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悪魔召喚・鬼ガキガールズ剣問答

 いつもの雑居ビル。


 高宮探偵事務所。


 客(依頼人)はいない。


「エイスよ」


 探偵助手の少年エイスに高宮探偵事務所所長の嵐が声をかけた。


「はい?」


 仕事中のエイスが答える。


「三体の魔神とは何だ」


 ズコー。


 エイスがコケた。


「えとー」


 エイスは手短に説明した。


 かつて三体の魔神が世界を滅ぼし、汚染を撒き散らし、ドーム都市でしか人間が暮らせなくなったことを。


 眷属である守護神をドーム都市に放ち、悪の組織を作って人々を苦しめていること。


 ジェノサイド・マシーン。

 カタストロフィ・マシーン。

 デストロイヤー・マシーン。

 アポカリプス・マシーン。


 嵐は黙って聞いていた。


「私は三体の魔神を倒すことに決めただろう」


「はい」


「問題が一つある」


「はい?」


「三体の魔神の惑星上の存在地点がわからん」


「ええっ」


 エイスが驚く。


「高宮さんにも『わからない』ことが!?」


「――少なくともドーム新宿とその近辺には居ないな。いわゆるユーラシア大陸の方面に二体いるのはわかる。かつての武漢の辺りに一体、サンクト・ペテルブルクの辺りに一体だな。おぼろげな気配だ。だが正確な位置がわからなければ攻撃しようがない」


「はー……ちょとだけわかってますね。なんでそこまでわかるんですか」


「――探偵の企業秘密だ」


 嵐は帽子を被って表情を隠す。


「さっき、おぼげな気配ってー。言ってましたよね」


「それは置いといて――置いとけ」


 キラキラした目つきのエイスを邪険に却下する。


「そもそも三体の魔神とは何だ。説明を聞いてもやった事だけで正体、実像が見えてこない。マシーンなのか生物なのか兵器なのか電卓なのかもわからん」


「電卓?」


「コンピューター。電子計算機」


「まあ、それは、はい。世界滅亡のどさくさで、情報が失われてて、誰もわかりません」


「ならば知っていそうな奴に聞くか」


「心当たりあるんですか」


「まあ見てろ。魔神というなら悪魔だ。――悪魔を召喚する」


 嵐は大真面目に言い切った。


 三体の魔神の正体を探るため。この探偵は。『悪魔を召喚する』と言い切った。


「えー?」


 エイスは困惑した。


「行くぞ」


 即断即決即実行。


 二人は近くの空き地へ移動した。


 都市の隙間、雑草が生え、土管が放置された子供の遊び場のような見事な空き地だ。


「探偵が悪魔を召喚したら、それはもう新たなジャンルですよー」


「デビルなサマナーになってしまうな――」


 嵐は空き地の真ん中に進み出る。


「悪魔の召喚ってもっと薄暗い地下室で、おっきい魔法陣を書いて、生贄とか用意するものじゃないんですか」


「素人がやる悪魔召喚ごっこか。そういうのは雰囲気作りに紋章、黒い鏡、御香、香油、ロウソク、儀式用の杖と指輪と短剣とローブ、指定の時間、月齢、瞑想、お清め、その他色々必要だが――」


 嵐は妙に詳しい。


「そこまで他人というわけでもないし――私とあいつの間に小道具はいらないな」


「えー。どんなご関係なんです?」


「話せば長くなるので端折るが、むかしリスティが拾った赤ん坊の友達――だった奴だ」


「奥さんの? 拾った子供?」


 それて高宮さんの養子なんじゃ? とエイスは言いかけたが、言わないほうが良いと思ったので黙った。


「……」


「いくぞ」


 ヴォン


 地面に巨大な魔法陣が出現する。魔法陣が光を発する。


「来い――音楽家ミュージシャン


 嵐が手をかざす。


「――出てきてちょー」


 ボンっ!


 軽い音の爆発が起きる。ピンク色の煙が空き地に充満した。


「ちょっとー!」


 エイスが爆発の直後に、背負っていたカバンのボタンを凄まじい反応速度で押す。


 勢いよくカバンから盾が射出され、エイスの前面に展開して防御姿勢をとる。


「あれ……甘い匂い?」


 爆風は来なかったが、甘い匂いが周囲に満ちた。


 しゃなり。女性の靴と足首が煙から出てくる。


 煙が晴れてくる。


 そこには、ゆるふわツーサイドアップの赤い髪の毛、美乳かつ巨乳、まつ毛バシバシ。大きな瞳。胸の下を紐で結んだ胸部を強調するワンピース服を身に着けた凄まじい美女がいた。


 外見は完全に人間で、悪魔の角も、羽根も、尻尾もない。


 高校生程度の年齢に見える。


 揺らめく炎が魔法陣の外周を一巡する。


「ふみぃ~♥」


 凄まじい美女が萌え声を放つ。


 これまた途轍もないロリボイスで、声だけで人を萌え殺せる威力だ。


「うわっ」


 エイスが声の色気に当てられて一瞬で赤面する。いつも笑顔で冷静な少年にあるまじき珍しい反応だ。


 きょろ


 きょろ。


 美女が余裕を持った動作で周囲を確認する。


「ソロモン七十二柱、侯爵フェネクスだよ♥ 久しぶりだね嵐」


 美女ことフェネクスが嵐を見る。


 嵐は黙る。


 気まずい沈黙。


 空気が張り詰める。


「うみゃ。ボクに会いたかったの~?」


 フェネクスがポーズを決める。死人が出る萌えパワーが周囲にあふれる。張り詰めた空気が中和された。


「――久しぶりだな、音楽家ミュージシャン


 嵐は帽子を脱がずに、むしろ目深に被り直しつつ挨拶した。


「帽子は取ろうよ~」


「本当は合わせる顔がなかった」


 嵐は黙る。


「『やっ君』の事は絶対に許さない♥」


 フェネクスは悪戯っぽく微笑んだ。


(『やっくん』……それが赤ん坊の名前?)


 エイスは僅かに残った正気で、その名前を覚えた。


「絶対に」


 フェネクスは嵐に近寄り、俯いた顔を下から覗き込む。


 煽っているようにも見える。


「――すまない」


 嵐は俯く。


「――だが、力を貸してほしい」


「あつかましいね」


 フェネクスは少し考える様子を見せた。


 嵐が冷や汗をかく。


 再び空気が張り詰める。


「いいよぉ~♥」


 フェネクスは腕組みをして胸部を強調しつつ答える。


「嵐がボクを呼んだなら、本当に必要なことなんでしょ」


「――助かる」


 嵐は右手を差し出した。


 フェネクスはその手をみてしばし考え。


 二人は握手をした。


「あの、高宮さん? この人は誰なんですかー! 紹介して下さい! 紹介!!」


 エイスが食い気味に嵐に聞く。様子がおかしい。


「あ。」


 フェネクスが『やっべ』という表情をする。


「エイス、高位悪魔の魔性に魅了されたな――」


 嵐がエイスを冷ややかな目で見る。


「!!」


 エイスが驚愕の表情をする。


「す、少し待って下さい。落ち着きます」


 エイスはばたばたと手足を動かす。


 そして緑色の細長い携帯食品を取り出して一口かじる。


「~~~!!! ゲホっ、ゴホっ!」


 エイスは口を抑えて、むせた。


 しばらくプルプル震える。


 そして――立ち直った。


「落ち着きました」


「何、食ったお前――」


「気付け薬こと、わさび百倍プロテインバーです」


「そう――」


 嵐は帽子を被り直した。少し引いている。


「正気に戻ったか」


「失礼しました」


 エイスはフェネクスに向き直る。


「探偵助手をしているエイス=光崎=アースライトです。よろしくお願いします」


「ふみぃ~、エイスちゃんね♥ 私のことは音楽家ミュージシャンって呼んでね。よろしくね♥」


 エイスとフェネクス改めミュージシャンも握手をする。


 ミュージシャンは嵐に向き直った。


「で、ボクになにか聞きたいことあるんでしょ」


「――その前に、場所を移動しようか」


 ざわざわと。


 目立ちすぎるほど目立つミュージシャンのおかげで、複数人の一般市民が見物に集まってきていた。





~~~~~~~~~~



 ドーム新宿。


 市街地の、路上。


「――尾行されているな」


「ですねー」


 高宮探偵事務所に戻る途中、嵐とエイスが尾行に言及した。


 隠すつもりもないのか、数十人単位でぞろぞろあとを付いてくる男たちがいる。


「こんな美女が歩いてたら、ドーム新宿では人さらいが情報共有してすぐに誘拐されてしまいますよ。もう裏でオークションまで開かれてるかも」


「治安終わっているなドーム新宿」


「それはまあ、はい。悪の組織も百以上いますし、一般市民は悪の組織の予備軍ですし。どこのドームも犯罪都市ですよ」


「ふみぃ~」


 三人の前に巨漢が立ちふさがった。


 三メートルはあるサイの顔をした怪人で、プロテクターに身を包んでいる。


「顔出し配信の仕事に興味はアリマセンカ」


 サイの怪人は野球グローブよりも大きな手でミュージシャンに名刺を渡そうと右手を伸ばし、左手で腰を鷲掴みにしてさらおうとする。

 

 エイスが盾を取り出して止めるより先に、黒豹の怪人が現れてサイの怪人の顔面に飛び蹴りした。


「グオオ!」


 サイの怪人がよろける。踏みとどまる。


「そこの彼女は我われがグラビア・モデルにスカ・ウトする。グラ・モに興味はアリマセンカ」


 着地した黒豹の怪人がいい声で勧誘を始める。名刺を出す。


 ドスッ!


「ぐおっ」


 黒豹の怪人の背中に矢が当たる……が、着ていたプロテクターで矢を弾いた。


 エイスが小型の望遠鏡を取り出して矢の飛来してきた方向を見ると、ビルの上に首から上がクロスボウになっている機械型の怪人がいた。


 クロスボウの怪人がビルから飛び降りて、怪人たちの前に着地する。


「S級ホステス候補を確保する」


 嵐の眼の前ではサイの怪人、黒豹の怪人、そしてクロスボウの怪人がメンチを切り合っている。


「マッスル共産党 同士ガインギル」


 サイの怪人が名乗った。


「聖都アン・ダルシアのクラ・イ・ロードだ」


 黒豹の怪人が名乗る。


「アブ・ナイツのマッキャロン伯爵」


 クロスボウの怪人が名乗る。


 三体の怪人は名刺を交換した。


 そして、ミュージシャンの方へ一斉に向く。


「こちらは投げ銭の十五%と大変良心的な契約をご用意しております」

「もうすぐグラ・モのオーディションが始まる。貴様らに関わっている時間がない。マイクロ・ビキニのサイズ合わせからだ」

「ホステス嬢の仕事はとても稼げます。セレブの大物とのコネクションも強まります」


 三体の怪人がミュージシャンに名刺を差し出す。


「「「………………」」」


 バッ!


 三体の怪人が飛び下がり、それぞれ構えを取る。


 サイの怪人は拳を持ち上げて叩き潰す構え。


 黒豹の怪人は姿勢を低くして飛びかかる構え。


 クロスボウの怪人は頭のクロスボウに太矢を装填した。


「喧嘩はやめてよぉ~」


 ミュージシャンが前に出て両手を広げ、三体に声を掛ける。


「それは逆効果だぞ――」


 嵐は帽子を被り直して俯いた。


 三体の怪人は色めき立った。


「モエ! コエマデ・モエル!」

「SS級ホステス候補に評価を修正する」

「なんという原石! 至急サンプル・ボイスを録音してボスにメール提出しないとな」


 三体の怪人が盛り上がっている。


 嵐とエイスは場の雰囲気に置いてけぼりだ。


「こいつらは悪の組織か」


「全員そうですねー。悪の組織のシノギですね。こういう街頭スカウトは全部が裏風俗の導線です」


「まあ普通だな」


 嵐が剣の柄に手をかける。


「ちょっと~オジサンたち~? いい加減にしてほしいな~」


 少女の声がした。


 細長い金棒を持った、一本の鬼の角が生えた黒髪にピンクのインナーカラーの低身長巨乳美少女と、取り巻きの鬼の仮面をつけた男たちが現れた。


 新しい怪人の登場だ。


「ここは我ら鬼道会の縄張りぞ!」

「いわれなき路上勧誘は断固やめていただきたい!」

「普通に迷惑でござる!」

「うちのシマで誘拐とか見逃せねえな!」

「なんだそのでっけえツノは! うちの姫様達にツノの太さで勝つつもりか! それで勝ったつもりか!」

「本数が重要なんだよ本数が!」

「ばか、姫が泣くぞ!」

「ごめんぺろ」

「ゆーるさーん」


 男たちがうるさい。


「こちらは鬼道会の四天王が一人、虎井とらいフミカ様だぞ!!」


 金棒を持った低身長巨乳美少女が紹介される。


 じろり、と三人の怪人が虎井とらいフミカを睨めつける。


 低身長。

 巨乳。

 鬼の角。


「鬼道会の……一番弱いやつ?」

「なあ、これチャンスじゃね?」

「さらうか」

「さらってわからせて風呂に沈めてやるぜ」


 三体の怪人が虎井とらいフミカに向き直る。


「三人がかりとかオジサンたち恥ずかしくないの~?」


 虎井とらいフミカは右手に持っていた金棒と、左手に取り巻きの太刀持ちが持っていた大太刀を抜いて構える。


「わからせてあげるよ?」


「ガキの肉を掴んでやるぜ!」


 サイの怪人ことマッスル共産党ガインギルが両手で虎井とらいフミカにつかみかかる。


 虎井とらいフミカは飛び上がり、金棒と大太刀をガインギルの手に叩きつけて打ち払った。


「――加勢する」


 嵐が動いた。


「機械の怪人か。――コア部分を残しておけば実質峰打ちでセーフだな」


 スレイヤーの聖剣を抜き、クロスボウを発射しようとしていたマッキャロン伯爵の首を飛ばし、胴体をだるま落としのように上から輪切りにし、両手両足をまとめて切り飛ばす。1秒間に七回の斬撃。


 マッキャロン伯爵はだるま落としのように頭からパーツがなくなっていき、足首だけが残った。


 ひゅ~。ぽすん。


 足首の上に首が着地する。


「――生き物は手加減が難しくてな」


 プロテクターをまとった黒豹の怪人、聖都アン・ダルシアのクラ・イ・ロードの顔面に裏拳を一発。


 クラ・イ・ロードは壊れた人形のごとく手足を捻じ曲げながら砲弾のように吹っ飛び、廃ビルの壁を貫通してビルの逆側の壁をぶち抜いて天高く飛んでいった。


「サイの怪人は皮膚が丈夫そうだな」


 嵐は聖剣でガインギルの背後から斬りかかり、Zの字に切り裂く。


「うぼあ~!!」


 ガインギルは倒れた。


 嵐は後ろ回し蹴りで巨体を蹴飛ばした。ガインギルの体がふわりと浮き上がって冗談のような速度で道路の向こうに消えていく。


 幸い交通事故にはならなかった。


 この間、5秒も経っていない。


「えっ」


 嵐に向かって、勢い余ったのか虎井とらいフミカが金棒と大太刀を振り下ろす。


 ガインギルが急に消えていったので、攻撃を止めるのが間に合わなかったのだ。


「――ダブル白刃取り」


 嵐は右手の聖剣をだらりと下げた。


 左手の人差し指と中指で大太刀をつまんで止める。


 大太刀をつまんだまま、左手の親指で金棒を止めた。ぴたりと止まる。


「うそ~」


 嵐の左手が武器を止めたまま、前に突き出された。


 虎井とらいフミカは力を込めて止めようとするが、あっさり力負けした。


 驚愕の表情。


 力負けして肘が曲がる。


 金棒と大太刀の峰が虎井とらいフミカの額を直撃する。


 バキィ!!


 大太刀と金棒が額に当たって砕けた。

 

「――しまった。勢い余った」


 真っ二つになった金棒と大太刀が地面に転がる。


「う……」


 虎井とらいフミカの額にたんこぶができた。腫れ上がった。


「うわあああん!!」


 虎井とらいフミカがぺたんと座り込んで泣き出した。


「うわああああ!!」


 号泣だ。


「あたし、力が、鬼の、怪人なのに、全然、うわあああん!!!」


 鬼の仮面の男達がざわめく。


「なんと、姫様が泣いておるぞ」

「何だあの帽子の男、速すぎる。速度特化の戦闘怪人でもあれほど早くないぞ」

「黒豹の怪人がビルを突き抜けて飛んでいかなかったか」

「それより重装甲怪人が蹴りの一撃で道路の向こうまで」

「一体何が起きた」

「あれは……力負けだ! 鬼である姫様が力負けしたのだぁ!」

「マジかよ」

「マジでござる」

「鬼のプライドがズタズタなのでは」

「鬼といえばパワー。これ常識」

「ダメではないか」

「ああおいたわしや」

「慰めてあげねば」


 鬼の仮面の男たちが、次々に飴やお菓子を取り出して虎井とらいフミカをあやしはじめた。


「高宮さーん。ちょっと今のはないですよ……」


「――悪いことをした。謝らねばいかんな」


「いりませんよ。弱いあの娘が悪いのです」


 さらに新しい怪人が出現した。


 銀髪にピンクのメッシュを入れた巨乳美少女が現れた。当然のように額から二本の鬼の角が生えている。


 武装は腰に刀を大小。


 虎井とらいフミカは一本の角だが、今度の鬼は二本だ。


「鬼道会の四天王、銀狼ぎんろうナオエと申します。このたびは妹がお世話になったようで」


「――高宮嵐たかみやらんだ」


 エイスとミュージシャンは空気を読んで黙る。


「高宮殿、ひとかどの怪人もののふとお見受けしますが、なぜここに?」


「――たまたま通っただけだ」


「またまた。怪人四体を瞬殺お見事です。」


 マッキャロン伯爵、ガインギル、クラ・イ・ロード、虎井とらいフミカの四体のことだ。


「――殺してない」


「なぜ?」


「――私にとっての理由はそれなりにあるが、他人に言うまでもないことだ」


「なるほど。斬るに値しない弱者であり、つまらぬものは斬らぬという事ですね」


「――意味のないことを深読みするタチか」


 嵐と銀狼ナオエの間に幻の火花が散る。


「あの虎井とらいフミカは怪人となって日が浅く、鬼道会の志す剣の道のまだ入口。鬼となった力の強さにばかり気を取られている未熟者です」


「――そうだな」


「今回のことは心に積み上がった慢心を打ち砕くいい薬となったでしょう」


「――そろそろ帰っていいか。本当に通りすがっただけだしな」


「これは異なことを。ここまで来たのです。鬼道会の本家で姉たちに会っていただきたい」


「――ふむ」


 嵐は銀狼ナオエに向き直った。


「――お前は剣の道がわかるか」


「わかります」


 銀狼ナオエが誇りを持って答えた。


「――わかる、は五十点の解答だ」


 嵐の瞳から剣気がほとばしる。

 

 バキン!


 銀狼ナオエが剣気に怯え、防御のため抜刀した大小二本の刀が一瞬で砕け散った。


「くっ」


 銀狼ナオエが膝をつく。


「――剣の道がわかるとのたまう事、まだ未熟者の証だ。お前も慢心している」


 チン、と嵐は聖剣を納刀した。


「――風が出てきたな」


 嵐は新しく現れた人影に向き直る。


 病的なまでに白く長い髪の、三本角の鬼が音もなく現れた。


 空でも飛んできたのかという唐突ぶりだ。



「え、まだ来るんですか。もう今日はお腹いっぱいですよ」


 エイスがびっくりする。


「ふみぃ……」


 ミュージシャンが意味もなく腕組みして胸を強調する。



白風しらかぜエリカと申します。鬼道会の四天王をさせて頂いております」


 白い髪、白い肌、紅い目。アルビノ美少女の鬼の怪人だった。


 三本の角。


 白い着物に草履、納刀した大太刀を手に持っている。


 大太刀は金銀の装飾が施された豪華な造りの業物だ。


「妹たちが御無礼をいたしました」


「――私は高宮嵐たかみやらん


 嵐は帽子を脱いで挨拶した。


「――挨拶は終わりだ。義理は通しただろう。さっさと抜け。殺気がだだ漏れしているぞ。はしたない位にだ」


 嵐は右手で帽子を押さえ、左手は腰に当てている。いつものポーズだ。


「ふふっ、このような相手が野にいたとは、不覚にも存じませんでした。この戦いの気配、ドーム新宿にうごめく真の強者つわものたちの目を覚まし、こぞって集ってきましょうぞ」


「――お前は近くにいてよかったということか」


 嵐は平常心に見える。


 ピンチになるほど冷静なのか。それともピンチですらないのか。


「――お前は剣の道がわかるか」


「わかりません」


 白風しらかぜエリカは平然と答えた


「剣の道はひたすら果てなき無限の地平。どこまでも我が身、我が技の不十分さを自覚しながら、それでも一歩づつ進むしか無いと存じております」


「九十点」


 白風しらかぜエリカが大太刀を抜き、嵐に攻撃を仕掛けようとする。

 それより早く聖剣を抜刀した嵐が斬撃を放つ。

 1秒ごとに七回の斬撃を休みなく正確に。

 2秒 十四回。

 3秒 二十一回。

 4秒 二十八回。

 5秒 三十五回。

 白風しらかぜエリカは三十五回目までは大太刀で受けて防御した。反撃する余裕などない。


 ガガキィ!!


 白風しらかぜエリカの大太刀は折れなかったが、聖剣の切れ味は鋭く刀身に無数のヒビが入る。

 三十六回目の斬撃は速さに追いつけなくなり、防ぐことができなかった。


 白風しらかぜエリカの真っ白い首筋に聖剣が突きつけられる。

 勝負は6秒で決着した。


「は、速すぎる……もしや音超え?」


「――答える必要はない」


 がくり、と白風しらかぜエリカがうなだれる。


「――危ないな。首が飛ぶぞ」


 嵐は、白風しらかぜエリカの首が切れないように、うなだれる動きに合わせて聖剣を操作した。


「――鬼道会の四天王といったな。あと一人いるわけか」


「はい。そこに」


 四本角。


 金髪の褐色巨乳美女の姿をした、鬼の怪人が現れた。


 ラスボスが唐突に眼の前に現れたかのような圧倒的な存在感。


 人を惹き付ける魔性のカリスマと色気がある。


 ひたすら美しく、強い。


 仏でもないのに後光すら差している。



「今日はほんとうにこれで最後にしてくださいよー」


 エイスがぼやく。


「我々もキャパオーバーでござる」

「まさか筆頭のご出陣とは」


 鬼の仮面の男たちも限界のようだ。



「我は鬼道会の四天王筆頭、蔵星くらほしナナセなり……これお前達、はようエリカに日傘を」


「はっ、ただちに」


 鬼の仮面の男たちが、アルビノのエリカの肌を守るため周囲に日傘をさす。


「コホン……こちらは、我が鬼道会の守護神。破壊魔剣デスマサムネ」


 蔵星くらほしナナセが背負っていた剣を下ろす。


 後光を放っていたのは破壊魔剣デスマサムネのほうだった。


「――破壊魔剣デスマサムネ、だと」


「おや。ご存知か」


「――」


 嵐が無言で剣を凝視する。


「……」


 周囲が固唾をのむ。


「――知らん」


 嵐が言い切る。


 ズコー。

 周囲がコケた。


「ふふ、愉快な人」


 蔵星くらほしナナセが笑う。

 ウケた。らしい。


「――高宮探偵事務所所長、高宮嵐だ」


 嵐は名乗った。


「探偵助手のエイス=光崎=アースライトですー」


「うみゅ。ミュージシャンだよ。よろしくねナナちゃん」


 二人も挨拶をした。


「人払いはすませている」


「――銀狼ナオエが出てきた時点からだな。鬼面の連中がやっていた。だから周りが静かだった」


 首と足首だけになったマッキャロン伯爵も片付けられて、周囲には鬼道会の者しかいない。


 鬼面の男たちは複数人で交通整理をして、歩行者と車を別の道に誘導していた。


 さらに街路を占拠し、鬼道会の旗を立て、陣幕を設置して陣地を構築した。


 陣地の中央には天幕を立て、折りたたみ椅子を並べて鬼道会の四天王の鬼たちを座らせている。


「高宮探偵事務所は、ダディーンを倒した時から注目をしていた……と言っている」


「――お前が、ではないな。デスマサムネでもない。背後にいる三体の魔神というやつか」


「そうだ」


 蔵星くらほしナナセはあっさり認めた。


「電気崇拝教団ウッコゼウスの守護神ダディーンと、鬼道会の守護神デスマサムネは同じ魔神の眷属……すなわち『D』のタイプ。眷属たちの主、デストロイヤー・マシーンが、ぜひ貴方とお話をしたいと言っている」


 破壊魔剣デスマサムネが怪しく輝いた。


 その背後、遥か遠くのどこかにいるデストロイヤー・マシーンが笑った気がした。

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