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パラレル・ガーデン  作者: 神崎 司
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攻防

 イレーネ、アルノー、オリヴァ、モニカの四人らを含む増援隊が出立した後、ヴァルヌス要塞はしばらく平和だった。しかしそれは、数日後には破られた。

 ウルメから、二万のシバート兵達が来たのだ。ウルメとシルフはそんなに離れていないから、シルフ方面へ行く増援隊が敵に見つからないか心配だったが、それは杞憂に終わった。相手は真っ直ぐ、ヴァルヌス要塞に向かって来た。


「あの人達、そんなにここが欲しいのかな」


 自室のベッドで背嚢の中身の点検をしながら、ナハトは溜め息を吐いた。


「……ナハト、ちょっと訊いていいか」


 近くにいたステファンが躊躇いがちに言った。ナハトは頷いて先を促す。


「この前会ったタークって奴がいただろ。そいつはお前が欲しいんじゃないか」


「何それ」


 話が自分のことになると、若干鈍感になるらしい。ステファンはむくれた。


「お前は自分がすごく強いって自覚あるか? お前を戦場から引っこ抜けば、戦局が変わるかもしれないって思わないか?」


「僕は今更シバートに味方する気はないけど、確かにタークにしたら目の上のタンコブかもね」


 はっきりしない表情で、ナハトはステファンに答えた。


「しゃっきりしろよ。もしかしたら、あいつの契約者とやらも、お前を見たいと思ってるかもしれない」


「だったら、使者を出して、条件付きで面会させた方が早いね。それはなし」


 最後の提案は駄目出しされたが、シバート軍の餌になるモノがここにはあるのかもしれない。


「僕らは普通に陣地を守ればいい。それで敵の眼を増援隊から逸らせることができるなら、もっと良いね。ところで君、自分の支度は終わったの?」


 ナハトは、背嚢の蓋を閉めて毛布を取り付けると、もうこの話は終わりだと言わんばかりに、マスケット銃を手に取った。


 戦いは三日三晩続いた。フォルクバルド側は、守りの基本を丁寧に行った。十分に備えた食糧、死角のない見張り、相手の休息中に急襲し、被害を与えて壁内に引っ込むといった小規模攻撃などだ。統率は良く、士気は高く保たれていた。包囲戦では、攻める側に少なくとも三倍の勢力が必要とされている。二.五倍で済んでいる限り、そうそう敗れることはなさそうだった。

 しかし、司令官達の表情は硬かった。


「このままで終わるはずがないな」


「わざわざ攻撃して来たんです。狙いがあると見るべきでしょう」


「増援軍の動きが察知されたにしてはおかしいですね」


 フェリクスとナハト、それから数人の上官達は、地図をテーブルに広げて頭を悩ませていた。


「偵察は何か言っているか」


「いいえ、これといったことは」


 その答えがわかったのは、話し合いの翌日の朝だった。



 ウルメの小高い場所から、光の大玉が飛んで来た。それが攻撃だと気付く暇などなかった。地面に着弾すると、高温の熱と光と破壊を周囲にばら蒔く。


「新手の兵器か!?」


 室内にいたステファンが叫ぶ。


「君、魔法を勉強したくせに、最初に出て来る言葉がそれなの?」


 ナハトは呆れたが、無理もなかった。こんな大魔法は、ナハトも数回使ったきりだ。しかもこれまで、シバート帝国は魔法を使って来なかった。そしてタークはシバートを援助している。ということは、これを撃った人間は大体予測できるが。


「超遠距離戦か・・・・・」


 大砲の飛距離すら無視した、大規模戦闘が始まろうとしていた。


「ステファン、リッター少将の所に行って、大型の魔法を観測したって伝えて来て」


「わかった!」


 ステファンは駆けて行った。後に残ったナハトは、返しの手を考える。


「結局、僕の得意魔法ってこれになっちゃうんだよね」



 その頃、ウルメの城のバルコニーでは、エルナがまじまじと自分の右手を見詰めていた。あの、大きな光の玉が、自分の手から出たのだ。


「魔法もまんざらじゃないだろ?」


 隣でタークが笑っている。エルナは今まで魔法を習ったことがない。それでも魔法が使えたのは、彼の指輪の与える庇護が“魔力供給”だからだ。技術を学び、ちゃんと使えば、街一つ消し飛ばすことも容易い。


「確かにすごいけど、これって私にしか使えないのよね? 実用性がやっぱり低いわ。兵士なら五日でマスケット銃を扱えるようになるのに」

 

 エルナはあくまでも、兵器にこだわるつもりだ。そこはタークにとってはどうでもいいことなのだが。


「そろそろ来るか」


 まるで無邪気な子供に戻ったように、タークは窓の外を見やる。


「あいつの性格は知ってる。絶対に返して来る」


 それは、エルナの知らないナハトという青年に対する信頼だった。果たして、ヴァルヌス要塞から黒い玉が飛んで来たのに気付いたのは、タークだけだった。

 直径30cm程の黒い玉が、音もなく、窓など障害物ではないとばかりに横を通り抜ける。その瞬間、周囲5m程が消し飛んだ。家具と床が、元からそこだけなかったように球状にくり抜かれたようだ。


「誤差は10mくらいか。どうする?」


「どうするって、何をどうするのよ!」


 闇属性魔法を見たことがなかったエルナはパニックに陥っていた。部屋から逃げるくらいの選択肢しか思いつかなかった。


「あれは通常の魔法を吸収する。こっちより小さめだが、発射箇所をかなり正確に狙って来るな」


 実際、二者の間は2km以上離れている。こちらは魔力放出でブン投げているだけだ。 


「当たったらもちろん消滅するぞ。さあ、どうする?」


「何でこんなこと始めたのよ!?」


「お前が、『決定打がない』とか言い出したからじゃねえか。それにお前も俺の契約者なら、いい加減自分の持ってる力くらい把握しとけ。こっちから始めたんだから、手は退けねえぞ。もう一度こっちから撃つなら、次はもっとでかいのがお返しに来るな」


 部屋の中にいた数人の兵士は、右往左往している。これは通常の人間の領域を超えた話なのだ。


「さあ、どうする?」


 タークはにやにやと笑っている。

 試されている。それはわかる。

 ここでもう一度魔法を使っても、広い敷地の何処に当てればいいのかわからない。それに、自分の条件はあくまで、女でも戦争に勝てることを証明することであって、慣れない魔法で勝つことではない。

 エルナは、大きく息を吸って吐き出した。


「全軍、突撃させなさい!」


 先程の攻撃は、自分の方が目立った分、相手に与えた心理的恐怖も大きかったはずだ。窓が消滅して風通しの良くなった部屋から、エルナは要塞を見据えた。タークが何故あそこにいるナハトとやらにちょっかいを掛けているかはわかった気がしたが、自分達は戦争に来たのだ。自分の意思で動く道具に遊ばれるために来たのではない。


 戦いは熾烈を極めた。しかし夕暮れが迫る頃には、シバート側が劣勢になって来た。シバート軍によるヴァルヌス要塞の攻撃はこれで三度目だ。何故ここまでこの要塞に拘るのだろうという疑問が兵士の中にできてしまっていた。一方で、フォルクバルド軍は、友軍の増援隊の目くらまし、国土をここまで蹂躙された怒りに燃えていた。そして、要塞内である噂が広まった。「敵の総大将が、攻撃側にいる」と。それが更に戦意を上げた。


「エルナ様、お逃げください」


 物語ではよく効く台詞だが、エルナはそれが自分に向かって言われるとは思っていなかった。


「我が軍の損害多数であり、戦闘を維持できません。リンデの友軍の所まで退却しましょう」


「退却……」


 エルナは呆然として呟いた。


「無策で突っ込むからだな」


 隣のタークは飄々としている。彼は、この戦争に勝てるかには、さして興味がないようだ。


「無策って何? あなたならまともな策が出せたってこと?」


「それは俺よりナハトがやりたがることだな。“己の研鑽を積む者”であれば、俺と契約することは可能だからな」


 エルナはそこで会話を終わらせた。指輪という道具に頼ろうとした自分が間違いだった。だからこんな窮地に陥っている。


「……わかりました。退却しましょう」


 己の無力さを噛み締めながら、エルナは移動の準備を始めた。 

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