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ファンタジーでハードボイルドしてみたさ  作者: 礼三
#1 絶品の林檎パイはいかが? -スノーの依頼-
2/27

#1-2

「アーサー、久しぶりだね。元気にしてたかい?スノー君の依頼を引き受けてくれて嬉しいよ」

 腰まで伸びた絹のようにたおやなな金髪。透明度の高い湖のようなけがれなき碧い瞳。姿形は天使と見違えるような魔王が、私たちを満面の笑みで出迎えた。

 そして、主人と熱い抱擁ほうよう

『モードレッド様、離れてください』

 私はモードレッドの高価そうな白銀の羽織ものを口でくわえて、主人から引きがそうと引っ張る。一瞬、眉間に縦皺を寄せたモードレッドだが、それでも再び笑顔を浮かべると、先程より強い力で主人を抱きしめた。

『苦しい、モードレッド。久々に会えて嬉しいけど』

 慌ててモードレッドは主人を離す。

「ゴメンよ。つい、君に会えた喜びで力を込めてしまったよ」

 ふっ、勝ったな。

 モードレッドは不快そうな眼差しで私を攻撃してくる。魔王の視線はただ悪意を込めるだけで刺さるのだ。例えでなく、実際に突き刺さるので、たちが悪い。

 私たちはモードレッドの洞窟へ転移魔法で移動してきた。難易度が高い魔法を軽く使いこなすあたり、歴代最強の魔王と呼ばれるだけある。

 けど、私も少しばかり準備に時間かかりますけど、転移魔法できますよ。何か?

 主人は少し興奮した面持ちで、モードレッドの肩を組む。

『最初、スノーの集落が何処にあるのか分かんなくて悩んだんだ。スノーもいるから走るわけにもいかないだろ?久々に騎乗?とか。そうしたら、スノーがモードレッドの魔法陣を教えてくれてさ。助かったよ。すごいな、モードレッド』

 お気づきだろうが、主人はモードレッドとも会話をすることができる。モードレッドの超感覚的知覚によって、主人が思考で伝達することを拾うのだ。

「アーサー様って本当に寡黙かもくな方でいらっしゃいますね。アルムさんの山小屋を出てから、すぐに何か悩んでるのは分かったんですけど、何もおっしゃってくれなくて、スゴく考えこんでて…。そしたら、馬の準備をなさっているんで、馬を走らせるつもりなのかなって思ったんです。だから、モードレッド様に言われたとおり、モードレッド様のほどこされた魔法陣を使って帰ってきました」

 馬ではなく、私に呼びだされた精霊のケルピーへ鞍を乗せていたのだが、主人自身も馬と信じているので、何も言うまい…。

 私たちはスノーの案内で、アルム小屋近く、森の木の茂みに上手に隠してあったモードレッドの魔法陣を利用してここまで来たのだ。多分、普通に人の交通手段(馬車)を使えば半年ほどかかる。

「スノー君?君に誰も説明してなかったのかい?アーサーは大きな怪我が元で話せないんだよ」

「えっ?」

 スノーは小さく声をあげた。

 主人本人は話せないという自覚があまりないものだから、普段の動向から、それを人に気づかれることがあまりない。

『必要以上、誰かに伝えませんしね。アルムもわざわざ話しませんし、ペーターもアーサー様のことをそーとー無口な人間と思っているでしょうね』

『そう言えばそうだな』

 主人は上衣のタートル部分を指先で伸ばすと口元を覆い隠した。

「お聞きしてませんでした。すいません、お伺いしてなかったとはいえ、配慮はいりょが足りませんでした」

 スノーはやや沈んだ口調で続ける。

「アーサー様の外見や様子から、不遜ふそんな態度で牽制けんせいされてる気がして、あまり他人と関わるのがお好きではない方なんだと思っていました」

 スノー、反省しているのは分かりましたけど、言っていることは棘がありますよ。貴方、何気にアーサー様にケンカ売ってます?

 スノーは本当に主人を畏怖いふしているのだろうか?この発言にいささか疑問が浮かびあがるが、率直に物申すたぐいに違いない。

『外見?』

『ご安心ください。アーサー様はお美しいです』

「アーサーは私が知りうる人間の中で一番美々しいよ。私は君の黒曜石こくようせきのような瞳が特に好きだね。底が知れぬ魅惑的な深い闇に私はいつも引きこまれそうだよ」

『ふっ、それほどでも…って、そうじゃなくて。外見?様子?近寄り難いってことか?オレ、誰に対しても友好的な人間…』

 主人の言葉をさえぎり、モードレッドは細い指で主人の顎をクイっと持ちあげ、もう片方の手で腰を引き寄せると、伸びた睫毛で隠された主人の瞳を見つめた。

『超絶美形同士が並ぶと感嘆がこぼれちゃう。艶かしいわぁ、目の保養。じゃなくて、そこっ‼︎離れてください。モードレッド様‼︎』

 モードレッドの顔が至近距離で近づきたせいか、主人もいつになく恥じらってしまい、そっけない態度で顎にれた手を振りはらう。

 気を抜くとこれだから困ったものだ。モードレッドは主人にすぐさわりたがる。主人のかたわらの特等位置は私の場所なのに…。

『はいはい、そこは私の立ち位置です。モードレッド様は少し距離を保ちましょうね』

「あのぉ」

 はっ、スノーを置いてけぼりにしてしまった。

 スノーが聞いてるのはモードレッドの言葉だけなのだから、その後の行動諸々は何の脈絡みゃくらくでそうなったのかは計り知れないだろう。

 モードレッドは穏やかな微笑みをたたえて、スノーの肩に軽く手を置く。

「ごめん、ごめん、スノー君。アーサーと言う男は、バカがつくほどにお人好しだから、君は何も心配することはないんだよ」

『バカってなんだ?』

 照れてるのだろうか、不貞腐ふてくされていた主人は髪をクルクルと指でもてあそぶ。あぁ、ここに宮廷絵描きはいませんか?誰かこの刹那せつなを私のために切り取って描いておくれぇ。


 私の興奮が覚めた頃、私たちはモードレッドの城の一角へ通された。所謂いわゆる、応接間だ。洞窟の地中深くある古めかしい城がモードレッドの居住地である。

 主人は長椅子の背もたれに寄りかかり寛いでいる。私はもちろん主人の隣を陣どる。

 あ・た・り・ま・え…。当たり前だ!

 私は主人の従僕である。付き従うのが使命。

 対面にはモードレッドとスノーが並んで、対の長椅子へ腰掛けている。薄紅の生地きじにアラベスク模様の刺繍がなされているこの高級感漂うソファーは座り心地が良い。

「スノー君から説明はあったと思うんだけど、多分、スノー君は狙われている」

『私、何となく分かりましたよ。スノーって知らない間に敵をたくさん作ってそうです』

『失礼だろ?マリーン、こんな素敵なお嬢さんに敵なんている理由わけがないだろう』

 モードレッドが主人の言葉に少し戸惑う。

「アーサー、外見と声色から間違えるのは当然とも思えるが、スノー君は男子だ」

『何っ‼︎男子‼︎』

 現実を受け止めようと複雑な表情になった主人は、迷宮へ踏み込んでしまったようだ。

 あっ、撃沈したかな?感情が無に還った。

『私は分かってましたよ。匂いで』

 私は闇の精霊女王ニムエ様に育てられた由緒正しいブラックドッグなのだ。雌雄しゆうの判別は朝メシ前である。

「僕は男の子です。けど、可愛いとか、愛くるしいとか、めんこいとか、君の美しさは朝露に輝く花のようだね等々、全然言ってくれて構いませんよ。皆さん、おっしゃいますし、本当のことですから」

 頬に両手を添えて、満面の笑みではにかんでいるスノーのその姿は…。

『やっぱり、敵多そうですよ』

「それはさて置き、話を戻そう」

 冷静な口調でモードレッドは話を軌道修正した。

 モードレッドは主人へ視線を移す。熱い眼差しに主人はすぐに気づいたが、先程の経緯いきさつあったので、やおらに目を伏せた。

『だから、そこっ。モードレッド様!』

 モードレッドは気をとりなし、卓上の紅茶を客へ振る舞うと、白磁のティーカップの取手に指をかけ口元へ運んだ。洗練された動きで紅茶を啜り、一息つくと話を続ける。

「矢は正確にスノー君を捕らえていた。あの林檎農園は本来ならスノー君しか通わないからね」

「そうですね。モードレッド様が林檎の実がなったところを見てみたいっておっしゃらなければ、僕、今頃こちらで紅茶なんて頂いていないですよね」

 スノーのティーカップに添えた手が震えてる。狙われた恐怖がよみがえったのだろう。

「スノー君のお店に入ってから、ずっと嫌な気配を感じていてね。スノー君の護衛とまでは言わないけれど、一緒に行かなければと思ったのだよ」

「ありがとうございます。モードレッド様…」

「このままでは命の保証がないと思い、安全のために店を閉めさせて、昨日、この屋敷へ連れてきたわけさ」

 モードレッドは髪を掻きあげる。一つ一つ髪の筋が優美な黄金の光を放ち踊った。

「あの時、私が訪ねていなければ、スノー君の林檎パイを二度と口にできなかったと思うと、恐ろしい…」

 大袈裟おおげさに口を片手で覆い隠しながら、頬に睫毛まつげの影を落とすモードレッド。睫毛まつげの先が露にきらめく。

 それ…。演技入ってますよね?

『えっーと、そこなんですね。心配するところ…。そんなに絶品なんですか?その林檎パイ?』

「スノー君の林檎パイは幻の逸品いっぴんとしか言いようがない」

「お褒めのお言葉、ありがとうございます。モードレッド様はひと月に一度はお越しくださるんです。ハーフエルフの方がこんなに甘いもの好きとは知りませんでした」

 スノーはモードレッドが魔王だという事実を知らないようだ。お金持ちのハーフエルフと思っているのだろう。嗜好品しこうひんは甘いものですと笑顔で答える魔王がいれば、スノーは腰を抜かすだろうか。ちなみにモードレッドの両親は母親がハーフエルフ、父親は恐怖政治で名の知れた魔王である。

『モードレッド様、ご自身が魔王だって伝えてないんですか』

『私は自分が魔王だなんて思ってはいない。勝手に周りがそう呼んでいるだけだ』

 苦々しい表情の魔王の眼差しが痛い。

 主人は相変わらず、モードレッドから視線を逸らして紅茶を飲んでいる。どうやら、モードレッドは忘れずに主人の紅茶へ蜂蜜をたっぷりと注いだようだ。主人はストレートティーが飲めない。

『それはそうと、モードレッド様がこの事件を片付ければ、早く収まるのではないですか』

『私が表に出れば、厄災的被害が起こりえるだろ?だから、アーサーに頼んだんだ。私は悪意の眼光ですら凶器になるんだから。これに耐えれるのは、きっと、アーサーとマーリンぐらいだよ。アーサーへ悪意をぶつけることはないけどね』

『確かに、モードレッド様の魔力は尋常ではないですからね。モードレッド様がほんの少し攻撃魔法を使っただけで、山が消失するでしょうね』

『山だけだと良いけどね』

 そんな物騒な会話を精神感応で私とモードレッドが展開していると、紅茶を飲み終えたスノーが恐る恐る主人に尋ねた。

「アーサー様は甘いものがお好きなんですか」

 おやっ、スノー頑張ってますね。

 主人に対してひどい言いようではあったが、興味をいだいているのか、スノーは勇気を振り絞り尋ねた。

 主人も幾許いくばくか驚いたようだったが、すぐさま、ふわりと微笑んで答える。

『そうだな。何故か周囲の人から霧を食べて生きてそうとか言われてるようなんだけど、オレは甘いものが大好きだ』

「アーサーは甘いものに目がないんだ。スノー君の林檎パイをぜひアーサーにも食べてもらいたいものだよ」

 モードレッドがスノーへ主人の言葉を通訳した。

 主人へのおそれがほんの少しやわらいだのだろうか。残念ながら、視線はやっぱり明後日の方向だけど、スノーは笑みを添えて言った。

「ぜひ、アーサー様にも召し上がっていただきたいです」

「そうだね、それにはまずスノー君、君の安全を確保しなければならない。頼んだよ、アーサー」

 主人は小さく、しかし、確かな決意を胸に刻み、頷いた。



「ところでアーサー。スノー君の家に向かうのは明日でもいいよね。久しぶりに会ったのだから、一日ぐらいは滞在してくれるだろう」

 主人の指が私の毛を軽やかにく。

 気持ちがいいなぁと幸せな時間を過ごしていたのに、その提案には抗議しなくては…。

 私は颯爽さっそうと立ちあがる。

『マーリン?』

 主人は私の行動に吃驚びっくりしたようだ。

『それはどうでしょう?モードレッド様。スノーだって、早く家に帰りたいんじゃないですか。お客様だって、スノーの帰りを待っていますよ』

 私にしか分からないほど瞬時に、モードレッドはせせら笑う。

「スノー君、君は早く帰りたいかい?私は君たちのために薔薇風呂を用意したんだ。お肌がすべすべになって潤うよ。どうだい?もう一日ぐらいゆっくりして泊まっていかないかい?」

 ちっ、美意識高めの男子に有効な誘惑。

 私は舌打ちをした。こうなることを見越して緻密ちみつな計画を立てていたのだろう。

 スノーを一人でアルムの小屋に寄越したのも計算うち。モードレッドの名前が挙がった時点で、主人大好きモードレッドが一緒に来ていないことを疑問に思っていたのだが…。

 さすがはモードレッド、用意周到だ。

 否、感心している場合ではないっ‼︎

『さぁ、スノー!営業は接客が第一だ。断るんだ、勇気を持って、お客様のために!』

「ご厚意ありがとうございます。甘えさせていただきます。僕、薔薇風呂なんて初めてです。嬉しいなぁ。楽しみだなぁ」

 スノー!なんて事だ!語尾にハートマークが見えるよう。

「あっでも、アーサー様のご予定は大丈夫なんでしょうか」

 私はありえない角度で頭を回転させ、スノーから主人へ視線を移した。

 しゅ〜じ〜ん、アルムが待ってますよ。

『スノーがそんなに楽しみなら、断る理由はないし、構わないさ』

「アーサーは大丈夫だって」

『私が構います。今夜は寝ずの番です。モードレッド様がアーサー様にあんな事やこんな事が…。許されるものか⁉︎想像するだけでもいやぁぁ‼︎』

「マーリン、お前は私を何だと思ってるんだ!この妄想変態犬!」

『私は犬ではありません‼︎それを言うなら、妄想変態ブラックドッグです‼︎』

 モードレッドが悪態を吐き、私は反論する。主人は吹きだし腹を抱えて破顔する。

「アーサー様って、そんな風にお笑いになられるんですね」

 予想外の主人を見て、スノーは呆気あっけにとられた。

「アーサーから泊まりの了承は得た。今日は三人で一緒にお風呂に入ろうではないか」

 モードレッドの言葉に、私は感情を抑えきれなかった。

『何ですとぉ!私は断固反対、断固拒否です!』

「グゥゥルゥゥ!」

 私の唸り声で部屋がガタガタと震える。体も大きくなっているようだ。

 モードレッドは私など一顧いっこだにしない。何が起こっているのか分からなくておびえてているスノーを両腕で包みかばっている。

 呆れた顔をして、主人が歩みよってきた。

『何怒ってるんだ?はいはいはいはい、どうどうどうどう…』

 主人は動じることもなく、私の頬に頬を寄せて首筋を撫でる。しなやかな指の流れが、私の心を安穏へと戻す。

『オレが誰かと一緒に風呂へ入らないことは知ってるだろ?』

『バカ犬、お前は冗談も通じないのか?私だって、本人が嫌がることはしないさ』

「クゥゥン」

『申し訳ございません。妄想が暴走して、熱くなりました』

 落ち着きを取り戻した私の様子を見て、主人は腕を組むと、うんうんと頷いた。

『そうか、こんな些細ささいなことで熱くなるぐらい、マリーンとモードレッドは仲が良いんだな』

 私とモードレッドは同時に顔を見合わせた。明日は雹(ひょう』が降るかもしれないというほどに貴重な一瞬だ。

『へっ?』

「へっ?」

 そう、主人は天然でした…。

『主人よ。何をおっしゃっているのでしょう』

『モードレッド、マリーンも一緒に風呂へ誘ってほしい。喧嘩の後は裸の付き合いだろ?』

 唇を人差し指で軽く叩きながら宙を仰ぐモードレッド、そこは否認してもらいたい。

「そのような話、聞いたことはないよ」

『私もです、アーサー様』

「そもそも、私は喧嘩などしてない。マーリンが勝手に暴走しただけだ」

 くっ、悔しいぃ…。

 何も言い返せない。

 自分の提案に満足したのか、主人は私たちの意見などお構いなしだ。

『洞窟の中だから分からないけど、まだ、朝の時間帯だろ?今日はあまり体も動かしていないし、運動してくるわ。どうせなら、汗をかいた後にサッパリしたいし、オレは後で風呂を使わせてもらうよ』

 モードレッドが主人の言葉に狼狽ろうばいする。

「何を言う、アーサーが先に入ってくれ」

「えっ?アーサー様、ご一緒に入られないのですか?マーリンさんが怒ったから?」

 スノーが問う。

「いや、違うんだ。元々、アーサーは恥ずかしがり屋で…。私とも、誰ともかな?一緒に風呂に入ったことがないんだ。今回も断られるとは思っていたんだけど、アーサーを誘ったのはマーリンに対して意地悪を言ってみたかっただけなんだよ…」

 私はある。主人の着替えも毎日、堪能たんのうしている。いや、固唾かたずんで見守っている。

 っていうか⁉︎先程のモードレッドの発言は私に対する嫌がらせですか‼︎

『その説明どうよ?モードレッド。他に言いようがあるだろ』

 主人はモードレッドの肩へ手を置いてたしなめる。

 主人が裸を誰にも見せないのは、喉から胸にかけて裂かれた大きな傷跡が残っているからだ。

『オレたちが来る時間を見越して、既に従者たちがお湯を手回ししてくれているんじゃないのか。せっかくの従者の気配り、勿体ないだろ』

 モードレッドは諦めたようだ。スノーに伝えた。

「時間があるなら鍛錬をしたいから、先に風呂へ入ってくれって言っているよ」

『アーサー様、私もお供します。いつでも貴方様のお側で御身おんみを御守りするのが従僕たる勤め』

 鼻先の主人を見上げて、お供させてくださいと乞う。

『大丈夫だ。モードレッドの城塞だから、なんの危険もない』

『しかしっ‼︎』

『これは命令だ。裸の付き合いでモードレッドと仲直りだ』

 主人は私の鼻頭の前で人差し指を伸ばす。

 そもそも、私は毛で覆われているとはいえ、年中、裸のようなものです。今更、裸の付き合い云々と言われても意味がない。

 なんて、主人に楯突たてつこうものなら、気分を害するのは簡単に想像がつく。私の主人は頑固で融通ゆうづうが利かない石頭だ。

 自分がいた種とはいえ、何故にモードレッドの挑発に乗ってしまったのか?

 反省はするが、納得がいかない。だが、ここで何を伝えようとも主人は譲らないだろう。それが主人だ。

『アーサー様のおおせのままに』

 私は主人の前にうやうやしく頭を垂れた。

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