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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
85/304

第70話:Stand By Me

5/7 15:00 誤字脱字全力修正しました。

 今日は、朝食はセリシオ達が泊っているホテルで頂く事になった。

 ベルモントの街にある2階建てのホテル。


「ほへー……」

「うわぁ……」


 外観が凄い事になっている。

 外壁が綺麗に塗り直されて、陽の光を反射して眩い光を放っている。

 真っ白な純白の壁に、思わず落書きをしたくなるような衝動を抑える。


 横を見るとヘンリーも馬鹿口を開けて、ホテルを見上げていた。


「いらっしゃいませ。マルコ様、ヘンリー様」


 出迎えてくれたのは、マクベス家の使用人だろうか?

 スーツに身を包んで、丁寧にお辞儀をしてくれる。


 それから中に通される。

 ロビーには、とても座り心地の良さそうなソファが並べられており、これまた立派な一本の木を伐り出して作ったであろう立派なテーブル。

 カウンターも輝いて見える。


「マルコ、ヘンリーおはよう」

「おはようベントレー」

「おはよう」


 ロビーのソファに座って、新聞を広げていたベントレーが立ち上がって軽く手を上げて来たので、こちらも振り返す。

 それから、手に持った新聞を折りたたんで、棚に戻すとこっちに近づいて来る。


「昨日は貴重な体験をさせてもらって、感謝する」

「いやいや、楽しんで貰えたみたいで良かったよ」


 ベントレーが僕の手を握って、感謝を伝えて来たので思わずちょっと照れてしまった。

 相変わらず、爽やかなイケメン予備軍だ。

 以前は腹黒さがあって、プラマイゼロだったが……今じゃ、ただのイケメン。

 腹が立つ。


「ヘンリーも、よく来るだけあって色んなことを聞いてたんだな。勉強になったよ」

「いや、僕の知識なんて全部マルコから聞いたものばっかだし」

「それを忘れず、人に説明できることは簡単な事じゃない。ヘンリーは教師とか向いてるかもな?」

「そんな僕なんて」


 ヘンリーが教師?

 うーん、ちょっと違和感。

 いや、確かに色々な事を吸収する能力は高いと思うけど。


「マルコ様、こちらです」


 それから3人揃って、マクベスの使用人の女性に案内される。

 食堂に通されると、すでに使用人たちが朝食の準備にバタバタとしていた。


「おはよう」

「おはよう、マルコ、ヘンリー」


 最初に顔を出したのは、エマとソフィア。


「おはようございます」


 それから、ジョシュアがやってくる。

 いつも、その並びなのか入り口から見て長机の左側に女性陣の2人が座ると、その対面にジョシュアとベントレーが座る。


「マルコ、隣空いてるぞ」

「有難う」

「じゃあ、ヘンリーはマルコの向かいが良いかな?」


 ナイスアシスト。

 一番奥の席と、その両横は空席だ。

 さらにその隣も空いている。

 そしてベントレー。


 その空いてる席にベントレーが僕を呼んでくれた。

 すかさずジョシュアがヘンリーに席を勧める。

 エマの隣だ。


 ヘンリーがちょと嬉しそう。


 一番奥がセリシオか。

 少し遅れて、セリシオとクリスとディーンが入って来た。


「おはよう、先に食ってて良かったのに」

「出来る訳がないと知ってて、余計な事を言わないの」

「朝からマルコが冷たい」


 開口一番、人を揶揄うような事を言うセリシオにチクり。

 クリスに即座に睨まれるが、そのクリスが口を開くより先にセリシオがおよよと大袈裟に凹んで見せる。


 クッソうざい。


「今日は宝石作り体験だっけ?」

「私、昨日からとても楽しみで、全然眠れなかったんですよ……でも、女の子でも出来るの?」

「大丈夫、職人さん達がちゃんと手伝ってくれるから」


 この話を持っていった時、職人さん達嫌がるかなと思ったけど案外素直に許してくれた。

 貴族の方々が身に着ける宝飾が、どのように作られるのか興味を持ってもらえたのが嬉しかったらしい。


「領主様のお坊ちゃんの頼みとあっちゃあ、断れねーな」

「もちろんでさぁ! ご友人の方々共々是非楽しんでってください」


 さらにこんな事まで、言ってくれた。

 嬉しい。

 良い印象を受けて貰ってるって事だよね?

 決して、断ったらお父様の勘気を被るのではという事じゃないよね?


 だって、物凄く良い笑顔だし。

 

「そうそう、飲み物を注ぐのはちょっと待って? お姉さん、僕の馬車から降ろした荷物の箱に各家の名前が彫ってあるから、その中の小さい箱をそれぞれの前に持ってきて貰えますか?」

「えっ? はいっ、そのぐらいでしたら」


 僕の言葉を聞いて、お姉さんが他の男性の方にお願いして小さな箱を持ってきて皆の前に置く。


「開けてみて」


 僕の言葉を聞いて……セリシオとエマは僕が口を開く前にとっとと開けてた。


「ほうっ!」

「うわぁ」

「これ、昨日作ったの?」

「凄い綺麗」

「なかなか、良いな」

「素晴らしい」

「良い出来だ」


 今日朝一で届いた、皆がオセロ村で作ったガラスのコップだ。

 1人3個ずつ作ったうちの1つを、先に披露する。

 皆、箱を空けて中身を確認するとそれぞれが手に取って、色々な意見を眺めている。

 エマとソフィアもうっとりと、テーブルの燭台の火の光を反射してキラキラと輝くグラスに溜息を吐いている。

 喜んでもらえて良かった。


「うわっ、クリスの妙に分厚いな」

「殿下のは……まあ、無難な形ですね」

「なんだと? ディーン……お前、本当に無駄に器用だよな」


 セリシオ達が、お互いのグラスを見せ合って感想を言い合っているが、セリシオもクリスも似たり寄ったりだ。


「朝食の飲み物は、是非これで頂こうと思ってさ」

「マルコやるじゃん!」


 エマが真っ先に褒めてくれた。


 皆の喜ぶ姿が見れて、マサキも満足そうだ。


――――――

「こうやって、この表面を削っていったら綺麗になりますので」


 職人さんが大まかに形を整えてルビーを、それぞれの前に置く。

 一応、エマとソフィアの前に大きめの物を置くようには指示しておいたが、研磨が大変なのでそこもある程度職人さんがやってくれている。

 仕上げの目の細かい布で削れば、透明度も増して満足いくものになるだろう。


「中々にっ、大変なっ、作業ですねっ」


 ソフィアが汗を拭いながら一生懸命に、石を磨いている。

 その横でエマも……


「もう、十分じゃない?」


 早々と諦めていた。


「でも、まだ磨けば光りますよ?」

「……これ、布と一緒に持って帰って、家でのんびりとやっちゃだめ?」


 エマには辛抱というものが足りない。

 少しはソフィアを見習って欲しい。


 女性陣はカボションカット、男性陣はダブルカボションカットに挑戦している。

 ここで、ベントレーが意外な才能を発揮。

 無心でひたすら石を磨き続ける。


「こう煩雑な世界から意識が離れ、無心で作業が出来た……何か、この世の真理に近づいた気がする」


 汗一つかかず、それでいて人より倍の速さで一定間隔に磨き続けたベントレーの手には、綺麗に透き通った赤い宝石が。


 先細りの雫のような形をしていて、とても綺麗だ。

 洋梨型とでもいうのだろうか。


 ヘンリーは気合で石を磨き切って、台座作りを頑張っていた。

 爪がハートの形になるように、銀粘土を一生懸命練って形を整えて、それでも素人が作ったと丸わかりのちょっと歪な台座。


 まあ、ハートに見えなくもない。

 

「何それ? 桃?」

「いや……うん、桃かな? エマにプレゼントしようと思って……」

「まあ、私も桃は好きだけどさ……」


 エマが微妙な表情で、ヘンリーの作ったペンダントトップを手に取っている。

 中々に良い雰囲気だ。


「ベントレー凄いな」

「意外な才能ですね」

「うむ……ベントレー様には職人としての資質がありますな」

 

 そんな2人の元に、セリシオとディーンの声、さらに職人さんの声まで届いてくる。

 ベントレーの作った宝石を見て、驚いたらしい。

 実際に僕も驚いた。


「すっごい綺麗!」

「綺麗ですね」

「やるじゃないか」


 その周りにエマとソフィア、クリスも集まる。

 ジョシュアは……ああ、ジョシュアも自分の世界に入り込んでいた。

 彼の場合は、銀細工の方に興味が行ったようだけど。


「ねえベントレー! それ頂戴!」


 エマが無邪気にベントレーに、出来上がった宝石を強請る。

 その様子を見ていたヘンリーの表情が曇るのを横目で見る。

 そんな僕の視線に気づいたヘンリーが、泣きそうな表情を浮かべて近づいて来ると首を横に振る。


「ゴメン、マルコ。ちょっと、外に出てくる」


 そう言ってトボトボと外に出て言ったヘンリーを、僕は追いかける事が出来なかった。

 しばらくして戻って来たヘンリーがどんより暗い。

 とても声を掛けられない。

 痛々しいヘンリーに、どう接して良いのかわからないままその日は終わった。


――――――

「もう駄目だ」

「大丈夫だよ、まだまだ挽回の余地はあるって」


 その日の夜、隣同士で横になっていたがずっと黙っていたヘンリーがボソッと呟く。

 慌ててヘンリーを慰めるが、ヘンリーがこっちをジッと見てくる。


「折角マルコが色々と手伝ってくれたのに……」

「でも全然役に立たなかったみたいだし……なんか、ごめん」

「マルコは悪く無いよ……」


 うわぁ…… 

 暗い。

 ヘンリーが滅茶苦茶暗い。

 こんな事なら、昨日の夜もっと真剣に一緒に対策を考えるべきだった。


「本当に、ゴメン。昨日は寝ちゃったし」

「ふふふ……仕方ないよ。まあ、本来ならマルコには関係ない話だしね」


 なんだろう、少し棘のある言い方に感じたのは気のせいだろうか。

 今までベルモントに来てから、色々と手伝ってあげてきたのに関係ないとか……


「いや、本当にごめんって。もっと色々と頑張るから」

「もう良いよ……」


 僕が色々と頑張る意味が無いような気がしつつも、つい売り言葉に買い言葉的に自然に出て来た。

 そして、あっさりと断られた。

 ちょっと、悲しい。

 けど、それ以上に何か、イラッとした。


「諦めちゃ駄目だよ」

「マルコは良いよね……アシュリーと上手く行ったから……」


 なんだ、その言い方。

 

「ベントレーとエマの方が、僕なんかよりよっぽどお似合いだよ……実家の爵位もあっちの方が上だし」

「そんな事無いって。そんな事言ったら、アシュリーと僕だって、身分は大分違うし」

「でも立場が逆じゃん! エマとアシュリーは違うし! エマは僕の実家より遥かに上の身分の子だよ? 格上の相手を好きになる僕の気持ちなんて、マルコには分からないよ!」

「なに、その言い方?」

「あっ……」


 流石に失言だったとヘンリーも気付いたらしい。

 でも、もう遅い。

 まるでアシュリーを……僕の大切な人を下に見た言い方に我慢がならない。


「ふーん……ヘンリーって、そんな事思ってたんだ。僕なら逆の立場でも頑張れるし……自分が意気地無しなのを棚に上げて」

「っ! マルコに僕の気持ちなんてやっぱり分からないんだよ!」


 ヘンリーが顔を赤くして、こっちを睨み付けてくる。

 もう怒った。

 僕だってアシュリーは確かに家格は下かもしれないけど、その障害になるのはお母様や、他の貴族の人達だし。

 家の人達や、ディーンを納得させるのにどれだけ悩んだかも知らないくせに。

 

「その程度で諦められるようなら、僕とはやっぱり違うね。そんな根性無しの気持ちなんて分からないよ!」

「諦められないから辛いんじゃないか! 自分が上手くいったからって、いくらなんでも酷いよ!」

「酷いのはどっちだよ! 僕の好きな人を貶めるような事を言いやがって」

「……それは……本当にごめん。でも! マルコだって、僕の気持ちも分からずに好き勝手言ってるじゃん!」

「先に言い出したのはヘンリーだし!」

「僕は、もう良いって言った! その後も、無責任な事を言ったのはマルコじゃん!」

「もう良い! ヘンリーなんか知らない! 勝手にしろ!」

「言われなくても、勝手にするよ!」


 本当にムカつく!

 あんなに色々としてやったのに……

 礼も言わずに文句まで言うなんて。

 礼は……一応、言われたけど。


 でも、アシュリーの事まで馬鹿にするようなことを言い出したのは許せない。

 もうヘンリーなんか知らない。


 ラーハットなんて行ってやるもんか!

 元々、ヘンリーが1人じゃ不安だからって行くことになったんだし。

 それよりも、ベルモントでアシュリーと一緒に居た方がきっと楽しいし。


 ムカつく!

 ムカつく、ムカつく、ムカつく。


 ヘンリーが寂しそうだったから、ベントレーが来るのに合わせてヘンリーも来させてやったのに。

 しかも、少しでもエマと仲良くなれるように僕だって頑張ってやったのに。

 なんだよ、勝手に自滅して……それで、いじけて僕に八つ当たりまでして。

 子供の癇癪だってのは分かってるけど、僕だって子供だし。

 

 ヘンリーなんて勝手にすれば良いんだ。


――――――


 あまりに腹が立って、全然眠れない。

 何度も寝返りを打つ。


 それはヘンリーも一緒らしく、布団が擦れる音が幾度となく聞こえてくる。

 ヘンリーに背中を向けて、モンモンと色々な事を考える。


 大体、ヘンリーってなんであんなに身勝手なんだよ。

 本来なら、ラーハットで大人しくベントレーが来るのを待ってたら良かったのに。


 あー、イライラする。


「マルコ……」


 後ろからか細く僕を呼ぶ声が聞こえてくる。

 無視だ無視。


「ごめん……」


 小さな呟きが聞こえてきたが、狸寝入りをして誤魔化す。

 謝られたって知るもんか。

 ヘンリーがどう思ってるかようく分かった。


 親友だと思ってたのに……

 

 うん……一番仲の良い友達だと思ってたのに。


 ちょっと、胸が締め付けられる。

 そんな思いを振り払うように、頭から布団を被る。


『マルコ?』


 頭に直接声が響いてくる。

 マサキだ。


 お節介なマサキが、僕とヘンリーが喧嘩をしてるのを見て心配で口を出してきたんだな。

 今は、そんな気分じゃ無いし。


『ヘンリー……泣いてるぞ?』

「知らない。うるさい」


 心の声で返事をすると、盛大な溜息が聞こえる。

 ヘンリーが泣いてたからって、なんだってんだよ。

 泣かせた方が悪いなんて、とんでも大人理論で僕を説教するつもりだろ。

 

 そんな声なんて聞いてやらない。


「マルコ……ゴメン」


 またヘンリーの声が聞こえる。

 腹が立つ。

 ムカつく奴なのに……なんで、こんなに無視をするのが心苦しいんだろう。


『マルコ……お前さ? ヘンリーにもっとエマの表情を見た方が良いとかって言ってたよな』 

 

 なんだよ……

 そんな事言ったっけ?


『それすらも覚えて無いのか? 昨日の事なのに……それに、お前はヘンリーの表情をちゃんと見ていたか?』


 ああ、言ったかも。 

 でもそれが、なんだってんだ。

 それにヘンリーの表情?

 いつも通り、ポヤっとしてたくらいしか分からないし。


『初日にセリシオやエマより遅く到着した事を知った時の表情、ディーンの実家のマクベスがセリシオの為にホテルを一つ丸々改装したのを聞いた時の表情』

 

 覚えて無いし……


『ヘンリーはお前の親友じゃ無かったのか?』


 親友だっただよ。

 もう、あんな奴知らない。


『エマがベントレーを褒めた時の表情……』


 ちょっと焦ってたかな。

 すぐにマヨネーズの秘密ばらして、なんて軽薄な奴ってのは思ったけど。


『お前さぁ? アシュリーと上手くいったからって浮かれ過ぎじゃないか?』


 なんだよ、マサキまで。

 マサキまで、アシュリーと僕の事を言い出すの?

 喜んでくれてたんじゃないの?


『セリシオやエマより遅く到着したと知った時に、物凄く失敗した顔してたぞ。本当はマルコと一緒に出迎えたかったんだろうな』


 ふーん……


『セリシオやエマが泊るに相応しい宿泊場所を用意したって聞いた時は、顔を青くしてたな』


 よく見てるね。

 子供好きのマサキらしいや。

 だから何?


『焦っただろうなぁ……マルコの……ベルモントよりも後に、ラーハットに来るんだから』


 ……


『絶対にここと比較されるもんな』


 だから、僕……マサキが提案した高級リゾートを勧めたじゃん。


『そうだな……でも、それってマルコの用意したホテルみたいなもんだよな?』


 そんなの黙ってたらバレないし。


『ヘンリーのプライドは? 結局、ラーハットでもベルモントの物を勧めるような状況になったヘンリーの気持ち……考えたか?』


 ……うるさい!

 それと、アシュリーを馬鹿にしたことは、話が別だから!


『お前って……本当に喉元過ぎればなんとやらだな』


 なんだよ!

 僕が成長してないって言いたいの?


『オセロ村で、エマ達の興味を上手く誘導できなかったときのヘンリーの絶望の表情すら気付けないなんて』


 それは、僕が折角色々と根回ししたのを、上手く活かせなかったヘンリーが悪いし。

 僕のせいじゃないし。


『結局、他人事なんだろ?』


 そんな事無いし!

 これでも色々と、やってやったのに全部ヘンリーが失敗したんじゃん。


『ベルモントに来るまで、エマは色んな男の子達に囲まれてて、ヘンリーはとっても心配だっただろうな』


 ……


『ようやく合流出来て焦るのも仕方ないと思わないか?』


 全然?


『逆でもか? 王都にアシュリーが男の子数人と遊び来てもか? それまで数日間、マルコの居ないところで男の子達とどんな話をしてたか気にならないのか? 嫌じゃ無いのか?』


 嫌だけど……

 嫌だ……


『折角俺も手伝ってやったのに、肝心のマルコが他人事じゃそりゃ駄目だわな。マルコの時だって、俺は親身になって色々とやってやったつもりだけど?』


 それは感謝してるけどさ。


『アシュリー以外にも、ゴブリンの時も俺が代わりにやっつけてやったよな?』


 ……


『ベントレーもそうだ。邪神教を名乗る集団相手に、俺が上手く立ち回ってやったよな? マルコの為に』


 なんだよ、やってやった、やってやったって!

 上から目線で、僕を見下して。

 まるで、僕が1人じゃ何も出来ないみたいな言い方してさ!


『その言葉が全てじゃないか? お前……ヘンリーの事、親友だなんて言いながら、どこかで見下してないか?』

 

 そんなっ!

 そんな事……


『成績で負けても、どうせ僕が本気出したら勝てるし? 訓練で危うく一撃喰らわされそうになっても、僕が強化のスキル使ったら余裕だし? 僕が手伝ったからラーハットの経済状況が良くなって、貴族科にヘンリーも入れたし? どうせヘンリーの事だから、僕が手伝わないとエマとも進展しないんじゃないかなとか?』


 ……

 なんだよ! 

 ムカつく。


『ヘンリーが寂しそうだからベルモントに来させてやった、エマと仲良くなれるように僕が手伝ってやった……さっきそう思ってだろ? そういう思いを抱く事自体が見下してるってことじゃないのか? さっきお前が言ったみたいに』


 ……

 思ってた。

 言われてみたらアシュリーとも上手くいって、この2日間皆も楽しんでくれて……

 余裕ぶってたことは否定できない。


『ヘンリーがどれだけ焦ってるかも理解しようともせずに、適当なアドバイスばかりして……相談の最中に寝るとか、それこそ他人事だと思ってるからに他ならないよな? 親友が本気で悩んでいるのに……お前はしてやったばっかりで、ヘンリーの悩みに真摯に向き合ったって言えるのか? 今のあいつの悩みの本質はエマだけじゃないって事にも気付いてないくせに、お前のアドバイスはエマとのことばかり……それで、よく親友だなんて言えたもんだ』


 ……


『エマの事以外にも、セリシオに対する対応についても……そもそも、セリシオが参加することになった原因はお前だっていうのに』


 ……


『ヘンリーってさ……昔からずっとお前に憧れて、お前の後ろばかり追いかけて来てたよな?』


 急にマサキが優しい声で語り掛けてくる。

 この緩急の使い分けはズルいと思う。

 けど……自分ながら彼の優しい声色は聞いて居てホッとしてしまう。


 そうだね。

 僕が剣の早朝訓練してるの聞いて、ヘンリーも始めたし。

 王立シビリア総合学園に来たのも、僕が入るからだって言ってたし。

 僕が色々とガンバトールさんに提案した時も、ヘンリーも一生懸命考えたことを言ってたっけ。


『そうそう、お前の真似ばっかりして……一緒に居る時は子分みたいに付き歩いてさ……』


 ヘンリー……

 ちっちゃい頃から、ずっと一緒だったもんね。


『そんな憧れの親友がさ……身分を越えた恋愛まで成就させちゃって。ヘンリー焦っただろうなぁ』


 うう……

 なんか全部、僕のせいみたいに言われてる。


『勿論ヘンリーだって悪いさ。マルコを頼り過ぎて、マルコを信じすぎて主体性が無くなってるのはあいつが弱いせいだ』


 だよね?

 僕のせいじゃないよね?


『でも……ここまで主体性を無くしてしまう程の失態を立て続けに犯した親友に……お前、少し対応がいい加減過ぎなかったか?』


 うう……

 確かに……

 アシュリーをどうやって皆に受け入れて貰えるか。

 その事が、常に頭のど真ん中を占めていた。


『ヘンリーは……そんなマルコを見て、アシュリーにも嫉妬してたのさ……親友を取られたと思って』


 そんなの、なんでマサキに……分かる……

 分かるかもしれない……

 僕の事だって、僕以上に知ってるマサキだから。


『だから、あんな心にも無い事を言って、今頃、本当に後悔してるだろうな』


 ……


『この夏休み……立場が上の貴族の子供達相手に失態を続けて、意中の人へのアプローチは全滅。あげくに親友まで失いそうなヘンリー……』


 自業自得だと思うけど……

 でも、ヘンリーの気持ちを考えると、胸が痛くなってくる。


『こんな時に、傍に立ってやれるのが……本当の親友だと思うぞ?』


 うん……

 僕も、調子に乗ってた。


『本当に気が合う友達ってのは、どんなに酷い喧嘩をしてもお互い一歩歩み寄れば簡単に仲直り出来るんだから』


 うん。


『ヘンリーは、自分も押しつぶされそうな不安の中、一歩近づいて謝ってきたぞ?』


 うん。


『お前はそれでいいのか?』


 ……


『このまま、親友を……ヘンリーを失っても良いのか?』


 嫌だ……


『じゃあ、もう後は分かるな?』


 うん!

 マサキの気配が消える。

 寝返りを打って、ヘンリーの方を見る。

 心配そうに、こっちをジッと見つめる瞳。

 

 まるで捨てられた子犬のような、不安と恐怖の入り混じった瞳。

 

「ヘンリー……僕も、悪かったよ。アシュリーの事は許せないけど……ヘンリーだから、今回だけは許してあげる」

「マルコ……うっ……うぅ」

「泣くなよ。男の子だろ?」

「うぅ……ごめん……」

「僕も浮かれてた……もう少し、真剣に考えるべきだったと反省してる」

「マルゴば、ばるぐないよぉ」


 情けない声で、一生懸命答えてくれる小さな親友。

 ないがしろにしてたことを自覚して、少し罪悪感を感じる。

 けど、そんな事は顔に出さない。

 今出せる、精一杯の笑顔をヘンリーに向ける。


「明日はラーハットに向かうし、ラーハットについてからが本番だ!」

「うぅ……うん」

「ヘンリーが……自信のあるものを、ヘンリーの言葉で魅力を伝えるんだ!」

「うぅ……うん」


 僕に許して貰えて安心したのか、ヘンリーの目からポロポロと涙が溢れ出ている。

 ヤバい……僕まで泣きそうだ。


 本当に色々と不安で、心細かったんだろう。

 親友の悩みの本質に気付けなかった自分が、ちょっとだけ情けない。


「ちなみに……ベントレーは、エマのおねだりをきっちりと断ってたよ」

「えっ?」

「ふふ……美しい友達にあげるんだって。彼女に相応しいとかって言ってたし」

「そうなの?」


 少しヘンリーの声が明るくなる。

 あの後、ヘンリーはすぐに工房を出たから、事の顛末を知らなかったからね。

 少しでも安心してくれると、嬉しい。


 ちなみにベントレーが送る相手はトトだ。

 トトが好きって訳でも無さそうだけど、かなり気に入ってるのは確かだ。


 ただ、彼の言う美しいは外見的な事じゃなくて、生き様を指しての事だけど。

 少しは脈があるのかな?


 お互い無さそうで、でもアクセサリーを送るベントレーにちょっと笑ってしまった。

 うん、その事を思い出したら涙が完全に引っ込んだ。


 だから、全力の笑顔でヘンリーに親指を立ててやる。


「ラーハットの魚は、こんなちっぽけなルビーよりずっと素晴らしいものだから、自信をもって頑張ろう」

「う……うん」


 泣きながら笑ってくれたヘンリーに、ようやく僕もホッとした。


 次の日、目を真っ赤に腫らしたヘンリーを見て、ソフィアが心配そうに声を掛けていて、エマが全力で笑っていた。

 本人が嬉しそうだから、何も言わないけど。

良く寝たと言いたいところだけど、朝は早くに目が冷めるのは社会人故の宿命か……

基本昼から出勤が多いけど(;^_^A


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