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聖女様の応急処置

「音絃くん大丈夫ですか……?」

「大丈夫だから心配はいらん。それより早く買い物に戻ろう」


なんとか危機は脱却する事は出来たが音絃の肩の激痛は治まらない。

今すぐにでも冷やしたいがもうこれ以上は遥花に心配をかけられない……いやかけたくない。


「音絃くん……今日は帰りましょう」

「だから大丈夫だって……」

「じゃあ今ここでその肩を見せて下さい。なんともなかったら買い物を続ける事にしましょう」

「ちょいと失礼するぞ……」

「待て蓮!」


音絃の服は蓮の手によって肩だけ脱がされる。

その露わになった右肩には手形の痕がくっきりと出来ていた。


「おい……まじか。お前どんだけ我慢してんだよ」

「これはさすがに酷いね……」


蓮も杏凪も予想以上の怪我の重度に驚きを隠しきれていない。

だが遥花は二人に比べて反応がもっと酷かった。


「どう……して……こんな酷い事を音絃くんがされなければいけないの……」

「遥花?!泣かないでいいぞ」

「そうだよはるっち。今やらないといけない事があるでしょ?大丈夫だから落ち着いて……」


杏凪が頭を優しく撫でて遥花を宥める。

その杏凪の姿を見て蓮がゾッコンになった理由が分かった気がした。

落ち着くような柔らかな声に相手の心に寄り添ってくれる優しい表情。

遥花を聖女様と呼ぶのであれば杏凪は天使様と言っても差し支えないだろう。


「音絃くん家に帰りましょう……」

「でもまだ買い物が……」

「それは俺たちに任せろよ!」

「そうだよ私たちに任せてよ!」


二人は手でピースを作りながら眩しすぎる顔で笑いかけている。

買い物リストはあるのでここは素直にお願いをするべきだろう。


「これが買い物リストで後はお金の五千円くらい渡しとくから宜しく頼む」

「おう!任されたぜ」

「黒原くんはあんまりはるっちに心配かけちゃダメだよ?」

「わってるよ……その……サンキューな」

「音絃くん行きますよー」

「了解。じゃあよろしく頼む」


音絃と遥花は二人と別れてスーパーを後にした。

歩く度に振動で肩が揺れて痛いが本当にこれ以上は心配をかけられない。

何か話をして気を紛らわせなければと思っていると先に遥花が口を開いた。


「いつもあの人たちからさっきのような事をされているのですか?」

「いつもじゃないよ……多分、蓮が色々と裏で動いてくれてるからあまり手を出されないだけだと思う」


それは今まで予想でしかなかった推察も今日でほとんど確信に至った。

蓮がいなければ今頃は学校に通っていなかったかもしれない。


「あの人たちって確かうちのクラスにいましたよね?」

「そうそう。うちのクラスの陽キャ組だよ。てかよく話しかけられるだろ……あいつらに」

「そうでしたっけ……?」

「いつも周りにいるのに名前も覚えてないって……どんだけ眼中に無いんだよ」


遥花の周りとの距離の取り方は折り紙付きらしい。

音絃でもさすがにいつも周りにいられたら名前くらいは覚えるはずだ。

外界との意識を完全に遮断する事は常人が簡単に出来る事ではない。


「遥花はすげえーな……俺も見習いたいよ」

「そんなに難しい事じゃないと思うのですが……」

「それでいいよ遥花は……」


暫く会話しているうちに家の前まで来ていて、その頃には肩の痛みもすっかり忘れ、話に夢中になっていた。


「私たち変わりましたね……」

「そうだな……全く関わる気なんかなかったんだけど。縁って分からないもんだな」


二人で雨の中を帰ってきたあの日とは天候も雰囲気も遥花にとっては帰るべき場所も全てが違う。

これを見て関係性も対照的に変化したと言えるだろう。


「早く戻って冷やしましょう!」

「そういえばそうだったな……今更また痛くなってきた……」

「急ぎますよ!」


エントランスを抜けエレベーターへと乗り込む。

家のドアの前まで来ると遥花はバックから鍵を取り出し鍵穴に差し込む。

その瞬間にこそばゆさを感じながら遥花に連れられるがままに家の中に入った。


帰って来るとすぐに遥花は保冷剤を用意してくれて薄いタオルに包まれた保冷剤はひんやりと冷たく、患部に当てると少し沁みる。


「やっぱり内出血みたいですね。ほんとにどれだけ我慢してたんですか……?」

「そんなにはしてないよ」


正直なところかなり痛かった。

表情では冷静さを保っていたが内心は我慢の限界だったところだ。


「とりあえずRICE処置が一番ですね」

「それなんだっけ?」

「音絃くんは仮にも次席ですよね……?しっかりして下さい。RICE処置は、R→安静(Rest)I →冷却(Ice)C→圧迫(Compression)E→拳上(Elevation)で、スポーツなどの一般的な応急処置の事ですよ?」


そういえば保健の授業で習った気がする。

音絃は勉強した内容をその時だけしか覚えていないタイプの人間なのですっかり頭から抜け落ちていた。


「そういえばそうだったな……」

「でも最近では安静と冷却を否定する説が出てるんですよ。冷却は痛みを引かせる効果があるので実用しますが……」

「さすがは首席様だな……物知りで助かるよ」

「首席様じゃなくて……ちゃんと遥花って呼んで欲しいです……」


プクー不満げに頬が膨らむ。

その小さな顔に付いた丸い頬を軽くつまむと子猫とじゃれている気分になった。


「ねおきゅん……はなひてくりゃはい」

「もう少しだけダメか?」

「ぜっちゃいにだゃめれす!」

「はいはい……もっとしてって事だな?了解了解」

「ねおきゅんのいじゅありゅ……」


結局、その後すぐにインターホンが鳴り、蓮と杏凪の来訪によって中断された。

もう少し楽しんでいたかったがこれ以上すると遥花が不機嫌になりそうだったので丁度よかったのかもしれない。


音絃が玄関にドアを開けに行こうとすると遥花はニコニコとしながら立ち塞がった。


「音絃くん……ちょっとだけ耳を少し貸して」

「別にいいけど……」


そう言われるがままに遥花の顔に耳を近付ける。


「今度ちゃんと仕返ししますから……覚えておいて下さいね……」


慌てて離れると小悪魔になった遥花が二ヒヒと不穏な笑みを浮かべていた。

どうやら丁度よくはなかったらしい。


少し後悔をしながらも遥花なら大丈夫だと言い聞かせて玄関のドアを開けた。

RICE処理覚えておきましょう!

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