第62話:正攻攻略
「さてと、準備は出来たな」
勿論虫達の改造も自重を捨てた。
という事は無い。
ダンゴムシの失敗を生かして、これは慎重に行こう。
時刻は夜22時くらいか?
子供はお眠の時間だ。
そして、管理者の空間のベッドでスヤスヤと眠るマルコ精神体。
マルコの身体を借りる許可は得て来た。
ちなみに、ディーン達は街の宿の準備が整ったらしく、そっちに移動した。
なんの準備かって?
札束で宿の支配人や宿泊客のほっぺを叩いて追い出し、自分達が泊まるに相応しい環境に急ピッチで改装していたらしい。
勿論、改装後の宿はそのまま元の持ち主に、無償で譲り渡すらしい。
原状復帰して返そうかという話もしたらしいが、全力で勿体ないと言われたらしい。
部屋を元に戻すことが勿体ないのではなく、そこにもまた莫大な費用が発生することを鑑みてだ。
なんともまあ、お人好し……なのか?
きっと、今頃美味い酒と飯でも食ってるんだろうな。
でだ、マルコの部屋には一応鍵を掛けてあるが、布団には改造スライムを寝かせてある。
擬態の能力があり、質感に関してはあまり生身の人間と大差ない気がする。
ただ、喋れないので、寝たふりを決め込んでもらっているが。
一応時間を稼ぎつつ、一瞬で入れ替わる訓練もしておいた。
スライムの中に転移して、外側のスライムを吸収。
その間、0.2秒。
かなり練習したが、これならちょっとの違和感で済むだろう。
よしっ!
マルコの身体を借りて転移。
場所は北の塔のある町の空地。
あっちは夜だというのに、こっちは朝の9時くらいらしい。
時差は、11時間といったところか。
意外とこの世界が広いのかな?
街にはすんなりと入れた。
門を通って入るには身分証がいる。
こんなところに、他の大陸の貴族の子供が1人とか怪しすぎるので、こっそりと忍び込んだ形だ。
勿論、周りをしっかりと確認して。
善神様と違って。
ちなみに黒騎士の鎧と剣をパクったあと、邪神様と善神様が来た。
「お主、それはないじゃろう」
「いくらなんでも、酷くないか?」
2人から注意されたので、ニッコリ。
主に、善神様の目を見て。
「でも俺……いま、物凄く楽しいです! この世界に来て良かったと思える程に! この全能感……神になるのも悪くないかなって思い始めたところですから」
「う……うむ、それなら」
「いや、これは人選を誤ったかも」
善神様は怯んでいたが、邪神様は渋面を浮かべる。
そんな邪神様に、微笑みかける。
「別に良いんですよ? 管理者やめても……でも、何もしてないのに善神様に殺された挙句、こんな面倒な仕事をおしつけといて、やる気出した途端に解雇とか……神様って流石ですね」
「うぐっ!」
「人の都合なんて、塵芥の如く扱えるんですものね。俺もその立場憧れるなー……だから、邪神様達を見習って、そうなろうと頑張ってるところです……から、取りあえず黒騎士の都合を塵芥の如く扱ってみたんですけど?」
「そういうつもりでは……」
「お主、かなり腹黒くなっておらぬか?」
2人がしどろもどろになるのを見て、ホッとする。
なんだかんだ言って、お人好しだなこの人たちは。
「まあ、冗談ですよ……日本人らしく効率的にいこうかと。嫌な事は先に済ませたいですし」
「そ……そういうことなら」
「では、見守っていてくださいね」
満面の笑みで、2人をお見送りした。
善神様が凄く楽しそうにしている横で、邪神様胃の辺り押さえて無かったかな?
気のせいかな?
まあ、良いか。
そして、来ました黒騎士の塔。
名前を聞いてびっくり、黒騎士の塔だった。
おいおい……最上階に居るはずの四天王の正体割れてんじゃん。
しかも、今は黒騎士じゃないし。
ミスリル騎士だし。
ミスリル製の甲冑が届くまで、鉄騎士だったし。
かなり、笑えた。
だって……鉄騎士って普通の騎士だし。
マジで中世ヨーロッパの鉄の騎士鎧まんまだったし。
そういえば、善神様が気になること言っていたな。
なんでも魔王城の宝物はダンジョンのポップ品らしい。
かなりの魔力をあの宝物庫に溜め込んで、そこの中央に置かれたアイテム精製の宝玉で作り出しているけど出てくるものは完全にランダムらしい。
込めた魔力によってレア度は変わるらしいが、そのレア度すらも確率が変動するだけで、必ずでは無いらしい。
そして、何が出てくるかは分からない。
仮に100の魔力を込めた時Rが90%SRが10%として、それを1万にしても等倍的に変わる訳でなく、Rが1%、SRが95%、SSRが4%とかに変わるだけらしい。
ガチャか!
思わず突っ込んでしまった。
まあ、ランクがRとかってのは分かりやすく例えただけで、場所によってランクの呼び名は変わるらしいけど。
でもって金貨を宝玉に吸収して使うと、その比率がさらに優遇されるらしい。
課金ガチャか!
そして出て来たアイテムを、いま幹部や優秀な魔族達に配布しているところらしい。
要は、アイテムを使って配下を強化しているところと。
ソシャゲか!
だから、あんなに宝物庫がガランとしていたのか。
最初の頃は、レア装備とかどんどん装備させて、アイテムボックススカスカだもんね。
後半は、当初滅茶苦茶興奮した、SSR装備がボックスの肥やしになってたり。
でもって途中からURだけじゃユーザーが満足しなくなってLR級とか、神器級とかって上のレアリティが出てくる悪質なものもあるし。
さてと……何が言いたいかというと。
その黒騎士が下賜されたハデスセット……
剣含めたセット装備で、その神器級にあたる。
その装備が出た時、魔王城はお祭り騒ぎだったらしい。
あの気難しそうな顔をした魔王が、思わず「よっしゃー!」と叫んだとか。
まあ、善神様情報だから、話半分に聞いていたが。
その貴重な装備が、何故黒騎士に渡る事になったかというと……
魔王には実は魔王子なる王子が居たらしく、その王子が敵対する邪竜に襲われた時に身を挺して守ったのが黒騎士と。
角をへし折られ翼をもがれ、それでも王子の盾となって邪竜に立ち塞がり。
王子も王子で、馬鹿王子だから「部下を置いていけるか!」とかってはっちゃけちゃったらしくて。
あれなんなんだろうな?
邪魔だから、逃げて欲しいだけなのに。
王子居なかったら、黒騎士も逃げの一手を打てたかもしれないのに。
魔王が辿り着いた時には右肩を食いちぎられ、左手を咥えられた状態で宙吊りにされた黒騎士。
それでも、意識が無い状態で「王子……はやく……はやく逃げて……」と呟いていたらしい。
直後魔王が怒りに爆発して、邪竜の首から下を一瞬で消し飛ばしたらしい。
その時の魔力暴走が、魔王の魔力の器を広げて当代一の魔王となったとのこと。
ちなみに首から上は、いま魔王が使っている杖だとか。
趣味悪いな。
そして、その時の功績に報いるために、もう一生出ないかもしれない神器級のハデスセットを黒騎士に下賜したとか。
うわぁ……めっちゃ気まずい。
今作った話? ……ではないと。
でも、そのシステム造ったのどう考えても善神……
違う?
あっ、あっちで邪神様が呆れ顔だ。
やっぱりこいつか!
こいつら、割と地球好きだな。
まあ、いいや。
というか、その宝玉欲しい。
それだけはやめたげて?
ええ?
どうしよっかな?
闇と光の魔力溢れるここなら、かなり良い物が……
世界の損失に繋がるうえに、どこにも持ち出せないものしか出来ない。
そうですね。
ちなみに外れはポーションとか、鉄くずとかが出来るらしい。
マジ、善神お前、大概にしとけよ?
そのクズがあるからこそ、レアが出た時の喜びが倍?
課金もしやすく……黙れ!
思わず怒鳴りつけてしまった。
自分でも神に怒鳴るとはと、流石に言ってから後悔したが、邪神様が良い顔でサムズアップしてたのでそういうことなのだろう。
善神様はカラカラと笑っていたが。
あかん、いつか殴ってしまいそう。
ということで、北の塔に。
別にハデスセットを返しに来たわけじゃない。
もう、俺のになっちゃったし。
単純にダンジョン探索。
「こら、子供がこんなところに来るんじゃない! 危ないぞ!」
すぐに、塔の入り口を守る衛兵さんに止められた。
さて……仕方ない受付もあるが、冒険者資格証が居るらしいし。
どっかの冒険者の荷物持ちとして……ああ、地元の子供しかだめ?
しかも、ギルドの許可が要る?
地元の浮浪児の仕事を取るなと。
はいはい。
面倒くさいから転移で、衛兵をスルーして塔の中に。
本当は、外壁に蟻達に階段作らせようと思ってたのに。
で、最上階付近の壁に大穴開けて、直通コースとか。
冒険者がワラワラと押し寄せて、黒騎士ビビると思ったのに。
タブレットは手元にないから、地図は見れない。
脳内に再現することはできるが、某不思議なダンジョンの地図みたいで、あれがリアルに視界にあると割と邪魔だったりする。
カーナビよりも邪魔だ。
前を向いても地図が着いてくるから。
ということで、蜂達がマッピング。
俺を先導しつつ、先に進む。
最短距離で。
低階層だからか、周囲の冒険者がギョッとした表情で俺を見てくる。
どうせ、マルコの顔を知ってる人は居ないだろうけど、顔を仮面で隠す。
「いや、今更!」
「ガキがこんなところで」
「ホビットだ!」
「嘘つけ!」
すぐにバレた。
「バレてしまっては仕方ない、ハーフリンクだ!」
「お前、大人を嘗めてるだろう?」
首根っこを掴まれて、持ち上げられた。
身体が軽いと、こういう時不利だよな。
取りあえず、顎を蹴り上げてその手から逃げ出すと、頭に足を置いて背中を蹴って逃げ出す。
「なんて、身のこなしだ!」
「おいっ! ガキ相手に何を油断をし……て?」
「駄目だ、完全に伸びてやがる」
身体強化使ったからね。
大人のそれよりは、重かったかも。
「マジか? C級冒険者の鬼殺しのロビが一撃……」
「あいつ、一体……」
「魔族じゃないか?」
「ここの、関係者か?」
あれでC級冒険者……
まあ、顎に良いのが入ったし、しょうがないか。
真っ正面から対峙したら……スキルと魔法で楽勝っぽいな。
塔での最短距離。
それは……
天井を突き破る!
駄目?
駄目ですか。
蜂達に無言で首を横に振られた。
仕方ない、大顎に乗って移動。
ここは地竜やカブトには狭いからね。
1m50cm級の大顎ならスイスイだ。
「なにっ?」
「魔物に、子供が!」
「よく見ろ、平然としているぞ」
めっちゃ注目浴びてる。
「キャッ!」
「その子を離せ!」
「あっ、これ乗り物なんでおかまいなく」
「えっ?」
途中で俺を助け出そうとする、正義感溢れる冒険者も居たが笑顔で手を振って通り抜けてく。
今思ったけど、仮面してたら笑顔もくそも無いわ。
途中武装したゴブリンやコボルトが大顎に轢かれてたけど、まあ良いや。
徐々に敵が強くなっていくタイプのダンジョンみたいだし。
どうせなら、1階層に最大戦力配備しとけよ!
無駄に手数減らすだけじゃん。
最大戦力がやられるような冒険者が現れたら、どうせ最上階まで辿りつくんだし。
本当に、賢いんだか馬鹿なんだか。
10階層を越えたあたりで、冒険者の数がまばらになっていく。
「そこの少年……かようなところに1人とは、危険だぞ?」
「大丈夫、この子が居るから」
いかにも剣豪ですって感じの老戦士に道を塞がれたが、大顎の頭を叩いてアピール。
「そこな魔物は尋常ならざるが、お主は普通の子供じゃ」
「大丈夫です、この子達が守ってくれるので」
周囲を蜂達が僕を守るように飛び回る。
「面妖な……もしや、妖の類では無いな?」
お前、日本人じゃないよな?
まあ、変換機能がじじいっぽい感じに勝手に訳してくれたんだろうけど。
聖教会が唯一役に立ったこと。
言語の統一。
お陰で、違う大陸でも言葉が通じるのは良かったが。
「普通の子供ですう!」
「じゃあ、駄目じゃないか」
「引っ掛け?」
「違うわ!」
老戦士はどうあっても、俺を通す気が無いらしい。
まさか、最初の敵が魔物や魔族じゃなくて人間とか。
さて、どうやって謀ろう。
マサキが自重を忘れる前に、作者が自重を忘れるところでした(;^_^A
なので……私は自重し……ませんけどね(笑)
書いてて楽しいが、重要ですから(/・ω・)/





