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シールの魔女は婚約破棄されたので、魔女業に専念することにしました!  作者: 江本マシメサ
第一章 ある日、婚約者が勇者になって

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思いがけないトラブル

 かなり太陽が落ちてきた、早く帰ろう。

 念のため護衛用のシールを握りしめながら急ぎ足で歩いていると、物騒な男達が誰かを取り囲んでいるところを目撃してしまった。


「おうおう、姉ちゃんよお、こんな遅い時間に一人でいるなんて危ないじゃないか」

「俺達が安全な場所まで、案内してやろうか?」


 これはもしかしなくても、女性が不逞ふていの輩に絡まれているのだろう。

 助けてあげなければと思いつつも、筋骨隆々で背が高い男達相手に勝てるわけがない。

 けれどもこのまま見過ごして通り過ぎたら、絶対にあとで悔やむ。

 パレードで酔っ払いのおじさんに襲われたときも、周囲の人達は助けてくれなかった。

 そんな思いをさせたくない。

 もしかしたら話が通じる相手かもしれないのだ。見た目で判断してはいけないだろう。

 大きく息を吸い込み、勇気を振り絞って声をかけてみた。


「あの、少しよろしいでしょうか?」

「ああん?」

「なんだあ?」


 振り返った男達はどちらも強面である上に、揃って犯罪者に刻まれる入れ墨が顔に大きく彫られていた。

 恐怖で悲鳴を上げたくなったものの、男達の前で顔色を悪くしている女性と目が合った。

 女性は仕立てのいいドレスを身に纏っており、一目で上級貴族の出身だということがわかる。

 怖かったのだろう、微かに肩が震えていた。

 見過ごさなくてよかった、と思う。


「なんだよ、なんの用事なんだよ!」

「しょうもないことだったら、ぶっ飛ばすからな!」

「女性を解放していただけますか?」

「はあ!? 俺達は今から、このねーちゃんと楽しいことをするんだよ!!」

「邪魔すんな、このブスが!!」


 前言撤回。

 もしかしたら話が通じる相手かも! なんて思った私が間違っていた。

  こういう輩はまともに相手にしてはいけない。

 かごに入っていたマケールの絵皿を投げつけ、男達を散らす。

 マケールが微笑んだ顔が描かれた絵皿は、パリンと音を立てて割れてしまった。

 心の中で、マケールの犠牲は忘れない、と思う。

 男達が散り散りになったその隙に素早く女性に腕を伸ばし、手を握って引き寄せる。


「なにすんだよ!!」

「その女を返せ!!」


 男達は拳を上げ、殴りかかってこようとした。

 相手にシールを貼る暇なんてない。

 女性を背後に回し、私は自らにシールを貼る。

 次の瞬間、男の拳が私の頬を直撃した。


「――がっ!?」


 目を剥いて苦しんだのは私ではなく、男のほうだった。


「なんだこの女!!」


 続けてもう一人の男は、私のすねを狙って蹴ってきた。


「――ぐはっ!?」


 この一撃も、攻撃した男のほうが顔を歪め、その場に崩れ落ちる。

 動けなくなったのを見計らい、女性の手を引いて走りだした。


「おい、待て!!」

「このブスが!!」


 そう言われて止まる人なんていないだろう。

 走っているうちに頭巾が外れてしまったが、被り直している暇なんてなかった。

 やっとのことで騎士隊の詰め所に行き着く。女性騎士がいたので、ホッと胸をなで下ろした。


「あのすみません、この女性がならず者に絡まれておりまして、よければお家まで送っていただきたいのですが!」


 息切れする間もなく、一気に捲し立てるように訴えた。

 女性騎士は供も連れずに歩いていた女性を心配し、家まで送ってくれると約束してくれた。

 それだけでなく、私の心配までしてくれたのだ。


「あなたは大丈夫なのですか?」

「私は、魔女ですので!」


 平気です、と言って踵を返そうとしたら、女性が声をかけてくる。


「あの、お名前を聞いてもよろしい?」


 振り返って言葉を返す。


「いえ、名乗るほどの者ではありませんので」

「しかし」

「道中、お気を付けて」


 女性は十代後半くらいの、ブルネットの髪を持つ美女だった。

 どうしてあんなところに一人でいたのか。

 そういう話を聞くのは騎士の仕事だろう。

 この場は任せて、私は家に帰ることにした。

 先ほどと同じ道を通って帰るのは恐ろしい。

 けれどもその道を通らないと、シール堂には戻れないのだ。

 仕方がないと思って、靴にシールを貼る。

 それは小さな翼が生える、〝飛行のシール〟だ。

 石畳を蹴ると、大きく跳び上がり、屋根に着地する。

 屋根を伝って帰れば、さっきの男達にも会わないはず。

 暗くなってきたので足下が見えず不安だが、さっきの男達に会いたくないので頑張った。

 屋根伝いにシール堂に戻り、中に入ると盛大に安堵の息が零れる。

 レディ・ヴィオレッタはカウンターの上にいて、私を迎えてくれた。


『戻ったか』

「た、ただいま帰りました」


 私に顔にトラブルに巻き込まれました、と書いてあったのだろう。

 何があったのかと聞かれてしまう。


「道中、ならず者に絡まれている女性を発見しまして、見捨てられずに助けてしまいました」

『そなたは、自らも輩に絡まれるような非力な女であるのに、どうしてそのような行為を働くのか』


 呆れられてしまう。


『しかし、なんとか助けられたのだろう?』

「ええ! 作っておいた護身用のシールが早速役立ちました!」

『何を使ったのだ?』

「全身をがっちがちに硬くする、〝鋼鉄シール〟です」


 パレードで酔っ払いに絡まれたさい、反撃できるような余裕はなかった。

 そういうときは相手に接触せずに、自分を守る術が必要だと気づき、作ってみたのである。

 すぐに役に立つとは夢にも思っていなかった。


『まったく、そなたはお人好しにも程があるぞ』

「反省しています」

『早くマチルドの孫を護衛として従えるのだ』

「それは……成功するかどうか」

『ならば、強力な使い魔と契約するとよい』


 使い魔との契約について、何度か考えたことがある。

 けれども必要とする場面がなかったので、召喚しようと思わなかったのだ。


「そう、ですね。これからは使い魔も必要になってくるかもしれません」


 あと、遅い時間にふらふら出歩かないようにしなければ。


『それで、夕食は買えたのか?』

「はい!」


 男達に絡まれても、走って逃げても、夕食が入ったかごはしっかり離さず握っていたのだ。

 お腹がぺこぺこだ。早くいただくとしよう。

 人助けをしたあとの肉団子のシチューの味わいは極上で――。


 そんなこんなで、私の大変な一日は幕を閉じたのだった。


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