表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/304

第71話:街道警備隊

予約投稿ミスりました(-_-;)

これは、5月8日朝分ですm(_ _)m

「こっち」

「速いっ!」


 マルコの放った剣が、ヘンリーの脇に吸い込まれるようにぶつけられる。

 脇を押さえて、蹲るヘンリー。


「今日のマルコは、動きにキレがあるな」

「もう、折角少しは近付いたと思ったのに」

「ヘンリーが頑張ってる分、僕も頑張ってるからね」


 マイケルと、ヘンリーに褒められてマルコが嬉しそうだ。

 昨日の夜大喧嘩をしたというのに、すっかり元通り。

 仲良く、朝から訓練に勤しんでいた。


 陽も登り切っており、朝だというのに中々に暑くなっている。

 2人とも汗だくだ。

 今日は、ベルモントの街を出てラーハットに向かう日だというのに。


「あっちにいったら、ガンバトール殿に訓練を付けて貰うと良い」

「うん、僕からも頼んであるから。マルコも是非どうぞだって」

「それは、楽しみだね」


 ラーハット領でも訓練をしっかりと出来るらしい。

 ヘンリーが嬉しそうに、一緒に訓練しようとマルコを誘っている。

 そして、マルコも満更ではない様子。

 今度こそ、しっかりと身を入れた訓練をしてもらいたいものだ。


――――――

 ラーハットには、マルコはヘンリーの乗って来た馬車で向かうらしい。

 そんなマルコの同行者は、ローズとファーマさん。

 2人は馬での移動だ。


 ラーハットからこっちに戻って来る時は、マックィーンの馬車に乗るとの事。

 あのごてごてした馬車は、ちょっと恥ずかしいな。

 マルコは心なしか、ワクワクとした様子だが。

 本当に趣味が悪いとしか言いようがないあの馬車も、子供達からすれば楽しそうな乗り物に見えるのかも。


「世話になったな、ベルモント子爵。父にも良く伝えておく」

「いえ、またいつでも遊びにいらしてください」

「お世話になりました」

「楽しかったです」

「有難うございました」


 皆が口々にマイケルに声を掛けている。

 殿下が来ると言うのに、特に気負った様子も無かったマイケルはホッとした様子も見られない。

 彼にとって、普通の3日間だったのだろう。

 子供達を見送る彼の視線は、本当に子供の友達に向けるような優しいものだし。


「お父様、お母さま、テトラも行って参ります。皆にもお土産買って帰るから」

「ふふふ、楽しんでくると良い」

「新鮮なお魚料理、羨ましいわ」

「おにいたま、おみやげたのしみにしてます!」


 マルコがテトラの頭を撫でて、それからアシュリーの方に視線を向ける。

 流石にお世話係とはいえ、見習いの子を他領の貴族の家に送り込む事は出来ないとのこと。

 例えそこが、気心の知れた父親の友人の領地だとしても。

 まあ、仕方がないことか。


 馬車が数を増やして通りを通る時には、脇には大勢の領民が集まってお見送りをしている。

 流石に第一王子が来た事は、ほぼすべての住人の知るところになっており、一目見ようとみんな仕事を放っぽりだして集まっている。


 マルコ達の乗った馬車が街の入り口をくぐると、外壁に止まっていた蜂達が一斉に飛び立つ。

 少し離れたところを、大きめの蟻達も行進している。

 相変わらずの鉄壁っぷりだ。


 異世界の醍醐味、移動中に盗賊の襲撃を受けて返り討ち。

 もしくは、魔物に襲われている女の子を助けるイベントなんてのは起きない。


 半径2kmにわたって、常に蜂が哨戒中。

 現に、盗賊に襲われている商人の一行がその範囲に入った事もある。


 蜂の群れが盗賊に襲い掛かり、盗賊が逃げまどってパニックになっている間に商人達は無事に逃げおおせたとか。


 他にも、まだまだ駆け出しの冒険者が魔物の群れに囲まれて、窮地に陥っていたことも。

 それも、蜂達が一瞬で魔物の群れを片付けていた。


 その時の魔物はカリオンイーターと呼ばれる、ハイエナに似た魔物の群れ。

 単体での戦闘力は、大したことが無い。

 ベテラン冒険者なら、群れを相手にしてもどうにかなるレベル。

 ただ、新人冒険者にとっては、割と脅威だ。

 4人に対して、10頭以上の群れ。

 半分でもただじゃすまない。


 そう、こいつらは基本は腐肉漁りと呼ばれている程狩りも戦闘も苦手だが、自分達より弱い相手には滅法強い。

 ゆっくりと獲物を取り囲んで、低く唸り声をあげる。

 鼻が低くまぬけな面で牙を剥いた様は、小悪党が笑っているみたいに見苦しい。


 そこに音も無く近付く蟻達。

 そして、対照的にブーンという音を盛大に立てて飛び込んでいく蜂の群れ。

 

 カリオンイーターの1匹が振り返った瞬間に、首を噛み切られる。

 相変わらず、針をあまり使わない蜂。


 突然の仲間の惨劇に、他のカリオンイーターが一カ所に集まって周囲に向けて吠え始め……足元から崩れ落ちる。

 蜂の影に紛れて忍び寄った蟻達に、四肢の腱を切られたのだ。

 キャンキャンと弱々しい悲鳴をあげる犬達に対して、容赦なく蜂達が牙を剥く。

 一瞬の出来事。


 そして蟻達によって、運ばれる死体。

 ホバリングしている蜂達が、心配そうに冒険者達の様子を確認。

 対する若者たちは、獲物を見定めるように無表情で見つめてくる複眼に、ガタガタと震えあがっていた。


 周囲の魔物よりも強い新手の存在に、新人冒険者達の表情が徐々に真っ白になっていく。

 リーダーと思わしき少年は、どうにか剣を構えて蜂達と対峙している。

 足はガクガクと震えているが。

 その横では、神への祈りを口にする少女。

 股間を濡らす、魔法使いっぽい少女。

 ブツブツとひたすら、小さな声で呟き続ける弓を担いだ少年。


 全部担いだと蟻が合図すると、蜂がお漏らしした魔法使いっぽい女の子の元に跳んでいくと頭をポンポンと叩く。


「ヒッ!」


 少女が小さく悲鳴をあげる。

 そこに遅れてやってくる蜘蛛たち。


 手早く下着を脱がすと、糸で代わりの即席の下着を作って履かせると、片手を上げて去っていく。

 他の3人は、蜂から目が離せなかったため彼女のお漏らしには気付いていない様子。


 蜂が少女に向けて手を上げると、空高くに飛び上がっていく。


「助かったのか……」


 剣を構えて、どうにか3人を庇っていたリーダーの少年が振り返ると、3人とも気絶していた。


「これ……担いで帰れないよ……」


 弱々しく呟いて、その場にへたり込む。

 そこに蟻達が戻ってくる。


「うわっ」


 今度こそ駄目だ。

 そう思ったのだろう。

 少年の顔に、そう書いてある。


「どこに……やめろっ!」


 3人を数匹がかりで蟻が担ぐ。

 一斉に進み始める。

 少年が慌てて追いかける。


 微妙に追いつけない速度。


「待て! 待ってくれ! 連れてかないでくれ!」


 無視して歩く蟻達。

 そして、街道に到着するとそこに計ったように通りがかる、熟練っぽい冒険者。

 その冒険者の顔を確認。

 すぐに、3人を下ろすと凄い速さで、脇道に消えていく。


「はぁ、はぁ……」


 少し遅れて到着した少年が、3人の無事を確認して安堵の溜息を吐く。

 それから少しして、傍にいる人影に気付く。


「ジャッカスさん?」

「ん? どなたか知りませんが、ジャッカスは私ですね」

「助かったぁ……」


 ようやくここが安全な場所だと知って、男の子まで気を失う。


「……これ、目が覚めるまで私が見てないと駄目ですか?」


 ジャッカスの方に向けられる、複数の虫達の視線。


「駄目ですね」


 ジャッカスが溜息を吐いて、彼等を並べて寝かせると手頃な岩に腰かけて、溜息を吐いた。

 目が覚めた3人に、ジャッカスが蟻に頼まれたからと意味不明な事を口走っていたが、4人とも深く感謝して一緒にベルモントに戻っていった。


 そんな事がちょいちょい。

 お陰でベルモントでは、蟻や蜂は商人や駆け出し冒険者にとってベルモントの守り神ではないかという噂が、流れているとか流れていないとか。


 閑話休題。


 何が言いたいかというと、そんな蟻や蜂の護衛する彼等に目的地までに問題が起こるはずもなく。

 と思っていたのだが……


「マスター、すいません数が多すぎます」


 馬車の進路上で蟻や蜂と戦う盗賊の集団。

 なかなかに洗練された動き。

 ただの盗賊団じゃない?

 マルコ達一行が辿り着くまでに、処理しきれなかったらしい。


「この先で、戦闘の音が聞こえてきます。様子を見て来させましょうか?」

「そうだな、状況によっては助太刀した方がいいかもしれん」


 セリシオの元に護衛の1人が駆け寄ってきて、報告する。

 セリシオも、素通りするつもりなど無いらしく、見てくるよう指示を出す。

 すぐに3人の騎士が、馬を飛ばして現場に向かう。


「魔物の群れに、人が襲われてます!」

「かなりの怪我人が出ている模様」


 魔物の群れって、酷いな。

 俺の可愛い仲間達なのに。


 まあ、はたから見たら大きな蟻や蜂の集団に人が襲われていたらそう考えるか。


 問題はその集団がどう見ても堅気に見えないって事かな。

 明らかに、荒くれもの集団だ。

 まさに野盗の類だ。

 それも、かなり大きな。

 

 身に着けているものは粗末な鎧や服ばかりだが、それでも守るべきところに付けられた装備品は丁寧に手入れされているのが分かる。

 それと武器も様々なものがあるが、どれも粗末には扱われていない。

 かなり統率の取れた、大きな盗賊団かもしれない。


 とはいえ、うちの子達は本当に優秀だ。

 そんな歴戦の戦士達の集まりっぽい相手に、アドバンテージを大きく取っている。

 蜂が大胆に飛び回り相手を翻弄し、忍び寄った蟻が確実にダメージを与える。

 既に地面には20人近い大男が倒れて痙攣しているが、それでもまだ30人近くが戦闘を継続している。


 その中で一際立派な装備に身を包んだ髭面の男性に、騎士の1人が近付く。


「大丈夫か?」

「大丈夫なように見える……お前ら!」


 近づいて声を掛けた騎士に、集団のリーダーっぽい男が振り返って返事をして固まる。


「チッ、逃げるぞ!」

 

 大きな声で叫ぶと、纏わりつく蜂や蟻を振り払いながら男が仲間に声を掛けて走り出す。

 だが、先回りして進路を塞ぐ蟻達。


「完全に囲まれてます!」

「親分、逃げられないっす」

「仲間達も、もう半分近くが……」


 子分たちから、悲痛にも近い声がリーダーに投げかけられるが、当の本人は剣を大きく振り自分の逃げ道を確保すると、一気に駆け出す。


「捨ておけ! まずはここから脱出すること……がっ……」


 振り返って、仲間に声を掛けると同時に動きが止まる。


「何も逃げなくても良いじゃないですか……おやおや、この蜂や蟻達は貴方達しか狙ってない様子」


 馬で追いかけた騎士が、リーダーの襟に槍の穂先を引っ搔けて後ろに引き倒したからだ。

 仰向けになって顔を上げたリーダーが、自分を見下ろす騎士を見て舌打ちをする。


「虫達に何かしたのか知りませんが、かなり恨まれてますね。にしても、狙った者以外傷つけないとか……賢すぎませんか」


 こんな混沌とした状況でも、騎士の傍に近寄らない蜂や蟻達を見て騎士が首を傾げる。


「なんで、邪魔を「全く、厄介なとこで大手柄を見つける事になるとは……ね? 黒狐のリーダーさん?」

「!!!」


 黒狐のリーダー?

 やっぱり、名の知れた盗賊団だったのか。

 なるほど、そして王都の騎士は流石だな。

 すぐに、相手の正体を看破したのは職務に対する意識の高さか、王城の教育の賜物か。


「その首に刻まれた黒い狐の刺青、そして中心に刻まれた王冠。全く、盗賊如きが王冠を彫るとは……」

「くそぉぉぉぉぉ!」


 そして騎士が手に持った槍で、首を一閃。

 断末魔の雄たけびをあげながら、リーダーの首がポトリと落ちる。


「何百人と殺して来た盗賊団のリーダーですから、査問するまでもなく死刑ですね……手間が省けて良かった」


 槍に一振りして穂先に付いた血を払うと、目の前をホバリングする蜂に視線を送る。 

 蜂は、首を傾げすぐに他の獲物に向かっていったが。

 

 すぐに他の騎士達も、先行した騎士に追いつく。


「ジェンダー殿、どうされたのですか?」

「ふふ、どうやら彼等が噂のベルモントの守り神みたいですよ」


 ジェンダーと呼ばれた騎士がヘルムの覆いを開けて、今も盗賊達だけを執拗に狙い続ける虫を見る。

 その視線を追って隣の騎士が蜂を見て、不思議そうな表情を浮かべている。


「守り神ですか……にわかには信じられませんけどね」

「この光景を見ると、たまたまかもしれませんが、あながちただの噂とも思えませんね」


 その時、集団のど真ん中から火柱が上がる。

 どうやら盗賊の誰かが魔法を使ったのか、魔法を込めた魔石か何かを発動させたのか。

 かなりの大きさの火柱だから、後者かもしれない。


 その炎も周囲に展開された蜂部隊が、羽から風魔法を放って中心に押し込み、炎の勢いを上空に逃がしていたが。

 勿論放った本人は、自分の使った炎に包まれて黒焦げだ。


 盗賊の1人が槍で鋭い突きを放つが、フワリと槍の穂先に止まった蜂が顎で刃を落とす。

 そのまま少しずつ槍を凄い速さで、齧って短くしていく。


「うわっ!」

 

 慌てて槍を手放した瞬間に、両方の膝裏を蟻に食い破られ膝を付き……突っ込んで来た先ほどの蜂に顔を針で弾き飛ばされ意識を手放す。

 そこまでやって、何故刺さないと思わないでもないが。


「これ、もしこの虫達に殿下の馬車が襲われたら……」

「たぶん、全滅……じゃないですか?」


 ジェンダーの横に馬を並べた若い騎士が身震いして、彼の方を向くと笑顔でそんな答えが返ってくる。


「それって、かなり不味いんじゃ」

「終わったみたいですよ、彼等が帰っていくみたいです」


 そう言ってジェンダーが指さした先では、編隊を組んだ蟻や蜂達が現場からいそいそと離れていく。

 そして残されたのは、呻き声を上げてのたうち回る盗賊達。


「これ、どうしましょう?」

「ベルモントの街に走って、応援を呼んできなさい。取りあえず、他の護衛の方々と手分けして縛っておきま……その必要は無いようですね」


 盗賊達を見ると、蜘蛛の糸のようなもので両手両足がグルグル巻きにされ、それに全員が繋がれている。


「すぐに、行って下さい。殿下とビスマルク副長には私から報告しておきます」

「はっ」


 ジェンダーの指示を受けて、騎士が馬を走らせるのを見送る。

 ジェンダーがジッと、ラーハットの馬車を見つめる。

 正確には、中に居るだろうマルコを見ていたのだろう。


「それにしても、害意あるものだけを狙う虫達ですか……興味深いですね」


 そんな事を言いつつ、自身も馬を駆けさせて戻っていく。

 

「たまたまか……はたまた、何か秘密があるのか。殿下の旅行中に何か分かればいいですが」


 気になる呟きを残しつつ。

  

虫回でした……

本日はゆっくりしますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴブリンの管理の仕事に出向する話

↓↓宣伝↓↓
左手で吸収したものを強化して右手で出す物語
1月28日(月)発売♪
是非お手に取っていただけると、嬉しいです(*´▽`*)
カバーイラスト
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ