緊急襲来イベント②
「いや……その違うんだ。これには深い訳があってだな……」
「なんだ?あのもこもこした物体は」
「蓮くんあれはきっと羊のぬいぐるみさんだよ!」
(何の話をしているんだこのバカップルは……)
訳の分からない事を言っている二人が見ている寝室の状態を確認する。
確かにベットの上には等身大程のもこもこした羊のぬいぐるみが横になっていた。
遥花が咄嗟の判断でぬいぐるみとしてやり切ろうと考えたのだろう。
壁側に顔を向けて手と足は毛布で隠している。
「音絃……もしかしてお前」
(さすがに無理か……?もう観念するしか……)
「あれが無いと眠れないのか?」
「……」
予想していた質問の左斜め上をいく内容を聞かれたので驚いたが、この勘違いしている内容に乗るしかない。
遥花の存在はまだバレていないのはまさに奇跡だろう。
「ああ……もう……そうだよ!あいつを抱いてないと落ち着かないんだよ!文句あるか?」
「別に文句もないし、それは人の自由だからいいけど高校生にもなってそれはないだろ……」
「こうなるから入れたくなかったんだよ……」
「黒原くんにも可愛いところあるんだね。ちょっと見直しちゃった!」
「うっせ、ほっとけ」
【黒原音絃はお気に入りのぬいぐるみがないと落ち着いて夜も眠れない】
というレッテルを貼られ、これからも誤解され続けるのだろう。
これからの蓮と杏凪との関わる度にそんな目線を向けられる。
そう考えただけで憂鬱だ。
寝室のドアを閉めて一息つく。
「それで……そのコップはどういう事なんだ?」
「さっきまで従姉妹が来てたんだよ。説明しようとしてそれを聞こうとせず暴走したのはどこのバカップルだったかな……?」
「その……悪かったよ」
「ごめんね黒原くん……」
なんだか騙しているようで気は引けたが、そもそも勝手に寝室のドア開けたのはこの二人だ。
人の家の部屋を勝手に開けるのは失礼だからこのくらいはいいはずだ。
「まあ、いいよ……とりあえずお茶出すから、飲んで少ししたら帰ってくれ……」
「すまん、ありがとな」
「お礼はいいから他の人ん家で勝手に部屋とか開けて回るなよ」
「大丈夫だ。こんな事はお前にしかやらんからな」
「私もー!」
「お前ら……出てけ――!」
結局、お茶を一杯だけ飲むと二人はあっさり帰って行った。
だが音絃は案外怒っていて、あのバカップルを出禁にするかまで迷っているくらいだ。
そんな事より寝室に待たせている遥花を迎えに行かなければならない。
「もう出てきて大丈夫だぞ――」
寝室を覗くと遥花はさっきの体勢から動いておらず返事はない。
確かにここから見るとぬいぐるみその物だ。
遥花の行動がなければ既にゲームオーバーだったから本当に感謝している。
「寝てるのか?」
暖かい部屋で、もこもこなパジャマを着てベットに横にもなれば眠気に襲われるのも普通だろう。
だが同級生の男子の家で寝るのは確実にダメだ。
確かに音絃は手を出さない人畜無害寄りの人間だが仮にも思春期真っ盛りの男子高校生の自宅でこんなにも無防備で居られるとさすがに色々と危ない。
音絃は遥花に男として見られていないという考え方が妥当だろう。
「全く……無防備過ぎるんだよ。襲われたらどうするつもりなんだか……」
そういえば一週間と少しの間、一つ屋根の下で一緒に生活していたが一度も寝顔を見た事がない。
何回か見る事が出来る瞬間はあったが音絃自信が目を逸らして避けていた。
音絃から見ても遥花は魅力的だと思える少女なのだが、この秘密の生活は始まったばかりで、何かの衝撃で簡単に壊れてしまいかねない。
決してヘタレている訳ではないのだ。
「黒原くんは……私を抱いて……いないと眠れないんですか……?」
「そう言う事になってしまったな……全くこれから憂鬱だ……よ?」
…………ん?
遥花は今なんと言った……というか起きていたのか……?
今の現状を理解し一気に冷汗が出る。
「そのだな……違うんだよ……あれはその場をやり過ごす為の……」
「わ、わ、私は……黒原くんが……望むなら……」
「焦って訳の分からない事を言ってるぞ。落ち着け!」
もうこのやり取りも何回目だろうか。
毎回起こる度に音絃は心臓にダメージを受け、遥花は黒歴史を増やしていく。
だが今回は過去一まずい状況になってしまった。
「悪かった……だからって……お、お、お前……何してるんだ?!」
振り返ると着ぐるみパジャマを脱ぎ、黒い下着が露わにした遥花がベットの上に座っていた。
全身に手入れの行き届いた真っ白な肌が黒い下着と対照的で綺麗だ。
その肌に触れてみたらどんな感じなんだろうか。
音絃は無意識に遥花へ右手を伸ばす。
「へ……?」
音絃は伸ばした手を遥花の頭に乗せて優しく撫でた。
左手は遥花の頬を優しく触る。
音絃は気持ちがぐちゃぐちゃになった。
そして……
短めです汗
ブクマ感謝です♪




