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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

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第73話:管理者の一日(後編)

「マサキ様、もう良いのですか?」

「ああ、大分良い汗をかいた」


 神殿に戻ると、トトが話掛けてくる。

 丁度洗濯ものを干し終わったらしい。

 エプロンを着けていかにも家事をしてますって感じだ。


 良いお嫁さんになりそうだ。


「ベントレーからのお土産、楽しみだな」

「べ……別に、嬉しくないです」


 タブレットで、ベントレーがトトにルビーの腕輪をプレゼントをしようとした流れを見ていた。

 だから、残念ながらサプライズにはならないが。

 それでも、少しは期待してるかと思って顔を覗く。


「少しは、喜んでやれよ」

「子供には興味無いです」


 本当になんとも思ってないって表情だった。

 それもそうか。


 11歳と9歳……今は、結構歳の差を感じるだろう。

 まあ、大人になったら誤差の範囲だろうけどね。


「きっと、あいつイケメンになるぞ?」

「獣人と貴族……立場が違い過ぎて、お話にならないだです」


 俺がウリウリとほっぺを突っつくと、キッと睨まれた。

 揶揄い過ぎたらしい。

 反省。


「マコは?」

「今はまだ、勉強中です」

「そうか……」


 昼間でまだ時間があるから、久しぶりにマコにも訓練を付けてやろうと思ったのに。

 今日は、カブト達を俺が独占しちゃったしな。


 まあ、良いか。


「あー! マサキおにい!」

「おはよう。クコはもう勉強終わったのか?」

「まだだよ! でも、マサキおにいの声が聞こえたから」


 お……おう。

 なんて意識が散漫な子なんだ。

 いや、まあ4歳児なんてそんなものか。


「今日はなんのお勉強をしてたんだ?」

「もじのかきかただよ!」

「おお!」

「きょうは、た・ち・つ・て・ととな・に・ぬ・ね・とをおぼえたんだ」

「なにぬねと?」


 まあ、平仮名なんて無いから、勝手にそんな感じの言葉に直されたのだろうけど……


「なにぬねとじゃなくて、のじゃないのか?」

「うん! のはねこうかくの」


 なるほど、確かにこの空間内なら書かれた字が日本語の『の』と読めるけど形が俺の知ってる『の』とは全然違う。

 一応、あっちの世界の文字も習得済みだからそれが『の』に対応する言葉だというのは分かる。

 接続詞とかに、よく使われてるし。

 でも点の位置がちょっと違う。


「偉いな、でものはこうだぞ」

「そっか! 一番最後におぼえたから、まちがえちゃった」


 そう言ってペロッと舌を出すクコ。

 うんうん、可愛い可愛い。


「まあ良いか……今日は、外にお風呂に入りに行くからな」

「えっ? 外ですか?」

「ああ、外にだ」


 ポイントの無駄遣いと思いながらも、手に入れた天然温泉。

 脱衣所や、休憩小屋も用意してある。


 ここに居る限り、どこにも連れて行ってやれないし。

 夏休みにあちこちに遊びに行くマルコ達を見て、この子達にも何か思い出に残るような場所に連れて行ってやりたいなと思うようになった。

 今までは学校と家の往復で、たまに休みに友達と遊びに行くだけだったけど。


 夏休みに入ってマルコ達が温泉に行ったり、友達を招いて社会見学ごっこをしてるのを見てクコが「たのしそう」と呟いたのを見て、そりゃ毎日ここで暮らしてたらたまには外に出かけたいかと感じた。


 マルコの身体を一日借りられたら、自分の趣味だけじゃ無くてトト達を連れて、どっかに観光にでも行きたいがまあ暫く無理そうだし。


 だから、取りあえずこの空間内に観光というか、気晴らしが出来る場所を用意した。

 食事もそこで頂く。

 

 お弁当というか、お重を用意しないといけない。

 今頃、調理小屋で土蜘蛛たちが一生懸命準備しているだろう。


 俺達が見えなくなって、そそくさと木から降りる気配がしたし。

 カブトは木の洞の中で、そのまま寝てしまったようだが。


――――――

「空が綺麗です!」

「ああ、そうだな」

 

 岩で囲まれた天然温泉風、神工温泉。

 ほぼほぼ、作りは天然温泉そのまま。

 石が敷き詰められた、本格的な温泉だ。

 内風呂や、打たせ湯もある。 


 今は露店の温泉の縁を背もたれにして、空を見上げている。

 横には水着を着て、タオルを巻いたトト。

 自作の温泉だし他に人が入る訳でも無いから、お湯にタオルをなんて無粋な事は言わない。


 トトも目をキラキラさせながら、同じように空を見上げて星を掴むように手を伸ばしている。

 もしかして、星の1つくらい掴めないかな?

 管理者の空間の機能で作り出している空だし。

 

 本当の宇宙空間……てことは無いよな?

 そんな事を思いながら、俺も真似して手を伸ばしてみる。

 そこに水しぶきが掛けられる。


「マサキおにい! 見て見て!」

「マサキ兄!」


 目の前をタライをビート板代わりにして、バタ足で泳いでいるクコとマコの姿が。


「こらっ!」

「ふふ、良いって。俺達しか居ないんだから。ただ、あんまりはしゃぐとのぼせるぞ?」

「だいじょーぶ」

「おそと涼しいから、平気だよ」


 何が大丈夫なんだか。

 まあ、楽しそうだし良いか。

 きっと、のぼせるだろうけど。


「マサキ様、有難うございます」


 不意に横のトトから声を掛けられる。

 そっちに顔を向けると、湯に当てられてほんのり頬を上気させたトトが柔らかい笑みを浮かべて俺を見つめていた。

 

「ああ、いやこっちこそすまないな。こんな狭いとこに押し込んで」

 

 どうやら、温泉に連れて来たことを感謝しているようだ。

 とはいえ、こっちとしてはこんな何も無い空間に押し込んで、外にも連れていけてないから自分の罪悪感を少しでも軽くさせるために連れて来たわけでもあるし。

 逆に、こんな事で感謝されて申し訳ない気分になってくる。


「狭くは無いだですよ?」

「そうだな。土地は広いが、まあそういう意味じゃなくて、他に話相手も居ない狭い世界という意味でだよ」


 俺の言葉に、キョトンと首を傾げたあとトトが言ってる意味が分かりませんと呟く。

 まあ、なんだかんだ言っても、まだまだ子供か。

 概念的な話をしても、ちょっと伝わりにくかったかな?

 

「でも、ここならいつも清潔で居られるし、お腹を空かせる事も無いから……それに、マサキ様も虫様達もみんな優しいですし」

「危険は全く無いな。でも、少しは他の人達に会ったりとか」

「人は苦手です……意地悪ばかりするし」


 確かに、獣人の扱いはあまり良く無かったかもしれない。

 孤児という事もあったし。


「トトは……獣人の村に行きたいとかって、思うか? 獣人の土地で仲間達と一緒に過ごしたいとか?」

「分かりません……人の街よりは魅力を感じるけど。でも知らない獣人より、今はマサキ様やマルコ様と一緒にいたいかな」

「そうか……良いか悪いかは別として、そう言って貰えると嬉しいな」


 トトの頭を軽く撫でてやると、トトが嬉しそうに目を細める。

 最近では、頭を撫でてもあまり文句を言わなくなってきた。

 割と親愛の情を向けてくれるようになってきた気もする。


 まだ多少は遠慮が見られるが。

 まあ、俺の方は親となる決心はついたから、それは勝手にこっちが思っているだけだし。

 彼女たちの父親もまだ死んだと決まった訳じゃない。


 だったら、まぁ……親戚のおっさん的ポジションでも目指そうか。

 温泉の湯船で、俺から人1人分間を空けて座っているトト。

 手を伸ばせば届く距離。

 でも、身体を寄せ合ってお互いを支え合う程の近さは無い。

 この距離が、今のトトと俺の距離なんだろうな。


 まあ、最初の遠く離れた食事の席に比べたら、大分進歩した方か。

 お湯を掬った手で顔を覆うと、上を見上げる。


「ぐぅっ!」


 直後、お腹に衝撃が……


「マサキおにい! だっこ!」

「ああ、クコずるい!」


 クコ……そういうのは、お腹に突っ込む前に言いなさい。

 頭からタックルを喰らって、思わず呻き声がもれた。

 そして、マコまで俺の脇腹にタックルしてくる。


「こらっ、2人とも」

「ははは、良いから良いから」

「わーい!」

「あづいー」


 俺の膝を半分こして座るクコとマコの頭を優しく撫でる。

 こいつらは……全力で俺に寄りかかっているな。

 まあ、可愛いし嬉しいけど。


「マコ、顔が真っ赤だよ? のぼせてるんじゃない?」

「そんな事無い」


 膝に乗せてたから気付かなかったけど、トトの言葉を聞いてマコの顔を覗き込む。

 マコの顔が真っ赤だ。

 どれだけ、全力で泳いだんだ?

 頭から湯気が出そうだ。


「あがるか?」

「まだへいき!」

「だいじょーぶ」


 俺が声を掛けても、2人ともまだ入っていたいと主張する。

 主張しているけど、マコは駄目だろう。


「マコ、これ以上入っていると茹で上がって、美味しくなっちゃうぞ?」

「ええ、そんなことぉ……」

「あるから」


 クコとマコを両脇に抱えて、風呂からあげるとマコがフラフラとしながら、倒れ込む。


「おいっ!」

「石つめたーい! 気持ち良い」


 マコが一瞬意識を失ったのかと焦ったが、どうやらまだ意識ははっきりとしているらしい。

 腰に巻いたタオルも放り投げて、フルチンで石の上に仰向けで倒れ込んで笑っている。

 大丈夫でも無さそうだ。

 取りあえず水分補給だな。


「きゃははは! ほんとうだ! ひんやりしてる」

 

 クコも面白がって、走り回って石にひっついている。


「こらっ! 走ったら転ぶぞ! トト、クコを捕まえて」

「はいっ、もうあんた達はぁ!」


 トトが慌てて風呂から飛び出して、クコを追いかける。


「わぁっ、キャッ!」


 そして案の定、クコが滑って転んで……トトに抱き止められる。


「ほらみなさい! 頭打ったら、大怪我だよ」

「あはははは、ごめんなさーい」

「もう……」


 全く反省していない。

 クコも、湯に当てられて脳みそが少しのぼせてるのかもしれない。


 それからマコに水を飲まして、団扇で扇いでやる。

 脱衣所は男女別にしてあるので、クコとトトは隣の部屋で着替えている。

 俺は取り敢えず下着だけはいて、マコの介抱。

 

 団扇でパタパタと仰ぎながら、マコを見る。

 やっぱり4歳ってのは凄く小さいな。

 こんな子達を抱えて、11歳の女の子が3人で生きていくのにどれだけの覚悟がいったのだろうか。

 どれほどの不安を抱えていたのだろうか。


 そして、同じような子供達が、この世界にはどれくらい居るのだろうか……

 全員は無理でも、手の届く範囲くらいは助けてやりたいよな。


「うーん」

「おお、気分はマシになったか?」

「きぼちわるーい」

「はしゃぎすぎだ」


 ようやく正気に戻ったマコに、水をもう一度飲ませてやると服を着せてやる。


「暑いよ?」

「すぐに湯冷めして、今度は風邪ひくぞ?」

「ここじゃ、病気にならないって言って無かった?」


 まあ、この空間の中には病原菌ウィルスなんていないし。

 茸の菌糸や農業用のバクテリアなんかで必要なものは、あっちから土を吸収したりポイント交換したりしてあるのはあるが。

 害になるような病原菌ウィルスまでは、居ないと思う。

 仮に居たとしても、俺の子分だろうし……!!!

 ウィルスをこの空間に連れてきたら俺って……


 ああ……駄目かな?

 確実に、敵対勢力を一瞬で無力化……

 駄目?

 駄目か……


――――――

「凄い!」

「これは、素晴らしいですね」


 目の前に広げられたれたお重。

 5段重ねだった。

 まるでお節料理のような豪華さ。


「たまごきれい!」

「これは何のお肉だろう?」

「うわぁ、芋? 金が振ってある」


 ああ、久しぶりにトト達に楽しい時間を過ごして貰いたいと土蜘蛛に相談したからか、かなり気合を入れて作ってくれたらしい。

 

 スープの入ったポットもあると。

 デザートは氷の箱に入れてあります?


 すまないな。


 今日は親子水入らずで楽しんでください?

 いやいや、俺が勝手に思ってるだけだから。

 でも、有難うな。

 

 土蜘蛛とアイコンタクトで礼を言うと、皆がこっちを見ている。


「ああ、すまない。土蜘蛛に礼を言っていたんだ。それじゃぁ、いただきます」

「「「いただきます」」」

 

 全員で手を合わせて合唱。

 これは、俺が教えた食事の前のルール。

 言葉の意味も教えてある。


「美味しい!」

「マサキおにい! これ食べてみて!」

「マサキ兄、こっちも食べて」

「マサキ様、これもおすすめです」


 3人ともそれぞれ、自分が食べたものを勧めて来てくれる。

 こっちはこっちで、それなりに賑やかになってきた。


 蟻達が目の前に歩いて来て、整列する。

 手には棒。

 目の前には水量を変えたコップ。


 おお……

 そして始まる、音楽会。

 手軽に作れて、音色も良い。

 しかも風呂上りでちょっと火照った体に、程よい清涼感。


 音楽が始まると蝶達が出て来て、華麗な舞を見せてくれる。


「綺麗」

「うん、すごい」

「僕もやってみたい!」


 3人とも目を輝かせているが、俺も驚いた。

 いつの間に練習をしていたんだろう。


 さらに配下の中でも最大級の大きな蟻が手に何かを嵌めて、グラスの縁を撫でて音を出している。

 グラスハープってやつかな?

 奥行きのある伸びやかな良い音色。

 ちょっと東南アジアっぽいが、これまた素晴らしい。


 思わず目を閉じて聞き入ってしまう。

 流石に小さい蟻では、縁を擦って音を出すのは難しかったのだろう。

 不思議な音楽だけど、凄く落ち着く。


 一曲目が終わったあと、1人だけ立ち上がって拍手してしまいちょっと恥ずかしかった。

 すぐに横からペチペチと小さな拍手の音が。

 見ると、クコとマコも真似して立ち上がって拍手している。


 今度は蜂達が金属の長さの違う筒を持って入って来る。

 そして、他の蜂がそれを叩いて音を奏でる。

 これまた、耳当たりの良い爽やかな音。


 他にも百足による木琴の1人連弾と、土蜘蛛の高速パーカッションとのコラボなど、全力で食事を盛り上げてくれた。


「ふふふ……こんなに贅沢な音楽団を集めての食事会なんて、王族の方でも無理じゃないかな?」

「そうだな、この世界基準からすれば、かなりの技術を持った音楽隊だ」

「僕もやってみたい!」

「わたしも!」


 蟻や蜂達に誘われてクコとマコがはちゃめちゃにスティックを振り回している。

 でもまあ、楽しそうだから良いか。

 

「トトもやってくるか?」

「でも……壊しちゃったら」

「良いから、良いから。壊してもすぐに作れるから」

「じゃぁ……」


 2人の事を心配そうに見ていたトトの背中をそっと押してやる。

 うんうん、もっともっとこれから楽しめるように、頑張ろう。

 

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