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シールの魔女は婚約破棄されたので、魔女業に専念することにしました!  作者: 江本マシメサ
第二章 勇者マケールのやらかし

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魔獣に賭けよう

 ドレスを買うためのお金を賭けで稼ぐつもりが、ユベール卿が買ってくれた。

 なんとも恐れ多いことだが、必要以上に遠慮するのは逆に失礼だろう。

 ユベール卿の好意だと思って、ありがたくいただくことにした。

 闘技場は王都の外れ、西部にある。

 その昔は毎日のように闘技大会が開かれ、魔獣と剣闘士が戦っていたという。

 今は貴族派の議員達が野蛮で人を堕落させる娯楽だと強く訴えたので、廃止されている。

 再開はきっと特別な例で、魔王の被害で暗く落ち込んだ人々を楽しませるために開催されたのだろう。……たぶん。

 賭けの受け付けは勇者と魔獣に別れているようで、当然ながらマケールに賭ける人々が長蛇の列を成していた。

 魔獣側には人の姿すらない。


「これは、賭けになるのか?」

「勇者側が勝ったのに魔獣側に賭けた人がいない場合は、特払いといって賭けたお金が返されるそうですよ」


 手続きが面倒だからと受け取らなかった場合は、主催側の収益となる。


「さっき、並んでいる人達の会話が聞こえてきたのですが、配当がなくても、魔王を倒してくれた勇者へのご祝儀にしたいと話していました」

「なるほど。それらも想定した催しなのかもしれないな」


 あとは、勇者グッズの売り上げで収益を賄っているのかもしれない。

 闘技場の周辺には、勇者マケールの公式記念品スーベニアを売るお店がたくさん並んでいた。

 どうやらしっかり売れているようで、完売御礼の札がかかっている物もあるようだ。

 グッズだけでなく、食べ物も売られていて、これもマケールに関連する商品だった。


「勇者マケールまんじゅうが蒸したてだよ!」

「勇者マケールパン、残り三個!」

「勇者マケールの大好物、ミルクスープが出来立てだ!」


 マケールと聞いただけで食欲が失せるから不思議だった。

 露店の前を通り過ぎ、私達は魔獣側に賭ける受け付けにやってくる。

 担当する男性は暇なのか、大口を開け欠伸をしていた。

 私達に気付くと、背筋をピンと伸ばす。


「いらっしゃいませ、こちら側は魔獣に賭ける受け付けとなっております。勇者側ではありませんので、どうかあしからず」


 間違ってやってくる人がいるのだろう。丁寧に教えてくれた。

 魔獣側に賭けるつもりだと言うと、受け付けの男性は驚いた顔を見せる。


「あの、魔獣側は掛け金の基本が高くなっておりまして、第一戦につき、金貨二枚からとなっております」


 魔獣と勇者の戦いは五回にわたって行われるようだ。

 勇者側は銅貨一枚から参加できるらしい。

 参加する人数が少ないと踏んで、この設定になっているようだ。


「でしたらすべての戦いに一口ずつで計五口、金貨十枚賭けます」

「金貨十枚も!? よろしいのですか!?」


 私にしてはかなり大きな金額である。

 しかしながら、マケールに賭けたお金はこれ以上だろう。

 絶対に取り返してみせる。そんな心意気を持って賭けてみた。

 受け付けの机に金貨が入った袋を置くと、受け付けの男性は確認し、小声で「本当にある」と呟いていた。

 マケールは必ず魔獣に負ける。自信があるので、これだけの金額を思い切って賭けたのだ。


「本当によろしいのですか?」

「ええ、お願いします」

「でしたらこちらの契約書をお読みいただいて、署名をお願いします」

「わかりました」


 契約書をしっかり読んでからすらすらと署名し、提出した。


「はい、受理します」


 配当金を受け取れる券が差しだされる。金貨十枚が紙切れ一枚となってしまったのだが、きっと私に大金をもたらしてくれるだろう。


「お連れ様はいくらお賭けになりますか?」

「いいや、私は賭け事はしない」


 さすが、清廉潔白の元騎士様である。意気揚々と賭け事に参加する私とは大違いだ。

 生きる世界が違うんだな……と思ってしまった。


「不思議な生き物を見る目を向けるな」

「いえいえ、誤解です! 真面目なんだなと思っていただけですよ」

「真面目なわけではない。賭け事に興味がないだけだ」


 きっとお金がある人からしたら、賭け事に参加する意義が理解できないのだろう。

 ただ私も普通の賭け事だったらやっていなかった。

 マケールにかけたお金を取り返すための目的があるので、こうして大金をかけて参加しているのだ。

 なんて言い訳をしたものの、ユベール卿から見たら、私みたいな人間はさもしく見えているに違いない。

 恥ずかしい気持ちでいっぱいになったものの、お金を回収できる機会は今回しかないだろうから、しっかり利用させていただく。 


 チケットを使って闘技場の中へと入ると、すでに満員に近い動員数だった。


「すごい人ですね」

「それだけ勇者への期待値が高いのだろう」


 多くの人が行き交って危険だから、とユベール卿は私を席までエスコートしてくれた。

 こういうのも、マケールからされたことがなかったな、と思い至る。

 婚約者扱いをまるでされていなかった。

 ただの都合がいい金蔓だったのだろう。


 席についてしばらく待つと、開会式が始まった。

 マケールが登場すると、会場は歓声に包まれる。

 ついに、闘技大会が始まるようだ。

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