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謎にゲームの覚えが良いやつ




 ゲーム、と言ってもオンラインでの対戦ではない。一対一のタイマン戦。フィールドも狭く、フレンドとの射撃練習に使われる方式だ。


 やはりミリエスタは覚えが良く、遊び方を軽くレクチャーしただけで大体の動きを卒なくこなせるようになっていた。……これは初心者だからといって舐めてかからない方が良いのかもしれないな。



 3つのカウントが過ぎ、遂に対戦が始まった。今回は一つの画面を2つに分割し、それぞれに自分のキャラが見る視界を映す形。よって視線を少し横にズラせば相手の位置を把握できてしまうのだが……それはミリエスタに失礼だ。極力画面の右側を見ないようにして、俺はキャラをステージの中央目掛けて前進させる。


 ステージには障害物が数多く設置されており、特に中央はコンテナや捨てられた車があちこちに存在しているために射線が切りやすい。回避しないタンク型の俺のキャラは障害物を利用して、相手の体力をちまちま削っていくのがセオリーだ。


 体力が多い代わりにAGIが低いのは勿論、重量型の典型的な弱点として足音がデカい。恐らくミリエスタに俺の位置は早々にバレてしまうことだろう。

 ……だがそれは、こちらにとってのアドバンテージにもなり得る。



タタタタッ



 想像通りだが早々に俺の居場所は相手に把握され、ライフルの軽い銃声が響き、俺の足元に銃弾が突き刺さる。跳弾で数発食らってしまったが、まだ全然許容範囲内。直ぐに障害物の陰に隠れ、射線から相手の大体の位置を割り出した。


(ここからなら……)


 この位置のコンテナに隠れた敵に銃弾を当てるためには、中央の西側に建てられた高台から狙うのが最適だとされている。相手を見下ろす形になり射線を切るのが容易な上、撃つ側にとっては一方的に銃弾の雨を浴びせられるからだ。



タンッ タンッ タタタッ



 予想通り、次の銃弾の送り主は高台にいた。


「……最適解を初見で見つけるとか、どんだけだよ」


 思わず呟いてしまったが、ミリエスタは集中しきっているのか、隣から返事が返されることはなかった。

 そこまで勝とうとしているのならば、俺も本気で応えなければ……な。


 銃声が止み、相手がリロードに入ったと同時に俺はコンテナの陰から飛び出した。目標は西に20m先の、高台の頂上へ続く入り口。

 俺はVIT特化、対面での撃ち合いならこちらが優位。そして先程の銃の扱いを見たところ、ミリエスタはAIM合わせにまだ慣れていない。障害物の無い頂上での撃ち合いで俺が負けることはない。

 そして逆に言えば、ここでミリエスタと接敵できなければ再び不利な状況に陥ってしまうということ。


 更には現在進行系で、リロードを終えたミリエスタの凶弾が俺目掛けて振り下ろされている。出来る限り姿勢を低くして走ることでヘッドショットは防いでいるが、胴含めかなりの被弾をしてしまう。

 俺が高台の入り口に到着した頃には、既に総体力の三分の一が削れてしまっていた。対して相手は体力満タン、俺の上にいるという優位性は未だ変わらず。


 だがしかし、ここからが逆転の時だ。



――ミリエスタは楽しんでいた。


 元いた世界で悠々と暮らしていたのに、唐突に別世界へと召喚された。

 それだけならまだいい。だが彼女を迎え入れたのは、日光と呼ばれる謎の自然現象に寄る殺害。


 吸血鬼にとって殺し殺されは別に異様なことではない。寧ろ下剋上を狙う吸血鬼にとって、殺し合いは日常的なものだ。ミリエスタも、格上の吸血鬼へ幾度となく挑み、頂点に達してからも格下の挑戦を幾度も受け入れた。


 だが、あれは駄目だ。延々と殺され続けるのは。

 誇りある吸血鬼にとって、敗北すればそこで勝負は終わる。再度挑むことは別として、一度の死をもって勝負は一段落つく。


 だからこそ、あれには恐怖した。

 死を、相手が吸血鬼だろうと自然現象だろうと敗北を味わい、それでも尚殺され続け、誇りもへったくれもない、延々と殺され続けるという苦行。

 日光によるリス狩りは、ミリエスタの心に数少ない恐怖を植え付けたのだ。



 それと打って変わって、この遊戯である。

 生まれてから見たことがない装置、謎の道具、神秘に包まれた儀礼。……悠真にとっては単なるゲームだが、闘争に満ちた吸血鬼生を送ってきたミリエスタにとって、動く盤上遊戯以上に手が込められて制作されたと思われる『げーむ』というものは魅力に満ちていた。


 初めは未知なる娯楽に戸惑いを覚えたものの、一度覚えてしまえばキャラを操るのは容易い。更にはこの遊戯が戦争を模したものだと気付けば、人間の次の行動を予測できる。また飛び道具の性質と射程を把握すれば、適切な立ち位置というものも自ずと見えてくる。


(楽しい……楽しい)


 被リスキル後の謎のすっきり感……のような一周回った快感を覚えながら、ミリエスタは盤上遊戯にのめり込む。

 そこでは丁度、高台の階段を登りきり頂上へ到着した悠真のアバターと、銃を構えていたミリエスタのアバターが相対していた。




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