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よるあるく  作者: 夏目羊
3/3

戸叶さんとわくわく心霊カラオケ会

 僕はカラオケに来ていた。戸叶さんと一緒である。戸叶さんは僕と同じクラスの女の子で席がお隣というよしみでカラオケへと一緒に行くことになった。仲のあまりよろしくない女の子と二人きりのカラオケ。僕は二重の意味でガチガチに緊張していた。

 集合場所はカラオケの前の駐輪場だった。集合時間の五分前には駐輪場に着いたつもりなのだが彼女は既に到着していて「こんにちは、三野瀬くん」と微笑んだ。遅れてしまって申し訳ないという旨を自転車を急いで止めたあとに言ったのだが、戸叶さんは笑顔を崩さず「きっかり集合時間の五分前だよ?気にしなくていいよ」「それよりさっさと中に入っちゃいましょう」と言った。僕はカラオケの中に入る彼女についていった。


「3名様ですか?」

「いいえ、2人です」

「機種はどちらになさいますか?」

「こっちでお願いします」

「何時間ご利用なさいますか」

「フリータイムでお願いします」

「かしこまりました。未成年者は6時までになりますが宜しいでしょうか」

「分かりました」


 さっさと受け付けを済ませてしまう戸叶さん。僕の出る幕は一切無かった。普通なら男の僕が受け付けとかを済ますんだろうけど、僕はあまりカラオケに来ない。僕が受け付けを済まそうとしたら後がつかえてしまう。実際僕らの後ろには2、3組が待っていたから戸叶さんに受け付けを頼んで正解だったと思う。

 戸叶さんはカウンターに向けていた視線を僕に移し、「2階の部屋だって」と言って階段の方に歩いていった。僕はそんな彼女の後をまるで金魚の糞みたいな感じについて行く。


「ウフフ三野瀬くん、出るといいねえ」


 ニッコリというよりかはニンマリとした笑顔で戸叶さんは言った。


「…うん、そうだね戸叶さん」


 僕らは幽霊が出るという噂のカラオケボックスに来ていた。噂には幾つか種類がある。死者の声を拾うマイクだとか、部屋の中を窓から覗く男だとか、カラオケに来たときと歌っているときとで人数が変わっている、だとか。どれも正直眉唾モノだが面白いとは思う。


「割と大きい部屋だね」

「うん、そうだねえ」


 部屋に着いて電気をつける。2人で歌うには少しばかり広いなと感じるくらいの大きさの部屋だった。彼女は備え付けの可動式の椅子に、そして僕はソファーに、テーブルを挟んで向かい合うように腰掛けた。

 そこで僕はハッとする。カラオケだから歌うのかな?正直に言うと音痴な僕なので歌うのは勘弁して貰いたい。そんな僕の気持ちとは裏腹に戸叶さんはタッチ画面式の機械でマイクとミュージックの音を上げている。や、やめたげてよ!


「戸叶さん歌うの?」

「歌っちゃったら死者の声が聞こえないじゃない」

「………そうだね!」


 要らぬ心配、杞憂だった。戸叶さんはオンにしたマイクを机の上に置いた。『ゴトッ』という音が部屋に響いてマイクの音量でかくない?とか思ったけれどまあ口にすることもないかな、と思ったので流しておくことにする。戸叶さんに「水頼むけど三野瀬くん欲しい?」と聞かれたから僕は頷いた。戸叶さんはフロントに繋がる電話で「お冷や人数分」と言った。


 水を頼み終わって椅子にポスンと座った彼女は、テーブルの上で手を組んでニンマリと笑った。僕は不思議の国のアリスのチェシャ猫を思い浮かべた。


「ねえ三野瀬くん、カラオケに出る幽霊ってどんなのか知ってる?」

「えっ。知らないけど…」



「カラオケに出る幽霊には2つのタイプがあるの。1つ目はそのカラオケボックスの建っている土地にもとからいた幽霊。2つ目はみんなと騒ぎたい!って思ってる幽霊。」


 マイクが戸叶さんの声を拾って、彼女の声は部屋中に響く。彼女は続けた。


「ちょっと調べたけど、このカラオケボックスの建っている土地、曰わくつきみたい」

「曰わくつき?」

「とても昔の話なんだけど刑務所が建ってたの。かなりの罪を犯した人がいれられてたんだって。」


 想像してみて、少しだけ、ゾッとする。殺人事件を起こした犯人なんかがこの土地に居たのか。そんなことを考えていたら戸叶さんが顔を真っ青にして「三野瀬くん!ドアのところ!」と言った。僕は咄嗟にドアの所を見た。咄嗟だったからよく見えなかったけれど、男の影が見えたような気が、した。怖い。とそう思った瞬間悲鳴を出す隙もなくスピーカーから低く唸るような男の声が聞こえてきた。泣きたい。処刑された罪人たちの地縛霊が無念の気持ちを訴えているのだろうか。


「と、ととと戸叶さん!」

「なあに三野瀬くん」

「今幽霊が!幽霊が!」

「うん」

「何でそんな余裕なの!?」


 キィーンとスピーカーから音が鳴って耳が痛くなった。大声を出し過ぎたとは思ったがしょうがない。大声を出さずには居られないのだ。


「ごめん三野瀬くん」

「えっ」

「さっきの嘘。」

 えっ。

「うそ?」

「うん。さっきの男の人は水を持ってきた店員さん。きっと水の数を間違えたんだろうねえ。慌てて戻っていったよ」

「男の人の声は?」

「多分混線したんだよ。たまにあるらしいよ、周波数の問題で混線することが」

「何で分かるのさ…」

「コブシがきいてたから。歌っていたのは演歌だね」

「……。」

「それに私は刑務所がここにあったとは言ったけど受刑者が処刑されたとは一言も言ってないよ。三野瀬くん、誤解したでしょう?」

「…………戸叶さん!!!」


 僕が叫んだところで水が男の店員によって届けられた。戸叶さんは店員に笑顔で「ありがとうございます」と言った。店員が出て行ってそのままの笑顔で「これを飲んだら帰ろうか」と言った彼女に、遺憾の意を示すため僕は水と彼女に顔を向けなかった。


「ごめんねえ三野瀬くん。三野瀬くんの反応があまりにもよかったから、つい」

「つい、じゃないよ!本当に怖かったんだから!」


 申し訳なさげにする戸叶さんは「今度のお昼、購買でパン奢るからゆるして」と言った。流石に僕も女の子からパンをたかる訳にはいかないので、取りあえず丁重にお断りしておいた。


「結局、幽霊が出るっていうのは嘘だったんだね」


 噂は所詮噂なんだね、と言うと戸叶さんは笑った。


「三野瀬くん、火のないところに煙はたたないものだよ」


 でも出なかったじゃないか、そう反論すると戸叶さんは「ねえ三野瀬くん、私カラオケに出る幽霊には2つのタイプがあるって言ったよね」と言った。


「でも地縛霊はいなかったよ」

「もしあのカラオケに出るのが前者ではなく後者だったら?みんなで騒ぎたいと思う幽霊だったら?」


 よく考えて、思い出してみてよ三野瀬くん。


 受付の時に店員さんは何て言った?店員さんが何故水の数を間違えたか分かる?運ばれてきた水の数、幾つだった?


 ああ、そうか、最初から。

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