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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第65話:ホスト

 今回、魔王やその配下と接触して色々と分かった事がある。

 タブレットのモニターを見つめながら、考えを纏める。

 モニターの向こうでは、魔王がチラチラとこちらを鬱陶しそうに見ている。

 

 その魔王の周りには屈強な、牛の魔族が4人。

 さらにバルログと呼ばれていた、側近っぽいイケメン魔族。

 加えて、中身があるのやら無いのやらといった感じの呪われてそうな全身鎧の騎士達が10人程。


 そちらを気にしつつも、こっちを時折睨みつけてくる魔王。

 魔王が手に魔力を込めると、バルログが魔王のすぐ横に移動。

 正面に4人の牛。

 そして騎士達が、先っぽに丸めた布を付けた棒を持ってにじり寄る。


 魔王はそれらを見渡すとすぐに、溜息を吐いて魔力を霧散させる。


「チッ」


 そして、忌々し気に溜息を吐く。


 そう、魔族ってのはもっと攻撃的な生き物だと思っていた。

 が、どうしてなかなか統率が取れているし、魔王を敬っていることも分かる。

 ただ、一方的に服従するのではなく、きちんと自分の意見も持っているようだ。

 人間の国とあまり変わらないように思える。


 おそらく、良い人も居れば悪い人も居るのだろう。

 単純に、人間と相容れないだけ。

 もしくは、何か因縁でもあるのかもしれない。

 

 過去に何度か大きな戦もしているようだし。

 ただ魔族の性質の悪いところは、個人で見た時に一般人ですら人間の騎士に匹敵する戦闘力を有しているという点だろう。

 さらに戦闘種族ともなるとかなり強い。

 その筆頭となる隊長格に至っては、簡単に地形を変えてしまうような魔法やスキルを持っているらしい。


 その最たるものが魔王。

 それこそ、世界を崩壊させるだけの核撃級の魔法を使えるとか、使えないとか。


 そうだな分かり易く言うと、こっちの一般人が鍬をもって戦うのにあっちの一般人はピストルを持っている。

 こっちの兵隊がピストルを持って挑めば、ロケットランチャーやガトリンクガンで反撃してくる。

 そして隊長格は大陸弾道ミサイルやナパーム弾を個人レベルで持っていて、魔王は核兵器を個人の権限で撃てるというレベルだ。


 幸い、総数が人間の100分の1程しかいないのでなんとかなっているが。

 いくらピストルを持っていても、100人の鍬を持った人間に襲われたらひとたまりも無いだろう。


 近い将来、その魔族が満足な兵力を揃えられるようになると。

 語弊。

 人の人生がからすれば、遠い将来だな。


 今の人達には関係無さそうだ。


 そうして崩れた均衡に、完全なるバランスブレイカーの俺が対魔族の英雄として名乗りをあげると。


 ぶっちゃけ今すぐにでも、取り合えず魔王の実力を確かめたいとこだが。

 確実に殺される。


 そして、殺されるのはマルコだ。

 復活出来ますと言われると、ゲーム脳的に死んだらニューゲームを選んでしまいそうな日本人。

 今回マルコという存在が、そんな俺に対してのブレーキになっている。


 考えれば考える程、邪神様は色々と俺に対して先手を打っているような気がする。


 今回、トクマと出会った事で本格的に魔族は友となりえることが分かった。

 故に、俺も魔族を取り込む方向で動く事にした。

 ここまでが、邪神様の予定調和なのかもしれない。

 

 まあ、乗っかってやろう。

 色々な種族と仲良くできるのは、異世界ならではだし。


 そろそろ魔王の血圧が上がりそうなので、画面をマルコに切り替える。

 きっちりと早朝訓練でマイケルにボコボコにやられていたが、その表情はニヤニヤとだらしない。


 それもそうだろう。


「はい、旦那様」

「ありがとう」

「どうぞ、マルコ様」

「ありがとう!」


 マルコの訓練が終わる頃に着替えを終えたアシュリーがタオルを持って、2人の元に駆け寄っていったからだ。

 アシュリーにタオルを手渡されたマルコが、ニヘラとだらしない笑みを浮かべる。 


「マルコ様は、いつもこんな訓練をしてるの?」

「うん! 僕はこの領地を守る騎士になるからね……その、勿論……アシュリーの騎士にも……なりたいし」

「まあ」


 あー、むずがゆい。

 アシュリーが頬を染めているが、俺としてはなんとも言えない気分だ。

 無駄にマルコもキリッとした表情をしてるし。


 微笑ましいともいえるが……それ以上に、なんかこっぱずかしい。


 ちなみにアシュリーの指導係は、キャロことキャロラインだ。

 そばかすがチャームポイントの、18歳の女性。

 メイド服に隠された胸部装甲は、男なら是非顔を埋めたい衝動にかられるほどには……アレだ。

 髪は赤毛で、ハート型の顔に合わせたショートカットが良く似合っている。

 

 アシュリーの横で、微笑ましいものを見るような眼で2人のやりとりを眺めている。


「こんな言い方はあれだけど、アシュリーのメイド服可愛い」

「本当? あっ、本当ですか? ありがとうございます」


 照れたような笑みを浮かべるアシュリーに、マルコが余計にデレデレになる。

 そして、何故お前までデレデレなんだマイケル?


「やっぱり女の子って良いな……ちょっと、マリアに相談してみようかな」


 マイケルの言葉にマルコとアシュリーが首を傾げているが、生々しいからやめれ。

 そんな発言を子供に聞かせるんじゃない。

 横で聞いていたキャロの顔がゆでだこ状態だ。


 普通にセクハラ案件だからな?


――――――

 アシュリーがうちで働くようになってから、2日。

 明日はいよいよ、セリシオ達が来る。

 

 緊張するな。

 アシュリーを受け入れてもらえると良いけど。


 それにしても、アシュリーのメイド姿可愛い。

 ドレスも似合ってたけど、ちっちゃなメイドさんに他の皆もデレデレしてる。


 マリーだけは、難しい顔をしてるけど。


「マルコ様」

「どうしたの?」


 アシュリーが僕を呼びに来る。

 今の彼女の立場は僕の専属メイド助手兼、メイド業務修行中といったところ。

 他に仕事があればキャロが僕の面倒を見てくれるが、休憩以外の空いた時間は常に僕の傍にいる。


「奥様がお呼びです」

「えっ?」


 そう言ってアシュリーが視線を向けた先を見ると、扉の影からお母様がハンカチを噛んでこっちを見ていた。

 というか、そこまで来たんなら自分で声を掛けたら良いのに。


「どうしました?」

「マルコが……最近、私に冷たい」

「そんな事、無いですけど」


 嫉妬か?

 8歳の女の子相手に、嫉妬してるのか?


「まあ、今だけですからね! それよりも、明日は殿下達が来られるのでしょう」


 すぐに、いつもの笑顔に戻るお母様。

 どうやら、軽く揶揄われた?

 いや、たぶん釘を刺したつもりなんだろう。


 そんな事しなくても、僕はお母様も大好きだし。

 テトラはもっと好きだけど。

 アシュリーと同じくらい。


 今も、お母様の横でお母様の真似をして、テトラがスタイを噛んでいる。

 それ結構涎ついてるけど、さらに涎まみれにならない?

 まあ、可愛いから許す!


「おにいたまが、ぼくにつめたい!」

「そんな訳ないよ! テトラが一番可愛いから!」


 お母様の真似をするテトラが愛おしくて、思わず抱きしめる。


「おにいたまのては、あたたかいでつよ? つめたくなかったでつ……です!」

「そ……そうね」

「そうだね」


 僕に抱き着かれたテトラが、純粋にそんな事を言うものだからお母様も僕も思わず戸惑ってしまった。

 アシュリーだけが、笑いを堪えているようだ。


「テトラ様は心が温かいですね」

「こころ?」


 アシュリーがそんな事を言うもんだから、テトラが胸に手をあてて首を傾げる。

 それから、頷く。


「ぼくのここ……つめたいでつ」

「涎が冷えたからじゃない?」


 そうだろう、そうだろう。

 外気にさらされた涎まみれのステイは、この夏でもあっても冷たいだろう。


 うん……何この子。

 めっちゃ可愛い。


 あっ……


「もう、テトラは可愛くて暖かくて食べちゃいたい!」


 お母様がテトラを抱きしめて、頬ずりしてる。

 お母様のドレスが涎で……まあ、良いか。

 いつもの事だし。


 洗濯係の人が困りそうだけど。


「あの、お母さま? それで、用事というのは?」

「そうそう、ヘンリー君だけなら良いけど、今回は殿下や辺境伯の娘さんまで来るんでしょ?」


 うっ……

 アシュリーにチラッと視線を送る。

 見た瞬間は笑顔だけど、そこに目がいくまでに視界の隅に一瞬強張った表情が見えた。

 やっぱり、女の子を招待したのは不味かった。


 何も考えて無かったけど。


「今回、マルコはホストとしてどんなプランを考えているのかなって」

「えっ?」


 ホスト?

 そうか……僕が招待したわけだから、僕が考えないとまずいよね。

 というか、来るの明日なんだけど。


「初日は皆様お疲れでしょうから、ゆっくりして頂くとして次の日はどこかに出かけるの?」

「えっと……オセロ村?」

「まあ、無難なところですね」


 今回、セリシオ達はうちに3泊するわけだから。

 もう1日、どこかに連れて行かないといけない。

 どうしよう。


「次の日はどうするのですか?」

「えっと……オセロ村?」

「流石に、2日続けて同じ場所は無いでしょう」


 お母様が呆れたような表情を浮かべている。

 そうだよね。

 初日にオセロ村は良いとして。

 2日目は、ベルモントの街を案内。

 いや、ジャジャの森にピクニックとか?

 

 いやいや結構体力使いそうだから、ジャジャの森に行くなら初日か。

 あそことかどうだろう?


「冒険者ギルドとか……」

「まあ、殿下は喜ぶかもしれませんが、女の子が喜ぶと思いますか?」

「うっ……」


 やばいぞ。

 本格的に困ってしまった。

 

「正直に言いなさい? 貴方……何も考えて無かったでしょう?」

「……」


 お母様には、全て見抜かれていたらしい。

 助けてマサキ!


 あっちから、盛大な溜息が聞こえてくる。

 そして天啓が!


「いえ、本当はまだ決めかねていたのですが、2日目はベルモントの工業区に行こうかと」

「あら、工業区なんて女の子は楽しくないのは一緒でしょ?」


 そうだよマサキ!

 工業区に行ってどうするの?

 ……

 おお!

 す……凄い!

 

 あれ? それって殿下達が……

 あいつらは勝手についてきたから、放っておいていい?

 そっか……そうだよね……


 でも、ベントレーは?

 今のあいつなら、なんでも新しい知識として吸収できることを喜ぶ?

 職人にも興味を持つはずだ?


 そっか……そうだよね。


「うちは、領内の鉱山から少ないですが宝石の原石も取れます。その宝石加工を見て貰おうかと」

「なるほどねぇ……」


 マサキの提案に、お母さまが少し思案顔になる。

 そのお母様の耳元に口を寄せる。


「ここだけの話ですが、ヘンリーがその……トリスタ辺境伯家の長女にあたるエマ嬢に密かに懸想してます。周囲にはバレバレですが」

「ええ? そうなの?」


 お母様もまだまだ女の子。

 子供の恋とはいえ、知った子のヘンリーの初恋に興味深々だ。


「そこは詳しく聞きたいところですが、なるほど……ヘンリー君に、エマさんへのプレゼントを用意させようと」

「ええ、ラーハットには鉱山もありませんし、出来れば加工職人さんに話をして、土台のリング、もしくは宝石のカットをヘンリーにやらせてみようかと」

「で、それをエマさんにプレゼントさせると……まあ、マルコったらアシュリーちゃんが居るからって人の恋の世話までしてあげるなんて……余裕ね?」


 お母様の険のある言葉に、アシュリーが困った表情を浮かべている。


 おっと、調子に乗り過ぎたみたいだよ?

 えっ?

 そうだね! そうだった!


 マサキから忘れてたのかよって突っ込みが入ったけど、10月にお母様の誕生日が来る。

 僕は学校だからこっちには戻れないけど、だったら早めにプレゼントを用意しても良いと。

 冬休みを待つよりは、遥かに良いと。


「ふふ、僕もお母様の為に、何か作りたいなって! 10月の誕生日は学校で会え無さそうですから、ちょっと早めの誕生日プレゼント!」

「まあっ! その案採用! 良かったわ……万が一も無いと思ってたけど、もしかしてマルコが何も考えて無さそうで心配だったのよ」

「ふふふ、思い付きですが、悪くないと思いませんか?」

「うんうん、私も楽しみが増えて、今回殿下達が来て下さる事に感謝しないと」


 お母様の機嫌が一気に良くなったので、ホッと溜息を吐く。

 そうか、人を招待するってそういうことなんだ。


 お母様とテトラ、アシュリーが部屋を出て言ったのでマサキに話しかける。


「ごめんマサキ、助かった! ありがとう」

『はぁ……』


 心からの感謝の言葉に、マサキから溜息が返って来た。


『この間、僕一人でなんでもやるって言ったのはどこの誰だ?』

「ごめんなさい……マサキが居てくれて本当に良かったです」

『そこで、素直な態度に出るのはズルいぞ! まあ、良いけど……子供のうちだけだぞ? 色々と教えてやるのは』


 なんだかんだで、マサキは僕に甘い。

 けど、甘えてばかりもいられない。

 いられないし、自分でやってやろうという意気込みだけはある。


 あるんだけどなー……

 急な事となると、頭が真っ白になっちゃうんだよね。

  

 マサキは本当に凄いと思う。

 けど、マサキに出来るって事は僕にも出来るようになるって事だし。


『これだけは覚えておけ……集団行動では女性さえ敵に回さなければ、どうとでもなる……が、必要以上に媚びを売ると、同性の敵意を買うからな? だからまかり間違っても、お前はエマやソフィアに宝石を送るなよ? 同性以上に怖い敵を作ることになるからな?』

「そ……そのくらい分かるし……」


 まあ、取りあえず明日に備えて、工業区に行って根回ししとかないと。

 幸い、職人さんに知り合いも居るし。


 よしっ!


「マルコ様、外に出るなら声を掛けてください」

「ごめんなさい」


 慌てて飛び出したら、ファーマさんに捕まった。

 地元だからついつい、気を抜いてしまっていた。

 というか焦っていたこともあるけど。

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