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左手で吸収したものを強化して右手で出す物語  作者: へたまろ
第2章:王都学園生活編
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第56話:マクベス家

 未開の地の原住民のお礼というのは……まあ、お察しということで。

 素材を生かす系の、なんのお肉か想像が容易い系の料理や、謎飲み物が振る舞われたというくらいかな。

 まあ、その後親交を結ぶこととなったが、それはまた別の機会にでも振り返ろう。

 一日潰れるくらい色々な事があったし、とても疲れた。

 管理者の空間で留守番していたマルコは、久しぶりに獣人3姉弟や虫達とかなり楽しい時間を過ごしたようだけど。


 ちなみに後になって気付いたけど、大量に放置されたゴブリン達の死体は、原住民の方達の手によって使える武器や防具は剥ぎ取られ献上品として並んでいたが、人知れず倒されたゴブリンジェネラルの装備品と、ゴブリンメイジの装備品だけ貰っておいた。

 他は、現地の人達に全てあげた。


 キングへの女王蜂の攻撃を防いだ2体がそうだったらしく、そしてカブトの放り投げた巨大な蜥蜴の下敷きになった2体がそれだ。


 死体の方は放っておいても、魔物達が処分してくれるということだったが数が数だけに、伝染病の温床にもなるということで焼き払われたらしい。

 お陰で、森の一部が野焼きしたみたいになってたけど……


 で、ゴリ……ゴブリンキングと戦った日から、マルコの意識が明らかに変わった。

 具体的にいうと、かなり訓練に身を入れるようになった


 王都を出てからサボっていた早朝訓練も、その翌日から父のマイケルに頼んで再開して貰っていた。

 かれこれ2週間くらい、真面目に稽古をしている。

 その後はギルドでの訓練。

 でも、日曜日は母親とテトラの為に時間を割いているところをみると、休みと訓練のメリハリがはっきりとしてい良いリズムだと思う。


「凄いじゃないかマルコ!」

「こんなのまだまだです。もっと、速くても大丈夫です」


 マイケルの放った攻撃を、剣を斜めに構えて受け流す。

 それでも、かなり強めの衝撃に反撃にまで移れなかったようだが、すぐ次の攻撃に備えて距離を取る。

 今までなら、褒められて分かり易く喜んでいたマルコだが、今のマルコはその言葉を邪魔だとばかりに切って捨てている。


「そんなに強さを求めてどうするんだ? 大事なのは強さを得る事じゃなく、手に入れた力で何を成すかだぞ?」


 ここ数日の訓練で、マルコが焦っているのを感じたマイケルが剣を下ろして問いかける。


「それはまだ分かりません。でも何かを成そうとしたときに、力が足りず指を咥えて眺めるだけの無力な自分にはなりたくないのです!」

「そうか……決意だけはあるようだけど、果たしてそれは覚悟かな?」

「っ!」


 訓練中もニコニコとしていた、メタボ気味なおっさんの雰囲気が変わる。

 明らかに、周囲の気温が下がったように感じていることだろう。

 マイケルから放たれるプレッシャーは先のゴブリンキングとまではいかないが、それでも子供が受け流せるようなものではない。


 マルコが冷や汗を流しながら、目を反らしそうになる。

 が、すぐに気を取り直すと声をあげる。


「はいっ!」


 気合でプレッシャーをはねのけ、マルコがマイケルに斬りかかり……マイケルが消える。

 そして……


「よくぞ応えた! 我が息子よ!」


 上空から降って来た父親に、押しつぶされ、抱き上げられ、抱きしめられ、振り回され、頬ずりされる。


「痛いです」


 髭がジョリジョリして痛かったらしい。


「流石ベルモントの子! 父上にも手紙を書かねば! ようやく、マルコがベルモントになったと……凄いなあ、マルコは流石だ! 俺が覚悟を決めたのは13の時だったが、マルコはそれよりも4年も早く強者となる覚悟を決めたのだな?」

「父上?」

「強者というのは、家を一歩出たら100人の敵が居ると思え? 強くなり、名を上げれば上げる程敵は増えるぞ? そして、その敵の中から強敵(とも)が生まれるんだ」


 破顔させて、マルコの頭をクシャクシャと撫でるマイケルに、マルコが微妙な表情を浮かべる。


「そんな物騒な人生は望んでいないのですが?」

「だったら、挑む気も無くすほど強くなればいいではないか! 俺の父のように」


 なんだかとんでも理論を聞かされた気がする。

 こんなお人好しな容姿をしていても、スレイズの息子だということがようやく理解できた。

 そう言えば、笑鬼とか呼ばれてたしな。


「明日からの訓練も、王都に帰ってからの訓練も今までのものとは、一線を画するものだからな? おっと、もうその覚悟はあるんだった。こんなことを言うのは、野暮だったな」

「えっ……」


 ハッハッハと嬉しそうに笑いながら去ってく父親に、思わずやっぱなしでと言いかけたマルコは悪くないと思う。


 そして、マイケルとの訓練が終わった後は、母親の休みない攻勢をかわし冒険者ギルドへと向かう。

 そこでも、今までサボった分を取り返すかのように、剣以外の武器の訓練に勤しむ。


 いつまで続くか分からないが、とても良い傾向だというのは分かる。


「マサキ様、嬉しそうだ……嬉しそうですね」


 どうやらタブレットの映像を見ながら笑っていたらしい。

 トトが俺の楽し気な様子に、掃除の手を止めて話しかけて来た。

 言葉遣いも、徐々に直ってきている。


「ああ、マルコが成長を見せてくれたからな。自分の小さい頃を見ているようなものだが、俺は結構楽な方や楽しい事に流される子だったから、大人になって後悔することも多かった。でも、マルコに生まれ変わって、今度はちゃんとした大人になれそうだ」

「マサキ様は、素敵な大人ですよ?」

「はは、ありがとうな。それに、トトも勉強を頑張ってるみたいで、成長が見られて嬉しいぞ」

「ふふ、ありがとうです」


 最近ではトトの頭を撫でても、特に嫌がられることは無くなった。

 たまに、甘えてくれるようにもなったし。

 やっぱり、子供は素直な方が良い。

 小さい頃から色々なことを溜め込むのは良くない。


 今までは弟や妹の世話に追われ、姉というよりは母親たらんと背伸びしてきた彼女だが、ここには俺と言う保護者が居る。

 

 マコやクコは勿論トトにとっても兄であり、叔父であり、父親代わりとなっている。

 3人とも俺に懐いてくれていて、凄く可愛い。

 もし、トトやクコを嫁に出すことになったら、泣く自信がある。


 ああ、お義父さんへ、今まで育ててくれてありがとうみたいな手紙とか読まれたら、確実にダムが出来るくらいに泣くだろうな。


「トトも兄さんって呼んで良いんだよ?」

「うう、恥ずかしいだです」

 

 トトが赤面しているが、それもまた可愛い。

 暫く俯いてモジモジしながら、ボソボソっと何かを呟く。

 

「ん?」

「……マサキ……にいさん」

「!!!!!!」


 思わず身悶えてしまった。

 なに、この破壊力。

 可愛すぎる。

 決めた、トトは誰にもやらん!

 勿論マルコにもって、マルコは俺か。


 よし、トトの旦那になる奴は俺より強くて、優しくて、金持ちで、しかもイケメンに限るにしよう。

 そんな事を思っていたら、マルコがどうやら冒険者ギルドに到着したらしい。


 お供はローズと、ファーマ。

 ファーマがギルド内に入ると、若干の緊張が走るのは何故だろう?

 知ってるけど。


 今日も、模擬戦の相手を物色しているようだ。


「先生方と手合わせしてるときは、心強過ぎる護衛がいるようなものですし……たまには、変わった武器を扱う方に鍛錬に付き合ってもらいたいですね」


 ファーマの独り言にしては大きすぎる呟きに、鎖分銅や、鞭、さらにはハラディのような剣を前後に繋げた武器や、バグナグやシャマダハルのような爪を持った冒険者が一斉にマルコ達から距離を取る。


「今日はこの依頼にしよっかな?」

「あれ、俺家の鍵掛けてきたっけ?」

「そういえば、今日はおとんに呼ばれてたんだった」

「ああ、天気も良いし、冒険なんてやめて今日はピクニックにしよう」

  

 そらぞらしい事を言いながらギルドから出ていこうとするが、可哀想な生贄が捕まった。


「あなた、変わった武器をお持ちですね? 天気が良いのでピクニックより、私と手合わせしませんか?」

「げっ!」

 

 捕まったのは、ウルミのようなスプリングソードを腰に巻いた男性。

 ピクニックに出かけようとしていたところを、ガッシリと肩を掴まれていた。


 ご愁傷様としか言いようがない。


 そして、周囲の冒険者達から安堵の溜息が漏れる。

 自分がターゲットにならなければ、どうでも良いらしい。

 可哀想な捕まった人以外は、平常運行に戻ったようだ。


 ギルドでの一通りの訓練が終わったあと、屋敷に戻る。

 マルコの横でツヤツヤとした肌のファーマがご機嫌に、今日の手合わせについて話していた。


「いやあ、かなり扱いの難しい武器でしたね。ただ慣れてしまえば、特に面白みのない剣とさほど大差無いものでしたが。分かってはいたのですが、つい正面から攻撃を受け止めて背中に一撃くらったのは、良い経験になりましたよ」


 そう言って爽やかに笑っているが、マルコとローズはドン引きだ。

 その後、かわいがりと呼ぶに等しいお返しが、可哀想な冒険者を襤褸雑巾のように変えていたのチラッと見たからというのもある。


 そんな2人の様子を知ってか知らずか、いつもより饒舌なファーマと話しながら3人が屋敷に戻ると、豪華な馬車が3台程門の前に止まっていた。

 その家紋は、貴族なら誰でも知っているものだ。


 横を向いた鷹のバックに風を模した模様が描かれている。

 そう、マクベス家の紋章だ。


―――――

「ただいま戻りました」


 家に入ると、すぐにマリーが駆け寄ってくる。


「お坊ちゃまがお帰りになりました」

「おお、やっとか。入ってきなさい」


 お父様の許可を得たので、マリーが扉を開けて僕に入るように促してくる。


 ()の顔を見ると、お出迎えの挨拶もそこそこに応接室に連れてかれた。

 そこには、にこやかにこちらに手を振るディーンと、その父のエクト様の姿が。


 その対面にはお父様と、お母さまが座って2人の相手をしている。

 ディーンを挟んでエクト様の反対に座っている綺麗な女性は、ディーンのお母さんかな?

 

 取りあえず挨拶する。


「ご無沙汰しております、エクト様。先日は私の誕生日を祝いにお越し頂き、誠に有難うございます」

「いや、ベルモントにちゃんとした子が生まれたと聞いて、元々興味があったからね」


 なんですか、その評価は。

 まあ、分かり過ぎるからなんとも言えないけど。


「初めまして、ジャニー・フォン・マクベスですわ。ディーンの母と言った方が、分かり易いかしら」

「お初にお目に掛かります。マイケルが子、マルコ・フォン・ベルモントです。ディーン殿とは、学校でも親しくさせて頂いております。本日は、お会いできて光栄です」

「あら? ご立派な挨拶ね。素晴らしいお子様をお持ちで、ベルモントの皆様もご安心ですね」

「いえ、私などまだまだですよ。でも、有り難くそのお言葉頂戴致します」


 僕の余所行きの挨拶に、ディーンがクックと笑いを堪えているのが目の端に映る。

 この野郎。


 家に近づいた時に見えた3台の馬車に思わず、緊張した。

 まだ7月の20日を過ぎたばかりだというのに、もう来たのか考え重い足取りで馬車に近づきホッと一安心。


 早朝に来ても驚かないと言ったから、セリシオがかなりの前乗りを決行したのかと思ったが、どうやらマクベス家だけらしい。



 なんで?

 と思ったけど、その理由はエクト様が話してくれた。


「殿下を迎え入れるにあたって、ベルモントの家のものだけじゃ大変だと思ってね。応援に駆け付けたのさ」


 どうやら、マクベス家の使用人と料理人を数人連れて来たらしい。


「原則的にここの使用人の指揮下に入らせるから、ここのやり方をある程度把握させるためだよ」


 なるほど、うちの家だけだとセリシオを迎え入れるのに不足と?

 そうですね。

 とても助かります。


 父上も、本心から喜んでいるのが分かる。


「流石、持つべきものは友だな」

「はは、散々貴方達には道連れにされてきましたからね。どうせ、なんの準備もしてないだろうと思って、ある程度の物資も持って来てますよ? 生鮮物に関しては、殿下の到着に合わせて届けさせるよ」

「ふふ、良く知ってるな」

「何年の付き合いになると思ってるのですか」

「だが、半分外れだ」

「というと?」

「一応、家人には殿下が来ることだけは伝えてある」

「はあ……面倒な事は人に丸投げする性格は変わってませんね。何度、貴方とウィードのせいでスレイズ様に叱られた事か。マスターが怒ると、2人とも黙るんですから」

「まあ、弁が立つエクトに任せるのが、正解だと俺達も知っていたからな」

「嬉しくない信頼をどうも」


 どうやら、本当にお父様とエクト様、クリスの父親であるウィード様と仲が良かったらしい。


「貴方にマルコ君の10分の1でも謙虚さが備わっていたら」


 そう言って、エクト様が深く溜息を吐く。

 本気でお父様が迷惑を掛けていたのが分かる。

 今度、何かお礼をしよう。


 その夜は、マクベス家の面々を交えて大宴会となった。

 ディーンにも部屋をあてがったが僕とおしゃべりがしたいということで、僕の部屋で一緒に寝る事になった。


「で、マルコの思い人は紹介してもらえるのですか?」

「はっ?」

「アシュリー」

「なんで知ってるの? ヘンリーか! ヘンリーだな! あいつ!」


 なんて面倒な奴に、面倒な情報を漏らすんだ。

 げんなりしつつ、男二人での微妙な恋バナに花は咲かなかった。

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