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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第67話:魔王・食事会・ヘンリー・ガールズトーク

「余は、もう耄碌したのかもしれぬな」


 夏休みの自由研究として、魔王様観察を始めて3日目。

 いつになく衰弱した様子で、魔王様が呟く。


 この3日間で急激に老け込んだ気がするな。


 おっと、有難う。

 今日は、フルーツティか?

 森で取れた野苺を干して煎じたのを、紅茶葉と混ぜたと。

 土蜘蛛とクコが協力して作った新作?

 それは、是非じっくりと味わねば……


 うん……酸っぱい。

 ああ、大顎。

 砂糖を……いや、蜂蜜を頼む。

 

 別に砂糖と口にした瞬間に、目の前を飛んでいた蜂の部隊が一斉にこっちを向いて臆したからじゃない。

 単に、そういう気分だったんだ。


 野苺と蜂蜜。

 良く合いそうだし。


「何をおっしゃいますか、魔王様!」

「魔王様は、まだまだ健在であります!」


 配下の牛頭が一生懸命、魔王を慰めている。

 ちょっと、見てて面白い。


「だが、余にしか見えぬのだろう? 魔力を見抜くバルログの魔眼にすら映らぬなら、これは余のこれまでの罪に対する幻影かもしれぬな……」


 そっか。

 バルログとやらが、目を光らせたのは魔眼の力を使ったからなのか。

 是非、その目をくりぬいて虫の素材に……


 いかんいかん……

 どうもこの世界の生き物を、素材として見てしまう。

 ここは、ゲームの世界じゃないんだ。


 自重しないと。


「バルログ様は、いま一生懸命魔眼を鍛えております」

「常に目を見開いて、虫や植物の魔力ですら鮮明に感じられるようにと、一切瞬きもせずに眼に魔力を集中させて頑張っております」

「近い将来、きっと彼の者の正体を突き止めてくれましょうぞ」


 うわぁ……バルログさんそんな事になってんの?

 ドライアイ確定だな。

 今度目薬の差し入れでもしておこうかな……あれって成分なんだっけ?


「もう良い……もう良いのだ……今も、あそこでコロコロと表情を変えながらこっちをジッと見つめてくるあの者が……我は恐ろしい」

「魔王様……」

「そんな、魔王様が恐れることなどありませぬ!」

「こっちに手を出してこないという事は、手を出せないという事ですから!」


 牛達の慰めに、魔王が手を振って遮る。


「笑っているようで、笑っていない魔族のような漆黒の瞳……顔は笑っているはずなのに、感情を宿さぬその目がいつでも余など殺せると言っておるようでな……」

「ううっ……」

「魔王様……」


 魔王様の弱々しい姿に、両脇の牛たちが目元を手で覆う。

 なんか、軽い罪悪感が。


「今も四角い額のようなものの中で、困惑した表情を浮かべながらも目は笑っておる……感情が読めぬという事がここまで恐ろしいとは」


 そう言って魔王様が向けた視線の先を、牛たちが目で追う。

 ちょっと、移動しよう。


「魔王様! 見えます! 私にも見えました!」

「うむ、私もです! あそこですよね?」

「あのふざけた面構え、本気で腹立たしいですね」

「黒い瞳に黒い髪の男が確かに見えます! こいつめ! 魔王様を煩わせるまでもない!」

「そうだな! くらえっ!」


 そう言ってさっきまで俺が居た場所に槍を突き立てる牛たち。

 その目からは涙が止めどなく流れている。

 あー……


「有難う……有難うな……主たちの心遣い……確かに届いておるぞ……じゃから、嘘など吐かぬで良い」

「えっ?」

「はっ?」

「奴なら、そっちに移動した……本当は見えておらぬのだろう?」


 魔王様の言葉に、牛たちが慌てて彼の前に移動して平伏する。

 ガタガタと震えながら、地面に頭を擦りつける。


「申し訳ございません」

「魔王様を謀った罪、この命で!」

「良い……余の為に付いた、優しい嘘じゃ……じゃが、これで決心がついた。お主達のように、本当にこの国を思ってくれる家臣がおるならば……これからは、余の息子を支えて立派な王に担ぎ上げてはくれぬか?」


 怪しい雲行き。

 これ、マジで見てるだけで魔王陥落しそうなんだけど。

 牛たちの頭の下の床が、少しずつ湿っていく。


 なにこれ……

 かなりの罪悪感が。


『俺は確かに居るから、その首を洗って待っていろ! 今はすぐに行けないだけだ!』

「フフフ……宿敵と思うておいたあやつからも、気遣われるようなら本当に余も終わりじゃな」

「……うぅ」

「うっ……」


 やべー、発破をかけるつもりが逆効果。

 いや、これはこれで良い気がするけど、もの凄くアウトな感じもする。

 マルコは絶賛セリシオ達と、晩餐会中だし。


 身体も借りられないから、どうしょうもできない……


 うん……知ーらないっと。

 暫く、魔王城を覗くのは止めとこう。

 少なくともバルログさんが、俺が見えるようになるまで。


 今頃、目から血を流して特訓してそうだし。

 そっと、タブレットを手元から消す。


「あー、野苺茶うめー……」


――――――

「これ美味しい」

「うん、豚肉なのは分かるけど周りについているのはなんだろうね?」


 ベルモントの食堂で、一同を介しての食事会。

 今回振る舞われたのは、とんかつ。

 エマがサクリと音を立てて齧りつくと、思わず声をあげる。

 そして、ジョシュアが首を傾げつつ衣の見分に入る。

 外人さん向けの人気メニューといえば、やっぱりトンカツだよね。


 この世界、ジャガイモは割と定番の食材らしく、油で揚げるという調理法もあったので普通にフライドポテトくらいはあったが。

 ポテトチップスは無かったけど、田舎の方で誰か作ってそうだな。


 ただ衣をつけて揚げるという習慣は無かったらしく、天ぷらやカツは存在してなかった。

 天ぷらも考えたけど、まずはしっかりめの食事と思いトンカツを大量に用意した。

 新鮮なキャベツの千切りと。


 マヨネーズは当然、とっくに作ってある。

 作ってあるけど、外には広めていない。

 簡単に真似出来るし、我が家でしか味わえないプレミアムな調味料としたかった。

 

 キャベツも凄い勢いで消費されていく。

 トンカツに掛けるソースまでは作れなかったが、魚醤と大根おろしでさっぱりと頂く。

 ちなみに、大根おろしもこの世界には無かった。


「あっさりしてて美味しいね、テトラ君」

「はい! おいしいでつ……おいしいです!」


 ちゃっかりテトラの横をキープ出来たソフィアも、ご満悦といった様子で嬉しい。


「マルコ様、お飲み物を」

「有難う、アシュリー」


 今回給仕として、アシュリーも参加している。

 本当はこの席でアシュリーを紹介したかったのだが、お母さまとマリーからまだ早いと止められた。

 そして本人からも、まずは僕の友達を見てみたいとの申し出があったので、不満はあったが認めるしか無かった。


「おやっ?」

「なにっ?」

「いえ、やけにそちらの使用人の方は幼いなと思いまして……」


 ディーンの奴め。

 アシュリーの事を知ってて、時折こういった茶々を入れてくる。

 正直、かなり鬱陶しい。

 軽くディーンを睨む。

 爽やかな笑みで流された。


「マルコ! 美味しいよ! 美味しいけど……はぁ……」

「大丈夫だって、ヘンリーのとこの魚の方がずっと美味しいから!」


 ヘンリーがトンカツを食べて笑みを浮かべつつも、すぐに溜息を吐く。

 ここに来て、セリシオやエマが来ることを軽く考えていた事に思い至ったらしい。

 大丈夫……ガンバトールさんなら、きっと分かってるから。


「ところで、お父君は時折、お腹のこの辺りを押さえて無かった?」

「うん、なんで知ってるの?」

「なら、大丈夫!」

「父上がお腹を壊してるかもしれないのに、大丈夫って意味が分からないよ」


 時折胃を押さえていたということは、それなりに状況を理解しているって事だから。

 きっと、全力で殿下達を出迎えてくれるよ。


「ふはは、ベルモントの飯は旨いぞ! お前も、意地を張らずに食ったらどうだ?」

「いえ、私は殿下の護衛で来てますから」


 椅子の斜め後ろに立つクリスの目の前を、フォークを刺したトンカツが行ったり来たりする。

 そのフォークを握っているのは、意地の悪い笑みを浮かべたセリシオだ。

 僕からも進めたけど、クリスは護衛と言い張って食事の席に着くことを拒んだのだ。


 難儀な性格だ。

 

「なあマルコ、これってパンの粉じゃないのか?」

「おお、気付いた?」

 

 そして予想外の場所から、トンカツの衣の正体を言い当てられた。

 僕の真横に座るベントレーだ。


「ああ、なんとなくだがこのサクサクとしたやつから、微かに小麦の風味がしたからな」

「やつって……一応、具材を包むから衣って名付けたんだけど、これはいまテーブルに置いてある、その柔らかい白パンを粉状にすり卸してまぶして、油で揚げたんだ」

「へえ、ベントレー凄いじゃん」

「こっ、これは卵とビネガーだよね?」


 ベントレーがトンカツの衣の正体を言い当てた事で、エマが感心した様子で頷くと間髪入れずにヘンリーがマヨネーズの正体を言い当てる。

 というか、知ってるよね?

 教えたし。

 誰にも言うなって言ったのに。

 家でしか使うなよって……

 ガンバトールさんにも言ったのに……


「そうなのですか? ヘンリー凄いです」

「あはは……ありがとう」


 いや、まだ僕正解とも言って無いし。

 しかもエマじゃなくて、ソフィアに褒められたからか苦笑いっぽくなってるぞヘンリー?

 相手によって態度を変えるのは、女性から見たらマイナスポイントだってマサキも言ってた。


 だから、可愛くない子も可愛い子も女の子として、きちんと対応したら結構女友達が増えたって言ってたし。

 その成果もあって……


 可愛くない子からのストーカー被害2件。

 告白されて振ったら、その子の友達の可愛い子まで巻き込んで糾弾された事1件あったらしい。 


「クリスおにいたまは、おにいたまのおともだちじゃないの?」

「ん? 友達だぞ!」

「だったら、いっしょにたべよ?」

「あー……俺はいま殿下を守らないといけないんだ。お仕事中だからさ……有難うな」

「でも……うちは、けいびのひとがいっぱいいるからだいじょうぶだよ! みんないっしょのほうがおいいしいですよ?」

 

 テトラの誘いをクリスが言い聞かせるように断るが、それでもテトラが食い下がる。

 ちょっと、悲しそうな表情を浮かべて。


 くそっ、クリスの奴め! 

 僕の弟にこんな表情させやがって!


「クリスうちの「クリス! テトラが一緒に食べようって言ってるんだから、食べなよ!」

「そうですよ? 折角の食事会なのに、テトラ君が悲しそうです!」

「うっ!」


 思わずクリスに文句を言いかけたら、エマとソフィアから集中砲火が。

 クリスが思わずたじろぐ。


「クリス……ここにはベルモントの警護の方もいらっしゃるのです。意固地なのは却って、ベルモントに対する無礼ですよ?」

「そ……そうだな」

「なんだ、結局食うのか?」

「「殿下!」」

「す……すまん、冗談だ。クリスも座れ」


 クリスを揶揄うように言い放ったセリシオに、エマとソフィアの敵意が向く。

 セリシオが椅子から落ちそうになって、ちょっと笑えた。

 

 やはり、女性は強いな。


 それからクリスも交えて、それなりに楽しい食事会となった。

 終始テトラにデレデレだった女性陣。

 に加えて、クリスもテトラを可愛がってくれて良かった。


 ジョシュアとベントレーとセリシオが何やら話が盛り上がっていたが。

 ちょっと、その取り合わせは良くない。

 テトラを突撃させる。


「でんかたちは、どんなおはなしをされてるのですか?」

「えっと、この白い調味料と衣とやらの「殿下!」

「あー、料理が美味しいなと」

「よろこんでもらえてよかったでつ!」


 こいつら、トンカツとマヨネーズを盗む気だな。

 まあ、好奇心旺盛のベントレーに、しっかりもののジョシュアならこれらが、割と使い道が多い事に気付いたかもしれない。

 でもって、殿下を交えて有効な活用方法をと……


「マルコ……うちで出す料理の相談、後でしても良いかな?」

「えっ? でも、ヘンリー口が軽いから。マヨネーズの件とか」

「ゴメン! ベントレーがエマに褒められてつい」

「ふふ、冗談だって。ヘンリーはうちに泊まるんでしょ?」

「勿論だよ……エクト様がご用意された宿になんて恐れ多くて泊まれないし」


 かなりの大金が掛かってるから、こんな時くらいにしか泊まれないと思うけどね。

 お金の出所は、周辺貴族からの寄付金とスレイズおじいさまとエリーゼおばあさま、エドガーおじいさまとあとは陛下からだった。

 一応寄付をした事が分かるよう、出資者の名前がホテルの1階のロビーに掛けられるとか。

 まあ、エヴァン国王陛下とスレイズベルモント家とマーキュリー家が大分出してくれたらしい。

 その次にエインズワース公爵、ディーンの実家のマクベス家、クリスの実家のビーチェ家だ。

 あとは、ほぼほぼスレイズおじいさまに頭が上がらない方からの出資と。


 それも塵も積もればで、結構な金額になったらしい。


――――――

「久しぶりだね」

「ああ、そうだね」


 いま、庭でヘンリーと2人で木剣を手に向き合っている。

 ヘンリーがうちに来たときは、こうしてお父様の早朝訓練を一緒に受けていた。


「まずは、ヘンリー君がどの程度まで強くなったか見せて貰おう」


 お父様の提案で、ヘンリーと手合わせすることになった。

 正直、強化のスキルを使えば一瞬で片が付く。

 けど、ヘンリーと手合わせする時は、一切そういったスキルには頼らない。

 純粋に剣の技術だけで、勝負する。


 ヘンリーはベルモントの剣も齧っているが、本質は彼の父、ガンバトールさんが使うセンド流。

 100年前の剣聖、セシル様が開祖とされている剣だ。


 ベルモントと違い、堅実な剣と言えるだろう。

 その主体は後の先。

 相手の手を見てのカウンターを得意とする剣だ。


 僕が前に出ると、ヘンリーが同じだけ下がる。

 僕が円を描くように移動すると、ヘンリーの剣の切っ先は常に僕の心臓の辺りに向けられて移動する。


 特に守りに重きを置いているため、迂闊に飛び込むことも出来ない。

 その堅さは、まさに要塞。

 いかなる連撃も捌き、相手の隙を伺い続け、ここぞという場面で会心のカウンターを叩き込んでくる。


 さてと……ヘンリーがどの程度まで強くなっているかは分からない。

 まずは小手調べ。


 剣を片手で持って、手首をクルりと回す。

 特に意味は無い。

 

 相手の出方を伺う為の一手だ。

 完全に今攻撃されたら、一撃くらう自信はある。

 この隙を狙って攻撃してくるか、それでも守りに徹するか。


 ヘンリーは動かないと。

 であれば、まだ基礎段階から抜けていないか。


 早朝とはいえ、陽は登り切っている。

 徐々に汗ばんでくるのを感じる。


「シッ!」

「っ!」


 先に動くしかないと思い、全力で距離を詰めて斬り上げる。

 がっ、剣先を軽く弾かれ捌かれる。

 勿論、分かっているからその程度で体勢を崩したりしない。


 すぐに蹴りを放つ……

 不味い!

 途中で蹴り足を、強引に引き戻す。

 そこに向かって放たれるヘンリーの剣が空を切る。

 が、代わりにヘンリーに隙が出来た。


 剣を足に向けて振り切っているため、身体が沈み右肩ががら空きだ。

 その肩にに向けて剣を振り下ろす。

 ヘンリーが剣を振った勢いを使って、前転してこの一撃を躱す。


「うそっ!」

「ここだ!」


 しかも前転しながら足を伸ばして、握った剣の柄頭を蹴り飛ばされた。

 汗ばんでいた事もあり、僕の手からスルリと離れる剣。

 地面に背中からついたヘンリーが、横に身体を捻って地を蹴ると突きを放ってくる。

 

「残念!」

「痛い!」


 まあ右手から抜けた剣を空中にあるうちに左手で掴んで、ヘンリーの突きに合わせて額に軽く当てたんだけど。

 正直、かなり焦った。

 もう少し勢いよく蹴り飛ばされていたら、掴むことは出来なかった。

 これは、ヘンリーの足の短さに感謝。

 厳密に言うと、背の低さだけど。

 

「なるほど……かなり強くなっているね」

「僕も、ビックリしたよ。もう少しで負けるところだった」


 お父様も、驚いたらしい。

 凄く嬉しそうに笑っている。

 駄目だ……つい、本気を出してしまったけど、僕たちが本気を出すと、お父様の訓練が上方修正されるのはお約束だろう。

 そんな事も忘れたのかヘンリー?


「やっぱり、学校では手を抜いて「いないよ? 本気だよ?」


 ヘンリーがうっかり、ヤバい事を言いかける。

 貴族科一桁ということで、お父様もお母様も凄く喜んでくれている。

 それなのに、手を抜いてましたとか……


 お父様が、本気で怒る未来しか想像できない。

 勝負事で手を抜くとか……


「ん?」

「なんでもないよ! なっ、ヘンリー?」

「う……うん」


 昨日から割とやらかす親友に、若干本気の怒りをぶつけると青い顔で頷いてくれた。

 うんうん、持つべきものは友だ。


 後期は本気出しても良いって言われたから、取りあえず今はやめてヘンリー!


 それから1時間ほど、ヘンリーと一緒に訓練を受けてオセロ村に行くために、セリシオ達を迎えに行く。


――――――

「なんか、あのアシュリーって子、怪しく無かった?」

「えっ? 何が? 可愛い子だったよね」


 前日の夜の、エマ達の宿泊先でのこと。

 2人は同じ部屋をあてがわれ、すぐに寝る事もせずに今日の事を振り返っていた。

 

 主にはテトラの可愛さと、ベルモントの料理について。

 そして、不意に出たエマの一言に、ソフィアがキョトンと首を傾げる。


「強力なライバル……いや、一歩前にいかれてるわよ?」

「ええ? でもメイドでしょ? というか、ライバルってどういう意味よ」

「まあ、ソフィアが認めないのは良いとして、あれはメイドじゃないわよ」


 気付いているのか気付いていないのか、もしかしてソフィアは本当に気付いていないのではとエマは思い始めていた。

 親友の恋心、知らぬは本人達ばかり?

 エマが一瞬ニヤニヤとした笑みを浮かべて、すぐに表情を戻す。


 それよりもエマは、あのアシュリーと呼ばれたメイドが気になって仕方ない。


「殿下を交えた食事会に、あんな見習いっぽい子を用意する? 他にも優秀なメイドさんがいっぱい居たのに。見た感じ、昨日今日メイドになったばっかりって感じだったけど」

「まあ! あの拙さが良いんじゃない。子供同士の食事会だから、マイケル様が気を使って子供のメイドを用意してくださったのかもしれないですし」

「普通そこは、熟練のメイドを用意するでしょう……まあ、キャロだっけ? 彼女は優秀そうだったけど」


 勿論、セリシオ達までいるのに、給仕がアシュリーだけというはずはない。

 が、マルコの傍に常に付き従っていたのは、アシュリーとキャロだけだった。

 そのアシュリーとマルコの距離感がエマは気になったらしい。


「初々しい感じが、とても好感が持てましたわ」

「そう? まあ、ソフィアがそう言うならいいけどさ」


 逆にこのままソフィアが気付かない方が、ソフィアの傷も少なくて済むかもと流しかける。

 が、致命的な局面を見たら、もしかして自分の本心に気付いて一層傷付くかもとの考えも浮かび、エマは複雑な表情になる。


「何よ、その顔」

「いや、困ったもんだと思って……まあ、私はソフィアの味方だから」

「意味わかんない」


 もうそれでいいやと、エマは諦めの表情になる。

 そこに投げかけられる、ソフィアからの反撃。


「で、エマはベントレー君とヘンリー君はどうなの?」

「どうなのとは?」


 ソフィアの言葉の意味を知りつつも、すっとぼけるエマをソフィアが目を細めて見つめる。

 ジイっという音が聞こえてきそうだ。


「気付いているんでしょ? って言っても、最近のベントレー君は色んな事に興味を持ち始めたけど」

「ああ、どうもこうも、私の想い人はランスロット様だけよ」

「また、エマはそんな事を言って……確かにカッコいいけど、あの人は物語の中だけの人でしょ?」

「もう! だから、ランスロット様みたいな人じゃないと私は嫌だってこと」


 エマがいま熱を上げているのは、王都でも大人気の恋愛小説、『天国より愛を込めて』に出てくる伝説の騎士だ。

 男装し王子となった姫を守る騎士。

 跡取りの出来なかった王家が末の娘であるメスカルを王子として育て、その護衛に着いたのが幼少から共に過ごしたランスロット。

 当初はランスロットもメスカルを男と思っていたが、移動中に王子を狙う一味に追われ、他の護衛とはぐれ2人っきりで森を移動する際にメスカルが女性だという事に気付く。


 そして、密かな恋心を抱くようになり……最後は戦場で散っていくという物語だ。

 乱戦中にメスカルを狙った側近の手から掠り傷を負う。

 その武器に毒が塗ってあり、ランスロットはそのまま崩れ落ちる。

 

 視力を失い血の気も無くした状態で、城に運び込まれるランスロット。

 周囲に居るのは、メスカルの正体を知る側近の者達だけ。


 すぐにメスカルがランスロットの後を追って駆け付けると、すでに命の灯火が失われる瞬間であった。

 もう持たない事を知っている、周りの者達が無言で部屋から出ていく。

 最後に、2人だけの時間を用意しようと取り計らったのだ。


「ランスロット!」


 メスカルの声に弱々しく反応し、その声の主を探すようにランスロットの手が宙を彷徨う。

 その姿に涙しランスロットの手を握ると、苦しいはずのランスロットがフッと柔らかな笑みを浮かべる。 


「陛下……私は……王国の平和より、貴女の幸せを願っていた」

「ランスロット……」

「騎士としては失格かもしれないが、国王陛下ではなく……愛する女性を守って死ねる事は……男としては最高の誉れです……」

「……」

「愛しています陛下……この国を……国民の皆が幸せになれる国を造ってください……そして、貴女自身が幸せになれるよう、あの場所より見守っておりま……す」


 そう言って空に向けて伸ばせられた手がダラリと力なく落ちる。

 そのランスロットに、そっと口づけを交わすメスカル。

 

 この報われない恋と、一途な想いに女性陣から絶大な人気を誇る。

 妙に戦闘描写が生々しいので、隠れ男性ファンも多いが。


 作者が男性なのか、女性なのかという議論が度々起こるのもそのせいだろう。

 ちなみに作者は70代の引退した騎士のおじいさんだったりするのは、知る人ぞ知る情報だ。

 最初に製本した商人が、全力で正体を隠しているが。


「やっぱり、辺境伯の娘じゃ無くて1人の女の子として、何よりも1番に考えてくれる人が良いな」

「まあ、そこは分かるけど」

「それでいて、強くてかっこよくて……でも、騎士として国を守るよりも、女性として私を守りたいとかって言ってくれるとか……きゃー! いま思い出してもカッコいい!」

「まあ、最後は死んじゃうから、エマは未亡人……それ以前に結婚すら出来ないよ?」

「ソフィアって……時々現実的よね?」


 どうやら、ソフィアにはそこまでの熱意は伝わらなかったらしい。


「そんな紙の上の人じゃなくて、現実のヘンリー君とかさ?」

「ええ? あの子、ちょっと気弱なところがねー……マルコみたいに、決めるところは決めるみたいな感じの子の方が」

「なんで、そこでマルコが出てくるの?」

「おやっ? おやおやおや?」


 こうして、ガールズトークは深夜にまで及んだ。

感想や、評価、ブクマは私達にとって栄養ドリンクですw

面白い、続きに期待と思われた方は是非、応援をお願いしますm(__)m


評価は下の方から、ブクマは上下にありますので何卒宜しくお願いします(シ_ _)シ


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