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パラレル・ガーデン  作者: 神崎 司
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不透明な未来

明け方のアイヒェ城は静まり返っていた。人の動く気配すらない。武器を手に勇んでやってきたクローネの男達は拍子抜けした。時折、死体が転がっているだけで、向かって来る敵はいない。


「エドアルトさん、これはどういう……」

 

 問い掛けてきた男に、エドアルトは冷笑交じりに答えた。


「どうもこうもない。俺達は“戦力”としてすら、認識されてなかったってことだ」



 そのころナハトとタークは、ランドルフと対峙していた。


「次は僕が行くよ」


 ナハトが前に出た。恐らく、見えない糸の罠もある。だったら、遠距離攻撃で仕留める方が、確実で安全だ。


「〈幾千の風を束ねよ、我が敵を切り刻め〉」 


 何十もの風の刃が、四方八方からランドルフに向かっていく。しかしそれらは全て、ランドルフのすぐ近くをすり抜けていった。


「えっ!」


 躱されたのではなく、当たらなかった。愕然とするナハトを、ランドルフが嘲笑った。


「使い魔を作る時に、主を攻撃できないように設定するのは当然だろう? ああ、お前は使い魔の魔法が下手なんだったな」


 ランドルフが走って距離を詰めて来る。タークはまだ、十分には動けない。ナハトもランドルフからやや斜め方向に向けて走った。タークが、前方の糸はほとんど切っているはずだし、じっとしていたら良い(まと)になるだけだ。


(至近距離で撃ってみようか)


 ランドルフは当たらないと思っているようだが、確証が持てない。しかし、使う魔法を選んでいたナハトは、ランドルフよりも判断が遅れた。

 自分の首を、何かが横切る気配がした。鋭い痛みと共に、ナハトは床に座り込んだ。喉をナイフで斬られていた。ひゅうひゅうと息が漏れる。


「呪士の弱点は、詠唱が出来なくなると、途端に役立たずになることだな」


 ランドルフは事もなげに言った。ただの中年男性がナハトよりも早く動けるなどありえない。彼がそれなりの研鑽を積んでいるのは明らかだった。 


「本来なら(コア)を破壊するべきだが、大分頑丈に作ってしまったからな。お前が動けない間に、もう一人を始末しよう」


 ランドルフはタークへと向き直った。


 タークはもう起き上がっていた。剣を横に構え、刃に沿って手を滑らせていく。触れた場所から、灼熱の炎が燃え上がる。まるで、彼の怒りを体現しているかのように。


「俺が現時点で使える、最大火力だ。普段は周りに延焼するから使わないんだけどな。お前は人間の割に良くやったよ。でもこれで終わりだ」


 劫火を纏った剣が、振られた。


 ランドルフの視界全てを炎が埋め尽くしたが、襲い掛かるべき炎は、ランドルフの横をすり抜けた。しかし彼に息を吐く暇はなかった。炎は方向を変え、再度ランドルフを襲った。今度は避けてはくれなかった。炎に包まれながら、ランドルフは信じられないというように後ろを振り返った。

 背後に、長方形の反射結界が五枚、半円状に並んでいた。その奥に、喉笛を斬られたはずのナハトが、静かに立っていた。彼が指示を出したのだろう。タークに気を取られ過ぎて、見逃していた。


「ナハトはタークより再生が遅いはずなのに、何故」 


 言葉も終わらない内に、ランドルフの意識は途切れた。


「平気か」


「うん」


 タークはナハトの所までやって来ていた。ナハトの首の傷はほとんど塞がっていた。ナハトの服に付けられていた青い玉飾りが、役目を終えたように光を失っていく。玉の下には、長方形の銀の板がぶら下がっている。そこにはルーネが刻まれていた。


「君が治癒魔法使えるなんて、知ってる人いないよね」


「使う必要がないからな」


 青い玉飾りは、作戦の前にタークが作った即席の回復用呪具だった。この世界では、治癒魔法を使える人間は非常に少なく、ほぼ幻の存在だ。


「思い付く限りの策は講じておいて良かったね」


 結果的に、ランドルフを油断させる点では非常に役に立った。ナハトがまだ魔法を使って来るとは、さすがに考えなかっただろう。


「そういえば、なんで最後の俺の攻撃は当たったんだ?」


 タークが神妙な顔で尋ねて来るので、ナハトは呆れてしまった。


「僕らは、空間認識をずらされてたんだよ。だから当たらなかった。逆に、大型の攻撃を一点に集中するように反射すれば、自動的に当たってくれるわけ」


 攻撃が当たる寸前で何らかの防御が発動したのか、ランドルフの遺体は黒焦げにならず、比較的原形を留めていた。


 ナハトは伸びをした。もう普通に動ける。懐中時計で時間を確かめた。


「これからエドアルトさんと合流して、国王を探して、それから……」


「ナハト」


 タークが、ナハトの言葉を遮った。


「身体は大丈夫か?」


 大丈夫も何も、君の魔法で直ったんじゃないか――と言いかけて、ナハトは気付いた。タークが気にしているのは、使い魔が主を二人とも失った影響がないかということだろう。


「普通の使い魔なら、主からの魔力供給が途切れた時点で消滅するはずだけど、僕らは違うみたいだね」


 そう言うと、タークはようやく、ほっとした表情を見せた。


「この件が片付いたら、何かやりたいことはあるか?」


 タークの言葉に、ナハトは眉をひそめた。


「やりたいこと? この世界で、僕らの存在意義なんて、一つしかないじゃん。まあしばらくは、この国の動向を見守りたいけど」


「それもそうだな」


 タークは別の答えを期待していたようだが、すぐに首を振った。


「一応仕事はしないとな。“約束”が果たされる日まで」


 それがいつになるのか見当もつかないが、ナハトもタークも時間を気にするような存在ではない。


「でも、好きにやれることもあるよな」


「君はまたそう――」



 後になって思うのは、この時の僕らは、まだ何も知らなかったんだ、と。

 この先に待っている未来も知らずに、ただ可能性だけを信じていた。


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