勇者公マケールの登場
司会者が登場し、拡声魔法を使って会場を盛り上げる。
「勇者マケールの勇敢な戦いを観戦できる特別興行へようこそおいでくださいました!! みなさん、お待たせしました!! 魔王を倒したマケール・ド・ギース勇者公の登場です!!」
闘技場の後方でどんどんどん、ばーん! と派手な音を立てて花火が上がり、たくさんの白い鳩も空に放たれる。
鳩は花火の音にびっくりして散り散りになった。鳩もいい迷惑だ、なんて思ってしまう。
バトルフィールドへ繋がる出入り口付近でスモークが高く上がり、そこからマケールが戦闘用二輪馬車に乗って登場した。
割れるような歓声に包まれたが、私はマケールの格好を見てギョッとする。
全身金ぴかの、趣味の悪い鎧を装着していたから。
兜なんて水牛みたいな二本の角が生えていた。
確実に、マケールの趣味だろう。
彼と出会ったとき、信じがたいくらい服装が野暮ったかったのを思い出す。
虹色のジャケットとズボンにとんがり帽子を合わせ、手にはステッキだとか言って山羊の角を握っていたのだ。一瞬、道化師と見間違ったくらいだった。
それが九歳の頃の話だったので、奇抜な格好がギリギリ許される年齢である。
ただ、そのセンスをマケールは成長と共に大事にしていたようで、何度も私を驚かせていた。
幸いと言うべきか、貴族学校時代は制服があったので、彼のセンスが露見することはなかった。
夜会があっても、私が正装を用意していたのだ。
卒業後は騎士隊の制服があったし、引き続き服装は私が気にかけていた。
いつもいつでもマケールにセンスが悪いと罵られようが、我慢していた。
他人から陰で野暮ったい婚約者と言われるほうが、精神的に辛かったから。
マケールもマケールで、次男である彼は両親から自分自身にかけてもらう予算が少なく、まともに服も仕立ててもらえないことをわかっていたので、文句を言いつつも私が用意した物を着ていたのだ。
婚約破棄し、私のコーディネートから解放されたマケールは、それはもう活き活きとしていた。
歓声を浴びて、得意気な様子でいる。
そんなマケールを見て、ユベール卿はポツリと呟く。
「酷いな、いろいろと」
「ええ……」
マケールはバトルフィールド内を戦闘用二輪馬車で十周は回っていた。
観客もそろそろ飽きようというタイミングで止まり、両手を挙げて声援に応える。
司会者がやってきて、マケールの口元に杖を差しだし、拡声魔法で声が観客に届くようにしていた。
「皆、待たせたな!! 勇者公マケール様がやってきたぞ!! 魔王はこのマケール様が倒してやった!! 安心するといい!!」
本日一番の盛り上がりを見せる。ここが闘技大会のピークではないのか、なんて思ってしまった。
「俺の大切な女を紹介する! 婚約者のエヴリーヌだ!」
バルコニーのようになった貴賓席をマケールが指差すと、美しく着飾ったエヴリーヌが立ち上がって手を振っていた。
「エヴリーヌは長年俺を支えてくれた最高の女なんだ!!」
私が彼のために尽くした日々については、記憶から消失されているらしい。
まあ、そんなことだろうと思っていた。
「エヴリーヌは勇敢な女で、魔王討伐の旅にもついてきた!! 果敢に、魔獣や魔王と戦っていたのだ!!」
そうなのかと聞くと、ユベール卿は首を横に振る。
「あの者は魔物と対峙するより、鏡を見ている時間のほうが長かった」
魔王討伐の旅でも、自分がどう見えているか確認するほうが重要だったという。
なんとも呆れた話である。
「この俺に色目を使う愚かな女もいた……。商人の娘で、金で物を言わせるような、卑劣極まりない女だったのだ。二度と、思い出したくもない」
思わず、ユベール卿と顔を見合わせる。
「もしかしなくても、愚かな女というのは私のことでしょうか?」
「愚かなのはあの男のほうだろう」
話に耳を傾けるのも馬鹿馬鹿しくなってしまった。
「これから魔獣との戦いを見せてやる!! 勇者公マケール様の雄姿を、目をかっぽじって見ているといい!!」
ユベール卿が隣で「目をかっぽじるとは?」なんて呟き、笑いそうになる。
それを言うのならば〝耳を掻っ穿って聞け〟、だろう。
掻っ穿るというのは、ほじくって穴を空けるという意味なのに。
観客は勇者を前にして興奮しているのか、言い間違いに気付いていない。
「目を掻っ穿ったら、逆に見えないではないか?」
冷静に指摘するので、我慢できずに笑ってしまった。
「ユベール卿、笑わせないでください」
「すまない」
そんな会話をしているうちに、第一戦がスタートするようだ。
マケールがいる反対側の出入り口から、檻に入った魔獣が登場する。
中にいるのは、ダーク・ユニコーン。
「あの男は魔法騎士隊の戦闘に介入し、致命傷を負った魔獣を檻に閉じ込め、自らの従者に命じて連れて帰っていたようだ」
その当時、ユベール卿は魔王との戦闘中だったため、その行動を咎めることができなかったという。
王都に帰るさいも、魔獣の檻を引く従者達は後方にいたため、気付かなかったようだ。
「それらを把握できていなかったくらい、魔法騎士隊の者達は疲弊しきっていた」
ユベール卿はさらに魔王の置き土産もあったのだ。マケールの愚かな行為を気にしている場合ではなかったのだろう。
ついに戦闘が始まるようだ。
魔法の力で封じられていたらしい檻が解放される。
ダーク・ユニコーンは長時間閉じ込められていたからか、立ち上がるもふらついていた。
「ははははは!! この、悪しき害獣め!! 勇者公マケール様が懲らしめてやる!!」
マケールは剣を引き抜き、高く掲げた。
剣までもが金ぴかで、太陽に光を浴び、眩しく輝いている。
「あの剣、鍍金では?」
「えーっと、つまり、飾り用の剣、ということなのでしょうか?」
「間違いない」
そんな剣でダーク・ユニコーンに勝てるわけないのに。
マケールは剣を振り上げた状態で駆け、ダーク・ユニコーンに斬りかかろうとする。
「死ね!!」
そう叫んで剣を振り下ろそうとした瞬間、ダーク・ユニコーンが動く。
額の角で剣を受け止め、大きく首を動かした。
「ぎゃあああああああ!!!!」
マケールの体は後方に大きく飛ばされる。
手から剣が離れ、受け身も取れずに顔面から着地していた。
それだけでは留まらず、二、三回と地面を転がり回る。
会場はシーーーーーーーーンと静まり返った。




