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ファンタジーでハードボイルドしてみたさ  作者: 礼三
#1 絶品の林檎パイはいかが? -スノーの依頼-
11/27

#1-おまけ

「グランピー君。君のその腕を見込んで、アーサーに服を作ってくれないかい?」

 スノーに案内されて、モードレッドは樹海のドワーフの家にお邪魔している。目の前にはドワーフの一人グランピーが対座していた。

 グランピーはキラキラ光るものが大好きで、この世のものは思えないほど、美しく神々しいモードレッドに心を奪われていた。そして、絹のように滑らかな金髪に触れてみたいという欲望を抑えるのに必死だった。背筋にピンと張り詰めた空気がグランピーへそれはすべからずと信号を送っている。

「この間、お世話になったアーサー様に服をプレゼントして差しあげたいんです」

 モードレッドに見惚れているグランピーにスノーがもう一度趣旨を伝える。

 グランピーは服を作ることに長けており、スノーが林檎パイを買いに来たモードレッドにそれを話したところ、折角だからアーサーに服を作ってもらっては?と話が進み、相談に来たのだ。

「でっ、どう服を作ればいいんだい?」

 グランピーは冷静を保とうと言葉を返すが、サラサラと光に反射して揺れる一筋一筋から瞳孔が離せないようだ。

「そうだね…。本当は黒以外にしたいんだけど、アーサーは黒にこだわっているから、基本は黒色で…。前、マーリンにもアーサーの服のことで話したことがあったんだけど、アーサーの女避けになるような奇抜なデザインを希望してたね。うーん、あまり奇抜すぎるのはどうかとは思うんだけどね。私は巷でバックプリントなるものが流行っているって最近聞いたから、それがいいかな?」

 モードレッドは前からアーサーに新しい服を着てもらいたかったようで、マーリンにもリサーチをしていた。

「僕はアーサー様にお似合いになるロゴを入れて欲しいです。アーサー様は怖いんではなくて、美しいってことが一目でわかるような」

 スノーは無邪気に目を輝かせながら、新しい服を想像している。

 グランピーは一つ一つの意見に耳を傾け、啖呵を切るように言葉を放った。

「分かったよ、スノーの恩人だからね!お金は受け取らないよ!明日までには仕上がるから、取りに来な」

 モードレッドは困惑した顔で返答する。

「お願いしたのはこちらなのだから、ちゃんと支払いたいんだけど?」

 スノーはモードレッドの服の裾を軽く引っ張った。モードレッドがスノーの様子から察する。

「受け取らないって決めたんだ!もし、どうしてもって言うんなら、スノーのところで沢山林檎パイを買っとくれ」

 グランピーは一度こうと決めたら引き下がらないのだ。モードレッドは苦笑しながら了承した。


 数日後、スノーの新作林檎タルトと包装紙で覆ってある服を持って、モードレッドがアルムの小屋へ訪れた。

「アーサー、これはスノー君のところで買ってきた新作の林檎タルトと、ドワーフのグランピー君がご厚意で作ってくれた服だよ」

 依頼した翌朝には服が出来あがっており、既にリボンを巻いて丁寧な包装が施されていたので、モードレッドは中身を見ていない。

 アーサー達と一緒に出来あがり具合を堪能しようと楽しみにしていた。

『オレに?』

「スノー君を助けてくれたお礼だそうだよ」

 服の製作をお願いしたのはモードレッドだが、実際のところ一銭も払ってはいないので、そう伝えた。

『オレとしては服も気になるけど、新作の林檎タルトやらを早く食べたい』

 アーサーが林檎タルトの入った籠に手を伸ばすと、モードレッド優しくそれを制した。

『私も初めてここで見るんだよ。服を先に見てみないかい?』

『どのような服ですかね?』

 アーサーはモードレッドから包みを受け取る。マーリンが興味津々とばかりにアーサーの周りをうろつく。渋々ながら、アーサーはリボンを解いた。

 アルムはお茶を入れようとして、棚へ茶葉がないのに気づき、食品庫へ探しに奥へと向かう。

 モードレッドが初めてこの小屋へ訪れた当初、アルムに鼻先で玄関ドアを閉められた経験からしてみて、お茶でもてなしてくれるようになったのは凄い進歩だといえる。

 ガサガサと包装紙をテーブルの上でアーサーが豪快に破り、折り畳んであった半袖シャツを広げた。

「…」

『…』

『…』

 それは、黒地にバックプリントで女性の二本の腕が背中に絡まっているという服だった。とても精巧にできており、遠くから見れば、女性が抱きついている濃厚なラブシーンを見ているようだ。

 胸元には『ARTHUR IS BEAUTIFUL』とロゴが入っている。

『…斬新なデザインですね』

 マーリンは服から目を逸らしながら、意見を述べた。

「マーリンから要望のあった『女避け』が、こんな形で表現されているんだろうね」

『確かにこれでは女性は引きますね』

 アーサーは心なしか青ざめた表情で絶句していたが、気を取り直して感想を洩らす。

『これ着て歩いたら、変態だろ?…作ってくれた気持ちは嬉しいんだが』

 モードレッドは笑って言葉にならない。

「なかなか、面白いTシャツじゃな?」

 茶葉の缶を片手に現れたアルムに、驚いて一同振りむく。

「ここんところ『ARTHUR IS BEAUTIFUL』ってあるんだよ。本人が着るに勇気いることないかな?」

 モードレッドがロゴを指さしながら、アルムに尋ねる。アルムは少し考えるように首を傾げたが、臆面もなく答えた。

「アーサーは美人じゃから、別に良いじゃろ?」

 茫然とする一同に、アルムは続けた。

「何じゃ?気に入らんのか?何ならワシが着る」

 アーサーは服を持ったまま、風刺画で例えるならば、灰になった状態だった。

『親バカですね』

 マーリンが的確な言葉を残した。


 結局、この服はアルムが家着として着用している。アーサーがこの服を着たままアルムが外出するのを断固拒否したからだ。

 ただ、ペーターだけはこのアルムの姿を何度か目撃することになり、「アルムが乱心した」と心配していることは言うまでもない。

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