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シールの魔女は婚約破棄されたので、魔女業に専念することにしました!  作者: 江本マシメサ
第一章 ある日、婚約者が勇者になって

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ようこそ、蜜蜂妖精の楽園へ

 二階なのに、扉の向こう側はお花畑!?

 信じがたいような光景が広がっている。

 頬を抓ったが、夢ではない。現実だった。


「レディ・ヴィオレッタ、ここは?」

『歴代のシール魔女が管理する、蜜蜂妖精ハニービー・フェアリの〝養蜂のためのビーキーピング・花々の草原フラワーズメドウ〟ぞ』

「シール作りに使う蜜蜂妖精の蜜蝋は、ここで採っていたのですね」


 てっきり魔法道具店に注文して購入しているものだと思い込んでいた。


『残念ながらわらわはここから出られぬゆえ、そなただけで行ってこい』

「わかりました」


 恐る恐る、そっと足を踏み入れてみる。

 しっかりとした大地を感じ、安堵した。

 ふと、傍にあったブルーベルに蜜蜂妖精が止まり、花蜜を集めているのに気付く。

 蜜蜂妖精は丸っこいシルエットがかわいらしい。

 足には花粉をたっぷり付けて、ファーブーツを履いているように見えた。

 蜜蜂妖精は花蜜を吸い終えると、養蜂箱のほうへ運んでいった。

 そんな蜜蜂妖精を追いかけると、背後から声がかかって驚く。


『あら、新しいシール魔女様ですの?』


 振り返った先にいたのはメイド姿のうさぎさん。背丈は私の膝くらいで、二足歩行をしている。


「あなたは?」

『私はここの管理のお手伝いをする兎妖精フェアリ・ラビットです。ミルとお呼びくださいませ』


 兎妖精ミルは、ここで蜜蜂妖精の世話と養蜂箱の管理を行っているという。


「私はメーリス・ド・リュミエール、師匠マチルドの弟子で、今日からシール堂を引き継ぎました」

『ええ、ええ、お話は聞いておりました』


 彼女もレディ・ヴィオレッタ同様、ここを守護し管理する、シール魔女管轄の妖精族らしい。


『今から蜂蜜を採るつもりだったのですが、よろしければ見て行かれますか?』


 レディ・ヴィオレッタを振り返ると、好きにするようにと言わんばかりに尻尾を左右に振ってくれた。


「お願いいたします」

『では、こちらへ』


 養蜂のためのビーキーピング・花々の草原フラワーズメドウには三十もの養蜂箱があるようだ。ここは常春の草原で、一年中蜂蜜が採れるという。

 ミルは養蜂箱の近くに置かれた踏み台に乗り、慣れた様子で蓋を開く。

 蜜蜂妖精はシール堂を引き継いだシール魔女の使役下にあるようで、お尻にある針で刺してくることはないようだ。


『見てください、中はこのような感じなっておりまして、この巣枠と呼ばれるフレームに、蜜蜂妖精が巣を作って蜂蜜を貯めているのですよ』


 巣枠には蜜蜂妖精が貯めた蜂蜜がぎっしり詰まっているようだった。

 見ているだけでも重たそうだったが、ミルはひょいっと持ち上げる。


『この巣枠から、蜂蜜と蜜蝋が採れるのですが、あちらの小屋で作業を行いますの』


 ミルが指差した方向に、かやぶき屋根のかわいらしい小屋がある。

 そこで作業するらしい。

 巣箱にあった巣枠を三枚ほど拝借し、作業小屋へ向かった。

 内部は工房といった感じで、蜂蜜を採るための装置が置かれていた。


『こちらは遠心分離機セパレーターと呼ばれるもので、魔法の力で回転させることによって、巣枠から蜂蜜を採る魔技巧品ですわ』


 遠心分離機にかける前に、ナイフで巣枠の表面を削ぐ。


『蜂蜜は巣枠から零れないように、蜜蓋で覆われているんです。そのため、こうやってナイフで削いでから遠心分離機にかけてくださいませ』


 ミルは慣れた様子でナイフを使って蜜蓋を削ぎ、遠心分離機にかける。


『ここの呪文を擦ると、魔法で装置が発動しますわ』


 起動させると魔法陣が浮かび上がり、遠心分離機の中が高速回転し始める。

 ものの数秒で、蜂蜜を採ることができたようだ。

 遠心分離機の下部にある蛇口を捻ると、琥珀色の蜂蜜がとろ~りと出てきた。


「きれい……!」

『でしょう?』


 ただシール魔女がもっとも必要としているのは、残った巣屑の中から採れる蜜蝋だ。

 遠心分離機から巣枠を採りだし、巣屑を削いだものを鍋に入れ、水を注いでしばし煮込む。

 表面に屑がどんどん浮いてくるので取り除いた。

 きれいになった状態でしばし放置すると、きれいな蜜蝋が浮かんでくるのだ。


『表面に屑が少しだけ付着しているので、それらは削いでしまいますの』


 乾燥させていた蜜蝋の屑を削ぐ工程も見せてくれた。


『あとは保管しやすいようにカットして、油紙ワックスペーパーに包んだら完成ですわ!』


 あっという間に工房にある蜜蝋の状態となった。


『昨日採った物から作った蜜蝋ですの。どうぞ持ち帰ってくださいませ』

「ありがとうございます」


 ここは養蜂箱だけでなく、花々もミルが管理しているという。

 シール魔女が何かしなくても、維持できるシステムが成り立っているようだ。


『ここへはお好きなときに、いらしてくださいませ』


 ぺこりと会釈するミルに見送られ、私はシール堂へと戻ったのだった。

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