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聖女様とお出かけ①


外が夕日でオレンジ色に染まってきた頃、玄関のドアが開き遥花の声が聞こえてきた。

音絃は身体を起こして玄関に迎えに行く。


「ただいま……」

「おかえり。どうしたんだ暗い顔して」

「うぅぅ……鍵が……鍵が……」

「鍵がどうしたんだ。とりあえずあがって落ち着けよ」


コップにお茶を入れてリビングで待っている遥花に渡す。

暗い顔は家の鍵の件で何かあったのだろう。


「まずはお茶でも飲め」

「ありがとうございます……」

「落ち着いたか?」

「はい……」

「で……何があったんだ?」


気を許してくれて最近は落ち込んでいるかも分かるようになっていった。

顔を下げて落ち込んだ様子で遥花は口を開く。


「鍵を作りに行ったんですけど……作って貰えなかったんです……」

「そうなのか。どうしてなんだ?」

「親と一緒に来ないとダメだって……ガキが調子に乗るなよって……」

「そんなことを本当に言われたのか……?」

「はい……でも、また明日お願いしに行きます!」


いくら相手が子供だからと言っていいことと悪い事はある。


人が安心して帰って来れる場所……それが家。

安心して気を抜くことが出来る家を守るのが鍵だ。

その鍵を作ってたくさんの人に提供する鍵屋がそんな事を言っていいのか?

答えは否だ……絶対に否だ。


人の心を軽々しく傷付ける者に人の生活を守る家の鍵を作る資格なんてある訳が無い。

そんな大人に遥花は関わらせて悪影響が出るだろう。


「そっか……でも明日は一緒に行くよ」

「だ、大丈夫ですよ!私は平気ですから」

「遠慮はするなよ。これからは頼ってもいいんだぞ」

「そうですね……ありがとうございます……じゃあお願いしてもいいですか?」

「任せろ」


一人で行かせるのはどうしても心配だった。

まあ、遥花が家に帰れなければ俺も困るからでそこの心配をしているだけだが。

それよりも今心配な事が……


「なので……今日も泊めて頂けませんか……」

「やっぱりそう来るか……白瀬は親と仲悪かったりする?」


それを聞くとまた急に顔が曇った。

家庭事情に首を突っ込めるような人間じゃないので別に無理に聞くことは無い。


「ああ、言いたくないなら無理して言おうとするなよ。それに安心しろ、ダメなんて言わないからさ」

「聞かないでくれるんですね……」

「知られたくない事の一つや二つ誰にでもあるさ……な」


遥花は両親との関係を言いたくないように、音絃も色々な過去は知られたくない。

生きていれば誰にでもあるはずだ。


「じゃあ……とりあえず服、買いに行こうか」

「え……あ、そっか……服も替えの下着もないですもんね」

「言うなよ……せっかくオブラートに包んで話したのにさ」

「すいません……」

「別にいいけどさ……まあ行こう。暗くなる前に」


戸締りをすぐに行い、鍵を閉めてから二人で家を出る。

鍵はポケットにしっかりと仕舞った。

音絃まで鍵をなくし、二人揃って野宿となってしまえば元も子も無い。


「それで鍵を買うお金はあるのか?」

「鍵を買うお金ならあります。でもそうすると食費も服を買うお金もなくなり……ます」

「やっぱりそうか……言えなかったよな。話も聞かずに出てきてごめん。食費と服の代金は俺が出すからさ」

「でも……申し訳ないです」

「どっちにしろ食材については買わないと作って貰えないだろ?服は気にするな。ただの気まぐれだからさ」

「でも、ただでさえ泊めてもらっているのに申し訳ないですよ」

「じゃあ……これからの白瀬への投資って考えてくれよ。美味い料理を作ってくれるんだろ?これじゃ少ないくらいだが今は我慢してくれ」


遥花が作ってくれる食事はまだ食べた事がないので味がどうかは分からない。

誰かと一緒に食事が出来るのがどれだけ幸せな事かを知っている者にしか分からないのだ。

そう……決して遥花の為ではない。

結局は自分の欲を優先する自己中心的な人間でしかないのだ。


「いつも貰ってばかりで本当に申し訳ないです」

「Give and takeだよ。それにさ……謝られるより『ありがとう』とお礼を言われた方が嬉しいもんだよ、こっちも」

「そうですね。ありがとうございます黒原くん」

「やっぱそっちの方が断然……いいよ」

「はい!てっ……あ、ちょっと待って下さい黒原くん!置いていかないで下さい!」


横を歩きずらくなって遥花から逃げるように音絃は前に出た。

あんな顔を見たらそりゃ……逃げたくもなる。



(可愛い過ぎるだろ……あれは反則だ…)



結局、ムニクロに着くまで一緒には歩けなかった。

家から歩いて二十分位の場所にあるので割と近い方だろう。

家の周りには色々な店が揃っていて、服屋に靴屋、本屋に百均、スーパーがあり、ほとんど不便だと思った事はない。


「とりあえずは部屋着を選んできてくれ……ってまだ怒ってるのか?」

「黒原くんは私から逃げたのが悪い……です」

「悪かったよ……まあ、とりあえず部屋着と下着分渡しとくから買ってこい」


どのくらい出せばいいのか分からないので財布から札を一枚渡しておく。


「五千円?!そんな高いのは買いませんよ!」

「俺は女性のそういう事情はよく分からないからとりあえず渡しとく」

「ええ……渡しすぎですよ」

「じゃあ俺は近くの本屋で時間を潰すから買い終わったら来てくれ、それじゃあ……」

「待って……下さい」


音絃は立ち去ろうとするが遥花に腕を掴まれる。

音絃は後ろを振り向かない……というか振り向けない。

今の落ち着かない顔を見られたくない。

本当に今はダメだ。


「黒原くん……もしかしてデートみたいとか思ってるんですか……?」


いつもは鈍感どんかんでおバカなのになぜこういう時だけ頭が回るかな。

そういう流れはアニメとか物語の中だけにしてくれ……頼むよ。


「特には……そんな事は思ってなどいないが……」

「ふーん……そうなんですか」


なんだその子供が新しいおもちゃを見つけた時みたいな顔は。

そんな音絃の気を察してなのか遥花はグイグイと近付いてくる。


「そうですか……私の勘違いですか……」

「何を勘違いしているんだか……くだらない。ほら早く買ってこい」

「一人じゃいや……です。だから部屋着だけでも一緒に選んでくれませんか?」

「くっ……」


遥花のこの上目遣うわめづかいはわざとなのか無意識なのか分からなくなってきた。


「分かったよ……部屋着だけだからな?」

「ありがとうございます黒原くん」


こうして遥花の部屋着選びに付き合うことになったのだった。

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