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天狗魔剣法


高宮探偵事務所の奥にはいくつか部屋がある。


エイスも『掃除をしなくていい』と言われているので入ったことはない。


そのうちひとつ、入口が小さい部屋に嵐はエイスを招いた。



「お邪魔しますー」


 茶室だった。


 まず掛け軸が目に入る。『喫茶去』と書かれている。


 花を活けた花瓶がある。


 お湯を沸かす道具がある。


 ちゃんと清掃され、明るく清潔な室内。


「わー」


「――まあ、座れ」


 黒いスーツを着た嵐が正座してお茶の準備をする。


「はいー」


 エイスも座布団に正座した。


「――茶菓子だ」


 嵐はお皿に乗ったお団子を差し出す。


「ありがとうございますー」


 エイスは団子をぱくつく。


「おいしいですー」


「――それは何より」


 嵐は粉末の抹茶をお湯に入れ、茶を点てた。

 

「――粗茶ですが」


「いただきますー」


 エイスはお茶を飲む。


「ぷはー」


 嵐も手際よく自分の分の茶を点てた。


「趣味なんですか」


「あえて言うほどのことでもないが――茶は好きだ。心が静まる」


 嵐もお茶を飲む。


 茶室にはお湯が湧く音だけが響いた。


「依頼でな――電気の出どころを探ることになった」


「あ、それ僕ですねー」


 エイスがあっさりと言う。


「5歳くらいのときに発明をしてて、電気が不十分なのが不便すぎたので作ったんですよ。無限発電装置。僕の家だけでは使い切れないので、ドーム新宿に供給して、あと他のドームにも売電して野菜などの食料品を輸入しています」


「そ、そうか――」


 嵐は冷や汗をかく。


「――警備体制や情報の公開についてはどうなっている」


「普通に僕の家の敷地にあるので、警備会社が家ごと警備してますね。情報については別段なにもー」


「いいか。ただで電気が配られているというのは異常なんだ――電気を生産するにも送電設備を維持するにもコストがかかるだろう」


「生産コストについては置いておいて、送電設備についてはドームに最初からあった設備を利用してますね。そのメンテはドーム所属だったロボットに任せています」


「ふむ――」


 嵐は腕を組んだ。


「お前は先の事件のとき、敵のアジトのビルの電力を止めたな。――電力会社に連絡して」


「止めましたねー」


「――電力会社というのは何だ」


「発電機の管理をしている人たちのことですがー。ぶっちゃけると僕の作ったAIです」


「お前の――」


「作ったー。作りました」


「人たちなのか――」


「人間型や掃除機型のひともいれば、プログラム上のひともいますねー。僕の家の敷地にいます」


「電力会社――なのか」


「会社ですねー。お給料も出してます」


「出してる。代表はお前か」


「会長ということになっています。社長や取締役や社員もいます」


「それは全部――AI」


「そうです。アースライト電力という電力会社です」


「このドーム新宿は電気が無料でいくらでも使えるということから、他のドームからの移民が多いのは知っているか」


「はいー」


「電気の供給を支配すれば、このドーム新宿を支配できると思い込んでいる連中もいるようだ」


「へー」


「お前がやったように敵のアジトへの電気を止めて――攻めることができる」


「なので、情報は伏せてましたね。僕の家におっかない人達が来て、妹たちが危険に晒される事になるので」


「依頼でな。私は依頼で動く。依頼人に電気の出どころを教える」


「わあ」


「お前の住所は履歴書で知っている」


「そこで合ってますよー」


「私が依頼人に報告をすれば――お前の家にはおっかない人達がやってくるだろう。奴らの言うところの『聖戦』が起きる。そういうだ」


「んー……高宮さん、依頼人ってかなり親しいひとですか?」


 エイスはちょっと不審そうな顔つきになる。


「何だいきなり――依頼人のことは守秘義務がある」


「僕は高宮探偵事務所の探偵助手なので事件簿の記録と整理ため依頼人について知る必要があります。つまり仕事です。報酬についても経理事務のために情報の共有が必要なので聞きます」


「仕事なら仕方ないな――電気崇拝教団ウッコゼウスの枢機卿ザガンバインだ」


「ちなみにいくらで引き受けました? 事務所の口座に百万円入ったのはチェック済みですが」


「前金で百万、後金で五百万だ」


「んんん?」


 エイスはますます不審そうな顔つきになる。


「どうした――さっきから」


「いやー。色々おかしくて。高宮さん何でそんなに詳しく聞いているんですか? 電気の出どころを調べるように依頼されただけですよね。その組織が何をしようとしているかは関係ないし普通は教えませんよ。元から身内もしくはすごく気にいられて教団に入る予定とかならまだわかりますが、ただの探偵なんて調査員に、ありていに言って外部の情報屋に『計画』という『これからしようとしていること』を伝えたら今みたいに情報を流されて危険なだけなんですよ」


「――ふむ」


「高宮さん依頼を受けた後にウッコゼウスの別の幹部を殴って計画を吐かせたりしていませんよね?」


「――していない」


「そうですかー。あと報酬もやたら大きいし、後金の五百万って本当にもらえるんですか?」


「相手はかなりケチだったが――約束はした」


「約束とか契約書とか囲まれて銃を突きつけられたら意味がないんですよ。まず武力、次に信用という世界です。それにしても依頼人が喋りすぎてますね。これは消す気ですよ」


「――誰をだ」


「高宮さんをです」


「それは考えすぎだな。相手は憶えていないから大丈夫だ」


「…………」


 エイスが沈黙した。


「お・ぼ・え・て・い・な・いーって言いましたね今!」


「……そうだ」


「またいつもの超能力ですか。それとも暗示とか催眠術ですか」


「またまた。ひどい疑いようだな。私の交渉術――」


 嵐は平然と言い切った。


「ないですね」


 エイスがびしっと言う。


「――やれやれ」


 嵐は観念したのでスーツの上着のポケットに手を突っ込んで何かを取り出した。


「――これだ」


 嵐は紐をつけた五円玉を見せた


「これ旧日本政府の五円玉ですか。わー硬貨って博物館ものですよ! ……じゃ、なくてー。高宮さんやりましたね。依頼人に催眠術ですか。それで色々聞き出したんですか」


「――向こうが勝手に喋っただけだ。何も憶えているまい」


 エイスはアチャーという表情で顔を覆った。


「『そういう話』とか記憶を読んだにしては変な言い回しだからー。ああー。もうー。普通は録音とか監視カメラとかあるんですよ。これはもう、依頼人にまた会いに行ったら即処分されますね」


「――怖い物知らずだな」


「それは高宮さんのほうですー。今朝からビルの周りに監視が増えてるし。さっさと行ってきてください」


「行けって――どこへ」


「依頼人のところです。早くかたを付けて来て下さいー」


「おい――逆だろう。私がお前を心配しているんだが」


「ウッコゼウスの怪人……改造人間はかなり丈夫なタイプなのである程度強く行っても大丈夫だとは思いますが、殺さないように注意してくださいね」


「おい――」


「あ、お茶ありがとうございました。美味しかったです」


「む。そういう時はこう言えばいいんだ――『結構なお手前で』とな。片付けがあるからお前は先にでていろ」


「はいー」


 エイスは茶室から出て事務所に戻った。


 そしてスマホを取り出し、誰かと話をしはじめた。







 その日の夕方






 電気崇拝教団ウッコゼウスに来た嵐は武装した信者たちに包囲されていた。


 完全に戦闘態勢だ。


 完全に殺る気である。もう戦うしかない。バトルでしか決着しない。そんな空気があたり一面に張り詰めている。


『よくも怪しい術で我々を操ってくれたな。依頼は破棄だ! 前金も返してもらう。だがその前に、神の使徒を愚弄した神罰を与える!!』


 スピーカーから枢機卿ザガンバインの怒りの声が響く。


 十数名の信者たちが散弾銃を構える。


「――やれやれ。降りかかる火の粉は払うのみだ」


 嵐は平然とした表情で、右手で帽子を被り直す。そして左腰につけた鞘から日本刀を左手で抜き放った。


「「「百万円を取り返せ!」」」


 ズドンズドンズドン!!


 信者たちが散弾銃を発砲。


天狗魔剣法てんぐまけんほう――」


 刀を魔法の杖のようにかざす。


風隙ふうげきの型――衝撃波」


 ゴッ!!


 突如として巻き起こった黄色い光を伴う強い衝撃が散弾銃の弾丸をそらし、信者たちの体を押し流して隊列を崩した。


「「「ウアー!?!?!?」」」


「――振動波」


 ビイイインン!!


 信者たちを複数方向から赤い色の振動波が襲い、あっけなく気絶させた


「な、何だ何だ何だ! これは何だ!!」


 後ろに居た隊長格らしいサングラスにスーツの男がサブマシンガンを構える。


「――真空波」


 青い閃光。


 スパッ


 サブマシンガンが青い光に真っ二つに切り裂かれ、バラバラに分解した。


「三つの空気の波によるランダムな三連撃。――それが天狗魔剣法風隙の型だ」


「くっ……天狗魔剣法とは何だ!」


 サングラスの男が嵐に尋ねる。


「闇に潜む妖怪たちは妖力という人間にはない力を持っている。妖力を使うすべを妖術という」


 嵐が律儀に答えを返す。


「人間は妖怪のように妖力がないから妖力をエネルギー源としたじゅつである妖術を使うことができない」


「よ、妖怪……? 妖術……?」


「昔、ある家柄で人間が妖怪になるため、あるいは人間が妖怪を倒すために人間の体のまま妖術を習得する試みが行われた。しかし妖術を学んでも、エネルギー源がなければ使えない。そこで人間たちは考えた。武器や道具の形をした妖怪を握って、その妖力を使うべし。とな」


 嵐が日本刀を向けた。とても古い日本刀だ。


「九十九年使った道具は魂が宿る。これを付喪神という。妖刀を握り、妖怪の妖術を再現する魔法……それが魔剣の魔法。魔剣法だ!」


「な、何を言っているんだこいつは……!!」


 サングラスの男がスマホに向かって呼びかける。


「怪人部隊を出せ!」


 ゴゴゴッ!


 重い音が響き、重そうなドアが開いて棘付きの鎖鉄球で武装した三人ほどの赤い鎧武者が現れる。顔もフルフェイスの装甲で隠して見えない。


「電気崇拝教団ウッコゼウス怪人部隊 赤い三連星!!」


 三人がポーズを決める。


 一人が中心となり、左右を固める。


 怪人部隊 赤い三連星、登場!


「俺の名はジョージ」


 一人目の鎧武者が自己紹介する。


「バッシュ」


 二人目の鎧武者が自己紹介する。


「ゲオルグ」


 三人目の鎧武者が自己紹介する。


『百万円を取り戻せ!』


 スピーカーから枢機卿の声。スピーカーは三つある。


「ヒャクマンエンー!」


 赤い三連星は先端に棘付き鉄球をつけた鎖を頭上でブンブン振り回し、嵐を威嚇する。


 その声は妙に若い。


「――若さが眩しいな」


 嵐は右手で帽子を押さえ、左手の刀を横に払う。


「――真空波」


 スパン!


 嵐の横薙ぎの青い一閃で、頭上にあったすべての鎖が切断された。


「あ」


 ドゴーン!!


 棘付き鉄球が勢いのまま飛び、三つとも施設に備え付けてあったスピーカーに直撃して粉々に破壊する。


 スピーカーがすべて破壊されたので枢機卿の声が途絶えた。


「――振動波」


 嵐が刀を一回転させる。


 ビイイン!!


「グフッ」


 赤い三連星が赤い振動波の直撃を受けて硬直する。内蔵へのダメージで吐血した。


「――衝撃波」


 最後に黄色い衝撃波が赤い三連星を吹き飛ばし、壁に叩きつけて埋め込んだ。


「「「グワアアア!」」」


 怪人部隊赤い三連星、敗北!


「ジョ、ジョージ! バッシュ! ゲオルグ! 馬鹿な、あの三人がこんなに簡単に……」


 サングラスの男が驚愕する。


「――何人来ても同じだ」


 サングラスの男はスマホに呼びかけた。


「今度はアテナシスターたちを出せ!」


 ゴゴッ


 次の扉が開き、アイドル衣装のようなシスター服を着た女子が四名出てくる。


 それぞれ飾りのある槍を持ち、腰に剣、背中にライフル銃を背負って武装している。


 胸の名札にはそれぞれ『ゆめこ』『なみこ』『くみこ』『るみこ』とポップにプリントされている。


「緊急出動って何ごと~?」


「あー見てよ。三バカが壁に埋まってる。ウケない?」


「あれ大丈夫なの?」


「仕事中よ。無駄口は叩かない!」


「はーい」


「四人で囲むわよ」


 リーダー格のアテナシスターゆめこが指揮を取る。


「おっけーゆめちゃん」


 四人は早歩きで嵐の前後左右に回り込み、とり囲んだ。


「さっきの三連星といい体はでかいが中身は子供だな――ウッコゼウスの改造人間は丈夫で頑丈と聞いたが」


「私達は銃で撃たれてもビクともしません。優秀な皮膚装甲があるので」


 正面のアテナシスターなみこが胸を張る。


「降参したほうが……」


「――そうか」


 嵐は左手のまま刀を逆手に持ちかえ、切っ先を地面に突き立てた。


餓鬼魔剣法がきまけんほう――枯渇陣こかつじん


 地面に曼荼羅が一瞬浮かぶ。


 嵐を囲んでいた四人からエネルギーのようなものが吸い取られて曼荼羅へ吸収された。


 ガクン!


 突然、四人のアテナシスターたちが膝から崩れ落ちた。


「な、なにこれ……」


「お腹すいた」


「動けない」


「どうして」


 四人は立ち上がれなくなり、少し指を動かすだけで精一杯な様子だった。槍も振れない、剣も抜けない、銃も構えることができない。


「――デバフというやつだ。殴るだけが戦いではない」


 嵐はサングラスの男に向き合った。


「――何人来ても同じだと言ったろう」


「くっ……こうなたら仕方ない。ダディーンを出せ!」


 サングラスの男がスマホに指示をする。


 ダ、ダダダダダディーン!!


 施設に大音響がこだまする。


「スピーカーは壊したはずだが」


「さあ見るがいい偉大なる勇姿を!」


 ゴゴゴ……


 宗教施設のドームが開き、巨大な飛行兵器が飛び立つ。人間の上半身が前にならえしているようなデザイン。


「天空の支配者ケラウノス号!!」


 続いて別の施設のドームが開き巨大な戦車が出てきた。

 

「地上の支配者ウコンバサラ号!!」


 2つの巨大兵器はしばらく周辺を飛び回り/走り回り 周囲の建物をなぎ倒して更地にした。


「究極合体!!」


 巨大戦車が両足を広げて立ち上がる。


 その上に飛行兵器が合体ドッキングした。


「合体完了! 電気崇拝教団ウッコゼウスが守護神! ダディーン!!」


 ダディーンは合体完了ポーズを決める。


 ババババーン!!


 周囲に稲妻が落ちて更に被害が広がる。


 ダディーンは両手両足が太くて威圧感のある顔つきをした、スーパーロボット系番組の途中から味方になる敵のようなデザインだ。


『チンパルスビーム!』


 ダディーンから枢機卿ザガンバインの声が響き、股間からリング状のビームが発射される。


「雷神要素はどうした」


 嵐は高速で飛び退き回避、地面にリング状のビームが命中して大爆発した。


 ちなみに合体するまで時間があったので、アテナシスターたちは嵐が建物の中へ放り込んでおいた。


「聖剣召喚」


 嵐は右手を虚空にかざす。


 魔法陣が出現し、魔法陣の中から光り輝く剣の柄が出現した。円形リング型の護拳のある珍しいタイプだ。


 嵐は剣の柄を握って一気に引き抜く。


 ズルリ。


 剣と一緒に金髪の少女が出てきた。


 長い金髪をなびかせ、細い手足で嵐の手を掴んでいる。


 両手には手枷のようなケーブルが伸びた器具を装着しており、器具から伸びたケーブルの先端は空気に消えるように消失していた。


「バトラズ――」


討伐者スレイヤーって呼んで。浦島うらしま


「その呼び方はやめろ――」


「ごめんね。らん


「お互い呼び名が多くて大変だな」


 嵐は右手に聖剣、左手に妖刀を構える。


 スレイヤーは嵐に寄り添った。


「あの戦い以来か」


「戦いが多すぎてどれかわからないわ」


「島村のとき」


「ああ。ひどい戦いだったわね」


 嵐とスレイヤーの二人はダディーンを見上げる。


 大昔の怪獣映画のように、燃える市街地をバックに巨大ロボットがそびえ立っていた。


「本体を出すわよ」


「任せた」


 スレイヤーが両手をかかげると、手枷から伸びたケーブルの先が魔法陣となり、巨大な人形兵器が出現した。


 スラリとしたフォルムのリアル系ロボットのような立ち姿で、背中に剣を背負っている。


 スレイヤーの手枷のケーブルは長く長く伸びて2本とも新しく出現したロボットの腹にある開いたコクピットのドアの中に入っている。


「ぎゅー」


 スレイヤーは嵐に両手両足でひっつく。


 ケーブルが引き寄せられ、嵐とスレイヤーは引っ張られて新しく出現したロボットの腹のコクピットへ吸い込まれた。


 ガシャン、とコクピットのドアが閉まる。


「おのれ、新しいロボットだと!?」


 ダディーンから枢機卿ザガンバインの声が響く。


「どこの悪の組織の手先だぁ! 名を名乗れ!」


「ただの正義の探偵だ」


「正義の探偵だとぉ!?」


 ダディーンが驚愕する。


「馬鹿め、この世界に既に正義など存在しないわ!!」


 ダディーンが戦闘態勢をとる。


「電気崇拝教団ウッコゼウスが守護神ダディーン。いざ参る!」


「高宮探偵事務所所長高宮嵐。機体名スレイヤー・バトラズ。イグニッション!」


 ドオン!


 スレイヤー・バトラズの機体が赤熱し、上空に魔法陣が出現する。


 上空の魔法陣から大量の氷が降ってきてスレイヤー・バトラズに命中し、氷が一瞬で溶けて霧であたりが覆われる。


「サンダー・アックス!!」


 ダディーンの両手が稲妻を放つ。


 スレイヤー・バトラズは軽やかに回避した。回避しつつ背中の剣を抜く。


「横一文字・三日月斬りはどう?」


 薄暗いコクピットで、スレイヤーが嵐に尋ねる。


「――あれは上下で別々の機械が合体している。横一文字は分離して回避されかねん」


「あら、だったら縦一文字ね」


「――そうするか」


「サンダー・バンカー!」


 ダディーンが肩から雷撃を放つ。しかしそれも回避。


「燃えろ神剣」


 スレイヤー・バトラズの剣が赤熱する。


「悪魔も、巨人も、精霊も、天使さえ切り裂くズスカラよ! 焼き尽くせ!」


 スレイヤー・バトラズの剣が光り輝く。


「一刀両断・火炎一文字!!」


 スレイヤー・バトラズが剣を振りかぶる。


「クロスガード!」


 ダディーンが両手を交差して防御する。



 ズバン!!



 ダディーンは防御した両手ごと頭から股間まで真っ二つにされ、切断面は高熱で融解して爆発した。



 チュドーン!!



 ダディーンが爆散する。


 操縦していた枢機卿ザガンバインほか一名は脱出装置で射出された。




 ぶしゅー!


 スレイヤー・バトラスの動きが止まる。全身から蒸気が噴出する。


 スレイヤー・バトラズの体はどんどんと赤く輝き始め、灼熱と化す。


「体が……燃える!」


 コクピット内部でスレイヤーが両手で体を押さえて身悶えする。


「相変わらず戦いごとに熱くなりすぎだ。物理的に」


 コクピットの入口が開き、古い日本刀を左手で持った嵐が上半身を乗り出した。


龍宮魔剣法りゅうぐうまけんほう渦潮うずしお!」


 刀を中心に大量の水が出現して空気中に渦を巻く。


 渦はスレイヤー・バトラズの赤く焼けた表面に当たるたび蒸発して大量の水蒸気を発生させた。


 ジュワアアア!!!


「ああ、気持ちいいー!! 冷えるわ!」


 コックピットでスレイヤーの少女が身悶えする。


「――へいへい」


 嵐はすこし赤くなりながら、スレイヤーが満足するまで水を出し続けた。


 周囲は水浸しとなり、枯渇陣を食らったアテナシスター四人は動くことができずにびしょ濡れになりながら蒸気を放つスレイヤー・バトラズを見上げていた。








 後日談。




 高宮探偵事務所。


「電気崇拝教団ウッコゼウスは守護神を失ったために解散したそうですー」


「――そうか」


 事務所の所長机のイスに座った嵐が、エイスに返答する。


「電力会社の情報は秘匿しててもろくなことがないので、ある程度開示していくことにします」


「――そうか」


 嵐はコーヒーを飲む。


「頼まれていた鞘、できたので持ってきましたよ」


「――助かる」


 エイスから渡された鞘を受け取り、嵐は召喚した聖剣を納刀した。


 ――チン。と音がなる。


「僕、そのスレイヤーって子に会ったことないんですが。どこにいるんですかー?」


「――あいつも大人だしな。そこら辺で普通に家を借りて生活しているんじゃないかな」


 エイスは無言で考え込んだ。


「今回の事件、結局、高宮さんは何をしたかったんですかー?」


「――決まっている。私は正義の探偵だからな。正義の仕事をするまでだ」


「正義、ですかー」


 エイスはうーんと考え込んだ。


「今の時代、大規模な環境汚染により世界は崩壊し、国はなくなり、各地に点在するドーム都市だけが残りました」


「――そうだな」


「文明は退化し、人々は困窮し、正義は失われて、悪だけが残りました」


「――嘆かわしいことだ」


「土壌汚染、水質汚染等により健康被害は拡大し、ドーム都市では三十歳が寿命となっています」


「――」


 嵐はコーヒーを一口飲む。


「ドーム都市に複数存在する悪の組織は人間を改造する技術をもち、改造の過程として環境汚染への耐性を獲得することができ……要するに今ドーム都市で見た目が三十歳以上いってそうな人は、悪の組織で改造された改造人間か老けて見えるだけの若者のどちらかです」


「――そうか」


「まともな大人っていうのが居ないんですよ。この世界。だから正義もないし」


「――悪がのさばっている」


「人々は寿命で死にたくないから若いうちから悪の組織にすがって改造人間になりますが、ただ寿命が伸びるいい事だけーではなく、悪の組織の手駒として逆らえないように思考まで改造されて忠誠心を植え付けられたり、爆弾を埋め込まれたり、外見や性別がまるきり変わってしまったり、裏切ったらすぐに倒せるように弱点を足されたり、精神的なタガが外されて盗みや人殺しが大好きにされたりしています」


「――許せんな」


「そんな悪がはびこる世界に高宮さんが、一人で? 正義を?」


「――だが、いままで君は一人でそれをやっていたのだろう」


 ハッとエイスが嵐を見る。


「――今回は微妙な結果だったが、私は私のやり方で正義を貫くさ」


「高宮さんー」


 エイスがうるっとする。美少年なのですごく絵になる。


「だったら、依頼人に催眠術をかけるのをやめましょう」


 ずばり。


 エイスが言う。真顔で言う。


「――ダメか」


「駄目です。結局後金もらえてないし」


 エイスのジト目。


「――何が悪かったんだろうな」


「だいたい全部じゃないですかねー」


 高宮探偵事務所は今日も平和だった。

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