シールの効果
夜市で買った絵皿はならず者相手に役に立ったし、そのときに貰ったペアチケットも有効活用できそうだ。
ただユベール卿は私の思惑を完全に理解できていないのか、呆れたようにため息を吐いている。
その様子に疲れが混じっているように感じて、慌てて昨日作った回復シールを渡すことにした。
「ああ、そうでした。ユベール卿に差し上げたい物があったんです」
カウンターの引き出しに入れていた回復シールを、ユベール卿に差しだす。
「なんだ、それは?」
「回復シールです。体のどこでもいいので、直接貼ったら疲れが取れるはずですよ」
「このような品を、無償で受け取る理由がないのだが」
「パレードのときに、助けていただいたお礼です。私の感謝の気持ちでもありますので、どうか受け取ってください」
そう言うと、ユベール卿は回復シールを手に取って収めてくれた。あげる理由があってよかった、と思う。
「回復シールか。腰痛、関節痛を緩和する物以外に、こういった物もあるのだな」
「ええ、いろいろあるんですよ」
ユベール卿は手の甲に回復シールをぺたりと貼る。
すると魔法陣が浮かび上がって、ぱちんと弾けた。
回復シールは体に浸透するように消えてなくなる。
「なっ――!?」
ユベール卿の表情が驚愕に変わる。
袖を捲るとまだら模様の傷痕のようなものがあったのだが、スーーーっと消えてなくなっていった。
「ユベール卿、そ、それは?」
「魔王の置き土産だ」
なんでもユベール卿の生命力を蝕み、倦怠感と痛みを永遠に与えるものだったらしい。
魔王と戦ったさいに返り血を浴び、このように残ってしまったようだ。
呪いのようなものだろうとユベール卿は言うが、呪いであれば術者が死ぬと消えてなくなる。
魔法に詳しい魔法医曰く、死した魔王の遺恨のようなもので、一生付き合っていくものだろうという診断を受けていたようだ。
「まさか、回復するなんて……!」
信じがたい、という顔でユベール卿は私を見つめる。
「何を入れた? 何で作った?」
「いえ、その、裏庭で育てているヒール薬草と、兎妖精が作った蜜蝋で作りました。材料はヒール・ポーションと変わりません」
ユベール卿は返事をする代わりに、はーーーーーと大きなため息を吐く。
「お前に、一生返しきれない恩ができた」
「いえいえ、どうかお気になさらず」
「私がどれだけ魔法の遺恨に苦しんでいたか、お前には想像できないのだろう」
「ええ、そうですが……」
旅の疲れから辛そうにしているものだと思っていたが、まさか魔王の置き土産に苦しめられていたとは。
回復シールが効果てきめんでよかった、と思う。
「私にとってもユベール卿は恩人ですので、お返しできてよかったです」
「パレードの件だけで相殺しようとするな。何か必要な物はないのか?」
「必要な物、ですか?」
「ああ。ドレスでも、宝飾品でも、金でも、なんでもいい。望む物を差しだそう」
「いえ……魔法騎士隊を辞めたばかりですので、無理はなさらないでください」
その言葉が気に障ったのか、ユベール卿の表情がピキッと凍り付く。
「私は……自ら稼いだ財がそこそこある。ささやかな暮らしでいいのであれば、一生働かなくともいいくらいに」
なんでも魔法学校時代に魔法のアイテムを開発し、特許を取ったようで、毎月そこそこの金額のお金を貰っているようだ。
「それはそれは、失礼いたしました」
「わかればいい」
しかしながら、ユベール卿からお金や品物を受け取るつもりはない。
いくら言っても納得しないので、話を逸らしてみる。
「あの、ちなみに何を作られたのですか?」
「別に大した品ではないのだが、霊水石というアイテムを知っているだろうか?」
「知っています!! と言いますか、今朝も使わせていただきました!!」
まさかユベール卿が霊水石を開発したご本人だったとは。
思わず尊敬の眼差しを向けてしまう。
「ここにあるのは、おそらく私が祖母に贈った物だったのだろう」
「そうだったのですね……!」
霊水石があるおかげで、二階で快適に水が使えるのだ。
感謝したのは言うまでもない。
さらに私は話を大きく逸らす。
「それはそうと、どうして私が闘技大会の賭けで、魔獣側を支持するか、お話ししていませんでしたね」
「ああ」
マケールの実力についてユベール卿は、弱った魔王を倒したり、気まぐれに魔獣を倒したりと、多少戦える程度と捉えていたという。
「マケールの実力は、すべて私が作ったシールで能力を増加させていただけだったんです」
「なんだと!?」
防御力上昇、攻撃力強化、体力増量、精神力の維持、忍耐力の増加――上げたらキリがないが、マケールの能力はシールの力でかなり強めていた状態だったのである。
「一年後に効果が切れるので、必ず帰ってくるように言っていたのですが、まさか一年で魔王を倒して戻ってくるとは夢にも思っていませんでした」
ちなみにマケールは、能力を私のシールで上乗せされていることは知らない。
プライドがどこまでも高いので、言ったら激怒し、私を悪者にするに決まっている。
だから用意した装備にこっそり仕込んで送り出していたのだ。
エヴリーヌも同様に。
「魔法騎士隊の進行に問題なくついてきていると思っていたが、まさかそのようなカラクリがあったとはな……」
そしてそれらの効果はすでに切れているだろう。
「つまりマケールは闘技大会で、自らの本来の実力で戦うことになっているんです」
マケールの本来の実力なんて大したことはない。
貴族学校の剣術大会でも、予選敗退していたくらいなのである。
勇者となって帰ってきたマケールの戦いに対し、人々は期待し山を賭けるだろう。
逆に、魔獣に賭ける者は少ないはずだ。
「そんなわけですので、マケールの戦いっぷりを観に行きましょう」
「わかった、同行しよう」
私達は闘技大会を観に、出かけることとなった。




