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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第59話:マサマル(マサキとマルコ)

「さあ、来い」

「はいっ! 父上!」


 ベルモントの屋敷の中庭。

 小さな子供と、ちょっとメタボ気味な男性が対峙する。

 ちなみにマルコの中身は俺だ。


 昨日のアシュリーの拒絶がよほど応えたのか、マルコがいじけモードに入ってしまった。

 いや、その気持ち分からなくもないが、これから先の人生の長さを考えたらとお(・・)にもなってないガキの失恋なんて将来の笑い話にしかならんだろ。


 俺の初恋なんて、恋愛のれの字にだって届いていない。

 好きな子にちょっかいだして、彼女が反応してくれるだけで楽しかったし。

 友達がいると、何故か心にも無い言葉を言ったりもして、怒らせて、追いかけられて。

 それでも楽しかったし。

 2人の時はお菓子を分け合ったり、漫画を貸したりするだけでも嬉しかった。

 

 まあ、突然自分も相手も転校することになって、ある日突然繋がりは完全に途絶えたけど。

 せめてどっちかが残っていたら、お互いの住所を調べることもできたし、手紙のやり取りなんかも出来たかもしれないけど……


 そんな行動力なんて無かったし、相手は好きな相手なんて居ないってスタンスだったから、俺がなんて淡い期待も持って無かった。


 今なら別れる前に、確実に転居先を聞いて手紙でも繋がりを持とうとしただろうけど……たらればを言っても仕方ない。


 そういった事を経験したんだから、マルコはもっとガツガツ行くと思ったんだけどな。

 精神年齢が退化して、結局昔の俺に戻ったみたいだ。

 一緒の時間を過ごすだけで、満足してたんだろうな。

 だから、一歩踏み込めずにすれ違っちゃったのだろう。


 まあ、せっかくの機会だから、ここはしっかりとマイケルの胸を借りよう。

 このくらいの経験ならマルコにフィードバックしても良いだろうし。


「では、行きます!」

「おっ!」


 地面を蹴って間合いを詰めると、マイケルが迎え撃つために剣を振るう。

 肩目がけて振るわれた剣を、半身になって躱すと片手で剣をマイケルの脇に向けて放つ。

 すぐに距離を取られたが、即座に剣を切り返しその反動を利用し回転するように地面を蹴って距離を詰める。


「ほうっ!」


 ゾクリと背筋に悪寒が走る。

 が、この瞬間を待っていた。

 マイケル……いや、スレイズもだが、彼等は予想を超えた攻撃を受けると確実にこちらを殺しにくる。

 急所を狙ってくるのだが、喉や心臓のあたりの事故のおこりやすい危険な箇所は狙わない。

 

 首を思いきり曲げる。

 ありえない衝撃が肩を襲うが、右手の先だけで振るった剣がチッと音を鳴らしてマイケルの顎先を霞める。

 くそっ、リーチが足りなかったか。

 子供の身体というハンデが、かなり大きい。

 

「……ありえん。いまの一撃、もしマルコの身体が成長していたら、確実に相打ちだった」


 その通りだろう。

 木剣で肩を叩かれたからまだ生きているが、これが真剣だったら肩から胸のあたりまで切り裂かれているところだろう。

 勿論致命傷だ。


 だが、こっちの捨て身の一撃もマイケルの喉元から顎先を切っていたに違いない。


「……うん。これは、もう半分くらいの力でいっても大丈夫だな?」

「えっ?」


 あれで、まだ実力の半分も出していなかったらしい。


「強くなったな」

「……」


 全然だ。

 まだまだ、マイケルの背中すら見えなかった。

 スキルと魔法を使って、どっこいどっこいか?

 いや、そんな甘い見立てじゃ駄目だな。

 

 となると、スレイズのくそじじいをギャフンと言わせるのは当分先になりそうだ。

 それまで長生きしてろよ、くそじじい!


 久しぶりに現実の身体で、良い汗かいた。

 

 マルコを気遣って、ディーンは今日は自分の護衛と街を散策するらしい。

 降って湧いた自由時間。

 マリアが手ぐすねを引いて待っている。


 まあ、マルコの事はマリアに任せるか。

 俺は身体をマルコに返して、管理者の空間に戻る。


 管理者の空間の椅子に座って、ふむと片肘をついた手の甲に頬を乗せて目を瞑る。

 それからマルコに俺の考えてる事が分かるように、精神を一部繋ぐ。


 どうやら俺も色々と、考え過ぎていた事に思い至った。

 人払い……この場合虫払いか?

 をして、一人で管理者の空間で今の考えを振り返る。

 

 あれから自分の勘違いに気付き、今後の行動指針を考えた。


 そもそも、俺がなんで周りに気を遣う必要があったのか。

 知らず知らずのうちに自重していたのは、そういった事が当然だというようなネット小説を読み続けた弊害かもしれない。


 現実で転生というありえない状況に陥った時に、教科書としてそういった話を参考にしてきたが。

 確かに、物造りの知識を参考にするのは、手元に使えるお金を産むという事と、この古臭い不便な世界を自分にとって便利なものにするためには役に立つ。


 水路こそ流れているものの、不衛生なトイレ。

 スライムを併用した、水洗便所なんてものは存在しない。

 陶器の便器なんて上等なものもない。


 穴の開いた木の椅子に座って、蓋もしてない穴に落とすだけだ。

 まあ、俺はこっちの世界に居るし、リアル排泄しない存在だから良いけど。


 だが、陶器の水洗便所が無いのが不快なら、作ってしまえばいい。

 それすらもその時代に、余りに不釣り合いなものは作ってはいけないなんて自戒していた。


 よくよく考えてみれば、俺は善神に殺された損害賠償としてこの世界で生をやり直す事になったのに、暮らしにくい生活を送る必要なんて全く無かった。

 かなりの裁量権を持たされたのに自重に走ったのは、謙虚が美徳の日本人故かそれともネット小説に毒され過ぎたからか。


 現実問題、自身のあり得ない力を見せつけて、傍若無人に振る舞ったところでそれを戒める事が出来る存在は邪神様と善神様の2人だけ。

 かといって、リアル暴君になっても人としての楽しみは感じられそうにないから、その辺りのバランスは考えるべきだろう。


 今更マルコと統合して、好き勝手やっても良いが……マルコがこれからどうなっていくのかが楽しみの一つとなっている以上、俺はこの管理者の空間で好き勝手すれば良いか。


 そのためには、住人も増やしていかないとな。

 人さらい上等、現状に困って人生を変えたいやつなんてこの世界にはごまんといる。

 なんなら、ストリートチルドレンを片っ端から拾って来て、きちんと教育を施して一つの集団を作り上げても良いし。


 いや、いっそマルコと統合して、あっちで好き勝手した方が楽か。


 ピクリと部屋に籠っていたマルコの肩が動く。

 そうだな……あいつ、やっぱり子供の頃の俺と一緒ですぐにいじけるし、そのくせ頑固だし。

 このままいっても、外人くさい俺が出来上がるだけか。

 しかも、俺が子供の頃よりも恵まれているんだから、より甘ったれた俺が出来上がりそうだ


 マルコが一瞬顔を上げるが、すぐに膝に顔を埋める。


『変わる気も、成長する気も無いんだったら、もうお前の役目は終了だな? これからは、俺がマルコ・フォン・ベルモントとして好き勝手にやらせてもらおうか?』

「……」


 敢えて言葉に出して、マルコに話しかける。

 だんまりか……女々しい。 


『まあ、統合するわけだからお前が消えるわけじゃないけど、今の俺は自重する気無いからな? 弱っているお前と、強い意思を持った俺……ここまで明確な差が出てしまったら、お前の意識なんてすぐに飲み込まれてしまうだろうし』

「……」

『安心しろって、俺はお前なんだから。まあ、お前の知識と経験は有意義に使わせてもらうわ』

「……」


 マルコが顔をあげて、上を睨み付けてくる。

 おお、怖い。


『やっぱり、将来有望なのはアシュリーよりもソフィアだな……いっそ、エマでも良いか? あいつの家、かなりでかそうだし』

「……やめろ」


 ようやく喋ったな。

 やめろって言われても、はいそうですかなんて言わないだろ普通。


『何をだ? もう、どうでも良さそうな顔してんだし、俺が自由にしても良いだろ?』

「……エマは、ヘンリーのだし」

『んなもん、ヘンリーが勝手に思ってるだけで、別に手付にしてるわけでもないしな』

「……でも、ヘンリーは友達だし」


 俺の友達じゃないけどな。


『そうだな……お前の友達だな? だから?』

「なんでっ!」

『まあ、エマにしても今すぐにどうこうする気も起きないけど、ああ、光源氏って憧れるよな? 分かるだろ?』


 正直ガキに発情なんてしないけど、将来自分にベタぼれで自分の言う事をなんでも聞いてくれるうえに、性格や仕草まで自分の好みの美女ってのは憧れるよな。


「マサキっ!」

『気が強いけど、今ならまだ間に合うな……俺好みの女に育てるには、9歳……ギリギリだな』

「絶対にそんなことさせない! エマにもヘンリーにも手を出させない」

『なら、アシュリーで良いか。それならお前も、納得できるだろ? 俺なら、ここからでも十分に挽回できるし』

「ふざけるな!」

『なんでだ? マルコがアシュリーと付き合って結婚する、ほらっ、お前の希望通りじゃん? まあ、俺好みにいまのうちに教育するけど』


 ついにマルコが立ち上がって、こっちの世界に乗り込んで来た。

 目の前に肩で息をしながら、こちらを睨み付けてくる。


「何しに来たんだ、いじいじと情けないお坊ちゃん?」

「アシュリーに手を出すな! っつ」


 いきなりマルコが殴り掛かってきたが、怒りに我を無くした拳なんてくらうか。

 しかも弓まで引いて、馬鹿じゃ無いのか?


 スッと身を躱して、足を引っかけて転ばす。


「マサキ様、何が! マルコ様?」


 マルコの声を聞きつけた、トトが飛び込んでくる。 


「いいから、部屋に戻ってろ」

「でも」

「良いと言っている!」


 俺の怒気に押されたのか、トトがおずおずと部屋から出ていく。

 トトが開けた扉から、巨大な蜘蛛の顔が見えた。

 どうやら、土蜘蛛もマルコの気配を感じ取ってここに来たらしい。

 土蜘蛛も手でシッシと追い返す。


「どうしちゃったんだよ? なんでそんなこと」

「五月蠅いな……自分の事も出来ないガキがキャンキャン吠えるな」


 俺の言葉にマルコが唖然とした表情を浮かべる。

 キョトンとするマルコの頬を軽く叩く。


「どうした? 何も言い返さないのか?」

「なんで……」

「なんで? お前があまりにも情けないからだよ! こっちでの生活の基盤を作るの、役に立つと思ったが……正直期待外れ過ぎてガッカリだわ」

「嘘だ! 僕が……僕がこんな酷い奴だなんて「酷い奴? ははは! 笑わせる」


 マルコの言葉尻をぶった切って、言い返す。


「思い出せよ。俺達がなんでこんなとこに居るか。偉い神様が迷惑を掛けたご褒美に、すげー力をくれてこの世界に送り込んでくれたんだぜ?」

「……」

「でなんつった? 楽しめつったよな? だったら、なんで我慢する必要があるんだ?」

「だって」

「だってなんだ? この世界は将来俺達のものになるんだぞ? だったら、今更他の奴に気を使ってなんになるんだ?」


 俺の言葉に、マルコが俯いて拳を握る。


「そうだなー、取りあえずセリシオ辺りをかっさらって、この国を乗っ取るのも面白そうだ」

「ごめんなさい」

「ん?」

「謝るから……謝るから、もうやめて」

「別に謝らなくても良いぞ? お前は俺なんだし、一つになってしまえばお前の反省なんて、言葉にしなくても俺にフィードバックされるし」

「頑張るから! 僕、ちゃんとやるから」

「何を? 俺の言ってる意味が分からない程馬鹿でもないだろう? 一緒になって俺がちゃんとやれば、そんな必要無いし」


 マルコの足元に、水滴が落ちる。


「僕が……僕が情けないから……僕が、弱いから……アシュリーも離れていくし、マサキもおかしくなっちゃった」

「そうだな、お前のせいだな? いや、まあ俺にとってはお前のお陰で、大事な事に気付けたって感じで感謝しかないけど」

「うう……」

「泣くなよ……みっともない。見てて、反吐が出る」

「っ」

「そうだな、最後の思い出作りにラーハットから戻るまでは、その身体貸し(・・)といてやるわ」


 マルコが信じられないものを見るような眼をしている。

 ここまで言っても分からないような、甘ったれに育ってしまったんだったらしょうがない。

 暫く反省させるためにも、本気で身体を奪い取るか。

 まあ、そうなったら二度と立ち直れないだろうけどな。

 その精神的ダメージはきっと、俺にもかなりの影響を与えるだろう。


「ちゃんと返せよ!」

「ふざけるな! 絶対にお前なんかにこの身体は渡さない!」

「ふーん」

「さっきから、黙って聞いてたら好き勝手言いやがって! そもそも面倒事は全て僕に押し付けて」

「いやいや、困ったらすぐ俺を呼ぶ奴に言われたく無いわ」

「だったら、何があっても僕が解決してみせる」

「無理だね」

「出来る!」

「出来たことないし」

「やる!」

「もう、面倒くさくなった……今から、お前の身体返してもらうわ」

「させるかよ!」


 またマルコが殴り掛かってきたが、こっちの俺の身体は大人だからな?

 パンチを躱すこともせずに、腹を蹴り飛ばす。


「おいおい、つい反撃しちゃったけど、ちゃんと防げよ。俺の身体が怪我したら困るし」

「僕のだ!」


 お腹を押さえながらも、立ち上がってこっちを睨み付けてくる。


「駄々こねんな。ガキか……そうだった、泣き虫小僧だったわ」

「五月蠅い!」


 また突っ込んで来たので、手を取ってそのまま投げ飛ばす。


「軽いな」

「まだだ!」


 避けて、蹴り飛ばす。


「身体も「クソッ!」


 今度は敢えて殴らせてやる。


「拳も」

「黙れ」

「決意も」

「うるさい」

「思いも」

「うるさいって言ってるだろ!」


 それから暫く殴らせてやる。

 そして殴る事に集中しているマルコの頬を、思いっきり殴り飛ばす。


「気は済んだか?」

「まだだ!」

「そうか……だったら、気が済むまでやればいい」


 そう言って、強引にマルコを屋敷に送り返す。 

 

「気が済むまでそっちで生きて、頑張って、それで駄目なら……代わってやるよ」

「マサキ」

「もう、自分を抑えなくても良い。俺達は、楽しむためにこの世界に来たんだ」

「うん」

「まあ、俺達っていうか俺とお前合わせて俺だけど……」

「……うん」

「好き勝手……とまではいかないが、自由に自分が楽しめるように頑張れ」

「うん!」

「まず、何をする?」

「アシュリーを迎えに行く」

「ふふ……やっぱりアシュリーか」

「うん!」


 嬉しそうな顔しやがって。

 大分スッキリしたって感じだな。


「その頬でか?」

「あっ……」


 ただ、ほっぺは真っ赤に腫れているけどね。

 

「マサキが……」

「俺もいっぱい殴られたんだ。お相子だろ」

「うん……」

「蝶に頼んで、治して貰ってから行けばいいだろ?」

「うん! あの……マサキが作ってくれた服持って行って良い?」

「お前が作ったのがあるだろう?」


 あの日渡せなかったプレゼント。

 マルコが一生懸命、アシュリーの為に考えて作ったドレス。


「マサキの方が、色々と判断正しいし」

「おいおい、自分で頑張るんじゃなかったのか?」

「自由にやれって言ったじゃん。マサキの服も持って行ってアシュリーに選んでもらう」

「やめとけ。傷付くぞ」

「もうっ! ……でも、マサキがアシュリーに似合うと思って作った服も気になるし、両方着てもらう。どっちの服も着たアシュリーが見たい」

「欲張りだな?」

「好きにしろって言ったのマサキだし」

「そうだったな……」


 マルコが俺の服の入った木箱を取り寄せると、自分のと合わせて持って部屋から飛び出し、屋敷の門に向かって……ファーマさんに捕まる。


「外出するなら護衛を」

「……はい」


 良かった。

 ここで、勘違いして僕一人でへいっちゃらさ! 

 本気出したらファーマなんかより、よっぽど強いんだからとか言い出さなくて。


 ローズとファーマを連れて武器屋喫茶に向かうマルコ。

 手が塞がったら、護衛に支障をきたすということでその後ろをトーマスが荷物を持って着いて行ってるが。

 目の前で並んで歩く、ローズとファーマを見る目が怖い。

 どこもかしこも、脳みそがお花畑の連中ばかりで……ちょっと、楽しいな。


 正直これで駄目なら、本当に統合しても良いかなと思ったのは事実だ。 

 ただ、マルコは唯一俺が気を遣わなくてもいい相手であって、簡単に切り捨てられない大きな存在でもある。

 統合すれば、そんな悩みも吹っ飛ぶことは知っているが……

 意識の乖離が進み過ぎてマルコに情が沸いてしまったのは仕方ないが、割り切れない程じゃないのは救いか……

 別にそこに居る訳じゃないが、空を見上げて溜息を吐く。

 最初は良いことしてくれたと思ったが……正直いまはやられた感しかない。

 まあ、自分の在り方に気付いた今となっては、それもどうでもいい。

 このマルコの恋愛騒動で、いつでもマルコと成り代わってやりたいようにやる覚悟を持てた事は重畳だったか。 

 

 それと、外の気配をいつまでも無視する訳にはいかないか。


「盗み聞きは、良くないぞ?」


 部屋の入り口の扉に向けて声を掛ける。


「うう……」


 扉が勢いよく開かれる。

 そこに立っていたのは、目を真っ赤にしたトト。

 そして、何やら不満げなカブト。

 ちょっと、怒っている土蜘蛛。

 

 なんか……不穏な感じが。

 頬を冷や汗が垂れる。


「マサキ様のばかーーーー!」

「ちょっ、雇い主に馬鹿とか」

「怖かった! マサキ様が変わってしまったかと思って、本当に怖かったんだからー!」


 そう言って、胸に飛び込んできてドンドンと叩かれる。

 今日はよく叩かれる日だ。


「いくらご自身の半身であるマルコ様のためとはいえ、ちょっと度が過ぎる」

「あー……だって、あいつ温いし」


 カブトにチクりと言われる。

 どうにか、苦笑いで応える。


「マスターが殴る必要ありましたか?」

「いやいっぱい殴られたし、それとちょっと気合入れる感じで?」

「十分にお灸を据えた後に? いっぱい殴られたしの方が本音では?」

「ちょっ、酷いな土蜘蛛」


 土蜘蛛が顔をズイッと近づけて、睨んでくる。

 うっ……怖い。


「威圧のスキル使って「マスターにそんな失礼な事するわけないでしょう……むしろ、今のマスターの発言の方が失礼です」


 あー、あれだ。

 子供好きの土蜘蛛が、マルコに変わって俺に仕返ししてる感じか?

 あっ、土蜘蛛の目付きがさらに鋭くなった。


「その……なんだ、マルコも元気になったし、良いじゃないか」

「そうですね、ただ光なにがしがどなたか分かりませんが、子供に聞かせるような内容では無さそうな感じに思ったのですが?」

「ものの例えというか……効果的な例えというか……」

「子供はもっと慎重に扱わないと、その光なにがしに感化されて、変な風に育って貰っても困ります」

「あれも、俺なんだ「だまらっしゃい!」


 うわっ、土蜘蛛が爆発した。

 だまらっしゃいとか、リアルでも聞いた事無い。


 っていうか、ここの家来って俺に絶対服従じゃ……

 それから、暫く土蜘蛛に子供の教育について色々と説教された。

 さすが、子沢山。


 茶化したら、説教が延長された……

 ようやく解放されて、少し外の空気を吸おうと神殿から出たら目の前をゴブリンキング戦で大活躍の女王蜂の断罪の(エクセキューター)女王蜂(・クイーン)が。


「マサキ様とマルコ様……いいですわ!」


 とか独り言を呟きながらフラフラと飛んでいた。

 うん……どうやら、彼女には良い教育指導と受け取ってもらえたらしい。

 彼女の眼には、熱血なやり取りの末に分かり合った大人と子供とかって映ったのかもな?

 味方が居て嬉しい。

 ちょっと話しかけて……


「でも妾といたしましてはマサマルよりも、マルマサの逆カプも……」


 ん?

 んんっ?


 なんだろう……現地の言葉を日本語に変換するときに、何か不具合でもあったか?

 その略し方だと意味が……

 というか逆カプとか、どんな現地語?


「はあはあ……」


 あかん。

 こいつ、アカン奴や……

 

「漲るわぁ……」


 無言でその場を立ち去った俺は、正しい。



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