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鬼道会

 ドーム新宿、路上。


 鬼道会の鬼道衆が路上の一角を占拠し、陣幕で周囲を囲い、天幕を設置していた。


「おい、お前ら。そうだ、鬼の面をつけたお前達だ」


 全裸の風鬼エリカと蔵星ムツセを抱えた嵐は、鬼道衆を呼びつけた。


「鬼道衆をお呼びでござるか」

「我ら鬼道衆!」

「鬼道会の構成員でござる」


 数名が集まってくる。


「こいつらを寝かせられる場所を用意しろ。ガキを地べたに投げ出すわけにもいかんだろう」


「ははっ!」


 忍者装束に鬼の面を装備した鬼道衆たちは、一列に並ぶ。


「点呼!」

「1!」

「2!」

「3!」

「4!」

「5!」

「よし、全員でとりかかれ!」


 点呼に答えた五人が四つん這いになって並んだ。


「鬼道衆奥義、人間テーブルの術!」

「みたか!」

「素晴らしくて声もでまい」

「ささ、我らの背中に姫様方をお乗せくだされ」

「姫のためならエンヤコーラ」


「――そういうギャグは間に合っている」


 嵐が鬼道衆を踏んだ。


「ぐふっ……」

「無念」

「残念」


 数名の鬼道衆が転がる。


「あのー、よければこちらをどうぞー」


 エイスが鬼道会の天幕の内側に移動し、カバンから折りたたみベッドをニ台取り出す。キャスターがついた移動式だ。


 どうみてもカバンより大きいサイズのベッドだ。


「エイスお前――またいつもの妙な発明品か」


 エイスは惑星破壊爆弾を作った前科のある発明野郎でもある。


 外見より容量のあるアイテムバッグを作る程度、あっさりできそうである。


「それは後でー。今は早く寝かせてあげましょう」


 エイスが折りたたみベッドを開いてシーツを敷き、嵐が二人を寝かせた。


「あの、これお願いします。二人に着せて下さい」


「うみゅ」


 手持ち無沙汰なミュージシャンに、エイスが二人分の衣類を渡す。


「着させるからあっち行ってて」


「――わかった」


 嵐とエイスの二人は天幕を出た。


「高宮さん、あの二人に不足分の人間性を足して与えたんですよね。この二人が起きたら、人間性が高宮さんみたいになっているんですか?」


 エイスが心配そうに聞いてくる。


「一番気になる、真っ先に聞くことがそれか」


「彼女たちは、まだ未来のある若者なんですよ!」


「こいつ――私をなんだと思っている」


「ふみぃ。私立探偵を名乗る怪しい悪魔召喚士あんど魔剣法使い? 人間より妖怪と言われたほうが納得する怪人物ね」


 背後、天幕の中からミュージシャンが言葉で刺してくる。


「エイス――こいつらを助けたのはお前の依頼だ。対価は必ず受け取る。覚えておけ」


「あ。はいー。それはもちろん」


「さて――おい、鬼道会の連中は全員集まっているな」


 天幕の外に、残りの四天王の二人が集まっている。


 天幕の周囲は鬼道衆が固めていた。


「鬼道会の一大事ですから。逃げ出すような者はいませんね」


 銀髪にピンクのメッシュを入れた巨乳美少女二本角鬼怪人、銀狼ナオエが答える。


 手には破壊魔剣デスマサムネを持っている。


「姉さま達を助けてくれて、ありがとう」


 黒髪にピンクのインナーカラーの低身長巨乳美少女一本角鬼怪人、虎井フミカが嵐に感謝して頭を下げる。


「気にするな。依頼を果たしただけだ。礼ならエイスに言え」


「そうなんだ。ありがとう!」


 虎井フミカが素直にエイスに礼を言う。


「銀狼ナオエ――破壊魔剣デスマサムネは喋るか」


「いいえ」


 銀狼ナオエが受け答えをする。


「四天王のうち上位二人が意識を失っているので、代理で序列三位の私が持たせてもらっていますが……破壊魔剣デスマサムネは喋りません。先程は、三体の魔神からの伝言を伝えていたようですが、筆頭がどうやっていたのか私にもさっぱりわかりません」


「そうか――聞こえてないんだな」


 嵐は右手で帽子を押さえる。


 左手にはいつの間にか破壊魔剣デスマサムネを持っていた。


「これはもらう」


 嵐が宣言する。


「は? いつの間に? どうやって? まさか時間停止?」


 銀狼ナオエが狼狽する。自分の両手を見る。


 嵐が、誰にも気が付かれることなく、銀狼ナオエの両手から破壊魔剣デスマサムネを奪ったのだ。


「いや、ダメですよ! 破壊魔剣デスマサムネがなくなったら鬼道会が維持できません! 守護神を失った悪の組織は解散してしまいます!」


 銀狼ナオエが叫ぶ。

 それを皮切りに鬼道衆の男たちが抗議してくる。


「みんな寿命で死ぬのが怖くて、いつか怪人になるため鬼道衆をやっているので御座るよ!」

「守護神がないなら怪人も作れないってことだから他所の悪の組織に行かないといけない。三十歳で死にたくない」

「鬼道会は給料もいいし無くなってほしくない」

「姫様達のお世話もできるし」

「そしていつかあわよくばゴールインを」

「本音が出たな」

「不純なり。でもわかる」


「――黙っていろ」


 嵐がひと睨みする。


「ここに来てから、ろくな大人もガキもいなくていい加減――いや。詮無いことだ」


 嵐が言い直す。


銀狼直衛ぎんろうなおえ、十六歳。元男。男子高校生メンタルが怪人化でいきなりスタイル抜群になって剣の道どころじゃない。敬語キャラと普段は笑顔でごまかしてるが頭がピンク」


「ぎえ! なんでそれを!」


 銀狼ナオエが変な声で悲鳴を上げる。


「元男だと!」

「TSでござるか」

「まあ昔からの鬼道会なら知ってるやつも多いし」

「鬼道衆から四天王に大抜擢された出世頭であるしな」

「どの面下げて姫ムーブ、どの面下げて敬語キャラって思ってはいた」

「敬語は許してやれよ。女言葉できないんだからさ」

「俺もいつか……怪人化してスタイル抜群になるんだ」

「エロなのは知ってた」

「シラナカッタ……コワレチャッタ……オレのセイヘキ」


虎井文香とらいふみか、十一歳。女。素直すぎて裏表がない。怪人化して得た鬼の怪力に振り回されている。皮膚が敏感すぎて刺激にとても弱い。仕事と鍛錬はちゃんとする」


「フミカ姫はまぁ……」

「守らねばってなるしなあ?」

「素直ロリ巨乳とか最高です」


「はい? お仕事と鍛錬は大事です」


 虎井フミカはよくわかっていない。


風鬼恵梨香かざおにえりか。三歳。女。培養された人工生物。剣だけが取り柄。剣以外のことができない赤ちゃん。光に弱くて昼間は外に出れない。蔵星六瀬くらほしむつせ。十七歳。鬼道会は実質こいつのワンマンチーム。本人も部下全体も若すぎるし、本来右腕となるはずの序列ニ位が赤ちゃんなので本当に苦労している。運営資金を出しているパトロンが別にいる」


 嵐がすべてを見通すような目つきで喋り始める。


「高宮さん! どうしたんですかいきなり探偵……というか鑑定スキルが発動した人みたいなことを」


 嵐がエイスを見る。


「鬼道会に金を出してるパトロンはお前だなエイス」


 どよっ!


 鬼道会の人々がどよめく。


「はい、僕です」


 エイスは表情を変えずいつもの笑顔で答える。


「一応理由を聞いてやる」


「よく巨大企業連合体がドーム新宿を支配しているとか言われますが、企業の支配……要するに税金を使って治安が維持されて安全・安心な生活ができるのは一部の区画だけで、どうしてもスラムのような税金を納めてない人たちが集まる治安の悪い地域、場所はあります」


「――ふむ」


「正直、悪の組織が多すぎて僕の会社だけではドーム新宿全体の治安維持にぜんぜん手が回らず人員が足りないので、悪の組織のうち比較的マシだと思われるところに経済的な支援をして治安の維持を委託しているんです。特にここは事務所も近いですから、鬼道会のような剣の道にストイックでそれほど犯罪行為に手を染めてない悪の組織をー」


「――それくらいでいい。理屈はわかる。お前は知っていたか、銀狼ナオエ」


「いえ。びっくりしました。パトロンの代理人はモニター越しにしか会ったことがなくて」


「僕の存在を知っているのは蔵星さんだけですねー。代理人は僕の会社のスタッフに頼んでました」


「エイス、こいつらの身柄を頼めるか」


「それは大丈夫ですけどー。高宮さんどうするんです?」


 エイスは破壊魔剣デスマサムネを指差す。


「サンクトペテルブルクに座礁しているデストロイヤー・マシーンをぶっ壊してくる」


「なんで位置がわかったんですか」


「破壊魔剣デスマサムネに聞いた。こいつは道案内に必要だ。だから持って行く」


 嵐は左手の破壊魔剣デスマサムネを掲げる。


「お話できたんですねー」


「こいつは結構――おしゃべりだ」


 嵐と破壊魔剣デスマサムネが目を合わせる。


 周りのエイス、鬼道会の面々は何も聞こえてない。


「サンクトペテルブルクがどこかは知りませんが、ドーム新宿の外に出るってことですよね」


「――そうなるな」


「外は危険ですよ。汚染で人間が住めなくなっています」


「――そうか」


「バイオ技術が暴走して、人間を捕食するクリーチャーが闊歩し、攻撃的になった植物すらも人間を殺しに来るバイオの楽園です」


「――それは知らん」


「幸い、クリーチャーたちは『都市には入ってこない』『動く乗り物は襲ってこない』『匂い袋などの忌避剤が効く』ために、かろうじて都市間の鉄道や高速バスは運行がありますがー。徒歩移動したりすると一気に群がってきます」


「ああ、ランダムエンカウントか。そういう風にデザインしたのがまだ設定生きてたんだな――イヤなんでもない」


「高宮さん?」


 すっとエイスの笑顔が怖くなる。


 緊張感で空気が張り詰める。


「はあっ」


 エイスがため息を付いた。


 緊張感が消える。


「すぐ行くんですか」


「――そのつもりだ」


「戻ってきますか?」


「――約束はできない」


「足はあるんですか」


「――なんとでもなる」


「今寝てる二人、起こして暴れないように言い含めてくれませんか?」


「――二人とも、起きろ」


 バサっ!


 ベッドに寝ていた風鬼エリカと蔵星ムツセの二人が跳ね起きる。


 ミュージシャンが服を着せていたので、二人は服をまとっている。全裸ではない。


 エリカの七つの角、ムツセの六つの角は異彩を放っている。


 特にエリカは無言でベッドから上体を起こしているだけで、恐ろしいまでの威圧感が出ている。


「――当面はエイスに従え。むやみに力を振るうなよ」


「わかった」


 赤い瞳のエリカが返答する。


「承知した」


 むすっとしたムツセが答える。


「あの、筆頭と風姉はどういう状態なの?」


 虎井フミカが聞いてくる。


「私の力を与える以上、その力で今後好き勝手されても困るので名前を与えて縛った」


「縛った、というのはどういうことでしょうか」


 銀狼ナオエが質問する。


「――私には逆らえなくなった」


「ええっ!」


 虎井フミカがびっくりする。


「理屈はわかりませんが、そういうことですか」


「――そうだ」


 銀狼ナオエが天を仰ぐ。


「筆頭と風姉さまがこうなってしまっては鬼道会は存続の危機ですね」


「エイス」


「はい」


「ウッコゼウスが解散したあと、お前のところの会社が教団の本部を制圧して資産と人員と縄張りを吸収したよな」


「そうですねー。制圧任務に使えるような人員が足りなかったので、なみこさん達、一部の怪人や構成員の逃走と逐電を許してしまいましたが」


 なみこの回収にエイスが奔走し、嵐が依頼を受けた背景がこれだった。


「私が今からドーム新宿の悪の組織を全部、右から左に殴って潰していったとして同じ事ができるか」


「無理です! 人手が全然足りません!」


「――それは戻ってきてからにするか」


「戻ってきてからもしないでください。ちょっとそれをやられると、ドーム新宿の治安が崩壊してしまいます」


「――なぜだ。怪人が消えていいことじゃないのか」


「それまで地域を支配していた悪の組織が消滅するということは、軍事力の空白地帯ができるということで、そうなると企業の支配が入る前に住民が自衛のために勝手に自警団を立ち上げてしまい、それがエスカレートして新しいヤクザとなったり、国王を自称して国を名乗ったりして、より弱いものをいじめて憎悪の連鎖が広がり永遠に続く混乱の火種になるからです」


「――守護神と怪人が全部いなくなっても平和にならない?」


「なりません。人間同士が争うだけです」


「――難しいな」


「世界というのは単純じゃないんですよ」

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