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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第75話:リゾート

 ラーハットには今日を除いて3日間の滞在予定。

 流石に皆馬車での長旅で疲れているので、昼食をヘンリーの家で頂いてからは自由時間にしてもらった。

 明日からは、ヘンリー主導の元ラーハット観光だ。


「まあ、街にはもっと美味しい物もあると思うが、今日はうちでゆっくりしていってくれ」

「皆さんようこそお越し下さいました。ささやかではございますが、精一杯のおもてなしをご用意いたしました」


 ガンバトールさんがテーブルの奥で、皆に向かって手を広げる。

 テーブルの上には色鮮やかな料理が並んでいる。

 そして、そのガンバトールさんの斜め後ろでにこやかな笑みを浮かべている、色白の美人さん。

 母上よりも少し若い。


 シルビアさん。

 ヘンリーのお母さんだ。

 腰まである金髪の髪はサラサラで、よく手入れされているのが分かる。

 吸い込まれるようなコバルトブルーの瞳で微笑みかけられると、思わずほっこりとしてしまう。


「これは王都でも見ない魚だな」


 そう言ってセリシオがフォークを刺しているのは、青い皮のついた白身の魚だ。

 色鮮やかな毒々しい青色が、食欲を減衰させる……

 彼等にとっては、そうでも無いみたいだけど。

 

「その魚は管理が難しく、生きたままの輸送が難しいので」


 セリシオの言葉に答えるのはテーブルの後ろに立っている、コックの恰好をした男性。

 てっきりラーハット家の料理人さんだと思っていたけど、地元の有名高級レストランの先代のクドーさん。

 わざわざ、この日の為に呼んだらしい。

 

 60歳になると同時に、娘婿に店を任せて郊外に小規模の定食屋を開いたらしい。

 メニューには最高級の魚料理を1品だけ用意し、他は大衆向けの安い料理を4品だけ用意した本当に地元民向けの大衆食堂。


 まあ、領内最高級のシェフと言われたこともあって、そこで出される肉野菜炒めはラーハットで一番美味いと今では他領からも人が訪れ行列が出来ているとか。

 価格もお手頃価格で日本で言うワンコイン。

 貴族なら敬遠しそうな安料理に入るのだろうが、確かな腕とこだわりの味付けでコスパがとんでもなく良い。

 ただ、本当に趣味でやっているらしく潰れても問題無いらしい。

 貴族がその権力をかさに割り込みをしようものなら、ビシッと注意してしまうくらいに。

 そういった姿勢に貴族や豪商のファンも多く、注意された貴族が騒ごうともすぐに抑えこまれてしまうとか……


 材料は良いお肉を使ってはいるものの、切り落としの余りを安く大量に仕入れているらしく、また野菜は自分で畑で育てているらしい。


 素揚げされた芋や、ラディッシュも普通の料理屋で食べるものとは一味違うらしく、色々と拘りが見て取れる。


「引退した身で、腕も落ちておるかもしれません」


 と最初は固辞していたらしいけど、そこは豪快な海男ガンバトールさん。

 ひたすら笑顔と押しで、首を縦に振るまで粘り続けたとか。

 いや実際には、最後は泣き落としに入っていたとの話も……

 

 レストラン時代も、食堂を開いてからも贔屓にしてもらっている上に、セリシオ殿下を招いての食事で失敗したら息子の立場も悪くなってしまう。

 なにより、ラーハットを代表して食事を出すのだから、クドーさん以外の料理は考えられない。

 助けてくれと真摯に頼み込まれては流石に断り切れず、流石に今日だけは息子に任せた店から1番弟子を借りて自分の店を任せこっちに来たらしい。


「これ美味しい」

「うん、さっぱりしてて……でもパンチも効いてるし」


 ソフィアとエマが美味しそうに食べているのは、赤みの魚とたまねぎやレタスのような歯ごたえの良い野菜にさっぱりとした柑橘系のソースが掛かっているサラダだ。


「それはカジロという大きな回遊魚の脂身に、レモンの汁をベースにベリー系の果実を加えたソースを掛けたものですよ」


 こなれた様子で、料理の説明をしてくれるクドーさん。


「こちらは、取れたての魚をあえて一日天日に干して、風味を強めております。ただ、身の方は完全に乾燥していないので、柔らかく食べごたえもあり、この魚の良さを十全に活かした逸品です」

「うん、これは凄い! ラーハットではこんな料理が毎日食べられるのですか?」

「いや、残念ながらクドー殿はうちには来てくれんでな。だが、街の外れに大衆食堂を開いておるから、時々そこに食べにいっておる」

「えっ?」


 大衆食堂の店主ということを聞いて、ベントレーが目を剥いている。

 ガンバトールさん……

 いま、この街全体の料理に対するハードルが上がったの気付いてる?


「あっ、勘違いしないでね? 元はこの街最高の品質を誇るレストランのオーナーシェフですから」


 慌ててシルビアさんのフォローが入る。

 こんな料理が大衆食堂で出てくるなら、ちゃんとしたレストランはどんな料理を出すんだと皆思ったに違いない。

 そして、このメンバー相手に、そんな店主を用意するなとも……

 いや、料理が確かだからそこまでの事は思ってないかもしれないけど。


「焦ったぞ? これが普通の大衆食堂の味なら、うちの王都で高級店をうたってるお店は、この街なら全部大衆食堂だ」

「ははは、殿下はお上手ですな! そこまで喜んでもらえて、クドー殿に頼み込んだ甲斐があるというものです」


 セリシオのシャレの利いた褒め言葉に、ガンバトールさんが豪快に笑うとクドーさんも満更ではない様子だった。

 それからデザートを頂いて、各自自由行動。

 といっても、護衛が居るとはいえ女性だけで行動させるわけにはいかないので誰かがエマとソフィアに付きそう。

 となると当然ヘンリーが立候補するわけで、こっちに縋ったような視線に応えるために僕もそっちに着く。

 必然的にベントレーもついてくると、流石にセリシオ達と行動は出来ないジョシュアも一緒に。

 でセリシオが俺も俺もとなって、護衛のクリスも付いて来てしまう。

 ディーンは……着いてくると。

 面白そうだから。


 それは観光じゃ無くて、人間観察の話かな?


 結局全員で、市内観光ならぬ街内観光。

 と言っても腹ごしらえも終わってしまったので、男どもは特に希望はない。

 食後に海に入るのも、気が引けるし。


「ガンバトール子爵、そしてクドー殿、大変美味しい料理だった。満足だ」


 セリシオが代表して、礼を述べてからラーハット家を後にする。

 結局午後は女性陣に合わせて買い物。

 正直言うと全然興味無かったし、皆一緒ならヘンリーも大丈夫だろうと思ったけど……


 僕が離れるとたぶんベントレーも離れる。

 それとセリシオも。

 そうなるとクリスとディーンも。


 だから、僕は着いて行くしか選択肢がない。

 買い物は……かなり退屈だった。


 せめて土産物屋にでも寄ってくれたらと思ったが、明日は海水浴という事で水着を選びに行くことになった。

 明日にはどうせ見られるのに、恥ずかしいらしくソフィアとエマの試着した姿はお互いと女性店員さんだけへのお披露目。

 本当に何しに来たんだという感じだ。


「ソフィアったら、また大きくなったんじゃない?」

「何のこと?」


 嘘を吐くな。

 まだ初潮も来てないだろう年齢で、何が大きくなるというのか……

 無駄にそういった知識があるだけに、エマの悪ふざけに対して全く何も感じない。

 そして肝心のソフィアも、エマの言葉の意味が分からずに色々と台無しだ。


「背の話よ……」

「そう?」


 ノリの悪い友人に、少し不機嫌になったエマが味気無く答えているがどう考えてもエマが悪い。

 色々と残念な水着回だとしか言いようがない。


 野郎共は好き勝手に自分の好みの水着を、とっとと買っているし。

 ヘンリー以外は、2人の会話に興味を全く示していない。


 水着も選び終わったし、夕飯はホテルで頂くことになっているので、夕方にはヘンリーと別れてホテルに向かう……予定だった。

 ヘンリーは、未練がましくホテルまで見送りに来たけど。


 やはりというか、予定通り例の高級ホテルに。

 ロビーには豪華なシャンデリアが飾られ、室内を明々と照らしている。

 思ったよりも宿泊客が多い。


 明らかに金持ちばかりだけど。


 貴族も訪れるようになったからそういった富裕層の受け皿も必要だろうとガンバトールさんに提案して、採用されたホテル。

 真の金持ちは、この街に別荘を買っているとか。

 かくいううちも、実はこの街の中に家を持っていたりする。


 とはいえ使用人の人数も足りないし、折角ガンバトールさんが用意してくれたからホテルに泊まる事にしたけど。


 部屋はエマとソフィア以外は各家に割り振られていた。

 セリシオとエマ、ソフィア組はロイヤルスイートと呼ばれる最上級の部屋。

 最上階のフロアを二つに分けた部屋だ。


 護衛達の部屋もある。

 その護衛達の部屋ですら、そこらのホテルよりも豪華。

 一泊で、借家が1ヶ月借りられるくらい。


 まあ、このホテルの所有者はラーハット家だから問題無いけど。

 クリスとディーンはスイート、僕とベントレーとジョシュアはセミスイートだ。

 6階建てのホテルで、5階の両端にクリスとディーンの部屋、4階の両端にベントレーとジョシュアの部屋となっている。

 僕の部屋は3階の西の端だ。

 海は南側に位置しており、角部屋からだと寝室から海を臨むことが出来る。

 1階のプールは海に繋がっていて、そのままホテルのプライベートビーチに行ける。

 明日は午前中はヘンリーも交えて、このホテルのプールで海水浴を楽しむ予定。


 勿論護衛が泊れる部屋もある。

 でもそれぞれの部屋に鍵が付いており、即ち完全に個室。


 これにテンションが上がったのはマサキだ。

 どうやら夜にまた僕の身体を借りるつもりらしい。

 別に良いけどさ。


 そう思っていたら……


「マルコ、少し邪魔して良いか?」


 ベントレーが普通に遊びに来た。

 まあ、ベントレーなら事情も知ってるし最悪一緒に管理者の空間に……


 また誰か来た。


「ようマルコ! ようやく夜通し語り合えるな」

「ふんっ、邪魔をする」

「やっ!」


 ……セリシオがクリスとディーンを連れて来襲。

 まあ、時間が経てば帰るだろう。


「それにしても晩飯も旨かったな」

「僕は、クドー殿の料理の方が好きだったかな?」

「俺もだ」

「私は、どちらも好きですよ」

「うむ……」


 夕飯はホテルでビュッフェスタイル。

 数カ所のブースでシェフ達が客の注文に応え、それぞれ得意料理を提供する形の。

 確かに、どの料理も美味しかった。

 

「流石にこの状況でジョシュアだけ仲間外れは気が引けるな、クリス呼んで来い」

「はっ」


 ……ここ、僕の部屋なんですけど?


 暫くして、クリスが戻って来た。


「来たよー!」

「皆、集まってるって聞きまして」

「ふふ、楽しそうですね」


 ……

 なんでエマとソフィアまで。


 結局全員が、僕の部屋に集まって来た。

 

「こうなったら、ヘンリーも呼ぶか?」

「今からですか? それは流石に迷惑でしょう」


 セリシオがとんでもないことを言い出したが、そこは流石にディーンに止められる。

 いや、ここに来る前に止めてほしかったんだけど。


「ちょっとクリス、フロント行って何か食べ物と飲み物貰って来いよ」

「食べ物なら、そこのテーブルにフルーツがあるでしょ? それに飲み物はそこの魔道具の中に入ってるし」

「ええ? もっと、こうガッツリしたものが食いたいし……」


 セリシオがガッツリと長居するつもりだ。

 ガッツリ食べるってことは、そういう事だろう。


 マサキがちょっとイラついて……いない。

 普通に、僕の周りに友達が集まっている様子を嬉しそうに眺めているのが分かる。

 分かるけど……僕は、あまり嬉しくない。


「では私が「いかなくて良いし。そこの道具使ったら来てくれるし」


 一応フロント直結の伝声管も、マサキの提案でこのホテルには作ってある。

 といってもセミスイート以上の部屋にしかついていないけど。


「へえ、この変な花みたいな金属でか? どうやって使うんだ?」

「教えない」


 セリシオが興味深々といった様子だけど、こいつに教えたらホテルの人が苦労するのが目に見えている。


 暫く色々と旅の思い出や学校でのことを話していたら、エマが僕のベッドでスヤスヤと寝息を立て始めて、ソフィアが焦り始めたのでフロントの人にエマの護衛の人を呼んでもらって連れて帰って貰う。


 それに合わせてジョシュアも帰っていった。

 明日は早いしね。


 明日は早いしね?

 

 明日は早いよ?


 セリシオが帰らない。


「この部屋広いし、今日はここで皆で寝ようぜ?」

「殿下!」


 そんなセリシオの提案に、流石にクリスが少し語気を強めて注意する。

 が、当の本人は固い事言うなと手をヒラヒラとさせている。


「僕ももう眠いんだけど?」

「寝たら良いではないか」


 ……ここ、僕の部屋なんだけど?

 頑張って帰れアピールしたのに、全く気にした様子が無い。


「殿下、マルコは言外に帰れと言っています」

「そうなのか?」

「そうだよ!」


 ディーンがはっきりと僕の意思を伝えてくれると、セリシオが気付かなかったとばかりにこっちに視線を向ける。

 ここで遠慮はしない。

 はっきりと帰れと伝える。


「こんなに広いんだ、良いではないか」

「何が良いの? 明日早いし、もう帰って寝なよ」

「むう……折角、友と朝まで語り合おうと思ったのに」

「眠いつったら、寝たらって言ってたじゃん」

 

 なんかセリシオのテンションが変な風に上がっていて、物凄くウザいです!

 視線でクリスに訴えるけど、フンッと顔を逸らされた。

 こいつ!


 こっちは、皆より早起きしてラーハットの家でガンバトールさんと訓練して貰わないといけないのに。

 でも、それを言うと絶対にセリシオも付いてくるし。

 なんとかして、こいつらを帰さないと。


「殿下、ロイヤルスイートとはどのような作りになっているのですか?」

「おお、ベントレー興味あるか? そうだな、俺はクリスの部屋も見てきたし、セミスイートがどんなもんか分かったけどベントレーは、自分の部屋とここしか見てないもんな」

「そうですね、出来ればクリス殿かディーン殿の部屋も見て、見比べてみたいのですが」

「よしっ! じゃあ、次はクリスの部屋に行くか! マルコも行くだろ?」

「ごめん、明日にして……流石に今日は疲れたんで」

「そうか? まあ、良いか。行くぞ、ベントレー!」


 ベントレーの提案で、ようやくセリシオが出てってくれた。

 出がけにベントレーがウィンクしてきたので、僕の気持ちを察してくれたのだろう。

 うわぁ……クラス1嫌な奴が、今じゃクラス1良い奴代表になりつつある。


 まあ……ベントレーを助けた判断は間違いじゃ無かったのは、良かったけど。

 マサキの判断だけどね……


 ようやく寝れる……

 右手からダニ―と、その眷族を呼び出して安眠コンボを放ってもらう。

 催眠誘導と、回復のコンボ。


 有難う、ベントレー……

 


日常回が続いております。


この作品に対する思い入れを、活動報告にてあげますのでそちらを是非見て頂けたらと思いますm(__)m

この話の今後の展望とう含め、小生の想いを綴りますのでm(__)m


遅々として進まない展開に、皆様の反応に対して自身少し不安になっている部分もあるので、共感を頂ければ感想やブクマ、評価等で応援頂けたらと思います。


メンタル豆腐なので褒められるとサンバを踊って、誤字以外のダメ出しには貝になりたくなりますw

あっ、丁寧なダメ出しは色々と考えて頂いて物凄く嬉しいので、全然受け入れられます(`・ω・´)b


何卒是非、甘やかして貰えたらと(笑)



あっ、念願の年間ランキング入りしました(`・ω・´)b

これも、皆様のお陰ですm(__)m

本当に、ありがとうございます♪


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