カッパの忘れ物
「ないんだよなぁ、ないんだよなぁ、でも、なにがないんだろうなぁ?」
カッパのキューボウが、くるくるきょろきょろ、あたりを探しまわっています。
「ないない、ないぞ、でも、なにがないんだろう?」
あまりにくるくるキューボウが探しまわるので、見かねてそばにいたカエルのピョンがたずねました。
「キューボウ、どうしたの? なにをそんなに探しているのさ?」
「ピョン、それがね、ぼくもわからないんだ。でも、なにかがない気がして、どうにも朝から落ち着かないんだよ」
困ったように首をかしげるキューボウを見て、ピョンがあわてて注意しました。
「危ないよ、キューボウ! そんな頭をかたむけてると、お皿から水が落ちちゃうよ」
「ああ、大丈夫だよ。このくらいじゃお皿からは水は落ちないさ」
「でも、カッパはお皿の水がないと、大変なんだろう?」
「まぁね。でも、大丈夫だよ。それよりなにがないんだろうなぁ?」
ふらふらしながら、森の奥へと歩いていくキューボウを、ピョンは心配そうに見ていました。
「キューボウ、いったいなにを探しているの?」
次に会ったのは、ネズミのチューでした。チューはキューボウの顔を心配そうに見あげています。
「あっ、チュー。うーん、それがね、なにを探しているのか、全然思い出せないんだよ」
「探しものがわからないのに、探しているのかい?」
「うん。なにかをなくしたってのだけは覚えているんだけど、でも、なにをなくしたかわかんなくってさ。それに、思い出そうとしても、頭が軽くて軽くて、思い出せないんだよ」
「頭が軽くて?」
チューは目をぱちくりさせました。キューボウはこっくりうなずきます。
「うん。けさはずいぶん頭が軽くて、なんだかふわふわした感じなんだよ。でも、ふらふらもするし、なんだか変な感じなんだ」
「えっ、もしかして、それって……あっ、キューボウ!」
チューがなにかをいおうとしていましたが、キューボウはそれを聞かずに、ふらふらと森の奥へ行ってしまいました。
「大変だ、きっとキューボウがなくしたものって……」
「あれ、キューボウじゃないか、そんなふらふらして、どうしたんだい?」
次に会ったのは、木登りが上手なリスのリス吉でした。地面に落ちていたクルミを拾い集めながら、リス吉はキューボウを見あげました。
「あっ、リス吉。あのね、けさからなにかなくした気がして、ずっと探しているんだよ。でも、いったいぼく、なにをなくしたんだろうか?」
「えっ、思い出せないのかい? それじゃあ探せないじゃないか」
「うん。でも、なにかなくしたのははっきりわかるんだよ。いったいなにをなくしたんだろうなぁ?」
「あっ、わかった。きゅうりじゃないの? ほら、おいらもクルミを集めてるけど、どこかにおきっぱなしにしちゃったりして、どこにおいたか忘れちゃうことがよくあるんだよ」
リス吉がへへへっと笑いながらいいました。そういわれると、なんだかそんな気がしてきます。
「ありがとう、リス吉。ぼくいつもきゅうりを川で洗うから、きっとそこに忘れてるんだろうね。ちょっと川に行ってみるよ」
「うん。忘れ物みつかるといいね」
リス吉に手をふり、キューボウはふらふらしながらも川へ向かいました。リス吉も見送ろうと思って、木に登ってキューボウを見ました。
「あっ、待って、キューボウ!」
なにかを見つけたリス吉は、キューボウに声をかけましたが、キューボウは気がつきませんでした。
「まずいよ、キューボウのなくしものって……」
「うぅ、なんでだろう、頭は軽いのに、なんだかめまいがしてきたぞ。うぅ、気持ち悪い。いったいぼく、どうしちゃったんだろう……」
ふらふらして、目がまわりそうになりながらも、キューボウはようやく川へ戻ってきました。いつもきゅうりを洗うときにすわる、お気に入りの岩へすわりこみます。
「気持ち悪いよぅ……。でも、早くなくしたものを、見つけないと……」
頭を押さえながら、キューボウは川の中をじっと見つめていきます。と、自分の顔が水にうつって、キューボウは「あっ!」と声をあげたのです。
「お皿が、ない!」
そのとたん、キューボウは昨日のことを思い出しました。
「そうだった、ぼく、お皿がちょっと汚れているのが気になって、お皿を外して川の水で洗ってたんだ。そしたらめまいがして、気持ち悪くなってきたから、お皿をそのままにして巣に帰っちゃったんだ! 大変だ、お皿がないと、ぼくたちカッパはカッパじゃなくなっちゃうんだよ! どうしよう……」
あわててあたりをきょろきょろすると、キューボウのこしかけていた岩の近くに、まん丸く白い花が咲いているのに気がつきました。ひまわりくらいに大きなその花は、まるで……。
「あっ、ぼくのお皿だ! どうしよう、お皿がお花になっちゃってるよう……」
泣きそうになるキューボウに、白い花が話しかけてきました。
「キューボウ、キューボウ、ぼくだよ、お皿だよ。ぼくたちカッパのお皿は、カッパから離れちゃうと、こんな風にお花になっちゃうんだよ」
「そんなぁ、ぼく、どうしたらいいんだい?」
「大丈夫、ぼくたちお皿の花は、実をつけるんだけど、その実を植えると、お皿になるから、それを頭に乗せてね」
「わかったよ、ごめんね、ぼくがちゃんとお皿を大事にしていなかったばっかりに……」
「気にしないで。それより、今度は大事にしてね。それじゃあ、実をつけるよ」
お皿の花は、しおしおとしぼんで、そして真っ白な実をつけたのでした。キューボウはまん丸い目を涙でしぱしぱさせながら、その実を地面に植えるのでした。
カッパのキューボウが頭に乗せているお皿は、いつもピカピカにきれいでした。あれからキューボウは、お皿が汚れないようにいつも気をつけているのです。それでも汚れてしまうときは、しっかりお皿をつかんだまま、きれいに川の水で洗うのでした。
「それに、お皿に乗せた水をあげると、ぼくのお皿だったあの花も、きれいに咲いてくれるんだ。だからいつもきれいにしないとね」
キューボウは今日も、お皿だったあの真っ白な花のところへ、水をやりに行くのでした。