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シールの魔女は婚約破棄されたので、魔女業に専念することにしました!  作者: 江本マシメサ
第一章 ある日、婚約者が勇者になって

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シール堂の案内

 あれから五人くらいの常連さんがやってきた。

 驚くべきことにお爺さんだけでなく、お婆さんもやってくるのだ。

 師匠は同年代の人々から支持をおおいに集める、カリスマ的な存在だったらしい。

 その師匠がいない今、シール堂の商品は買ってもらえない。

 どうしたものか、と頭を抱えてしまった。

 しょんぼりしながらお店を閉店させると、レディ・ヴィオレッタが声をかけてくる。


『心配するでないぞ。マチルドも昔は常連なんぞおらず、まったくシールが売れない日があったからな』

「レディ・ヴィオレッタ、ありがとうございます」

『別に励まして言ったわけではないぞ』


 それでも、そういうふうに声をかけてくれたことが嬉しかった。

 店内の灯りを落とすと、レディ・ヴィオレッタが家を案内してくれるという。


『これまでそなたが入ることができたのは、ほんの一部だったからな』

「そうだったのですね」


 ここは二階建てで、地下もある。


「地下には工房と素材の保管庫がありましたね」

『他に菌従属栄養植物を育てるプラントなどもある』


 菌従属栄養植物とは太陽の光を必要としない代わりに、菌類から生命力をもらって成長する植物のことである。


『キノコのプラントや、カビを培養する施設があるぞ』

「把握していない部屋が思っていたよりもたくさんあるんですね」


 地下部屋に入る扉に触れようした瞬間、魔法陣が浮かび上がる。

 ドアノブを捻ると、初めて目にする通路が広がっていた。


「ここがシール堂の店主のみが入ることができる空間なのですね」

『ああ、そうぞ』


 レディ・ヴィオレッタの先導で歩いて行く。

 まず案内してくれたのは、私がこれまで使っていた倍以上はある広さの工房だった。


「ここだったら、踊りながらシールを作ることができそうです」

『ああ、ああ、好きなだけ踊るとよい』


 シールを作るために必要な道具も充実している。

 その中で、見慣れぬ四角い箱があったので、これは何かと聞いてみる。


『ああ、それはシールの複製コピー器と呼ばれる魔技巧品ぞ』


 魔技巧品というのは、魔法を使って作られた特別なアイテムの呼び名である。

 とても高価で、庶民には手が出せないような代物だ。


『複製したいシールと素材を入れて、呪文を指先で擦るとあっという間に複製できるようだ』

「そんな便利な品があったなんて……!」


 これはお店を任せられるくらい一人前になって初めて、使用を許可される物なのだろう。


『ちなみにこれは先代オーベルジュ大公がマチルドに黙って不貞を働いたさいに、許す代わりに買わせた思い出の品らしい』

「あらあら……」


 貴族男性に愛人がいるのはごくごく普通のこと。

 けれどもその愛人を管理するのは妻の務めである。

 黙って愛人を迎えるというのはルール違反で、あってはならない。

 そのため、ペナルティーとして高価な魔技巧品を買ってもらったのだとか。


『余所で女を作るなんぞ、許容できるのが不思議でならないがな』

「貴族の結婚は親が決めるものですから」


 もともと貴族の結婚に愛はない。

 結婚する相手が愛人を迎えたときは、しっかり把握して管理しなさい、と母から習っていたのだ。

 だからマケールに好きな相手がいても、別に大きな問題ではないと思っていた。

 まさか、婚約破棄されるなんて夢にも思っていなかったわけである。


『そなたの婚約者も、勝手な男だっただろう?』

「ええ。振り返ってみたら、なんだかだんだん腹が立ってきました」


 何が婚約破棄だ! と思ってしまう。

 これまで彼に立派な騎士の装備を与え、式典があると聞いたら服も用意し、オシャレには気を遣わないといけないなんて言うものだからラペルピンやカフス、ポケットチーフなども最先端の物を与えていた。

 王国騎士だった彼を支えてきたのに、それをなかったかのように私ごと切り捨ててエヴリーヌを選んだのである。

 別に彼に認められたいとか、愛されたいという欲求はなかった。

 無駄な時間とお金を使ってしまったので、返してほしいと思ったのだ。


『まあ、男女間で対等な関係を築くというのは、難しいことなのだろう』

「そう、なのかもしれないですね」


 性別に関係なく、体の作りや、考え、生き方の基本が違う相手と対等な関係になるというのは無理なのかもしれない。


『マケール・ド・ギースから感じていたしがらみから解放されたのだ。しばらくはのんびり過ごすとよい』


 その言葉に頷きたかったものの、シール堂の売り上げが心配になってしまう。


『奴らは腰でも痛くなれば、そなたに泣きついてくるだろう。気にすることではないぞ』

「そうだといいのですが……」


 案内が再開される。

 一階部分は店舗とシールの在庫置き場だが、他にも貴重なシールを保管する部屋があるようだ。


『それがここぞ』


 扉を開くと、美術館のようにシールが額装された状態で保管されている部屋が広がっていた。


「これは――」


 歴代のシール魔女が作った、とっておきの一枚が保管されているらしい。


「初代シール魔女は、魔王を封印するシールを作ったのですね」

『使用済みで、剥がされた物だがな』


 誰かがうっかり封印のシールを剥いで、魔王が復活してしまったらしい。

 そのシールは魔王を封じる効果はないものの、貴重な品として保管されているようだ。


 他にも別人の顔になれるシールや、植物が生えてくるシール、竜を封じているシールなど、さまざまなシールがあるようだ。


「師匠が作って保管していたのは――女性に興味がなくなるシール、ですか?」

『先代オーベルジュ大公の不貞で大げんかしたときに、怒りながら作っていたシールだな』


 マケールが魔王退治に貼っておくべきシールは、これだったのではないか、と思った。


『メーリス、そなたも至高の一枚ができたら、ここに保管するとよいぞ』

「そうですね」


 師匠くらいの年齢になれば、至高の一枚が完成するのだろうか。

 これからさまざまなシールを作るのが楽しみになった。


 二階部分にも、店主にしか入れない空間があるらしい。この辺りは生活拠点なので、立ち入るのは初めてである。

 これまで師匠が使っていた書斎に寝室、衣装部屋、物置、洗面所に浴室など、レディ・ヴィオレッタに案内してもらう。


『そしてここが最大の売りぞ!』


 廊下の突き当たりにある扉に驚く。

 家の構造からいって、ここに扉があるのはおかしい。一歩踏み出したら二階から真っ逆さまになるのではないか。


『開いてみよ』

「え、ええ……」


 ドキドキしながら扉を開くと、まさかの光景に驚く。

 扉の向こうには、美しいお花畑が広がっていた。

 

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