闇子さんは自己中
蝉時雨の降る、とある夏の暑い日のこと。
森の外れの何処かにある秘密の家で、闇子さんが卓袱台に突っ伏していました。
「あー、イチャイチャしてぇ」
急に盛ってしまった闇子さん、黒一色の着物に身を包み、忙しく出掛ける準備を終えて外に出ました。
もちろん、迷刀『宵闇』が仕込んである日傘も忘れません。都市伝説だってお肌のケアは万全です。
そんなわけで、久しぶりのお出かけで上機嫌の闇子さん。
暑さも忘れて向かうは、幼馴染みで恋仲でもある渚 蘭丸のいる『左団扇』です。
奇しくも今日はご都合主義の夏祭り、二人でたこ焼きをつつきながら花火を観るという絶好のロケーション。逃さない手はありませんよね。
途中、擦れ違う浴衣姿のカップルを何組か闇に墜としました。
「夏の盛りに盛ってんじゃないわよ~♪」
自分を棚に上げて大はしゃぎ。
さて、『左団扇』に着いたものの呼び鈴なんて洒落たものは無いので、勝手に玄関の扉を開けてお邪魔します。
足音なんて元々立たない闇子さんですが、ここは一応抜き足、差し足、忍び足で不法侵入の作法を守ります。
人ならば犯罪ですが、都市伝説なのでセーフです。
居間に一人でいる蘭丸を見つけて、思わずときめく胸を押さえざるを得ません。
背後から近づき蘭丸の目を両手で覆うと「だ~れだ」と、割とベタな闇子さん。
でも良いんです、今日はベタベタしに来たんですから。
驚いた蘭丸が飲んでいた麦茶に咳き込んだのは計算外ですが、愛しい人が困っている姿を愛でるのも一興。悪いものではありません。
「何でお前がここにいる」
相変わらず素っ気無い蘭丸くんですが、そんなの闇子さんは慣れっこ。むしろご褒美というやつです。
「来ちゃった」
「帰れ!」
「お祭り一緒に行きましょうよ」
「俺は人混みは苦手だ」
「その癖、まだ直ってないの? でも、そのおかげで私たち出会うことが出来たのよね」
嫌がる蘭丸くんと、楽しそうな闇子さん。
愛の形は千差万別。
「あんまりにしつこいと斬るぞ!」
愛の形は千差万別?
「またまたぁ、本気で斬るつもりなんて無いく・せ・に」
蘭丸の耳に息を吹きかける闇子さん。あきらかに調子乗ってますね。
そのとき――。
「ただいまー。蘭丸、たこ焼き買ってきたから――」
突然、亜緒と鵺が帰って来ました。
「げっ! 闇子!」
闇子さんは雨下石の亜緒くんが嫌いです。出来れば殺したいのですが、そこそこ強いのでなかなか上手くいきません。
「ふんっ! 今日のところは、これくらいにしておいてあげるわよ! 次は油断しないことね!」
いきなりマジメモードの闇子さん。蘭丸くんと戦っていたように見せかけます。
やっぱり、人がいると恥ずかしいですよね。
「覚えてなさいよ!」
またしてもベタな捨て科白を残して帰っていきました。
「蘭丸、何かしたの? 闇子、えらい怒ってたみたいだけど」
「あいつは時々オカシイんだ。気にしたら負けだぞ」
亜緒と蘭丸が無駄話をしている間に、たこ焼きは鵺が残らず美味しく頂きました。
おしまいっ!
ゆるふわ『左団扇奇譚』いかがだったでしょうか?
要望が多ければ、ちょくちょく更新するかもしれません。
今回、モコショコさんから頂いた絵を挿絵に使わせていただきました。
感謝!