握りながら言った。
「あなたの婚約者、貰うわね」
なんと返していいのやらわからないでいたら、マケールもやってきて高々と宣言する。
「おい、メーリス! このあとパレードがあるから、絶対に見に来いよな!」
他人となった男のパレードなんて、どうして見なければならないのか。
理解に苦しむ。
「さあ! みんなパーティーを楽しんでくれ! 今日は無礼講だ!」
マケールがそんなことを言っていたのだが、それはパーティーを主催する父の台詞だろう。どこまで図々しいのか。
父や母を見たら、呆れきった様子でいた。
「メーリスや、これ以上、我々はこの場にいる必要はないだろう」
「あとはフェルナンに任せましょう」
私達から少し離れた場所に、兄フェルナンが呆れた様子でマケールとエヴリーヌを見ていた。
今日は兄の貴族学校時代の友人も数名参加しているようなので、この場は任せても問題ないだろう。
兄の犠牲は忘れない……。そう思いつつ大広間から去った。
居間に入り、メイドが扉を閉めた途端、私は飛び跳ねて喜ぶ。
「やったーーーーーー!!!!」
マケールが婚約破棄?
エヴリーヌと結婚?
願ってもない話である。
「どうしましょう! 夢みたいです!」
十二歳の頃からマケールと婚約して以来、倫理的中傷に悩んでいたのだ。
年々、謂われのない言葉の暴力に悩むも、相手はミュリエール子爵家よりも格上の伯爵家。新興貴族である我が家の倍以上歴史がある名家でもあったのだ。
幾度もなく父にマケールとの婚約を白紙にしてほしいと頼んだ。
けれども格上の貴族相手に婚約解消なんぞできるわけもなく、ずるずると今に至っていたわけである。
「マケール君も騎士を続けるために、我が家の持参金とメーリスの支援が必要だったのだろうが、勇者公の爵位を得た今、不要となったのだろう」
「メーリスの献身あっての魔王討伐でしょうに、あの子は気付いていないのね」
別に、マケールから感謝の気持ちなんてまったく期待していなかった。
そんな彼と今後いっさい関わりを持たなくていいとわかって、今の私は未来への期待で胸が弾んでいた。
「メーリス、これからどうするつもりなんだい? 新しい婚約者を探すこともできるが」
「いいえお父様、ご心配なく。私、魔女を本業にしようと思いまして」
両親は驚いた表情で私を見る。
実を言えば、初めて告げることだったのだ。
魔女というのは魔法の手工芸品を得意とする魔法使いである。
夫の収入が少ない場合や、自らで生計を立てないといけない独身女性が魔女を名乗っているのだ。
私は貴族学校に入学した十三歳の春に〝シールの魔女〟と呼ばれる師匠に出会い、さまざまな魔法の手工芸品を習ってお金を稼いでいた。
マケールに支援していた物を購入した資金も、魔女業で得た収入である。
「魔女というのは、メーリスが貴族学校時代に弟子入りしたっていう?」
「〝シールの魔女〟だったかしら?」
「ええ、そうです」
師匠はずっと私にお店を継いでくれないかと頼み込んでいたのだ。
お孫さんもいたようだが、男性である上に魔法騎士になってしまったという。
「でも、魔女としてこの先ずっと生きるなんて茨の道を選ばなくても……」
「メーリス、うちの商会で働いてもいいのよ」
「いいえ、私は魔女業が性に合っているんです」
これからはマケールの事情や我が儘な要望に左右されず、シールの魔女として働くことができるのだ。
これまでできなかった、遠方への素材集めにだって行けるはずだ。
「でも、お父様は私が結婚することによって、上級貴族との縁故を作りたいのでしょうか?」
「いいや、それについてはとうの昔に諦めていたよ」
私とマケールの結婚は、ギース伯爵家からの打診がきっかけだった。
その当時、父は上級貴族相手に商売がしたかったらしく、喜んで了承したらしい。
ただ、現実は厳しいものだった。
上級貴族は歴史ある御用達店での買い物を好み、新しいものを拒む傾向にあったという。
父は早々に商売を諦め、これまでと同じく堅実な商売をしていたようだ。
「上級貴族相手の商売は難しいことがわかっただけでも、儲けものだろう」
そんなわけで、貴族との縁故を繋ぐことは気にしなくていいと言ってくれた。
「メーリスはこれまで十分過ぎるほど頑張った。これからは好きに生きるといい」
「はい!」
そんなわけで、私は両親の理解を得て魔女業に専念することとなった。
ブックマーク登録や、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイント評価などで作品を応援いただけたら嬉しく思います。




