<第六章>万象を使役する鳥
<第六章>万象を使役する鳥
壁に自分の体が激突したのを感じる。
口から体液が飛び出すのが見える。
――浅かった……!
悠樹は歯を噛み締め血の味を感じながら、喉で唸った。
ナイフは確かに人魚の頬を傷つけた。だが、それ以上の効果は無かった。
体中が薄い粘膜のような物で覆われている人魚の体は、あらゆる刃物を滑らせる効果がある。地に足を着け振りかぶるように刺すならともかく、元々脂肪やら油でナイフの切れ味が鈍っていた事もあり、空中で、しかもあの不安定な状態での刺突は簡単に反れてしまった。
直ぐ近くに倒れているはずなのに、遠くの方に居るように敏を感じる。敏は傷だらけの体の状態で動いた事に加え、あの高さから落下した所為で意識を失ってしまったようだ。
まさか家族揃ってこの場所で心中する事になるとは思ってもいなかったと、悠樹は自虐的な笑みを浮かべた。水槽中央の底に倒れたまま、起き上がろうともせずに全てを諦めたように空ろな眼で人魚の顔を見上げる。
こんな姿になる前は一体どんな姿の女性だったのだろうか。細い眉毛に高い鼻、二重のある水晶のような眼。膨らんだ豊かな双胸。
「――……は、厳ついオッサンに見下されて殺されるよりは、幾分マシか」
悠樹はそう呟くと、そっと目を閉じた。闇に包まれながら大助と綾の顔を浮かべる。
――これで良かったのかもしれない。もう二度と会うことはないと思っていた親父に、敏に再会出来た。……ある意味――これが俺の人生のハッピーエンドなんだろう。
絶対に理想的な死でも満足できる最後でも無いのに、人生の終わりを認めるために、肯定するために、悠樹は強引にそう考え全身の力を抜き、最後の瞬間に備えた。
「ショォオオァアアアア……!」
遠くの方から人魚の声が聞こえる。
それはまるで鎮魂歌のようにも、葬送曲のようにも聞こえた。
芸術のような美しい声が終わった。
いや、突然止められた。大きな衝撃音によって。
一向に自分の体に痛みがやってこない。悠樹は恐る恐る瞼を開いた。既に大助も、綾の姿もどこかへ消えてしまっている。
水色の水槽のど真ん中、自分と人魚の間に一人の男が立っていた。
紺色の軍服の裾が翻り、視界一杯に広がる。
「大したもんだな。一般人がここまで独力で生き残るとは……」
男は関心したように呟いた。声の響きが、どこか何かを懐かしんでいるようにも聞こえる。
耳まであるその男の茶髪を後ろから眺めながら、悠樹は現状が理解出来ずにただ呆然としていた。
「だ、誰だ?」
何とか言葉を搾り出し聞く。男は直ぐに機械的に答えた。
「国鳥友――非確認生物対策機関『イミュニティー』の者だ」
「イミュニティー……?」
「ショァアアアァアア!」
人魚の苦しんでいる声が聞こえ、悠樹は男の奥へ視線を向ける。すると目を閉じる前とは打って変った姿の人魚が見えた。
狂ったように体をうねらせながら暴れている。水槽の壁に何度もぶつかる事もお構い無しだ。
「な、何だあれ? 何をしたんだ!?」
驚いて悠樹は直ぐにその男――友に聞いた。
「側線器官と脳の上生体に強い衝撃を与えた。しばらくは平衡感覚や触覚が暴走して上手く動けないはずだ」
「側線器官?」
「魚類の体の皮膚表面にある外界の圧力感知器官だ。ここを麻痺させた」
「麻痺させたってどうやってだよ?」
「魚は側線器官によって圧力や水の動きを感知する。つまり振動に関して異常に敏感なんだ。後ろの壁を見てみろ。凹んでいるだろ。そこにあいつの頭を直にぶつけさせた」
――さっきの衝撃音はそれか? でも一体どんな方法で……!?
悠樹は友の言っていることが信じられず、壁を凝視する。考えていることを読んだのか、友は話を続けた。
「生物は突然目の前に得体の知れない障害物が現れると、反射的に回避行動を取る。あいつはお前を殺そうとした直前、急に俺が目の前に降り立ったから、咄嗟に俺を避けて自ら壁に激突したんだ。簡単な原理だな」
普通あれほどの奇怪な化け物の攻撃の真っ只中に飛び出す人間は居ない。悠樹は友のことを自分以上の怖い者知らずだと思った。あっさりと今の行動を言ってのける友に、関心すると共に恐怖を覚える。
「友、早く止めを刺しましょう! 普通の魚じゃないんですよ、直ぐに平常の感覚を取り戻します」
いつの間にこの部屋に入って来たのだろうか。鮫のショー用の広場とこの部屋を繋いでいる扉――正面の足場の上に居る、釣り上がった目のミドルヘアーの茶髪の女性と角刈りの若者が、心配そうに暴れ狂う人魚を見つめた。
「――西川さん、WASPKNIFEのマガジンは残っているか? 貸して下さい」
友は努めて冷静な声で聞いた。
WASPKNIFEとは冷却したガスを刃の先端から放出する特殊なナイフで、元々は熊などの大型生物を仕留めるために、外国の小さな会社が作り出した護身用装備だ。一発仕様するごとにガスの入っているマガジンを変える必要があるが、その威力は凄まじく、この刃を受けた対象は一瞬で凍りつき爆砕する。最近イミュニティーでは官位の高い者は皆、これを基本装備として仕様するようになっていた。だから勿論西川もこれを持っている。
「マガジンはあと三つしか残っていません。大切に使って下さいよ」
西川は名残惜しそうに、WASPKNIFEを水槽の中に居る友に向かって投げ落とした。友はそれをパシっと軽やかに掴むと、水槽中の壁に己が身を打ち付け暴走している人魚に向けて構える。
「自分から壁にぶつかってくれるとはな。これなら永遠感覚の麻痺は解けそうに無いが、早く仕留めるに越した事は無い」
「おい、一人でやる気かよ!」
悠樹は人魚に向かって歩いていく友を見て、咄嗟に叫んだ。しかし友はそれを無視して突き進む。
「ショオォオゥウウウ……」
人魚は友の気配に動きを止め、震える体をこちらに向けようとしたが、やはり平衡感覚が狂っているらしく、大きな音を響かせて水槽の底に倒れた。
「――哀れだな」
友はナイフを人魚の眉間目掛けて突き出した。それは確実に命中するかに思われた。
だが、人魚は最後の力を振り絞りナイフをかわした。同じ動作のまま、これまででもっとも速い速度で、円を描くように尾びれを自分の周囲一体に叩きつける。
轟音が激しく轟いた。辺り一面が埃で濁る。
「お、おい!?」
――死んだか!?
悠樹は冷や汗を流した。何者なのかは知らないが、自分を助けるために死なれるのは後味が悪い。死ぬ姿を見るのはもう親父だけで十分だと思った。
「――心配ない」
前を凝視すると、冷静そのものを象徴するような声が聞こえた。
「ショオァアア!?」
人魚の尾びれは友の顔の真横で止まっていた。別に友が超能力を使ったわけでも、人魚が自分で止めたわけでもない。二人の間に障害物があったのだ。
それは十字型の足場だった。先ほど人魚自身が破壊し、水槽の底に沈めた物だ。
友は人魚の尾びれが動いた瞬間、一歩後ろに下がり、右側に足場の大きな残骸が来るように立った。そうなると当然友を狙った攻撃はここに衝突する事になる。
――地形を利用するのが上手い――!
悠樹は思わず感心した。
「終わりだ」
友は一気に踏み込み、ナイフを人魚の体に差し込んだ。深々と中へ、中へと銀色の光が消えていく。
「ショォオギャァアアアアー!?」
悶絶し、人魚は左腕を友の頭目掛け振り下ろした。鋭く長い爪が友の首と胴体の分断を狙う。
ほぼ同時に友の手の中の刃が振動し、小さな霧を一瞬で作り出す。周囲の温度が僅かに下がり、人魚の腹部が凍った。
その途端、人魚の爪は友の顔の鼻先で動きを止めた。ゆっくりと、骨の抜けた贅肉のようにだらりと地面を目掛け垂れ下がる。
爪が地面に着いた瞬間、友の勝利が確定した。
水憐島総合管理室。今ここにある重大な情報が入っていた。
「『紀行園』でバイオハザード発生ですって!?」
部屋の中央、半円上の机の前にある自分の椅子から勢い良く立ち上がると、柳は悪夢を見た直後のように叫んだ。
「は、はい、それももう数時間前から発生しているようです。ここへの連絡が遅れたのは恐らくこちらの状況を考慮しての本部の判断だと思われますが……」
骸骨のような細長い職員が恐る恐る言った。
「――くっ、不味いわよ。同時にこんな大きな事件を二つも相手にしないといけないなんて……本部でも対処しきれない。間違いなくここの対応は雑になるわ」
「雑に? 厳しくなるのではないのですか?」
細長い職員は聞き返した。
「事件が一つだったらそうでしょうよ。でも今は同時にしかも二つも大きな事件が起きてしまっている。イミュニティーがもっとも苦労して人員を要する仕事は何か、あなた知っている?」
「イグマ細胞の流出阻止……でしょうか?」
「はぁ、脳味噌をちゃんと使いなさい。そんなものは抗イグマ剤をばら撒いておけば何とかなる。人員を裂く最大の敵は情報制御よ。マスコミ、野次馬、情報屋……彼から総力を尽くして事件の秘密を隠さなければならない。幾らイミュニティーが政府組織といっても、隠蔽工作できる内容には限度があるのだからね。ここや紀行園は国内最大級の娯楽スポットよ。何かが起きれば注目する人間の数はとてつもなく多くなる。それが同時に二件もだなんて……分からないなら教えてあげるけど、現状はかなり最悪よ」
柳は深く溜息をついた。魔女のような鼻を擦り、忌々しげに細長い職員を見下す。
「――それで、本部からよこされた応援部隊は一体何をしているのかしら?」
「は、はい。ただいま生存者の確保と感染者の排除、事件の原因究明のための探索を行っています」
「それだけ?」
柳は呆れたように呟いた。
「生存者の救出なんて……らしくない。一体本部はどういうつもりなの? まさか、事件に乗じてここの調査を……?」
最近の横谷晶子館長とイミュニティー本部の不仲は柳も良く知っている。当然のように本部に対する懸念の気持ちが浮かんだ。
横谷館長が人前に姿を見せなくなった理由をしっかり話せば、本部も手荒な真似はしないだろうが、それは余りに『むごい』。横谷館長はほぼ確実にこの水憐島の所有者たる地位を奪われ、本部かどこかの施設に幽閉されてしまうだろう。そもそも、今この水憐島には本部には見せられない研究資料や実験媒体が数多く保管されている。例え何があってもそれらを本部に見せるわけにはいかない。
言葉とは別の場所で本部との壁が生まれるのは必然だった。
「柳管理長、今本部の部隊から連絡が入りました。館長室内に横谷館長の姿は無かったそうです」
部屋の左端に座っていた女性が残念そうに言った。それを聞いた柳は思わず溜息を吐く。
「そう、仕方ないわね。彼らにはそのままここへ来てもらって、私たちの警護をしてもらいましょう」
「分かりました」
女性は言われた通りに通信機に呼びかけた。
「あ、もしもし――こちら総合管理室です。柳管理庁からの指示で……」
ガシャ!
この総合管理室の入口がいきなり開いた。
「ん?」
ロックを掛けていたこの扉が開くはずが無い。開けられるとすれば、柳かそれに近い地位を持つ者だけだ。中に居た職員たちは一斉に扉の方を向く。
そこには一人のスーツ姿の人間が立っていた。
赤毛に近い長く美しい髪。凛とした芸術のような瞳。まるでフランス人形のような顔をした女性だった。
「横谷……館長……」
誰もがこの横谷の不意打ちの登場に驚いている中、柳はすぐに我に帰り、静かに相手の名前を呼んだ。
横谷晶子は無言で柳を見る。
それを怒りだと捉えた柳は慌てて説明を始めた。
「こ、こんな事態になってしまい、申しわけございません。今職員一同全力で事態の収拾に努め、本部から応援部隊も呼んでいます。イグマ活性剤が散布された原因は今だ不明ですが、直ぐに犯人を見つけますのでどうか館長はここで報告をお待ち下さい」
まくし立てるようにそう言った。
「隠さなくていいわよ。広でしょ?」
晶子は最初から事件の全てを知っているかのように、あっさり犯人を言い当てた。この言葉に柳は驚愕する。
「――はっ、はい。弟さんの広くんが今朝、地下のあの場所でイグマ細胞活性剤をパイプに流している姿が確認されました。で、ですが……どうしてご存知なんですか?」
「どうしてもこうしてもね……いずれ何かするとは思っていたから」
柳は晶子の言葉を理解出来なかった。魔女鼻をひくつかせ晶子の説明を待つ。
晶子は直ぐに口を開いた。
「私、考えたんだけど……ここの館長を辞めさせてもらうわ。こんな事件が起きた以上もうここには居られないもの」
「え!? ちょっと待ってください! 何を突然……」
あまりにも予期していなかった言葉に耳を疑う柳。聞き耳を立てていた他の職員も、それぞれ混乱の色を見せている。
「だってこうなった以上、私はどうせお終いでしょ? 元々本部から目をつけられて居たんだし……丁度いい機会だから止めるわ」
「そんな勝手な――大体止めたって水憐島からは出れませんよ? あなたの顔はみんな知っているんですから。責任放棄したと分かれば、すぐに応援部隊に拘束されてしまいます」
「されないわよ。あなたなら分かるでしょ。柳……」
晶子はそこで言葉を止めた。前を向いたまま片手を後ろに伸ばし、部屋のロックを入れなおす。
その意図を柳は直ぐに悟った。
「そ、そんな……私が何年あなたに使えたと――それにここに居る者たちはみんなあなたの忠実な部下なのに……」
「私じゃなくて私の外見にでしょ?」
晶子は柳の言葉を一笑すると、狂気を含んだ表情でこう言った。
「さよなら、柳。いままで良くやってくれたわ」
大助の遺体は火葬された。
そのまま置いていれば鼠魚や魚人に卵を植えつけられる恐れがあったからだ。
水槽の底でオレンジ色の光を放つ父親の姿をひたすら見つめ、悠樹と大助はただずっと無言で立っていた。
自分に会うために、謝るためにここまで来てくれた、あの逞しい姿はもうどこにも無い。もう殆ど灰になってしまっている。
敏はゆっくりしゃがむと、炎から離れた位置に崩れ落ちていた灰を救った。愛おしそうにそれを自分の財布の小銭入れに詰め込む。
遺体を持って帰る事が出来ない以上、そうするしかなかったのだろう。
「行くぞ。あまり同じ場所に長居するのは危険だ。魚人のことは詳しくは知らないが、元がイグマ細胞である以上、必ず人の気配がある場所に集まってくる」
悠樹の肩を叩き、友は無表情でそう言った。
「もう少しだけ、待ってくれ。何年も会っていなかった――再開したばかりの家族なんだぞ?」
悠樹は声を渋り出すように、炎を見つめたまま呟いた。しかし友は引き下がらない。
「この手の事件に『死』は付き物だ。悲しみたい気持ちは分かるが後にしろ。今悲しんでいても何の利点も得もない」
「利点とか得とか、そんな簡単に割り切れるわけねぇだろ! お前らと俺たちは違う」
悠樹は友を睨みつけた。
しかしその行動を全く意に介さず友は言葉を続ける。
「そういう問題じゃない。生きたいか死にたいかだ。これ以上ここに留まる気なのなら俺たちはもう行くぞ」
悠樹は感覚から友のこの言葉が本気だと知った。友の感情はまるで死人や氷のように冷たく、機械のようだった。
「ああ? 上等だ。勝手に消えろよ」
悠樹はガンを飛ばし、手首を友たち三人に向かって振った。
「おい、お前いい加減にしろよ? こっちが優しく言ってりゃ付け上がりやがって! 誰がお前を助けたと思ってる?」
頭にきたのか、友の仲間の若い角刈りの男が悠樹の前に出てその襟を掴んだ。
「さあな? 少なくとも何もしないで傍観していたどっかの角刈り野郎じゃ無い事だけは確かだな」
父の死に対する怒り、自分の本心を伝えられなかった悔しさ、それらを角刈りの男に向け、八つ当たりするように悠樹は挑発的に睨み続けた。
「マジでお前殺すぞ? 俺らがへいこら一般人のご機嫌伺いをするどこかのお抱え警備員にでも見えるか?」
角刈りの男は悠樹の襟をさらに強く掴んだ。
「兄貴、手を離すんだ。その人たちの言う通りだよ。……ここに居るのは危険だ。安全な場所に誘導してもらおう」
一触即発の雰囲気の中、敏が涙に濡れた顔で二人を強引に引き剥がした。敏の力は非力な方だったはずだが、その威圧感に気おされ角刈りの男はあっさりと腕を放す。
「――じゃあ行きましょう。もう他の仲間もそれなりに生存者を救出しているはずです」
西川がやっとここを離れられるといった様子で言った。
「どこへ行くんです?」
もう水憐島から脱出できると思っていた敏はいぶかしんで聞いた。
「地下の飲食店エリアです。そこに生存者を集める予定になっています」
「飲食エリア? 何でわざわざそんな場所に?」
「行けば分かりますよ」
西川は意味深な言い方をした。
上から垂らしたホースを綱にして登り、良くやくこの悪夢の部屋から出るという直前、悠樹はぼそりと小さな声で呟いた。
「親父――……じゃあな……」
振り返る事無くゆっくりと扉を閉める。
その時、遺体から立ち上る煙が僅かに左右に揺れた。
まるで悠樹と敏に別れの挨拶をするように。
恐らく友の同僚が下ろしたであろう防火シャッターを持ち上げ、地下飲食店エリアに入ると、紺色の服を着た四人の人間たちに加え、十人ほどの一般人の姿があった。
「お前たちはあそこの生存者のところへ行ってくれ」
友は感情を感じさせない声で悠樹と敏に言った。
「――……わーったよ」
悠樹は友を一瞥すると、黙って言われた通りに道の中心に集まっている生存者たちの所に移動した。敏も勿論一緒に着いていく。
「イミュニティーの人間が少ないな。何かあったのか?」
二人の背中を眺めながら、友は怪訝そうな表情で言った。
水憐島に侵入した時は二十人近い人数だったはずなのに、今ここに居るのは自分たちを含め、たった七人しかいない。
明らかにおかしい。
西川も気がついたようだ。直ぐに近くの仲間に声をかけ、事情を聞いた。
「どうなっているんですか? 他のメンバーは一体どこに行ったんです?」
「あ、西川さん! ご無事でしたか!」
男は今始めて西川に気がついたのか、ビクッと体を震わせてこちらを向いた。
「それが、なにやら総合管理室の方で問題があったようなんです。最初に館長室を調べに行っていた田代がそのまま管理室に向かったのですが、急に連絡が取れなくなったので、改めてここから数人を向かわせたのですが……」
「――全員……帰ってこなかったってわけですね」
西川は不安げに先を言った。
「ええ、もう大分経っているんですけど……これってやっぱり……」
「死んでるな」
友が西川の後ろから声を出した。
「何かに全員殺されたんだ」
その言葉が静かに通路に響いた。