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ファンタジーでハードボイルドしてみたさ  作者: 礼三
#2 淑女は自由恋愛がしてみたい -ヴィヴィアンの休日-
17/27

#2-4

「アーサー様…。そのぉー…。申し訳ございません」

 本日は星架祭ということもあって部屋が一部屋しかとれなかった。ありがちなシュチュエーションだ。

 泊まる予定ではなかったので、取れただけでも良かったのではないかと私は思う。流石さすがにご令嬢に野宿させるのは気が引ける。主人はひらひらと手を振って気にすることはないと諭した。

 主人の意図は読みとったようだが、ヴィヴィアンは納得いかない。

 ベッドが一つしかない状態で、これまた主人がそれを譲ったからだ。主人は長い足を投げだして椅子へ座ると就寝の体勢をとった。被っていたフードを摘んで更に深く下げる。

「私がわがままを申し上げたばかりに…」

 この方、どこでも寝れる方ですので…。気にすることはありませんよ。

 私は有無を言わさず、ヴィヴィアンにベッドを使ってもらえるよう、息を吹きかけて蝋燭ろうそくを消した。

 今宵は星架祭…。宿屋内でも窓から綺麗な星が眺められるように、小さな蝋燭ろうそくで部屋を灯しているだけであった。

 窓の隙間から星影だけが差し込み、室内に静寂が漂う。


 主人はヴィヴィアンに宿泊所へ帰るように促し送ろうと試みた。やはり、主人といえども、年端のいかない女性と何事もないにしても一夜を過ごすのは躊躇ためらったようだ。

 貴族は町にある宿屋ではなく、城塞都市の中核にある塔の周囲へ隣接している別棟に滞在している。ヴィヴィアンも例外なくこちらへ留まっているようなのだが…。

「あと一日…。お付き合いいただけませんか?」

 切実な面持ちでヴィヴィアンが主人に願いでたため、主人は幾分か渋ったが了承した。

『アーサー様…。宜しかったんですか?』

『このまま帰れば、今日のこともあって明日は自由がきかないだろう?あと、一日ぐらい羽を伸ばしてもいいんじゃないか?』

『アーサー様、ヴィヴィアン嬢に甘くありませんか?』

 私は主人へ物申す。

『オレも子供の頃、兄上…。王の見守りという名の監視が厳しくてな。気持ちはわかるんだ。まぁ、騎士になってからは緩くなったんだが…』

 幼い頃の主人が天使のように愛らしかっただろうことは軽く想像できる。それだけ、王より愛情を注がれていたのだろう。

 箱入り娘ならぬ箱入り王弟だ…。

『よく騎士団へ入れましたね?』

『あぁー、騎士団長エクターの甥の嫁の弟の友人の息子だ!とかなんとか言って、勝ったら騎士隊へ入隊させろ!って、隊員へケンカをふっかけたんだ。もちろん、そこに居た全員蹴散らした…。実力世界だからさ。入隊してしまえばこっちのもんだろ?兄上の目を盗んで、よくやったと思う。すごかったんだぞ…。王の監視…』

 主人は腕を組み頷きながら、当時のことを思い馳せた。

『エクターはオレの剣の師匠なんだけどさ。隠れて入隊したことが兄上にバレたとき、エクターは散々な目にあってたな…。エクターもオレがそんな暴挙にでたこと知らなかったのにな…。オレが14の歳だよ』

 主人…。何を素敵な思い出の一頁のように語っているのですか…。

 口元に笑みを浮かべる主人。その頃から従者を翻弄するのがお得意だったとみえる。

 あぁ、エクターさん。可哀想…。

『甘いかもしれないが…。明日も付きあってやりたい。悪いな、マーリン』

『私は主人の従者ですから…。貴方様に従います』


 ヴィヴィアンは眠ろうとせず、主人の動向を気にかけている。主人は瞼を閉じたまま、彼女の様子を窺っている。

 ブランケットに身を包み、微動だに動かない主人を見て、ヴィヴィアンはベッドに横たわり、何度か寝返りを打つのだが眠れないようだ。

 私も主人の足元へ伏せて、聞き耳を立てながら寝たふりをしている。

 ヴィヴィアンは沈黙に耐えきれず小さな声で尋ねた。

「アーサー様、ご一緒にベッドで眠りませんか?私は端に身を潜めておりますので…。やはり、私が邪魔でらっしゃいますか?」

 おやおや、ダメですよ。

 主人…。私が聞いてもいないのに、自分へ念を押すようにおっしゃってましたよね。

『紳士たるもの、婚約を控えている子女と夜を共に過ごすのは、さすがに…』

 ですから、率先して部屋に入るや否や椅子へ向かったのでしょう…。

 ヴィヴィアンもそんな提案をするのは淑女としては減点ですよ。男はときに暴走してしまうことがあるのですから…。

 主人はそんなことないでしょうけど…。

「たくさんご迷惑をおかけしましたのに、私だけベッドを占領するのはいかがなものかと…」

 そう何度も言うもんじゃありません。

 あぁ、だからほらっ…。

 私は瞑っていた片目を開けて眉を上げる。

 主人は悪戯好きなんですよ。特に好意を持っている人物に対しては…。

 主人は徐にブランケットを放って椅子から立ちあがると、ベッドへと近づいて片膝を乗せた。ギシリっと木の軋む音が鳴る。

 ヴィヴィアンは主人の悪戯心を知ることもなく、シーツを手で伸ばして整える。

 危機意識がないと言うべきか…。

 無邪気すぎですよ。ヴィヴィアン嬢…。

「アーサー様はこちらへ…。えっ?」

 ヴィヴィアンの顎をグイッと片手で持ちあげて、主人はヴィヴィアンの目を覗きこむ。草原のような澄やかなヴィヴィアンの瞳は揺らいでいる。

 ここは止めるべきか…。いやいや、挑発したヴィヴィアン嬢もどうかと…。うーん、でも本人にその意思はなかったですし…。主人もその点は理解してたでしょうけどね…。男心としてはね…。

「あのぉー…」

 言葉は発せても体は固まっているヴィヴィアン。主人はそっとヴィヴィアンの顔の輪郭をなぞり、唇を寄せようと顔を近づける。

『なんてなっ』

 ヴィヴィアンのおでこを主人はそっと触れるように指で小突いた。

「キャッ!」

 思わず、後ずさったヴィヴィアンがベッドの端から落ちそうになるのを主人は優しく抱きとめる。

『だからな。狭いんだよ…。このベッド。二人で寝るには無理があるだろう?』

 ヴィヴィアンが肩を小刻みに震わせている。それを目視した主人は微笑んだ。

『怖がらせてしまったか?…ヴィヴィ?』

 体勢を崩した主人の顔を窓からこぼれ落ちる星明かりが照らしていた。漆黒の水晶のような瞳は魅了されるほどに美しいが、澄みすぎている故に人に恐怖心を植えつける。底が知れない…。暗い暗い闇…。

 主人はヴィヴィアンを受けとめたときに、フードが不意に外れたのだった。

 ヴィヴィアンは主人から視線を逸らし、自身の両手で肩を掴み支えるも身慄みぶるいがおさまらない。明るく溌剌はつらつとした肌が青褪めて、唇は紫色に変色している。

 私が駆けてフードを元に戻す前に、主人は自ら被り顔を隠した。足音を立てずにベッドから下りる。

『なるほど…。マーリンが言っていた『重宝』とはこの効果か…』

 普段から自分が畏怖を放つことを、主人は気づいていなかったのだが…。

 いや…。天然とはいえ、主人もそこまではボケていないだろう。認めたくないだけで…。はっ、主人に対して何たる失言…。

 ヴィヴィアンが主人へ向かい、虚空へ手を伸ばす。

「お待ちください。アーサー様…」

 フードで畏怖を覆った主人は私へ指示する。

『ヴィヴィの側にいるように…』

『まっ、待ってください。私はアーサー様の下僕ですよ。常に一番近くでお守りするのが私の矜持きょうじ…』

 主人は扉へ手をかけて振り返る。

『マーリン…』

 無言の圧…。

かしこまりました』

 そのまま、主人は部屋から出ていった。ヴィヴィアンは茫然として主人を見送ったのだが、すぐに追いかけようと立ちあがる。

「アーサー様!どちらにいらっしゃるのですか?お待ちください!」

 私はヴィヴィアンのスカートの裾を軽く甘噛みして引きとめた。これ以上、ヴィヴィアンが主人を怖がらないように立ち去ったのだ。今は主人を一人になりたいのだろう。

 私に目線を落とすとヴィヴィアンは涙目で訴える。

「違うんですの…。お顔立ちを直視して怖かったのは事実ですけど…。本当に本当に恐ろしかった…」

『えーーーっと…。何が違うのでしょう?』

 私は首を傾げる。ヴィヴィアンはその首に両腕を巻きつけてギュッと力を込める。

 うっ!首が締まる…。まぁ、犬ではないですから大丈夫ですけど…。

 犬に対しては、もっと緩く抱きしめてあげてほしいものだ。

『恐怖を感じたんですよね。それは致し方ないですよ。皆さんそうですから…。私には理解し難いですけど…』

「嫌いとかではないんですの。寧ろ…」

 ヴィヴィアンは床へ座りこみ、私の首筋へ頬を埋める。大粒の涙が流れているのだろう、私の艶やかで豊かな毛がしっとりと濡れていくのがわかる。

「…ぃすきですわ」

 ヴィヴィアンは口ごもる。ブラックドッグの私には、はっきりと届いた声だったが、確認のために尋ねた。

『んっ?今、何て?』

 私の言葉が聞こえるはずもない。ヴィヴィアンは私の背中に頬を預けている。

 ふむっ、長丁場になりそうですな。私の毛、どんどん湿っていきますよ。

 私は主人の指示どおり、ヴィヴィアンに静かに寄り添う。しばらくして、ヴィヴィアンが口を開いた。

「今日一日、とても楽しかったんですの…。アーサー様は初めてお会いした私に親切に接してくださって…」

『主人はお人好しなんですよ…。本人無自覚ですけどね』

「疑似恋愛のつもりでしたのよ。アーサー様にもご迷惑をおかけいたしますし…。こんな短期間で人を好きになるって…。許されるのでしょうか…」

『期間は関係ありませんよ。私、こう見えてフィーリング大切にしているんですよ。何せ、お目見えしてすぐに無理矢理、主人と契約を進めたのですから…』

 一目惚れというべきではないのだろうが、私も主人と出会って直様すぐさまに運命を感じた。

 泣き腫らしたヴィヴィアンは絡めていた手を解いて、私の目を見据えて語りかける。

「先ほどは突然のことで…。けど、今日一日ご一緒くださったアーサー様がアーサー様でしょう…」

 例え、瞼が膨れていても恋する女性は可愛らしい。私の頭を撫でおろしながら、ヴィヴィアンが口を尖らせた。

「あの方の笑顔はとても素敵で…。遠慮なく触ってくる手のひらも温かくて…。この気持ちをどうして良いものか…。私、もどかしいんですのよ」

 寂しげに口許を緩めて、ヴィヴィアンは窓の外を仰ぎみると、星々が華々しく瞬いていた。

「けど、今まで平気だったのに…。どうして、当然、アーサー様を恐ろしく思ったのでしょう?青みがかってまばゆい黒髪も星空のような煌めく眼差しも、とても美しかったのに…。とても冷たくて…。暗闇の奥底へ連れて行かれるような恐怖に襲われて…」

『それはね。西の魔女特製の外套のフードが取れたからですよ』

 私は説明してみるも伝えれるはずもなく、ヴィヴィアンが遠い星空を眺めているのを見守ることしか出来なかった。


『まだ起きてたのか?』

 主人が夜更けに戻ってきた。ニ階にあるこの部屋の軒下付近に主人の気配を感じていたので、外で時間が過ぎるのを待っていたのだろう。いい頃合いだ。

『それはもう…。アーサー様を差し置いて先に眠ることなどありましょうか?』

『マーリン、お前がそれを言うのか?』

 そうでした。私、前科もちでしたね。

 以前、主人が農作業をしていたときにうたた寝していたことがある。

『それはそうと…。何故、ヴィヴィが床で眠っているんだ』

 ヴィヴィアンは私の背を枕にして、そのまま眠りに落ちたのだ。私は立ちあがるわけにもいかず、椅子の下に放置されていたブランケットを、伏せたまま首だけを伸ばして辛うじて咥え、ヴィヴィアンの肩に掛けた状態だった。

『泣き疲れたまま、私に寄り添って寝ついたんですよ』

『泣いてたのか…。オレのせいだろうな』

『まぁ、そうでしょうね』

 主人の問いに私は素直に肯定する。

 主人はヴィヴィアンを起こさないように抱きあげるとベッドへ移動した。

『まだ泣いている…』

 ヴィヴィアンの頬に一筋の雫が伝う。

『アーサー様が怖くて泣いているわけではないですよ。多分、嫌われたんじゃないかと不安に思ってられるのでしょうね』

『オレが?ヴィヴィを嫌う?オレが嫌われているんじゃなくて…』

『アーサー様を嫌うだなんて有り得ませんよ』

『お前の基準ならな』

 おや、言うようになりましたね…。私に途轍とてつもなく好かれている自信はお有りのようで…。

『アーサー様に優しくしていただいたと話しておいででしたよ。楽しかったそうです。ヴィヴィアン嬢がアーサー様を嫌う要素がどこにありますか?』

 驚いたように目を丸くする主人。ヴィヴィアンの発言は想定外だったようだ。

『あんなに怖がらせたのに?』

 そちらの自覚もお有りのようですな。

『主人が恐れられるのは私のせいですね』

 精霊の加護をエミュエ様に乞うたことが最大の原因だと憶測している私は主人へ伝えた。

『そのおかげでオレは今…。生きているんだろう』

 私の本意を知り得たのかは不明だが、主人は私の言葉に返答した。

 ヴィヴィアンの柔らかな頬へ零れた涙を主人は親指で拭きとる。

『オレの声が出ればな。穏やかな子守唄でも歌ってやれるんだが…』

 主人の子守唄…。主人…。独断と偏見ですが、音痴っぽいですよね…。はっ!またしても、暴言が…。

『アーサー様…。歌えたとしても、ヴィヴィアン嬢はもう寝ているのですから、子守唄は必要ありませんよ』

『でもほらっ…。眉をしかめているぞ。寝苦しいんじゃないんだろうか…』

 主人はヴィヴィアンと向きあって横になると背中を単調なリズムで柔らかく叩いた。

 子供ではないんですから…。

 子供の頃、これで弟君をあやしていたのだろう。間違いない…。

 私はベッドの枕元へと飛び乗る。ヴィヴィアンが私の体を枕がわりに頭を擦りよせた。

『私の毛並みが乱れるではないですか』

『何だ?ヴィヴィのために枕になったんじゃないのか』

『まぁ、人肌は安心するというでしょう?犬肌ならぬブラックドッグ肌も安眠効果はあるかもと思いましてね』

『しかし、狭いな。このベッド…。ヴィヴィがぐっすり眠れたら、椅子へ戻ろう』

『そうですよ。紳士たるもの、節度をお守りください』

『はいはい』

 主人はいい加減に合槌を打つ。

 いいですか…。淑女の皆さん…。男は狼なんですから、本来、こんな無防備に接してはいけませんよ。

 私は誰に向かって言っているのだろう…。

 それにしても、ヴィヴィアンは男性に対して警戒心がなさすぎる。恋愛経験が乏しいからだろう。

 主人だったから良いものの…。まぁ、主人も大概な態度でしたけどね。気をつけないと、子羊のように食べられちゃうんですからね。

 ヴィヴィアンの表情が穏やかなものとなったとき、私たちは静かに寝息を立てていた。


 ヴィヴィアン嬢…。

 朝から何をうっとりと目を輝かせているのですか?

 つい先程、ヴィヴィアンは目を覚ましたのだが、一瞬、目の前の主人に呆気にとられ、口を手で覆うと唾を飲みこみ、今は穴が開くのではないかというほど主人の寝顔に見惚れている。

 私は随分と前から覚醒していたのだが、そのまま伏せていたのだ。

 ヴィヴィアンが起きたので、私も頭が転げ落ちないようにもっそりと立ちあがった。

 うっ、痛い…。ずっと枕になっていたので体への負担が多少なりともあったようだ。

 ヴィヴィアンは私の動きに驚いたようだったが、小声で朝の挨拶をする。

「おはよう…。マーリン…」

『おはようございます。ヴィヴィアン嬢…』

 そこで、ヴィヴィアンは主人の片腕が自身の腰へ置かれているのに気づいた。主人が夢から覚めないよう静かに腕を外す。

 主人は無意識のうちに、ヴィヴィアンの身体をベッドから落っこちないよう支えていたようだ。

「アーサー様って完璧ですのよね。こんなに綺麗な方を何故…。私は怖がったのでしょう…。睫毛がフサフサで長くて羨ましいですわ…」

 ヴィヴィアンは私へ語りかけ感嘆を漏らす。

 以前、スノー曰く、主人とはある程度の距離を保ち目を合わせなければ、おののくことはないらしい。

 因みに最近、スノーは主人に慣れてきたので、それほど恐怖を感じることはなくなったようだ。

 まぁ、主人へ恋する男子ですしねぇ…。

 近くにいれば、目を合わせなくても怖がる人間もたくさんいますけど、それは主人がしっかりと目を見開いているときですし…。

 現状、確実に瞼を閉じているので心配はいらないだろう。

『アーサー様?起きてますよね』

 私は主人の寝癖のついた髪へフードを前足で引っ掛けて被せる。ブラックドッグには物を掴めるほど鋭い爪がある。傷跡は残るが…。

 主人を傷つけないように細心の注意をはらいましょう。

 ただし、怪我をしても、主人には私との魔力で治癒魔法が常時かかっているのですぐに治る。

『この状況でどうすれば…』

『あれほど昨日、ヴィヴィアン嬢とベッドを一緒にするのを遠慮していましたのに…。しっかり、添い寝いたしましたね』

『うっ…』

『すぐにでも体を起こせば、宜しいじゃないですか?ヴィヴィアン嬢は主人が隣にいて嬉しかったようですよ?』

 ヴィヴィアンは上機嫌で寝入っている真似をしている主人を見つめている。

『吠えてくれ…』

 何ですと!私は犬ではありませんよ!

 モーニングコール代わりにけとおおせですか?むうっ…。

 主人の命令に私は背くことが出来ようか。否、出来ない。

 他の部屋の客人へ迷惑がかからぬ程度の音量で私は吠えた。

「ワンッ」

「マーリン?しぃーっですわっ…」

 ヴィヴィアンが人差し指を唇の前で立てた。

 私の声を合図に、主人はわざとらしくシーツを伸ばしながら両手をあげる。ゆっくりと上体をベッドから剥がして起きあがった。

『…おはよう。ヴィヴィ』

 ヴィヴィアンは私を嗜めるように視線を寄こすが、これは私の仕業ではない。

 全ては主人の筋書きです。

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