<第七章>二十人の逃走
<第七章>二十人の逃走
「殺された? 訓練を受けたイミュニティーのメンバーが十三人も? そんな事が出来る生き物がいるとでも思っているんですか?」
西川は友の言葉を否定した。
「幾らなんでもそんなことは不可能ですよ。例えどんなに凶悪な化け物が居たとしても、十三人も兵士が居れば負けるはずがありません。きっと電波に異常があるか、通信機の故障でしょう」
「通信機の故障なら向こうも誰かを走らせて、こちらと連絡を取ろうとするはずだ。だがそれが無い。間違いなく全滅していますよ」
西川の組織に対する過信を打ち砕くように、友は強い調子で言った。
「最後にメンバーを送り込んだのはいつだ?」
そのまま続けて自分の正面にいる点のような目をした同僚に聞く。男は時計を見ながら答えた。
「え〜と、今が三時だから大体二時、二十五分くらいだな。ここに来てほぼすぐだ」
「ということは、もう三十五分近く経っている。間違いないな。西川さん、すぐに生存者たちをここから避難させた方がいい。ここは管理室にかなり近い。何が仲間を殺したにしろ、このままここに居座るのは大きな危険だ」
「仕方がありませんね。でも、ここが駄目となるとどこに行けば良いんですか? 生存者たちの中には感染者がいるかもしれない。それを調べるためにも、こうして直ぐに外に出さないで広い場所に集めたのに……」
「抗イグマ剤を生存者全員に薄めて飲ましては? 感染していれば何かしらの反応があるはず」
「抗イグマ剤を? ……分かりました。あまり量は持っていませんが、出来るだけやってみましょう。友は他のメンバーと共に生存者の監視を続けてください。もしかしたらこの中にディエス・イレのスパイや事件の犯人がいるかもしれない。怪しい動きをしているかどうか見張ってて下さい」
「分かった」
友は腕を組んだまま僅かに顎を傾けると、地下飲食店エリアの中心に集まっている生存者たちに視線を向けた。
悠樹は生存者たちの間にどかっと座り込むと、まだ涙の痕が残る目で自分の両手を見つめた。
そうしていると、あの時自分が手を離さなければ、もっと強く掴んでいれば、もしかしたら大助は助かっていたかもしれないという思いが溢れてくる。悔しさで体中が爆発しそうになる。押さえ込んだはずの悲しみが甦ってくる。
「くそっ!」
気がつけば悠樹は全力で拳を床に叩きつけていた。
「何だ? えらく機嫌が悪いな?」
隣に座っていた男がそんな悠樹の様子を見て驚くように言った。首までしかない黒髪を後ろで結んでいるという、珍妙な髪型をした男だ。年は悠樹より多少年上のようで、どこか落ち着いた雰囲気を纏っている。顔だけみればかなり美青年の分類に入るかもしれない。
「俺は岸本源一、二十五歳のサラリーマンだ。あんたは?」
岸本は無理に作ったような笑顔で片手を伸ばした。握手のつもりだろう。だが、悠樹はそれを掴もうとはせずに男の顔を見もすらしないで無愛想に応じた。
「沖田悠樹だ。悪いが今考え事をしてるんだ。話しかけんな」
我ながら冷たい反応だと思いつつも、悠樹は体育座りのような格好を作り、頭を膝の間に潜り込ませた。自分の世界に閉じこもりたいという無意識の意思表示かもしれない。しかし岸本はそんな悠樹の反応などまったく意に介さず、一人で話し続けた。
「なあ沖田、何でこんなことになったんだろうな。俺は普通に気分転換に来ただけなのに……これじゃ逆にストレスを増加させる結果になっちまった。こんなことになるなら、普通に家でごろごろしてれば良かったぜ」
悠樹は無言で下を見つめている。
「あ、そういえばお前聞いたか? この事件で現れた化け物たちはみんなここで作られていた生き物らしいぜ。なんでも横谷晶子っていう館長の命令だそうだ。ほら、見かけたら知らせてくれって、こんな写真までくれたよ」
岸本はポケットから、雑誌の切り抜きのような写真を取り出した。
――横谷晶子?
悠樹はその言葉に顔を上げ、岸本に向き直った。
「どういうことだ?」
「いや、さっき偶然あの青っぽい軍服をきた連中の話を聞いたんだけどな。ここは水族館なんかじゃなくて、実は横谷館長の所有する秘密の実験施設なんだってよ。なんでも特殊な細胞の研究とか言ってたな」
「特殊な細胞……それが鼠魚や魚人を生み出したのか」
「らしいぜ。つまりはこの大量虐殺も全て横谷館長の所為ってことだ。まったく、迷惑な話だぜ」
岸本は両腕を左右に広げ、演技がかった調子でそう言った。
「横谷晶子……あいつがこの災害を……親父を……」
悠樹は自分の中で強い憎しみが沸き起こってくるのを感じた。今まで抱え込んでいた悲しみや憎しみをぶつける事の出来る対象を見つけ、死んだように呆けていた瞳が鋭さを取り戻していく。
「おい、お前……」
「ん?」
悠樹に突然呼ばれ、岸本は多少意外そうに振り向いた。
「その写真を俺にくれないか?」
「うわっ!?」
「ひゃぁあ!?」
敏はトイレから出た瞬間、同じく女性用トイレから出てきた老婆とぶつかった。老婆は悲鳴を上げながらトイレ際の壁に尻餅を付く。
「あ、すいません! 大丈夫ですか?」
敏は慌てて老婆を起こし、埃などを払った。
「いえいえ、こちらも余所見をしていましたので御気になさらずに……」
老婆は笑顔で敏の手を制する。
「本当にすいません。あ、向こうまで荷物お持ちします」
老婆は小さな手提げ鞄を持っていた。敏は丁寧にそれを受け取り腕に抱える。
「悪いわねぇ、見かけのわりにそれ重いでしょう」
「いえ、日頃から鍛えていますんで、大したことは無いですよ」
「……――あなたお名前は?」
「僕ですか? 僕は沖田敏と申します」
「敏さんねぇ……いい名前じゃない。私なんて佳代子よ? 生まれたときからか弱いみたいで、なんだか嫌な名前でしょ?」
「そんな事無いですよ、素敵な名前じゃないですか」
敏は出来るだけお世辞に聞こえないように努めて言った。しばらくそのまま歩くと、老婆は優しそうな笑顔を浮かべて敏の手の鞄を掴んだ。
「あ、もうここでいいわ。最近の若者は皆不親切だと思っていたけど、しっかりした人も居るのね。どうもありがとう」
「これくらい当然ですよ。気にしないでください」
敏は笑顔で一礼すると、老婆から離れ、悠樹の座っている場所の隣に戻ろうとした。だが、その途中で一瞬強烈な憎しみを共感能力で感じ、動きを止める。同時に視界の隅に一瞬だけ野球帽を被った男の頭が見えた。
「ぐっ!?」
よろけた体を建て直し、再び前を向くと、その野球帽男の姿は影も形も消えていた。いや、正確には帽子を取ったのだろうが、帽子を被っているという印象しかなかった悠樹には、それを取られれば見つけることは出来なかった。
「何だったんだ?」
敏は何故今このときに野球帽の男があれほど強い憎しみを抱いていたのか、理解出来なかった。
「よう、長いトイレだったな。大か?」
悠樹はこちらに歩いてくる敏に向かって手を振りながら聞いた。
「で、デカイ声で大とか叫ぶなよ! まったく……」
敏は顔を赤くしながら急いで悠樹の隣に座る。
「いいタイミングで帰ってきたな。何かあの西川とかいう女から話があるらしいぜ」
「話?」
悠樹の視線を追うと、西川や友らイミュニティーのメンバーがこぞってこちらに歩いてくる姿が見えた。
「皆さん、これから配る飲み物を必ず飲んで下さい。これは感染しているかどうか判断する為の薬です。飲まない者は感染者とみなして対処致しますので、そのつもりでお願い致します」
皆の前に立つなり西川は大きな声でそう言った。
「何だあの薬? 気味が悪いな」
岸本が首をすくめながら悠樹と敏の方に視線を傾ける。
「別になんだろうと飲むしかないだろ。わざわざ俺たちの命を助けてここまで集めたんだ。今更変な真似はしないと思うぜ」
その視線に目を合わせることなく悠樹は配られてきた紙カップを受け取った。
「随分素直なんだな、ま、確かに違いないけどさ」
岸本は自分の分を一気に飲み干すと、不味そうに舌を伸ばした。それを見た悠樹と敏もその液体を一気飲みする。
「飲んでお体に異常が無ければ移動を開始します。あちらの三人の先導にしたがって着いて行って下さい」
そう言って西川は飲食店エリアの端を指差した。そこでは既に三人の屈強な男たちがナイフを腰に挿し手招きしている。
悠樹はぞろぞろと他の生存者たちと移動していると、右の定食屋の前に友の姿を見つけた。人の合間を縫って近付き、後ろから声をかける。
「何処に向かってんだよ? 正面扉のロックを外せたのか?」
「――……正面扉からは脱出しない。ロックを解除するために管理室に行ったメンバー全てが死んだ。今向かっているのは別の出口だ」
「全て死んだって!? お前らも大したことねぇな、じゃあ何処に向かってるんだよ」
「船着場だ。シャッターが一応下りているが、内側からなら手動で上げられるらしい。そこからお前らを避難させる。心配するな」
友は全ての生存者たちが自分の前を通り過ぎたことを確認し、その最後尾に着きながら言った。
「船着場か、無事に脱出できればいいけどな」
悠樹は何故か不安な気持ちを感じそう呟いた。
「良いですか? ここからは数グループに分かれて移動します。私たちのメンバーが三人、皆さんが五人で一グループという割合で行動してください。数の問題から一グループだけメンバー一人、一般人三人という形になってしまいますが、そこはご理解ください」
西川は場にそぐわないような非常に丁寧な物言いのまま、周囲に言った。
ここは地下飲食店エリアの関係者用通路から階段を上がった先、作業管理区だ。船着場は一般客が行くような場所ではないため、向かうにはこういう場所を通るしかない。今グループ分けしたのは、通路に走っている無数のパイプや鉄柱に阻害される回避効率を上げるためだった。
悠樹がぼんやり壁やら天井やらに走っているパイプを見つめていると、前から友に呼ばれた。
「悠樹、敏、お前らは俺と一番最後だ。今のうちにトイレや水分の補充を済ませておけ」
「は、お前が一緒かよ。味けねぇな」
悠樹は気だるそうに答えた。それとは対象的にきりりとした声で敏は応じる。
「ってことは俺たちが例外グループか……まあ、友さんなら安心だ。あと一人は誰ですか? 確か一般人は三人でしたよね?」
「ああ、それなんだがお前らと仲が良さそうだった岸本源一にしておいた。知らない人間よりは知っている人間の方が連携は取り易い」
この言葉に悠樹は通路の奥で他の生存者と話している岸本の方を向いた。すると偶然岸本もこちらを向き、嬉しそうに片手をヒラヒラと振ってくる。
それを見た瞬間、悠樹は眉を寄せ、うざったそうに突き出した拳の親指を下に傾けた。
「じゃあ、私のグループは出発しますよ、逸れずに付いてきてくださいね」
西川は課外授業中の先生のような調子で歩き出す。
「……遠足だな」
その様子を見て馬鹿にするような溜息を吐きながら、同グループ内の若い男が着いていった。オールバック気味の黒髪に、白いシャツに黒い革ジャン、黒いズボンといった井出立ちの男だ。悠樹はさきほど男が他の生存者から「トウヤ」と呼ばれていたのを聞いている。
西川、トウヤ、先ほど敏と会話した佳代子などの第一斑が完全に見えなくなると、今度は点のような目をしたイミュニティーメンバーが率いる第二班が動き出した。
「じゃあな友、先に行くぞ。向こうで会おう」
通路の先へ進む直前、そのメンバーは友に挨拶し、緊張した顔つきで姿を消した。
「ゴウン」、「ゴウン」と何かの機械が稼動している音が聞こえる。ヒューヒューと風の音が耳を通り過ぎる。かなり長い時間が経ったかに思われたとき、やっと友は口を開いた。
「行くぞ」
その言葉を合図にすぐに悠樹たちは歩き出した。友、悠樹、敏、岸本の順で狭い通路を進んでいく。
――ん……?
悠樹と敏は歩けば歩くほど共感能力に何かの反応を感じた。強い恐怖の感情だ。心の底から誰かが何かを恐れなければこんな感情は出ることは無い。
「友、もしかしたら……用心した方がいいかも知れないぜ」
悠樹は小声で先頭の友に耳打ちした。
「何……っ?」
友は聞き返そうとしたが、何かに躓き、壁の方によろけた。
「――これは!?」
敏が目の前の光景にいち早く反応する。
友が躓いたのは死体だった。それもついさっき、自分たちの目の前を通り過ぎて言った第二班の人間のものだ。
「っ下がれ!」
突然友が叫び、ナイフを横薙ぎした。すると一匹の鼠魚が真っ二つになって床に落ちる。
「不味い、走るぞ!」
今まで隠れていたのだろうか、急激に周囲の壁やパイプの隙間中から無数の鼠魚が体を這い出してきた。
友たちはその鼠魚の集団を見た瞬間、一目散に走り出した。
「くそっ! 何でこんなところにまで鼠魚が居るんだよ! 一般、二班は全滅したのか!?」
狭い通路を駆け抜けながら足元の死体をゾッとするような目で見る敏。
それに対し、相変わらず感情の篭らない声で友が言った。
「いや――恐らく一班は無事だ。死体から見るに、やられたのは二班だけだろう。とにかく今は逃げるしかない。俺一人ならまだしも、これほど狭い場所ではお前らを庇いながら戦うことなんて出来ないからな」
「広い場所に出るぞ!」
最後尾から岸本が叫ぶ。と同時に友たちは通路を抜け、船着場へと繋がっている倉庫に飛び出した。
倉庫の中は木製のコンテナやら箱やらあちらこちらに無数に詰まれていたものの、ある程度整理されているおかげで障害にはなりそうにない。悠樹、敏、岸本は直ぐに船着場まで走っていこうとした。だが、友はそんな彼らを食い止め一つのコンテナを指差した。
「あれでここを塞ぐ。手伝え!」
倉庫のど真ん中まで走っていた悠樹たちだったが、その言葉を聞いて急いで戻ってくると、友と共に通路の出口にあったコンテナをずらし始めた。その間にも鼠魚たちはどんどん迫ってくる。
「こなくそぉおお!」
悠樹は全力でコンテナを蹴った。すると先頭の鼠魚が倉庫に踏み込む直前、間一髪で通路をコンテナが完全に塞いだ。
「はぁ、はあ、はぁ……」
座り込む岸本と敏。
「行くぞ。このコンテナもいつまで持つか分からない。先に行った西川さんたちのことも気になる」
休む無くそう言うと、友は一人息を切らすことなく歩き出した。
「……気になるか、確かに同感だな」
友の言葉から悠樹は一つの疑問を感じた。何故一斑は襲われなかったのかという疑問を。
倉庫を進んでいくと、一斑の面々と二班の生き残りが船着場への扉の前に集まっていた。といっても二班の生き残りはイミュニティーのメンバー三人しか居ないが。
「ああ、良かった! 友も無事だったんですね、今助けに戻ろうかと考えていたんです」
友の顔を見た瞬間、嬉しそうに西川が駆け寄ってきた。
「心配ない。大丈夫だ」
友はそれに無表情で答えると直ぐに視線を扉の前に向ける。西川はそんな友の態度に若干寂しそうな表情をした。
「この先が船着場ですか?」
「――はい、外に出るにはシャッターを手動で開ける必要がありますが、それさえ行いきればすぐに生存者たちを脱出させられます。シャッターを開け次第、ヘリに連絡して救出してもらいましょう」
「そうか、じゃあ直ぐにでも取り掛かろう」
そう言って友は船着き場への扉を開けた。すると涼しい風が顔を一気に撫で、海の味が舌と鼻に広がる。
「友は生存者たちを見てろ。シャッターは俺が開てくる」
さきほど一般人を助けられなかったことを悔やんでいるのか、二班の一員として生存者たちを先導いていたイミュニティーの、点のような目をした男が友を押しやり先へ進んでいった。
「よし、それじゃ皆さんはシャッターの前に並んで下さい。順番に移動しますので」
この水憐島に来た当初、西川、友と一緒に行動していた角刈りの若い男が大きな声で周囲に呼びかけた。その声にしたがって佳代子、悠樹、敏、トウヤ、岸本、その他の生存者らはげっそりした顔を連ね、水が溜まっているくぼみの横に一列に並ぶ。二班の一般人が全滅してしまった今、生存者たちはわずか八人しか居なかった。
「本当にここから脱出出来るのかしら?」
その内の一人、どこかのお嬢様のような高そうなワンピースを着た女性が不安そうに呟いた。それを真後ろで聞いていた、真っ赤なベストを着た十代後半らしき男が女性に声をかける。
「心配ないよ窪田さん。この鉄板一枚超えればもう水憐島の外なんだ。もうこれ以上何かにお怯える必要なんてないさ」
「佐伯さん……」
窪田と呼ばれた女性は潤んだ目で佐伯を見つめた。
「おいおい、恋愛ドラマは家でやってくれ。それともワザと俺らに見せ付けてんのか?」
一面のやり取りを見ていた初老のスーツ姿の男が手をヒラヒラ二人に向けて振った。
「何だよ、オッサン! あんたには関係ないだろ?」
佐伯は折角の雰囲気を邪魔され、迷惑そうに男を振り返った。だが男は一向に構わずに言葉を続けた。
「オッサンだと? 目上を敬えこのガキが、俺は羽場泰三だ。人前でイチャイチャすんなって言ってんだよ」
「だ、誰がイチャイチャなんか!」
佐伯は顔を真っ赤にして羽場を睨んだ。
「おい、お前ら煩いぞ! ケンカなら脱出してからやれ。それ以上騒ぐなら向こうの倉庫に追い出すからな」
腰に挿したナイフに手を当てたまま入り口を見張っていたイミュニティーのメンバーが怒鳴った。まだ文句はそれぞれあったが、倉庫に出されるのは怖い。仕方が無く佐伯も幅も口をつぐんだ。
「シャッター開かないな。どうなってんだ?」
悠樹は訝しむように、点のような目の男が向かった方向を見た。しかしそこはこの船着場の端にある凹んだ場所であるため、暗さも手伝って何も見えない。
友も勿論男が戻らない事に気がついていた。
「――見てくる」
短く西川に言い、ナイフを抜きながら慎重に部屋の隅、シャッターを開けるレバーがある場所へと近付いていく。そし凹んだ場所までくると、壁に背を付きそこから頭だけを僅かに覗かせ様子を見た。
そこでは点のような目をした男がレバーの前で困ったように頭を掻いていた。
「……桂木、何をしている?」
友はナイフをしまい、溜息を吐きながら聞いた。
「ん? 友か。それがな、レバーが折れちまっててよ。幾ら下ろそうとしても動かねぇんだよ」
「折れてる?」
友はその言葉を確かめるために、点のような目をした男、桂木の前へと回った。すると前にダンボールが置いてある壁に、三十センチメートルくらいの長方形の物体があり、そこから折れたレバーが伸びていた。
「何で折れている? お前が折ったのか?」
「まさか、鉄鋼製のレバーだぞ? こんなもん素手で折るのは不可能だ」
桂木は両手を胸の前で左右に振りながら答える。
「俺が着いた時には既に折れてたよ。きっと水憐島の職員が感染者を出さないように、ペンチか何かで曲げたんだろう」
「……どうかな」
あくまで人間の手によるものだと主張する桂木に対して、友は否定的な目を向けレバーの下に落ちていた緑色の膜のような物体を拾った。それを桂木の前に掲げると、抑揚の無い声で静かに言葉を吐き出した。
「何かがこの船着場にいるぞ」
この前「尋獄2」をちょっと読み直したんですが、誤字脱字や文章能力の低さがかなり酷いですね(今もそんな変わんないけど)。
現在、尋獄1の後方部から修正中なので、もし最近尋獄2を読んで不快に思った方がいらっしゃいましたら、どうかしばらくご辛抱下さい。そのうち必ず修正を行いますので。