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ファンタジーでハードボイルドしてみたさ  作者: 礼三
#1 絶品の林檎パイはいかが? -スノーの依頼-
4/27

#1-4

『アーサー、この声を聞きなさい』


 あぁ、…もうすぐ、オレは死ぬんだな。

 絶え絶えしく薄く細い呼吸が、辛うじて肺へ空気を送りこむ。全身の血がカラカラになったようだ。体が凍りつきそうに冷たい。今のオレは何とか息をつむぐことしか出来ない。それなのに、自我が正気を保たせようとする。


『アーサー、私を求めなさい』


 瞼には血塊けっかいがこびりついて、目をあけることさえままならない。ぼんやりと鉄格子てつごうしから落ちた月明かりだけは確認できたが、右眼は光さえ認識できない。失明しているのだろう。

 何かの答えを強要するための拷問というより、あいつらは苦しんでいるオレの姿を見て楽しんでるだけのように思えた。

 鎖でつながれてる両手両足の痛みはすでにない。感覚が失われており、見えない無数の手によって地下へ引きりこもうとするような重みだけを感じている。

 四肢の骨はあり得ない方向にねじ曲がっている。折られたどころか、きっと砕けているだろう。例え、癒しの術を施されても再起不可能だ。

 身体は何度も殴られ、刃物でえぐられ、臓物はその場所に留まっているのだろうか。

 残ってる意識は君を求める。

「くぅぅね…ぁ」

 グィネヴィア

 君の名前さえ呟けない。

 あぁ、そうだ。最後に喉を潰された。

 何も語らないオレに苛立ちを覚えた1人が、喉元から胸にかけて、ナイフを薄く突き立てた。それでも、刃は気管まで達して血液でおぼれかける。そんなオレを見下し、尚、生きていたいか?と奴らは嘲笑あざわらった。

 グィネヴィア…。

 オレは生きたい。君に会いたい。

 愛しい人よ。こんなオレでも、君はオレの帰りを待っていてくれるだろうか。

 もう抱き締めることも口づけを交わすこともできないのに…。

 もう一度、一目会いたい。そして、君の耳元で君の名前を囁きたい。


『アーサー、私の名を呼びなさい』


 何だろう、何かが響く。まだ、聴覚は機能しているのだろう。石畳みを駆けてくる軽い足音に耳を澄ます。小さく繰り返される吐息。何かがオレの前に立っている。

「僕はもう見てられない。アーサー様」

 人?誰かがオレに語りかける。

 小さな影。

 声から想像するに…。

 まだ声変わりのしてない少年…。

 震えてる?嗚咽?泣いてるんだろうか?

 こんなオレのため?敵国の人間のためにお前は泣いているのか?

 オレだって、お前の仲間を戦場で何人も何十人も殺している。人の命を奪うのなら、いつ自分の命を奪われても仕方ない。それが戦争だ…。

 自分は死なないと高をくくっていた傲慢ごうまんな男だけど…。そんなオレのために、お前は涙を流すんだな。

「もう苦しんで欲しくないんです。こんなになるまで何も出来なくて…。ごめんなさい…」


『アーサー、我汝と契約を交わす。名を…。』


 月光に照らしだされた鈍い輝きが大きく振りかざされた。その光は、きっと心臓を狙っている。

 …ありがとう。

 …お前の優しさと悲しみが伝わってくるよ。

 …これで終われる。

 だけど、頭に文字が浮かぶ。まずにあらがえない力。

「まぁぁ…りぃ」

 閃光が全てを包んだ。



『ダメだ‼︎』

『うおぉっ、アーサー様⁉︎いかがなされました⁉︎』

 私は飛び起きる。主人の一大事にしっかり寝いってしまっていた。何が起きたのですか、主人よ。

 シーツを握りしめながら、主人は虚空を見つめる。見開いた目から滂沱ぼうだの涙が止まらない。

 私は黙って主人の周りを一巡する。主人は夢を見たのだ。あの夢を…。

 私は主人の夢までのぞくことは出来ない。主人が意図して伝えたいことだけを私は認知するのだ。けれど、私はあの出来事を知っている。

 主人は夢を媒体ばいたいに過去へ戻り、幾度となく罪に囚われる。とはいえ、最近はうなされることも少なくなったのだが…。

「アーサー。大丈夫かい?」

 モードレッドが心許こころもとない眼差しで主人の様子をうかがう。


 何故、ここにモードレッドが居るかといえば…。

 この男は就寝時間に枕を抱えて、私たちの部屋へやってくると、世の女性なら(もしかしたら男性も)腰が砕けてとろけてしまいそうな目のくらむほどの輝く笑顔で言い放った。

「私も一緒に寝てもいいかい?」

 私にモードレッドの笑顔は通用しない。

 主人もこれぐらいのことで心乱されることはないだろう。いつもの主人なら、サラリとこばんでいたに違いない…のだが、今日はモードレッドに対する態度を自省したのか。

『んっ…。分かった』

 間髪入れず、私は物申す。

『承服いたしかねます』

 だがしかしっ、時すでに遅し。

 モードレッドの白いしなやかな腕がするりと主人の首に巻きつく。

「ありがとう。アーサー」

 この客間のベッドがキングサイズなのを、いぶかっていたのだが、予想は的中しまった。どのみち、こうなるのは目に見えてたのだから、今朝の私は怒り損である。主人はため息を吐く私のことなど、気にもしてないようだった。

 ただ、主人はモードレッドの腕をほどき、ベッドを一瞥いちべつして途方に暮れる。うなじに手を当てて、しばらく思案した。

『ただし、マーリンが真ん中だから』

 そして、今に至っているわけである。


『アーサー様…』

 主人は私の呼びかけに応えてくれなかった。

『ごめん…』

 目に触れない誰かへ謝罪する主人は頼りなく、いつものような力強さは見受けられない。モードレッドは黙ったまま、主人の動向を静観する。

 主人はまだ夢裡むり彷徨さまよっているのか、両手を宙へ伸ばして、何かを捕まえようとするが、虚しく弧を描くだけで、捕らえることはできない。

 それでも、諦めきれずに何度かその動作を繰返す。やがて、そこへ何も存在しないと気づくと、嗚咽おえつらし始めた。

『うっうぅっ、うぁああ…』

 主人の苦しそうなき声が胸に響く。主人は髪を掻きむしる。

『駄目なんだ。オレが生き残って何になる…』

 主人の涙は頬を伝い、顎から滑りおち、シーツに滲んで跡が残る。モードレッドはやるせなくなったのか、そっと主人の顔を両手で包んで胸にようした。

 いつもならば、全身全霊で反抗するところだ。

 だが今は、主人のことを念頭に置き、特別に許す。

 しばらく、主人の忍び泣きが続いた。しゃっくりが止まらないようだった。

 この古城は洞窟内へ建てられているため、月影を映すことはない。ただ、洞窟のいたるところ、鉱石で覆われており、城壁内のその結晶は魔力で灯されている。

 城の傍らにのぞんだ地中湖へその明かりが照らされ、窓の内側に柔らかな光が差し込む。それは、水面を見上げたような優しい揺らぎとなって天井へ投影される。とても幻想的で美しい現象だ。

 波だった主人の心が、湖面のように凪いでくれればと願う。

 モードレッドは主人の背中を優しくさすりながら耳元へ囁く。

「何があったにせよ。私はアーサーがここにいてくれて幸せだよ」

 モードレッドへ身をゆだねたままの主人は、呼吸が乱れて苦しそうであったが、言葉に耳を傾けているようだった。

「アーサー、目を閉じて」

 モードレッドは主人の頭を膝に乗せて、髪を梳きながら呪文を唱えるように語りかける。

「今一度、眠りについてごらん」

 いつにも増して、モードレッドは主人へ慈愛に満ちた眼差しを送る。

「目が覚めたら、いつもと何も変わらないよ」

 主人の喉がヒックっと鳴る。モードレッドは柔らかな口調で続ける。

「どうしたって、一日が始まるんだ。どんなに望んでも、昨日へ私たちは帰れない、先へ進むしか道がないのだから」

 人は泣けば、自然と瞼に重みを感じて眠ってしまう。まるで子供のようだが、モードレッドの言葉に諭され主人は静かに目を伏せた。

 モードレッドの細い指が主人の涙をそっとぬぐう。

「大丈夫、私もマリーンもずっとここにいるからね」

 私は沈黙を貫いたまま、主人の体温を感じながらそっと主人へ寄り添った。



『アーサー様、今日は朝から良い汗をかきましたね』

 庭園を横切りながら、私は主人を見上げた。

 庭園では、モードレッドの従者であるゴーレム達が薔薇の花摘みに勤しんでいる。

 朝食前に主人は今日の修練を済ませた。もちろん、私もご一緒させていただく。

『朝早くから付きあわせて悪いな』

『いえいえ、とっても嬉しいです』

 取りつくろうこともなく、昨夜は何事もなかったかのように、主人は起きてすぐ鍛錬に出かけた。

『走ってくる』

 モードレッドも平然として笑顔で送りだす。

 時間は限られてるので、城塞周辺を何周も駆けまわり(城自体がかなり大きいので、大変な運動量にはなる)、城の裏手にある崖を跳躍ちょうやくで何度も登り降り、体術型の基本を何回も確認して、一連の運動が終了した。主人にとっては軽い運動だったようで、息一つあがっていない。

 あっでも、首筋を伝う汗が色香漂います。主人、今日も艶めかしい。んっ、幸せ。

『んっ、どうした?マーリン。オレの首に何かついてるか?』

 額から鼻筋、もしくは頬、そして顎へしたたる汗を、手の甲できながら主人は私へ尋ねた。

『いえっ何でもありません。アーサー様は今日も素敵だなと見惚れておりました』

 私の言葉に軽く赤面する主人。どんな時でも、私の主人は最高に可愛い。

『いつも思うけど、その言い回しなんとかならないのか?』

 私は迷いなく断言する。

『なりません。私の心からの意見です。何を今更、仰せられるのですか?』

『だろうな…』

 主人は呆れたように苦笑いをする。何故、モードレッドは宮廷絵師を常駐させてないのか、残念でならない。私はこの主人の一瞬一瞬をとどめておきたい。

『これからどうなさいますか?』

『そうだな、モードレッドが朝食は用意してるだろうから、それ食べたらスノーの店へ直行だな』

 モードレッドのことだ。昨日のリベンジで一番風呂も勧めてきそうだ。

「アーサー様」

 遠くから小走りでスノーが駆けてくる。白いもを握って、拳を大きく振っている。

『あれっ、昨日と態度が違うような?お気をつけください、アーサー様』

 私の中で一抹いちまつの嫌な予感がよぎった。

『えっ?何を?』

 私の進言を主人は気にもめていない。スノーへ手を振りかえす。

「はぁはぁ…。アーサー様、こちらをどうぞ」

 肩を上下させながらスノーは満面の笑みで、しかし、目は逸らしたまま、主人へタオルを差しだす。強く握りしめてたのだろう、タオルはぐしゃぐしゃだ。

 走ってきたせいか、スノーの頬が紅潮している。いやいや、この雰囲気は違う。もしや、これは…。

『ありがとう』

 主人はスノーからタオルを受けとると、首筋に当てて汗を吸わせた。そんな主人から、あからさまに顔を背けるスノー。これはどう見ても…。

「恋だよね」

『モードレッド様、いつの間に?』

「少しでも近くで見守っていたくてね。ゴーレムに混ざって、薔薇を摘んでたんだよ。ちゃんと、まぎれていたかな?」

『そうですね。そちらへまぎれてたのは、全く気付きませんでしたよ。近くにいらっしゃるのは知ってましたけど…』

 カモフラージュのつもりだろうか?薔薇の花びらが髪の毛に降り積もっている。花籠を持って、薔薇の香りたつモードレッドの様子を見て、まるで、天から舞いおりた女神のようだと素直に感心した。

「スノー君、しっかり眠れたかい?昨日は夜ご飯のときに呼びに行かせたんだけど…。返事がなかったようで、寝ていたら悪いかなと思って、それ以上、声をかけさせなかったんだよ」

 スノーはモードレッドへ視線を移す。

「すいません、寝ていました。お陰様でぐっすり眠れましたけど」

 やはり、主人の予想通り。

 昨日、私の鳴声に起こされることなく、スノーは深い眠りに落ちていたようだ。

 あどけなく笑って答えたスノーに、モードレッドは目配せをした。

「それじゃ、お腹が空いているだろうね。ご飯にしようか?」

 髪の毛についた花びらを散らせながら、モードレッドはスノーに尋ねる。

「はいっ」

 すぐさま、大きな声で返事をするスノーに、モードレッドは質問を投げかけた。

「ところで、スノー君。アーサーのこと、少し怖がっていただろう?今日はどうしたんだい?」

『少し…?』

 生優しい表現ですね。『かなり』の間違いではないですか?

「モードレッド様、アーサー様の前でそんなこと言わないでください」

 スノーは小さな体の前で、手のひらをこちら側へ向け、何度か左右交差させる。

 いやいや貴方…。直接、主人へ手厳しいことも言ってましたよね。

 主人は私たちの会話を聞き流しているようだ。本日の朝食のメニューを考察しているのだろうか。

「アーサー様って、とても美しいですね」

 はいっ、スノー?貴方どうしたんですか?昨日は、あんなに恐れていたじゃないですか?

 恍惚こうこつとさせた顔つきで、それでも目は伏せたまま、主人の足先を見つめるスノーへ私は懸念けねんを抱いた。

「綺麗な顔立ちをされているのは、お会いしたときから分かっていたんですけど…」

 私はモードレッドを仰向あおむかなかったので、表情から推察できないが、多分、気持ちは同じだろう。

「スノー君?」

「お体をお鍛えになられているアーサー様が窓から見えたんです。距離があったし、僕はカーテンの物陰に隠れて見ていたので、こちらには気づかれなくて…。あっ、僕は森で育ったせいか、視力がとても良いんです」

 いえいえ、私たちはもちろん気づいてましたよ。こちらを伺う二つの気配を…。一方はもちろん何者か分かってましたし、もう一方は悪意が見受けられなかったので、確認もせず放置していましたが、やはりスノーでしたか。

「アーサー様って目を合わせなければ、怖くないんですよね」

「そっ、そうなんだね」

「だから、じぃっーと見ていたんです。アーサー様って、野性味あふれてらっしゃるなぁって…。走るフォームがカッコよくて…。跳躍されているお姿がとてもキマっていて…。うふふっ」

 何を今更…。主人はいつどんなときも完璧な美貌を持ち合わせている。

 だがしかしっ、この感じ。

 うっ、これは村の女性達と同じだ。

 以前、主人をわずらわせていた事象を、私は改めて回想する。

 鍛錬の道中。主人は足首を痛めて帰れなくなっていた娘と出くわし、村まで送り届けたことがある。

 娘のくじいた足は私の治癒魔法ですぐに治ったのだが、主人の威圧感に娘は腰を抜かしてしまった。けもの道へそのまま放置するわけにもいかず、否応がなく主人は娘を背中へ乗せた。

『人攫い‼︎』とか、『ろくでなし‼︎』とか、色々と叫んでいた娘だが、しばらくすると口をつぐんだ。

 どうやら、視線さえ合わせなければ、主人への恐怖は半減するらしい。

 娘は後ろから恐る恐る主人の横顔を垣間見て、その端麗な容姿に魅せられてしまったのだ。帰り道、娘は主人と目を合わせないように注意しながら、始終うっとり主人を見つめ、夢心地で心も体もふわふわと揺られて帰路についた。

 後日、娘の話が村中で噂される。

 すると、何らかの理由で動けなくなっている婦女子と主人は遭遇そうぐうして救助するという騒ぎが何件も起こった。

 老若ろうにゃく問わず、年頃のご令嬢から高齢のご婦人に至るまで、相手に伝わらなかったかもしれないが、主人は嫌な顔ひとつせず皆を丁重に扱った。

 ペーターからその騒動を聞きつけたアルムが村長へ忠言をして幕は閉じたのだが、一時、主人は本人の預かり知らないところで、村中の女性達をとりこにしたのだった。

『どうした?マーリン。苦虫を潰したような顔してるぞ』

 汗をぬぐい終えた主人が、私の眉間を二つの指で伸ばそうと試みる。

『やっぱり、そんな顔になってましたか。アーサー様、お手をわずらわせてしまい申し訳ありません』

『マーリンはいつも大袈裟おおげさだな』

 あぁ、主人への複数の視線を感じとる。

 背中にジワリと汗をかく私のことなど露知れず、主人は相変わらず、私の眉間のしわを平らかにしようと奮闘している。

 女性ばかりか、男性までも魅了してしまう主人に私の心労は尽きない。

 モードレッドが主人の肩を叩く。主人が振りかえるとモードレッドも複雑な表情でため息を吐いた。

「今日はスノー君のお家へ行くんだよね。私もついて行っていいかい?」

『オレとマーリンで大丈夫だと思うけど』

 昨夜の件もあって、主人はモードレッドが心配しているのだと思っているようだが、モードレッドの心配は多分そちらではない。

 まぁ、昨夜のことも気がかりではあるでしょうけど…。

「元々、依頼を持ち込んだのは私だから、協力したいんだよ」

『会話とかなら、筆談でも何とかなると思うぞ。人語でなくても、多種族の言葉、古語とかも多少は解読できるし。まぁ、マーリンの魔力のおかげだけどな』

 基本、主人は何事も自分で取り組みたい性格なので、モードレッドの申し出を断ろうとしたが、モードレッドは片手でさえぎると伝えた。

「スノー君は文字を書くことや読むことが得意ではないんだ」

 スノーがその言葉に反応をして、モードレッドを見上げる。

「小さい頃、文字を学ぶ機会が少なかったと言うか、今、少しずつ勉強しているんだけどね。みんな得手不得手はあるだろう。その分、スノー君の得意分野の林檎パイ作りは右に出る者がいないしね」

 モードレッドはスノーへ軽く片目を閉じて微笑む。

「僕、以前、モードレッド様からのお手紙を間違えて読んでしまって、林檎パイ十個の注文を百個ご用意してしまったことがあるんです」

 スノーはもじもじと両指の人差し指を交互に回して、申し訳なさそうに話す。

「あっ大丈夫だよ。全部頂いたから安心して、ほっぺが落ちちゃいそうなほど、美味しかったよ」

 モードレッドの食欲に胸焼けがしそうな気持ちになる。

 それだけ食べても、そのスタイルを維持しているなんて、貴方、多くの女性を敵に回しましたね。

『あれっ?でも、話ではスノーに変な手紙が届いてませんでしたっけ?あの内容はモードレッド様が読んだんですか?』

 スノーの話を脳裏に浮かべ、私は疑問に思い尋ねる。

「あっ、その手紙は私は見てないんだよ。えっと、スノー君にとって、育ての親というか?ドワーフなんだけど、彼が読んでくれたんだったよね?」

「あの手紙の件ですか?そうです。ドックさんが読んでくれたんですけど、僕には理解出来なくて、もう一度、読んでもらおうとしたら、ドックさんの隣に座っていたグランピーさんが怒って手紙を破り捨ててしまったんです」

 おやおや、登場人物が増えてきましたね。ここは主人の従僕、時々探偵助手である私が覚えておかないと、頭のメモ準備OK!

『グランピーさん?その人は一体どなたなんですか?』

「あっそうそう、スノー君の育ての親ね。ドワーフが七人いるんだよ。そのうちの一人かな?私が知っているのはスノー君に林檎パイ作りと林檎の栽培を伝授したハッピーさん?だっけ?彼だけなんだけどね」

「林檎パイ作りはハッピーさんですけど、林檎の栽培はバッシュフルさんです」

 ふっ、こんがらがってきた。私は前足で顔を掻く。主人は私の仕草を心配そうに覗きこみ、そっと頭を撫でてくる。

『何?大丈夫か?マーリン』

 主人の優しさが身に染みて、溶けてしまいそうです。はうっ…。

「ごほんっ」

 軽く咳をはらって、モードレッドは続ける。

「とりあえず、そういう事だから、調査するのに、ぜひ私も連れて行ってほしい」

 有無を言わせない決死の表情でモードレッドが願うので、主人もその眼差しを無碍むげにできず、納得したのだった。

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