今この時を
子供は助けを求めるための言葉を知りません。
ショウの状況をあえて言葉にすると
悪意をぶつける対象にされている、でしょうか。
周りに伝わるかなぁ‥
「どうして家出なんてしたの」
ちゃぶ台に向かい合った母親はちょっとこわい。
「お母さんからメールが来て心配したんだからね」
これから家族に説明しなくちゃいけない。
ショウは息を吸いこんだ。心臓がしめつけられるみたい。
「ガッコウイヤダ」
無理やり口を動かしたけど、言葉が上手く出て来ない。
「何で? 嫌なことされたの?」
何でかが説明出来たら、こんなにつらい訳ない。
クラスのニヤニヤ笑ってくる奴が心に浮かぶ。
「ワラワレル」
「何を」
ショウは嫌になる。
ショウが頑張って言葉にしても、大人は分かろうともしない。
トビナガ先生は何も言わなくても分かってくれたのに。
トビナガのことを思い出したショウは、彼の言葉を借りてみた。
「アソコハアンゼンジャナイ」
「安全じゃないって‥いじめられたの?」
軽い表現にイラっとするショウは言葉をくり返す。
「アソコハアンゼンジャナイ」
とまどい顔の母親はため息をついた。
「とにかく家に帰るよ。学校休んでもいいから」
許可が、下りた。
「おお、熱々のパンケーキ! 合格です、もう教えることはありません」
安心して眠りに落ちたせいか、トビナガ先生はとびきりおいしいパンケーキを
取り出すことに成功していた。
「ってことはボクもう一人で飛べるんだ」
ケーキを飲みこんでガッツポーズを決めるショウに、先生の言葉が届く。
「そうです、つまりはお別れだ」
「え、何それ」
トビナガのあっさりした顔にショウはあせる。
「そんなの嫌だよ。明日も明後日も毎日会おうよ、せっかく安全になったのに」
「おそらく今夜が最後だよ。私は渡り鳥だからね、役目が終わればしょうがない。
出会いがあれば別れもあるのさ」
「じゃあボク失敗するよ。それなら残ってもいいんじゃ‥」
一生懸命に頼んだのに、先生は眉毛を片方だけ上げる。
「そのやり方は賢いとは言えないね。こんな時に何をやるべきかは、昔から
決まっているのだよ」
ショウは目で聞いた。何? と。
「今この時をめいっぱい楽しんですごすのさ」




