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02 九度目の正直

その夜、夫の咳がひどくなったのです。

眠れないほどに。

常備してある麦門冬湯(ばくもんどうとう)の顆粒を飲みましたが、症状は思ったほど改善しませんでした。

翌朝から熱も上がりました。

37度台前半ですが、夫は治癒したとはいえ肺を病んでいたので楽観できません。

午後には37.6度に。

年末で発熱外来のある病院は開いていないので、保健所に電話するとPCR検査の出来る施設を紹介されました。

私の運転で施設に行くと、駐車場にはたくさんの車が入っています。

帰省して来たらしい県外ナンバーの車もあります。

それほど多くはない防護服姿の職員さん達の足取りは少々重く見えました。

年末の昼下がりです。

朝から来る検査の人々の多さに疲れ切っていたのでしょう。

それでも私たちの車に近づき番号の書かれた紙をビニールでおおったものをドアミラーにかけて受付をしてくれました。

すでに時間は午後2時をまわっていました。




実は夫はこれまで8回検査を受けています。

濃厚接触者になった時や発熱した時ですが、いずれも陰性でした。

検査には上手下手があり、下手な人にされると終わった後も鼻の奥が物凄く痛くて血が出そうだったとか。

一度も受けたことのない私はそんなものかなと思って夫の話を聞いていたものです。

車の中での問診の後、半時ほど待っていると検査の方が見え、夫の鼻の孔に長い綿棒がぐりぐりと入れられました。

今回は上手ではないようでした。

とはいえ最悪でもないようです。

今度も陰性かもと二人で話しながらしばらく待っていると結果を持って職員がやって来ました。

陽性ですと言われ紙を渡されました。

結果の他に夫の氏名と日付、施設の名称が書かれた小さな紙と「新型コロナウイルス感染症と診断された方へ」というタイトルのA4のプリントの二枚です。

夫は届出対象ということで、保健所から健康観察の電話が来るとのことでした。

一番驚いていたのは夫です。

今回も陰性だと思ってたんですから。

まさか九回目で陽性なんて。

薬を出しますのでということで、私たちはまた待ちました。

その間、二人して信じられないと言ってました。

どこで拾ってきたのか、ここ数日の行動をあれこれ思い出し、ファミリーレストランの爺様ではないかと夫は結論づけていました。

でも、私はほとんど異常はないんですよね。

同じ空間にいたのに。

何故なのか。不思議でたまりません。




しばし待っていると薬を持って職員がやって来ました。

薬は二種類、毎食後に飲むトランサミンカプセル250mg(炎症を抑える)三日分。

それから疼痛発熱時に飲むカロナール錠200mg(解熱鎮痛)4回分。

これだけです。

職員から薬を渡された後、これで終わりかと思っていました。

でもドアミラーにかけられた番号札は取られていません。

周囲を見渡すと、検査結果が陰性だった人達は駐車場から出て行っておりだいぶ車は減っています。

私たちより先に来ても残っている車は陽性の方のものでしょうか。

よく見るとキャッシュトレイを持って近くの車に向かう職員の姿が。

会計がまだあるようです。

検査費用等の負担がどれくらいかわからないので多めに財布に入れてきましたが、果たして大丈夫か、ドキドキしながら待ちました。

やがてキャッシュトレイを持った職員がやって来ました。

会計です。

金額は3,340円。よかった。足りた。

医療費明細を見てもどの部分を支払っているのかわかりません。

でもふだん通院している時よりも高額の支払いになりました。

数日前に銀行で年末年始を見込んでお金を多めにおろしていてよかったと思いました。




帰宅すると4時半過ぎ。

2時間半余り、私たちは同じ車に乗って移動し、待機していたわけです。

夫が寒がるので暖房を入れていました。一応窓は少し開けていましたが、換気になったかどうか。

なんとなく喉の奥に感じる違和感に不吉な予感がしてきました。

でも、それどころではない事態が。

夫が寒気がする、熱が上がってきたみたいだと言うので測ってみると、38.3度!

とうとう38度超えです。

6時前には38.8度!

勿論、咳も相変わらず。

麦門冬湯を夕食前に飲みましたが、やはり効果は長続きしません。

それでも、隔離用の仏間に自分で布団を運んだりしてました。

さすがに風呂には入らず、夕食もいつもの半分程度しか口にしませんでした。

トランサミンカプセルを服用し、8時前に床に入りました。

寝る前に夫は尋ねました。


「薬飲んだっけ?」

「飲んだよ」


あっさりと答えたものの、私はこれはまずいと思いました。

これまで夫はインフルエンザや風邪にかかったことがありましたが、薬を飲んだことを忘れるなんて一度もありません。

初めて新型コロナの恐ろしさを実感しました。

それが12月30日のことでした。





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