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冬童話2021 『さがしもの』

カッパの忘れ物

作者: 小畠愛子

「ないんだよなぁ、ないんだよなぁ、でも、なにがないんだろうなぁ?」


 カッパのキューボウが、くるくるきょろきょろ、あたりを探しまわっています。


「ないない、ないぞ、でも、なにがないんだろう?」


 あまりにくるくるキューボウが探しまわるので、見かねてそばにいたカエルのピョンがたずねました。


「キューボウ、どうしたの? なにをそんなに探しているのさ?」

「ピョン、それがね、ぼくもわからないんだ。でも、なにかがない気がして、どうにも朝から落ち着かないんだよ」


 困ったように首をかしげるキューボウを見て、ピョンがあわてて注意しました。


「危ないよ、キューボウ! そんな頭をかたむけてると、お皿から水が落ちちゃうよ」

「ああ、大丈夫だよ。このくらいじゃお皿からは水は落ちないさ」

「でも、カッパはお皿の水がないと、大変なんだろう?」

「まぁね。でも、大丈夫だよ。それよりなにがないんだろうなぁ?」


 ふらふらしながら、森の奥へと歩いていくキューボウを、ピョンは心配そうに見ていました。




「キューボウ、いったいなにを探しているの?」


 次に会ったのは、ネズミのチューでした。チューはキューボウの顔を心配そうに見あげています。


「あっ、チュー。うーん、それがね、なにを探しているのか、全然思い出せないんだよ」

「探しものがわからないのに、探しているのかい?」

「うん。なにかをなくしたってのだけは覚えているんだけど、でも、なにをなくしたかわかんなくってさ。それに、思い出そうとしても、頭が()()()()()()、思い出せないんだよ」

「頭が軽くて?」


 チューは目をぱちくりさせました。キューボウはこっくりうなずきます。


「うん。けさはずいぶん頭が軽くて、なんだかふわふわした感じなんだよ。でも、ふらふらもするし、なんだか変な感じなんだ」

「えっ、もしかして、それって……あっ、キューボウ!」


 チューがなにかをいおうとしていましたが、キューボウはそれを聞かずに、ふらふらと森の奥へ行ってしまいました。


「大変だ、きっとキューボウがなくしたものって……」




「あれ、キューボウじゃないか、そんなふらふらして、どうしたんだい?」


 次に会ったのは、木登りが上手なリスのリス吉でした。地面に落ちていたクルミを拾い集めながら、リス吉はキューボウを見あげました。


「あっ、リス吉。あのね、けさからなにかなくした気がして、ずっと探しているんだよ。でも、いったいぼく、なにをなくしたんだろうか?」

「えっ、思い出せないのかい? それじゃあ探せないじゃないか」

「うん。でも、なにかなくしたのははっきりわかるんだよ。いったいなにをなくしたんだろうなぁ?」

「あっ、わかった。きゅうりじゃないの? ほら、おいらもクルミを集めてるけど、どこかにおきっぱなしにしちゃったりして、どこにおいたか忘れちゃうことがよくあるんだよ」


 リス吉がへへへっと笑いながらいいました。そういわれると、なんだかそんな気がしてきます。


「ありがとう、リス吉。ぼくいつもきゅうりを川で洗うから、きっとそこに忘れてるんだろうね。ちょっと川に行ってみるよ」

「うん。忘れ物みつかるといいね」


 リス吉に手をふり、キューボウはふらふらしながらも川へ向かいました。リス吉も見送ろうと思って、木に登ってキューボウを見ました。


「あっ、待って、キューボウ!」


 なにかを見つけたリス吉は、キューボウに声をかけましたが、キューボウは気がつきませんでした。


「まずいよ、キューボウのなくしものって……」




「うぅ、なんでだろう、頭は軽いのに、なんだかめまいがしてきたぞ。うぅ、気持ち悪い。いったいぼく、どうしちゃったんだろう……」


 ふらふらして、目がまわりそうになりながらも、キューボウはようやく川へ戻ってきました。いつもきゅうりを洗うときにすわる、お気に入りの岩へすわりこみます。


「気持ち悪いよぅ……。でも、早くなくしたものを、見つけないと……」


 頭を押さえながら、キューボウは川の中をじっと見つめていきます。と、自分の顔が水にうつって、キューボウは「あっ!」と声をあげたのです。


「お皿が、ない!」


 そのとたん、キューボウは昨日のことを思い出しました。


「そうだった、ぼく、お皿がちょっと汚れているのが気になって、お皿を外して川の水で洗ってたんだ。そしたらめまいがして、気持ち悪くなってきたから、お皿をそのままにして巣に帰っちゃったんだ! 大変だ、お皿がないと、ぼくたちカッパはカッパじゃなくなっちゃうんだよ! どうしよう……」


 あわててあたりをきょろきょろすると、キューボウのこしかけていた岩の近くに、まん丸く白い花が咲いているのに気がつきました。ひまわりくらいに大きなその花は、まるで……。


「あっ、ぼくのお皿だ! どうしよう、お皿がお花になっちゃってるよう……」


 泣きそうになるキューボウに、白い花が話しかけてきました。


「キューボウ、キューボウ、ぼくだよ、お皿だよ。ぼくたちカッパのお皿は、カッパから離れちゃうと、こんな風にお花になっちゃうんだよ」

「そんなぁ、ぼく、どうしたらいいんだい?」

「大丈夫、ぼくたちお皿の花は、実をつけるんだけど、その実を植えると、お皿になるから、それを頭に乗せてね」

「わかったよ、ごめんね、ぼくがちゃんとお皿を大事にしていなかったばっかりに……」

「気にしないで。それより、今度は大事にしてね。それじゃあ、実をつけるよ」


 お皿の花は、しおしおとしぼんで、そして真っ白な実をつけたのでした。キューボウはまん丸い目を涙でしぱしぱさせながら、その実を地面に植えるのでした。




 カッパのキューボウが頭に乗せているお皿は、いつもピカピカにきれいでした。あれからキューボウは、お皿が汚れないようにいつも気をつけているのです。それでも汚れてしまうときは、しっかりお皿をつかんだまま、きれいに川の水で洗うのでした。


「それに、お皿に乗せた水をあげると、ぼくのお皿だったあの花も、きれいに咲いてくれるんだ。だからいつもきれいにしないとね」


 キューボウは今日も、お皿だったあの真っ白な花のところへ、水をやりに行くのでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 身に着けているのが普通のものって、無意識で外したりしているので、失くした時がどこに置いたのか困る時ありますよね。 かっぱが皿を失くした事件もそれに近いものを感じました。 キューボウが無事な…
[一言] なんてこったい、大変な忘れ物をしてしまいましたね。 忘れ物の内容を発見してしまった森の動物たちも、さぞ大慌てだったことでしょう。 どうなることかと思いきや、なんとか新しいお皿が手に入ってほ…
[一言] 探し物をしていて、なんなのか分からなくなるって私もよくあるなぁと思って読ませて頂いていたのですが、大変な探し物だったのですね。 お皿が白いお花になるなんてとても綺麗で、また新しいお皿の生まれ…
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