第68話:ミスリル騎士の塔~オセロ村
スランプ……
マルコは絶賛訓練中。
だから時刻は5時。
北の大陸は夕方かな?
地図を移動。
夏だから日が長いせいで、昼間みたいに見える。
サマータイム発動とか、あるのかな?
流石に魔王様を観察するのは気が引けたので、ちょっとだけ覗き見。
なんか、畑で良い汗かいてる色黒のおっさん。
あれっ?
魔王?
「魔王様、気持ち良いですね」
「ああ、こうやって汗をかくと、なんであんな小さな事で悩んでいたんだろうなと思えてくる」
「そうですよ! 魔王様には、まだまだ我らを導いてもらわないと」
牛たちに囲まれて、楽しそうだ。
他にも中身の無い、リビングアーマーもハルバートを鍬に持ち替えて畑を耕している。
あいつら、熱処理とかどうなってるのかな?
いくら北の大陸とはいえ、炎天下の下で甲冑が焼けるように熱くなったりとか。
熱中症でバターンとか笑えないな。
魔王様がこちらをチラッとこっちを見た気がするが、すぐに畑に目線を戻していた。
スススと城内を移動。
バルローグさんっと。
居た居た。
おお……ひたすら枯れた草を眺めている。
魔力の残滓を感じることが出来るようになるための訓練と。
ただでさえ、大気中の魔力が付着するくらいでしか魔力を帯びない雑草。
の枯れたもので訓練か。
眼が血走ってて怖いな。
枯草とバルログさんの間に移動……
全然気付いた様子は無しと。
後ろの枯草を見てるんだろけど、なんか見透かされてる感じがして気持ち悪い。
黒騎士の方へと向かおう。
来ました、ミスリル騎士の塔。
塔の入り口に蟻達に、ミスリルタワーと彫ってもらった。
どこかなミスリルさんはっと。
居た。
執務室。
相変わらず、真面目だな。
えらい渋い顔して何を見てるんだ。
眉間を押さえて、首を横に振っている。
本当になんだ?
手元を覗き込む。
気になる題の付いた提案書。
上層部の回廊の部屋に、割り振られた番号の除去作業。
ああ、俺がやらせたやつね。
あれ、便利だと思うのに消しちゃうんだ。
なになに、外注した場合……うわぁ、金貨300枚ってぼったもいいとこだろう。
金貨1枚で10万円くらいだっけ?
3000万。
いや、妥当な額か?
外注先は……魔王城城下町の魔工技師と。
自前でやるには、完全に消す事は出来ないことと、それによる人員登用で守備が手薄になると。
そうか……
他にはと……
ミスリルタワーと彫られた扉上の落書きの対応。
現状、入り口付近に冒険者が多数いるため、対応は現実的ではない。
代替え案として、彫られている場所のシールドを除去し破壊。
外観は少し醜いものとなるが、現状よりもマシ。
なるほど……
問題は誰が、破壊に向かうか。
現在希望者は居ない。
特別手当の要請か……金貨10枚なら、何人か参加を仄めかしていると。
あっ、ミスリル騎士がその提案書を丸めて捨てた。
少しは検討したらどうなんだ?
俺が金貨5枚でやってやろうかと、提案したくなるくらいだが。
とうとう机の上の書類全部、手でバーッと払い落として机に突っ伏した。
かなりお疲れの様子。
そして床に落ちた書類の一枚が目に入る。
害虫駆除
最近塔内にて、大型の蟻を多数目撃。
壁や柱に甚大な被害あり。
魔物かと思い調査した結果、ただの虫の突然変異であることが判明。
魔王城城下町の、害虫駆除業者に依頼。
金貨4枚。
結果報告。
殺虫剤、罠、全て効果なし。
蟻の反撃を受けた、現場作業従事者3名が重症。
害虫駆除業への復帰は絶望的な状況。
当該労働者には労災が支払われたが、こちら側に魔物を虫と偽って依頼したのではとの嫌疑が。
掛かった費用と、失われた人材の補填料、また労災による保証金の全額負担の要望書が魔王城に提出され、現在調査中。
近いうちに、調査団がこの塔を訪れるとのこと。
うわぁ、この二日間でかなりの出費が予想出来てるな。
というか、トップが働き者だからか部下の対応報告も早いな。
他にも蟻関連の報告がチラホラ。
塔の外壁を蟻がラージタイガーの死骸を運んでいた。
塔の地下に巣を作っている模様……早急に対処されたし。
塔内にて冒険者と蟻の戦闘が行われ、冒険者が素っ裸にひん剥かれて無傷で外に運ばれていったとの目撃情報多数。
おいっ!
何してんの?
蟻に確認。
問答無用で襲い掛かって来たから、適当に遊んであげた。
割と良い装備を身に着けていたので、是非マスターに献上したく回収したと。
その際に、現金も入り口への輸送料として徴収。
こちらもマスターに献上予定。
うん……有難いけど、これバレたら不味いんじゃない?
聖甲蟻を使って、悪しきものじゃない事をアピールしたので、今は共存してますと。
なるほど……
定期的に巣の入り口に貢物が届くようになり、食料事情は改善されたので生活の基盤は出来ました。
そうか……蟻からご安心をとの報告を受けた。
事後じゃなくて、事前報告が欲しかったよ。
少しはミスリルさんの部下を見習って欲しい。
いつ回収に来られますか?
それに合わせて、ミスリル製の装備も回収しておきますが?
うんうん……やめたげて?
また、ミスリルさんが鉄騎士さんになっちゃうから。
蟻から現状報告を受けていたら、ミスリルさんが部屋から出ていく。
どうやら、少し休憩を取るらしい。
そして向かったのは自室。
扉を開けようとしてドアノブを握り、手が弾かれて固まる。
「拒否された?」
白蟻が、聖域結界を張ったらしい。
他にも、各階層にいくつかの結界を張って冒険者の休息場所として用意しました?
そんな誇らしげに報告されても。
で?
50階層で一番良い部屋を、ここの休息場所にすると……
室内はシンプルながらも手入れが良く届いていて、上質な寝具もあるから皆喜ぶはず?
そうだけどさ……
ミスリルさんが恐る恐るドアノブを触れ、また手が弾かれる。
唖然とした表情を浮かべている。
「満足に休息も取れないのか、これは本当にどうにかしないと」
深く溜息を吐いて踵を返す。
「あっ!」
あっ……
丁度ミスリルさんの視線の先に白蟻が。
前足を上げて、軽く挨拶をしている。
それに対して、何も反応出来ないミスリルさん。
「見つけた!」
ミスリルさんが腰に下げた剣を抜こうとして、止まる。
ミスリルさんが、握った場所には柄も何もない。
ミスリルさんの視線が自分の腰から床に移動する。
彼の足元には、鞘付きの剣を担いだ30cm級の蟻が。
「おいっ!」
その蟻がミスリルさんに前足を上げると、凄い勢いでダッシュ。
奪取&ダッシュ?
渾身のネタを俺に見せたかった?
剣を奪った蟻を必死で追いかけるミスリルさんを尻目に、白蟻が教えてくれた。
逃げた蟻はあらかじめ開けておいた塔の壁の穴を潜って、どんどん逃げる。
「くそっ!」
蟻に逃げ切られたミスリルさんが、両手両膝を付いて項垂れる。
「どう報告しろというのだ」
そんなミスリルさんの肩をトントンと、慰めるように叩く白蟻。
ミスリルさんが振り返った瞬間に、最高出力の聖属性の結界が発動。
吹き飛んで目を回すミスリルさん。
――――――
「こんなところで寝てたら、風邪ひくね」
その後、通りがかったトクマに回収されていった。
トクマがヒョイとミスリルさんを肩に担ぐと、壁の足元の辺りに開けられた穴をジッと見つめる。
「こんなところに穴空いてるね。最近白蟻が見つかったらしいからそのせいね?」
白蟻違いだが……
まあ、ある意味でリアル白蟻被害だが。
――――――
ミスリルさん観察していたら、良い時間になった。
マルコがヘンリーと一緒に皆を迎えにいって、オセロ村に向かう時間だ。
「今日はよろしくお願いします」
オセロ村に着いた一行は、頭が大分薄くなった老人に挨拶する。
オセロ村の村長だ。
「いえいえ、マルコ様のお陰でこの村は大変潤っております。是非ご友人の方々にも、この村を楽しんで頂ければと」
ちなみに村長には、学校の友達の貴族と伝えてあるらしい。
リアルお忍びらしい。
街から出るまでに何人か不審な動きをする人間も居たが、行商人や旅人扮した兵士にすぐに連れていかれていた。
傍目に見ると、商人の一団に簡単に取り押さえられて引きずられて行く強面のヤバそうな人達は、街の人にどう映ったのだろう。
ちなみにベルモントの衛兵達もその動きは察知していたらしく、すぐに駆け付けようとしたが……
王都の精鋭だろう人達は、本当に音も無く忍びよって一瞬で意識を刈り取っていた。
その光景に、衛兵達が困惑していたくらいだ。
オセロ村では、リバーシ制作や鉛筆の製造を見ていた。
良く研がれた刃が、凄い速さで回転して鉛筆の側となる木をくり抜く工程に男共は目を輝かせていた。
女性陣の2人は……
「でね、この芯の部分には黒鉛と粘土が混ぜてあって、それによって成形が容易に出来るんだって」
「ふーん」
「凄いですね……」
一生懸命、ヘンリーがマルコから聞いた話をしていたがあまり興味は無さそうだ。
そろそろ止めた方が。
「ヘンリー……興味の無い話を自慢げにしても、うざいだけだから」
「えっ……ああ、うん」
目に見えてガックリと来ているヘンリーに対して、野郎共がざわめく。
「そんな、今からこの鉛筆の製造方法の肝に入るところでは」
「俺も大変興味深いと思っておったところなのに」
ベントレーとセリシオにせがまれて、とっとと先に進むエマとソフィアを悲しそうに見つめながらヘンリーが2人に続きを話すことなる。
ちなみにエマとソフィアの間にはテトラが手を繋がれて歩いている。
どこかで見た事ある。
捕らえられた小さな宇宙人的なあれか?
クリスはセリシオの後ろで興味無さげに歩いているが、その耳はしっかりとヘンリーの方に向いている。
やっぱり、クリスも男の子ってわけか。
ジョシュアはすでに、職人さん達から自分で色々と情報を集めているあたり抜け目ない。
ディーンは……
「で、これらをマルコが考えた訳ですね」
「あー、僕は子供の遊びの延長として、彼等に相談しただけで……」
「でも、その発想を得る元になったアイデアは全てマルコが考え付いたと彼等が言ってましたよ?」
先ほどからマルコにべったりだ。
マルコの後ろを歩くアシュリーが少し退屈そうにしている。
もっと、アシュリーと話したいのに。
というか、アシュリーも知らない事が多いから僕が色々と教えてあげたかったのに。
そんなマルコの心の声が聞こえてきそう、というか聞こえてくる。
テトラと先に進んでいたエマとソフィアが一番興味を持ったのはガラス細工だった。
これはまだ外には出していないが、色々なガラスの製造方法を模索している工房だ。
いま、この工房で行っているのは溶融ガラスの品質向上の実験だ。
吹きガラスは勿論の事、シリンダー法にまで手を伸ばしている。
この世界のガラスは、未だに鋳型に流し込むだけで透明度が低い。
それでいて、生産量が少ないので高級品なのだ。
それに対して、吹きガラスは透明度がかなり向上する。
そうして作ったガラスを円筒型にして、切り開く。
それを再加熱して広げるのがシリンダー法。
割と手軽に板ガラスが作れる。
そのうちフロート法にも挑戦したいが、フロート法を子供が思いつくのは流石に無理がある。
ガラスよりも重い溶融金属の上に、溶かしたガラスを浮かせて徐冷却させたら平らになるよ?
なんて、9歳児が言い出したら頭を切り開いて中身を覗かれるかもしれない。
なのでまあ、シャボン玉の応用ともいえる吹きガラスと、円筒を開いたら平面になるという簡単な発想のものからという訳だ。
流石に、これをヘンリーに説明させても女性陣は、彼を尊敬したりはしないだろう。
だって、ここはマルコの領地であり、周囲の職人の様子からマルコが考えただろうことは容易に想像出来る事だし。
「じゃあさ、ここで吹きガラス体験する? 何個か作ってみて、上手に出来たのをお土産にしたら良いよ」
「良いの?」
「やってみたいです!」
「おにいたま! ぼくもできますか?」
「テトラは難しいかな……だから、僕と一緒にやろうか?」
「はいっ!」
「マルコ、ズルい!」
何故そこで、テトラじゃなくてマルコが睨まれるのか。
初心者のエマとソフィアがテトラの手助けができる訳もなかろうに。
そんな事を思いながら様子を見る。
憐れヘンリー……
ここでも、セリシオとベントレーに捕まっている。
かなり未練がましくエマを見ているが。
「マルコは私のも手伝ってくれますよね?」
「なんで?」
ディーンがマルコに、何やらふざけたことを言っているが一蹴されていた。
というかマルコ、ヘンリーを助けてやれ。
ここで、ヘンリーが上手に作ったのをエマにプレゼント出来たら、株があがるだろう?
「ええ?」
「どうしたのですか?」
俺が話しかけた言葉に反応したマルコに、ディーンが突っ込みを入れる。
俺の事を知っているベントレーが、一瞬、なにやってんだこいつみたいな表情を浮かべていたが。
確かにマルコも迂闊だったが、俺ももう少し自重するべきだった。
異世界転生の為の知識、吹きガラス。
まあ、実際には中世ヨーロッパ―とかって設定なら、あってもおかしくないかもしれないが。
地球じゃ紀元前1世紀からある技術だし。
この世界じゃ、金属製品が主流らしくてそこまで見掛けないけど。
鋳型に流し込むところで、改良も止まっているし。
なんだかんだで、魔法があると技術の進歩がちぐはぐになるというのは、俺にとっては都合が良い。
テトラが竿を吹くと、溶けたガラスがプクッと膨らむ。
「上手上手」
そして、その竿に後ろから手を添えてクルクルと回して、遠心力で均等になるように形を整える。
さらに膨らませたガラスの球体に、マルコが溝を作る。
「反対側に、この板をゆっくりと真っすぐ押し付けて」
「はい!」
マルコの指示に従って、テトラが板を押し付けて瓶底を作る。
ちょっと斜めになってしまったのはご愛敬だろう。
その底に竿をもう一本くっつけて、先の溝を綺麗に切り落とす。
そして口を広げると、立派なコップが出来上がる。
「わぁ……」
「テトラ君、上手!」
「えへへ」
それなりの形に仕上がったコップを見て、ソフィアが褒めるとテトラが恥ずかしそうに頬を染める。
「おにいたまのおかげでつ!」
「テトラが上手に吹けたからだよ」
キラキラとした笑みを向ける弟の頭をマルコが優しく撫でている。
うんうん、良いなこういうの。
皆が作ったガラスは、これから冷却に半日かかるので明日ベルモントの街に届けられるらしい。
この旅で、楽しい思い出が一つ出来たみたいで良かった。
残念ながらヘンリーは、エマに良いところ見せる事が出来なかったが。
気合を入れたヘンリーのガラスは、息を吹き込み過ぎて穴が開いてしまっていたし。
明日の宝石加工が、少し不安になってくる。
カットじゃなくて、磨きの工程くらいにしておいた方がいいかな。
そんな相談をマルコとしながら、オセロ村を出発してベルモントに向かう。
みんな、今日の思い出話を馬車で沢山していた。
仕事が忙しくて、疲労が結構来てます……
脳みそが上手く働かない……
元から働いてないとか言わないように!
事実ですがw
渾身のネタの白蟻被害が、考えていた展開と違うけど結構な文字数書いたので投稿(;^_^A
もっと面白く出来るはず……
考えていたシナリオに仕事中に考えた展開やネタを肉付けするだけなのに、そのネタや構想とはズレた方向に話を進めるように勝手に手が動く自分を、なんか遠くから見てるような執筆状況でした……
ある種のセミオート執筆状態www
それでも評価……してもらえたら嬉しいです。
もしかしたら、明日は脳みそリフレッシュに当てるために、投稿を休むかもです……
息抜きに、短編のつもりで書き出したモブ戦記の最終話を書いたりくらいはするかもしれませんが……
あと二日……あと二日頑張れば……2連休"(-""-)"





