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聖女様と誘惑属性

色々なハプニングがあったが、やっと一息つくことが出来た。

音絃はキッチンに向かいコーヒーを入れる。


遥花には顔を洗って頭を冷やしてこいと洗面所に送り出した。

あんなダイナミックな格好で誘惑され続ければいつかは音絃の糸が切れてしまう。


あんな事を来る度にされてはたまらないが、朝の寝起きだけらしいのでもう大丈夫だろう。

ここで大丈夫という言葉で終わらせてはいけない気はするが、今はまだ放っておこうと思う。


「黒原くん!ちょっといい?」


呼ばれたようなのでコーヒーはまた後で飲むことにする。

今日の朝から「黒原さん」から「黒原くん」へとグレードアップしたのを気付いたのもついさっきの事だ。

少し距離が縮まった気がして少し嬉しかったりもする。


「どうしたんだ?今行く」


呼ばれた声に応えながら音絃は遥花のところへ向かう。


こんな生活を毎日送るのはきっと疲れるだろうが、退屈で孤独な日常を送るよりはずっと楽しい。


昨日の半日で心情の変化は大きかったが自然と違和感はなく、むしろ楽に感じている。

最近の自分が無理をして感情を抑え込んでいたからなのかもしれない。


「その……服が濡れちゃって……私の制服乾いてますか?」


ほらな、こんなことを思っていたそばからこれだ。


遥花には誘惑属性でも付いてるのかと言わんばかりに色々な事が次々に起こるのだが、音絃にとって効果はいまひとつのようだ。

だからと言ってそんな攻撃を受け続ければ音絃も社会的死、及び瀕死になってしまう。


「乾いてると思うけどそれを取ってこいと?」

「はい!お願いします」

「洗面所からは出れなそうだけど……恥ずかしいのか?」

「え……でも……」


勿論取りに行くつもりだが、少し仕返しがしたくなったので軽くからかってみたのだが音絃はまた忘れていた。

遥花は普通が通じないことを。


世間の常識を知らない箱入り娘の遥花はそうはならなかったのだ。

そしてまた盛大にやらかす。


「……そうだよね。私が取りに行かないとだよね」

「嘘だぞ……気にしなくていいからな?」


だが、音絃の声は遥花の耳に届くことはなくドアは開く。


「呼んじゃってごめんね……自分で取りに行くから」

「ちょっ……見えるから見えるから!隠して!てか少しは恥ずかしがってくれよ!」

「へ……?」

「自分の格好を人に見られたらまずいと思って俺を呼んだんじゃないのか?」


遥花は音絃に背を向けた状態でその場に立ち止まり、頭を抱えて必死に考える仕草をしたと思えば、耳が急に赤くなってその場にしゃがみこんだ。

もう顔は見なくてもどんな表情をしているかが手に取るように分かる。


「もう恥ずかしすぎて動けないです……」

「大丈夫だから……見てないから早く下着と制服に着替えてきてくれ」

「ほ、ほんとですか?」

「まじのまじだ……だから早く行け」

「よかった……着替えて来ますね」


そういうと逃げるようにベランダへと向かっていった。

これで理性を保っている自分を誰かに褒めて欲しいくらい頑張っていると思う。


好きになって幸せにしたいと心から思える相手としかそういうことはしないと決めている。

そもそもそう思える人はいないだろうし、いたとしても相手がこちらに好意を持ってくれていなければ意味が無いから、一生そういう人は現れないだろう。


独身で生きていく覚悟はしていた。

そんな中、音絃の前に現れたのは遥花だった。


半年前から隣に住んでいるのは知ってたが、特に関わりを持とうとは思わなかったのでほとんど話していなかった。

学校では『聖女様』にお近付きになろうとたくさんの男子が群れている中、音絃は友人とパンを食べながら駄弁っているのがいつもの日常だ。


自分の欲を満たそうとして、相手の気持ちも気にせずに遥花の周りに集まるような奴には振り向くわけがないのも分からずに。

そんな奴らをあわれれだと思いながらも遠めから眺めて、いつも過ごしていた。


ベランダから制服姿の遥花が戻ってきた。

制服を着た白瀬からは『聖女様』の風格がにじみ出ているがそれは外側だけで、本当の姿を知っている音絃にはそうは見えなかった。


「黒原くん乾いていました!ありがとうございます!」

「そか……よかった。それで白瀬」

「なんですか?」

「今日の昼には鍵を作りに行くんだよな?」

「はい!半日間お世話になりました……」


遥花は深々と頭を下げて礼を言う。

別にその言葉は今聞く必要はないのだが。


「何言ってんだ?これからも一緒に食事するんだから今言う必要はないぞ。その挨拶は完全に縁を切る時だけにしてくれよ」

「そうですね !言い直してもいいですか?」

「当たり前だ……こばむわけがないだろ?」


そして遥花に笑いかけると笑いかけ返してくれる。

独りだった日々の寂しさがこれからの生活の期待で上塗りされていく。


「これからもよろしくお願いしますね黒原くん!」

「こっちこそよろしくな白瀬」


互いの足りない欠けた部分を補い合うこれからの生活でもっと遥花のことを知ることが出来る。

利害の一致はさほど重要視していないのだ。


「じゃあ……私は鍵を作りに行ってきます!」

「おう……行ってらっしゃい」


そのまま遥花は玄関から出ていった。


「さて……何しようかな……やっぱり部屋の掃除かな」


見渡す限り散らかり放題の家に作りに来てもらうのは気が引ける。

遥花が帰って来る前に音絃は部屋の片付けをしようと取りかかったのだが状況は更に酷くなった。

本棚から本は落ちてくるし、まとめて山積みにした荷物も崩れ落ちてまた散乱さんらんするでもう滅茶苦茶だ。


「これは大人しく助けを待とう」


ソファーに座り一息つきこれ以上散らからないように大人しくスマホでニュースを見る。

夕食の遥花の手料理を楽しみにしながら、帰ってくるまでの時間を潰すことにした。

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