気をつけよう、川遊び
川は、怖いもの。
俺、わたるはそれを知っている。
小さい頃、川で遊んでいた時に足を滑らせて、溺れたことがあるからだ。
しかし、気づいたら、なぜか岸まで戻っていたのだ。
自力で戻った記憶は、俺には無い。
だけど、あれから川には近づいていないし、水も怖くなった。
そのため、学校のプールの時間は欠席である。
それから月日はたち、俺は高校生になった。
そして、夏休みがやってきた。
「夏だからか、年々暑くなるなー……」
俺は気晴らしに、土手を散歩していた。
下の川では、子どもたちが元気に遊んでいる。
しかし、その周りに、大人の姿はなかった。
「おいおい、子どもだけで遊んでいたら、危ないぞ」
遠くにいた俺は、少し不安になった。
それもそのはず。よく見たら、小さい子どもしかいなかったのだ。
俺は遠くからだが、見守ることにした。
すると、一人の子どもの様子がおかしいことに気づく。
子どもは、必死に両手をバタつかせている。
まさか、これは……
「もしかして、溺れているのか?!」
あの子は、足をすべらせたに違いない。俺はそう確信した。
その子どもがいたのは川の真ん中で、俺のいる土手からは少し距離がある。
行かなければ……そう思っているのに、足が動かない。
「えぇい、迷っている場合じゃないだろ!」
俺は足を叩いて、川に向かって駆けだした。
水は怖い……でも、このままじゃ、あの子が大変なことになる!
「おーい!」
俺は必死に声を出した。
「誰か来てくれ、子どもが溺れているんだ!」
幸いにも、周りには散歩をしている人が、ちらほらいた。
その人たちも異変に気づいたのか、ザワついている。
川に目をやると、もう子どもの腕しか見えていなかった。
「待ってろ、今助けるから!」
俺はすぐに飛びこんで、川の真ん中まで泳いでいく。
久しぶりに泳いだせいか、はたから見れば、俺も溺れているようにしか見えないだろう。
なんとか、子どものいるところまで近づけた。
そして、子どもの腕を引っ張り、俺の方に引き寄せる。
「ごほっ、ごほっ……」
「安心しろ、もう大丈夫だからな」
早く、浅いところまで行かないと!
俺がそう思った時、ピーンと足がつった。
「しまった!」
つるのは、今じゃなくてもいいだろっ!
文句を言いたかったが、ドボンと俺まで川の中に入ってしまった。
これじゃ、俺もこの子も危ない……どうしよう……
俺が泣きそうになっていると、誰かが腕を引っ張った。
上を見ると、女の子と目が合った。
しかも、下半身は、魚のようにうろこがあったのである。
俺が驚いていると、女の子はにっこりと微笑む。
そこで、俺の意識は途絶えた。
★★★
「ごほっ、ごほっ……」
気がついたら、俺たちは岸まで辿り着いていた。
「たっ、助かった?」
生きていることに、俺はほっとした。
だが、すぐ子どものことを思いだす。
「そうだ、あの子は!」
「大丈夫、気を失っているだけだよ」
横を見ると、大人の人が子どもを抱えていた。
「君のしたことは間違いじゃないが、君まで溺れたら大変だろう」
「すっ、すみません……」
「その時は、大人が来るまで待ちなさい」
「はい……」
叱られてしまい、俺は落ちこみ俯いた。
それがわかったのか、相手はため息とともに離れていった。
俺が顔を上げて周りを見ると、どこにもあの女の子はいなかった。
「あの子は、誰だったんだろう……」
それから、救急車や警察が来て大変だった。
その事故から数日後、俺はまたあの土手を散歩していた。
あの子どもは、その後意識が戻ったらしい。
それを聞いた俺は、よかったと胸をなでおろす。
ふと川の方を見ると、あの女の子が大きく手を振っているのが見えた。
俺も小さく手を振って、川に背を向ける。
すると、チャポンと水がはねる音がした。
振り返ると、そこには誰もいなかった。
「気のせいか……」
俺が歩きだそうとすると、どこからか声が聞こえた。
『またね!』
驚いた俺は、もう一度川を見つめる。
やはり、そこには誰もいない。
だけど、俺にはわかる。
俺は微笑み、また歩きだしたのだった。
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