鬼ガキガールズ剣問答・破壊魔剣デスマサムネの恐るべき権能
ドーム新宿。路上。
鬼道会の旗と陣幕に囲まれた陣地、天幕の中で嵐たち三人は鬼道会の四天王筆頭 蔵星ナナセ、破壊魔剣デスマサムネ、そして遥か遠くにいるデストロイヤー・マシーンと対話を開始しようとしていた。
「デストロイヤー・マシーンと対話する前に、まずは聞いてもらいたいことが……ございます。対話に当たって必要な知識を話さねばいかぬそうで」
蔵星ナナセが切り出した。
嵐が頷く。
エイスと、ミュージシャンも同意する。
「説明のための口調で失礼」
コホン、と蔵星ナナセが喉の調子を整える。
「かつてこの世界にはいくつもの国がありましたが、その枠組みを超えた三つの軍事勢力が存在し、お互い敵対して戦争を繰り返してい……おりました。戦争の目的はすべて同じ、『より条件のよい和平を勝ち取り和睦をする』こと」
「それって、3つの勢力全部が『平和のため』に戦争をしていたって事ですかー?」
「左様にございます」
シン……と静になる。
(『より条件のよい和平を勝ち取り和睦をする』ために戦争するって、永遠に終わらないんじゃ……ああ、だから今のドーム都市につながるんですね)
エイスは内心で納得をした。
「戦争の末期に、三つの勢力うちひとつに技術革命が起こり『混沌の渦』あるいは『渦』、『ボルテックス』、『ヴォーテクス』などと呼ばれる未発見だった物質をエネルギー源とする新技術が生まれました。これにより作られた兵器が三体の魔神、すなわちジェノサイド・マシーン、デストロイヤ・マシーン、カタストロフィ・マシーン」
(仲間外れはアポカリプス・マシーンでしたか)
エイスが内心で思う。
「三体の魔神は他の二つの勢力との最終戦争の途中で半壊し戦場跡に置き去りにされました。しかし『混沌の渦』の力により半壊した状態でも活動を続け、当初の命令のとおり敵勢力に対し今も攻撃をし続けていまする」
「――迷惑な話だな」
嵐が素直な感想を述べる。
「三体の魔神を打ち破った敵勢力の兵器はコードネーム『六角形』と『六芒星』。この二機はその後、『六芒星』が暴走し『六角形』に討ち取られたと記録にあります」
「――ほう」
「『六角形』は最終戦争末期に三体の魔神の後継機であるコードネーム『最終兵器・不死鳥』と一騎打ちをし、これも打ち破る」
「――なんなんだその『六角形』は。主役メカか何かか」
「まさしく。『六角形』を擁する勢力の勝利で戦争は終わりましたが、すでに文明は破壊され、人間はドーム都市でしか生きることができなくなったのはご存知のとおり」
「――ふむ。それで?」
「我らが主、デストロイヤー・マシーンは対メカ用の兵器。敵勢力のメカを探し出して破壊するために存在している。そんな主がしばらく前におかしな命令を下してきました。『別の世界から飛来した宇宙船を観測した。乗組員がドーム新宿に潜伏している。探せ』」
「――へえ」
「ダディーンを打ち破った高宮探偵事務所のメカは、主のデータベースにある過去の兵器を記録したロボット図鑑に存在しない、まったく未知の機体。異世界から飛来したとしか考えられない」
「――そこから先はよく考えて話すといい」
嵐は帽子を被り直した。
「『俺と戦え、高宮探偵事務所のスレイヤー・バトラズ』……以上が我が主、デストロイヤー・マシーンからのお話です」
「――その喧嘩、買った」
そういうことになった。
「お話が早くて素敵でございます……ね」
一段高くなった場所に敷いた座布団に座って話していた蔵星ナナセが立ち上がる。
「しかし。この蔵星ナナセ、鬼道会の四天王筆頭としてただの『使い走り』は我慢がならぬ性分にて、ここはひとつ高宮嵐を『摘み食い』しとうございます」
ヒュン
ヒュン。
破壊魔剣デスマサムネをX字に素振りする。
「――構わないぞ。いつでもかかってこい」
嵐は帽子を被りなおし、平然と言い放つ。
蔵星ナナセの気迫とカリスマ、人外の四本角に臆した様子もない。
「ふふっ、なんと頼もしい」
「――今のうちに聞いておくか。鬼道会四天王筆頭蔵星ナナセ、お前は剣の道がわかるか?」
「はい。『少し』わかりまする」
「――合格だ。私も『少し』剣がわかると自負している」
嵐と蔵星ナナセは同時に頷く。
それを見ていた四天王、銀狼ナオエと白風エリカが嫉妬、憧憬、羨望の入り混じった複雑な表情をした。
銀狼ナオエ 剣の道がわかる…………まだまだ不足。慢心の五十点。
白風エリカ 剣の道がわからない……極めるまであと一歩の九十点。
蔵星ナナセ 剣の道が少しわかる……極めた末の謙虚な姿勢。合格。
嵐の剣問答はここに終了した。
蔵星ナナセは破壊魔剣デスマサムネを逆手に持つ。
「守護神である破壊魔剣デスマサムネの権能は『鬼の怪人を作り出す』こと。この権能は重ねがけが可能で、一回ごとに怪人化が強化され、角が一本増えまする」
つまり、四本角の蔵星ナナセは四回の重ねがけをしたということ。
「もちろん、重ね掛けできる数に上限はありまする……悪の組織の間では『個人キャパシティ』や『人間力』などと呼ぶ、各個人ごとの怪人化の限界が定められております」
蔵星ナナセは破壊魔剣デスマサムネの柄頭を額に押し付けた。
破壊魔剣デスマサムネの後光が増す。柄の目貫、刀身、すべてが輝く。
ガシャリと音がして破壊魔剣デスマサムネの鍔にあるシャッターが開き、魔眼が現れる。
「この蔵星ナナセ、自らの人間力を信じ、限界までの怪人化を!」
ニ回、蔵星ナナセは額に柄頭を押し当てた。
ガシャッ。
ガシャッ。
正体不明の力の奔流が渦を巻き、ナナセの額から五本目、六本目の角が伸びる。
「この力の渦が『混沌の渦』こと『ボルテックス』ー?」
エイスが未知の力の渦を前に困惑する。
「ふみゅ~」
「一人で盛り上がっているな――」
それを見ていた四天王と、鬼の仮面の男たちが叫びを上げる。
「ばかな、五本目への挑戦だけでもいままで生きていた者はいなかったのに、間髪入れずに六本目など!!」
「ふ、ふははははははああ!!」
蔵星ナナセの体(胸・尻・太もも)が盛り上がり、爆発しそうになる。
手から破壊魔剣デスマサムネがすっぽ抜け、他の四天王たちの前に突き刺さった。
「わたしも、わたしも」
三本角の白風エリカが破壊魔剣デスマサムネを手に取り、額に四回押し付ける。
ガシャッ。
ガシャッ。
ガシャッ。
ガシャッ。
シャッターが四度開閉し、魔眼が四回現れる。
「あ、ああああああああああああ!!!!!!!」
白風エリカが痙攣しながら倒れる。額には四本の小さい角が現れ、どんどん伸びていく。
「お、お姉!? 風お姉!」
虎井フミカが駆け寄ろうとしたが、銀狼ナオエが押さえつけて止めた。
「馬鹿っフミカ離れろ! 暴走したら巻き込まれるわ! 緊急事態だ! 鬼道衆は全員、散れ!」
銀狼ナオエが虎井フミカを抱えて離脱する。
鬼の仮面の男たち、鬼道衆も一目散に後退していく。
「ちくしょう、もう滅茶苦茶だ。鬼道会はここまでなのか」
鬼道衆の一人が悲観したセリフを漏らす。
「いや、これが始まりなんだ……多分、な」
鬼道衆の一人がいいセリフを放つが多分何も考えていない。
蔵星ナナセと白風エリカ、二人を中心に力が渦巻く。
鬼道会の旗がなびき、陣幕が翻り、折りたたみ椅子が吹き飛ばされる。
「ああああああ!」
「きゃああああああああああ!!」
二人の悲鳴がドーム新宿の路上に響く。
「うみゅ~。あの二人、死ぬよ嵐ちゃん。いいの?」
ミュージシャンが言い放つ。その瞳の色が紫色に変わり、冷静に鬼たちを観察している。
「――そうだな」
ミュージシャンの右手の平に炎が生まれる。発火能力か。悪魔の炎か。
「ボクにできることは苦しませずに終わらせることだけ。でも嵐ちゃんなら助けられる」
「――そうだな」
嵐は帽子を被り直す。
しかし動かない。
くいっ。
嵐の上着の袖をエイスが引いた。
嵐はエイスを見る。鋭い目つき。
エイスは嵐を見る。泣きそうな瞳。
「なに、やっているんですかー。死にそうな人を助けられるなら、迷わず助けて下さい!」
「――しかしだなエイス。例えば、心停止した女性を心臓マッサージで蘇生させたとして、胸を触ったエロガッパとかセクハラで訴えられたくはない。私の社会性が死ぬ」
「いいから! やってください!!」
エイスが怒鳴る。
「僕がやれたらすぐやっています! でも無理なんです! 高宮さんしか出来ないんです! お願いします!!」
「――やれやれ」
嵐は一歩前にでる。
「要するに『人間力』が足りてない。今すぐ二人の人間力を高めるか、外から補うかをすればいい。」
「外から補うってどうやってー?」
「――外法でいいなら生贄の魂を数百数千食わせるとか、効果は薄いが聖遺物などの力のあるアイテムを体に埋め込むとか――まあ御託はいいな。今回は私の人間力を分け与える」
嵐の右手と左手が光る。
更に前に出る。
「ああああ!!」
力の渦に溶けて真っ白い風の精霊(全裸)のように変化した白風エリカが、風を集めた刀で嵐に襲いかかる。命と存在の全てを消費した素早い斬撃。生命剣。
「十年早い――」
嵐の光る右手が風の刀を持つ白風エリカの握りこぶしを掴んで止める。
生命剣は不発した。エリカの命は消費されていない。
「人間力と――名前を与えて縛る。お前は今から『風鬼』エリカだな?」
「あーあーああーー」
風の精霊と化したエリカは人間の言葉を喋らない。
「ハイかイエスと言え!」
嵐がドスの聞いた声を出す。
エイスも初めて聞く声だ。どっきりした。
「あー……ハイ」
エリカは屈した。
肉体が風の精霊から白い少女に戻る。頭の角は七本に増えている。
「はあああ!!」
肉体が膨張していた蔵星ナナセが背筋を伸ばす。
「ああああ!!」
気合で肉体を元の形に戻す。
「まだ、勝負は、はじまっていない!!」
両手の爪が脇差しのように伸びる。
伸びた鋭い爪で、空間を切り裂く『飛ぶ斬撃』を放つ。
もはや剣技ではない。
だが、極めた剣士ならば爪だろうと剣である。些細な事だ。
「エイス、ミュージシャン、防げ!」
「ふみゅ!」
「はいー!」
ミュージシャンが悪魔の炎をまとった両手の爪でナナセの右手の斬撃を弾く。
エイスはカバンから合金製の盾やトンファー等の携帯武器を射出し左手の斬撃に当てて切れ味を消費させ、奥の手のレーザーブレードを二本消費して斬撃を相殺する。
二人のカバーリングにより、嵐は蔵星ナナセに接近し、光る左手で首筋を掴んだ。
「ナナセなのに六本角はおかしいよな? お前は今から『ムツセ』だ!」
「なっ……もうっとかっこいい名前にして!」
「ハイと言え!」
嵐がドスをきかせて恫喝し、ナナセ改めムツセの首を絞める。
「ハ……ハイィ♥」
蔵星ムツセはやや危ない屈し方をした。
周囲に渦巻いていた力が吸い込まれて消失する。
「――終わったぞ」
嵐は右手に小柄な全裸のエリカを。左手に高身長な全裸のムツセを抱きかかえて戻ってきた。
少女二人とも髪が長いため、白い髪と金色の髪が胸や股間、お尻をかろうじて隠している。
その絵面はどう見ても犯罪的だった。
「ふみゅ。嵐ちゃん、アウアウアウトっ!」
ミュージシャンのダメ出し。
「高宮さん……お疲れ様でした。ありがとうございます」
エイスは冷や汗を笑顔で隠しつつ、カバンから白い布を取り出して少女たちに被せた。
「ひそ……ひそ……」
鬼面の鬼道衆がひそひそ話をしている。
魔眼のシャッターが開いた破壊魔剣デスマサムネもガン見しつつ、ひそひそ話に参加しているように見える。
「お前ら、覚えていろよ――」
それでも嵐は二人を投げ捨てるような事はしなかった。




