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隣街の祖母  作者: ヒダリヲビト
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ある暑い日〈前〉

処女作&初投稿

「はあぁぁぁぁぁ……」


 思わず呻き声が出漏れた。


 大学の講義が午前で終わった俺は、肌を焼く夏の日差しの下長い坂道を一人トホトボと歩く。


 朝イチの単発授業を終えたが、普段つるんでる友人も他の授業で予定が詰まっていたので家へ帰ると決めたは良いが、自宅は学校から片道1時間半…

 最寄り駅へ徒歩20分、私鉄からjRへ乗り換え徒歩20分、学校まで鈍行で50分講義1コマ受けて、それを折り返して帰ってくれば時間はもう午後だった。

 我が家はそんなにド田舎でもないが、地方単線の駅から20分歩く山手の閑静な住宅街にある。


 今でこそ閑静と言いきれるが、10年も前までは夜は走り屋や珍走族のメッカとしてそれなりに有名な山で、特にそんな馬鹿が集まる週末や休日等の夜は、子女の夜の外出が憚られるほどタイヤやホーンの音が賑やかで、そんな山道は対策がされるまでは2.3年に一人は死者がでたりしていたのだが……閑話休題


 そんな住宅地の上の方、最後の極めつけに急な坂を上がると、そこが我が家だった。自分よりちょっと年上のボロい山の麓の日本家屋。

 ジットリと湿ったシャツの感触にうんざりしながら、タメ息をつくと庭で憎らしい夏の青空を一瞥し、ガラガラと玄関の引戸を開けた。


 「ただいまー」

 一声かけて中を見るが……家の中が異様に暗い……


 まるで家の中を黒い霧が漂っている様で、玄関正面から伸びる短い廊下の先のキッチンに目を凝らしながら一瞬、身を強張らせた。

 けれど、冷静に考えたら何の事はない、初夏の炎天下を歩いていたので網膜が絞られて、灯の点いてない家屋に入れば余計に暗く見えたのだ。


 うわ馬鹿らし……


 自分の小心者ぶりに苦笑いをしながら右足の爪先に左の踵を引っ掛けながら靴をぬぎはじめた。うちの玄関は作りが古くて土間部分も入れると6畳ほどあり。正面には飾り棚右手には備え付けの靴箱になっていた。その靴箱の上に手を置くと、脱いだ左足をタタキに乗せ右の靴も行儀悪く足の踵に引っかけて落とし、スニーカーから蒸れた足を解放し玄関に上がった処で、再び妙な違和感を感じた。


 原因は判らない……が、小さく胸がざわつく…そんな極僅かな違和感。 いや、実のところ駅からの道でも少し感じていたのだが……見る限り家の中にはおかしな所は無い……

 そんな奇妙な感覚に小首を傾げながらも、取り敢えず荷物を置きに自室に行ことすると、居間の方から話し声が聞こえてきた。俺は、仕事の休憩で親父がTVでも見ているのだろうと思ったが、どうやら、その親父が誰かと話しているようだった。


 客が来ているらしいと、その時ようやく気が付き、こんな炎天下に誰が来てるのかと、驚きつつ暑さにうだった頭を働かせ始めた。

 「(しかし、客とは珍しい事もあるもんだな……)」


 うちの親父は基本客は裏手の事務所兼工場に通すからだ。しかも、身内の恥を晒すと、親父は人間的に問題があり、友人と呼べる人間は非常に少ない。母屋に呼ぶなどかなり親しい人間に限られるのだ。

 そこまで考えて漸く答えにたどり着いた、


 「あー、ばあちゃんか……」


 なる程と合点が行くと声が出た。

 父方の祖母は隣街に住んでおり、老人会などで時折遊びに来るのだ。子供の頃は何も考えて無かったが、不思議な話、祖母は、何故か隣街に自宅アパートがあるのに俺の実家で同居してた時期もあり、こっちの老人会に入っていたりする。

 何故わざわざそんな事をしていたかと言うと、ここでは関係無いので割愛する。

 まあ、後になって事情を知ったのだが、先に言った父親の母親らしく『この親にしてこの子あり』と言う感じ

で、自分には良い祖母だったのだが、その他の周りにはそうでは無かったようで、様々な話を聞くことになる人だったのだ。

 

「挨拶しとくか……」

 そんな大人の事情を知りはじめていたが、子供の頃から世話になってる祖母だ。久しぶりに遊びに来てくれた訳だし、荷物を置いて、早くシャワーを浴びたいと思ったが、俺は祖母の顔を見に居間に足を向けた。


 何となく居間に続く正面の廊下は通らず、玄関から右手の廊から中座敷を通って居間に行くことにした。中座敷は襖と障子が風を通すのに居間まで開いており、予想通り正面には畳敷の居間にそぐわない、革張りの、所謂社長椅子に大義そうに座って喋っている親父の姿が見え、数歩進むと壁の影で見え無かった祖母が居ることが判った。

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